日本の改革

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ジョンソン英首相の感染症対策が不十分と批判される:イベント中止や学校休校の効果は、実は限定的?

・欧米で厳しい感染症対策が広がる中、ジョンソン英首相の緩い感染症対策が批判されています。一方、大規模イベント中止、学校休校の効果は限定的とも言われています。

・日本の対策でも、政府の行動制限よりも、情報提供等による自発的な行動変容が効果を上げている可能性があります。現状の感染防止策の方針をおおむね支持します。

強制的な行動制限は本当に効果があるのか

 イギリスのジョンソン首相が、新型コロナウイルス対策で、他国からの入国制限も学校の休校もしないという方針を発表し、強く批判されています。

イギリス政府は、封じ込めから感染を遅らせる段階に入ったと言う判断の下に、医療体制が維持できるように、感染のピークを(病院がもっと暇な)夏場に移動させるとしていて、強力な行動制限は今ではなく、数週間後にやるべきだ、と言っています。休校措置なども排除はしておらず、今はその時期ではない、という方針です。

Coronavirus action plan: a guide to what you can expect across the UK - GOV.UK

PM statement on coronavirus: 12 March 2020 - GOV.UK

ただ、タイミングの問題にとどまらず、政策の重点を、入国制限等の厳しい行動制限よりも、手洗いや発熱時の1週間の自宅療養をすすめる等、国民の自発的な行動変容に置いているようです。

これに対し、欧米諸国は、次々に強力な行動制限を行っています。アメリカは欧州諸国からの入国禁止を発表して株価暴落を招き、それでも、対象国をイギリス等に拡大しました。イタリアは言うまでもなく全国的な移動制限、フランス、スペイン等も、次々に大規模イベント中止に踏み切りました。欧州でこうした行動制限の対象となる人口は、2億人近くになるようです。

米、英国・アイルランドからの入国も禁止 16日から (写真=AP) :日本経済新聞

[FT]感染対策、欧州も移動制限広がる (写真=AP) :日本経済新聞

他の欧米諸国のこうした措置に比べて、イギリスの対策が緩すぎるとの批判が強まっています。たとえば、ランセット誌の編集長のリチャード・ホートン氏は、イギリスの対策は科学に基づいていないと批判、休校等の社会的隔離をもっとやるべきだと主張し、これにイギリス政府が反論しています。

専門家の間で判断は割れているようですが、強い批判を受けて、イギリス政府は結局、大規模イベントの中止は行うことにしました。

https://mobile.twitter.com/richardhorton1/status/1237282270685380613

https://mobile.twitter.com/DHSCgovuk/status/1238096415215271936

giftarticle.ft.com

UK to ban mass gatherings in coronavirus U-turn | World news | The Guardian

では、入国制限、大規模イベント中止、学校休校という行動制限の効果はどの程度あるのでしょうか。

まず、中国からの入国制限について、外交関係評議会(Council on Foreign Relations)の論説が各国の措置の効果を比較しています。結論は、88カ国で導入された中国からの入国制限措置は、どれも感染拡大を止められなかった、としています。ただし、中国内の旅行制限と中国への旅行制限と組み合わせた場合には、感染拡大を遅らせる効果はあった「かもしれない」、その効果は、自国内の感染防止と組み合わせたときには大きくなりそうだ、というものです。

これでは、効果があるともないとも、どちらとも言えそうです。入国だけでなく出国と組み合わせた厳しい対策が必要、とも言えそうですし、感染の遅れは国内感染防止策の効果だ、とも言えそうだからです。

www.thinkglobalhealth.org

次に、大規模イベント中止と学校休校です。

これについては、ランセット誌の論文で、両方ともあまり大きな効果はないことが示唆されています。

休校については、子どもへの感染率が低いことから、効果は薄いとしており、大規模イベントについては、大規模な感染(super-spreading)は避けられるだろうが、接触してから感染までに時間がかかるなら(その可能性はあるようです)、大規模イベントを中止しても、感染はそれほど防げないだろう、としています。

そして、効果があるのは、中国でやったような、もっと大規模な社会的隔離だ、と主張しています。根拠として、再生産数が最初2.5だったのが、こうした隔離によって6割程度減ったから、としています。想定しているのは、国内の移動制限や自宅への強制的な隔離です。

このように、強制的な行動制限については、イベント中止も学校休校も効果は小さく、中国のような、強権的な移動制限や自宅への強制隔離を大規模にやるなら有効、としています。が、中国のやり方は民主主義国で出来るかは疑問を呈しています(イタリアはそれに近いことを始めましたが)。

そして、民主主義国で大事なのは、政府の行動よりも国民の行動だとして、発熱時には自宅に留まり、医療上の相談もリモートで行う等の、自発的感染予防が重要だ、と主張しています。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30567-5/fulltext

雑誌の編集長が雑誌掲載論文と全く同じ考え方でもないでしょうが、ホートン氏の考えが、仮にこの論文と同じ方向ならば、彼が言いたいのは、「本来は大規模イベント中止や休校だけでは足りないのに、それすらやらないイギリス政府はけしからん」ということなのでしょう(イギリスは大規模イベント中止はその後方針転換しましたが)。

この論文の、中国の政策の理解については、武漢での医療崩壊を考慮していない点が気になります。素人考えですが、私は、再生産数は、むしろ社会的隔離で上がったのではないか、と思います。突然の武漢封鎖という社会的隔離政策で医療崩壊が起きて、病院での大規模感染が再生産数を上げてしまい、それを下げるために、あらゆる人権弾圧をいとわずに更なる徹底した強制隔離を行った、というのが、私の理解です。社会的隔離(と情報隠蔽)が再生産数(と致死率)を上げてしまい、それを下げるためにもっと強力な隔離をとらざるを得なくなった失敗例が中国です。

ただ、中国のような隔離は民主主義国では通常難しいという認識には賛成ですし、民主主義国で重要なのは、政府の強制的な行動制限よりも、むしろ国民個人の行動だ、という主張には全面的に賛成です。

そう考えれば、イギリス政府のような、一見ゆるい政策も、国民の行動を変えるよう、政府が効果的な政策を強制なしで行うなら、むしろ民主主義国には望ましい政策と言えるでしょう。

日本は強力な行動制限よりも、国民の自発的な行動変容を重視、現状では成功か

日本の現状の感染防止政策は、基本的には、強制ではなく、国民の行動変容を促すものです。これは、3月9日付の専門家会議の見解に書かれています。

同見解によると、日本の戦略は、「クラスター(集団)の早期発見・早期対応」、「患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、 「市民の行動変容」という3本柱です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/sidai_r020309.pdf

このうち、最後の「市民の行動変容」は、基本的には国民が自発的に行動を変えることによって感染予防を図るということで、政府はそのために出来るだけ強制によらない働きかけを行う、ということです。手洗いや発熱時に自宅療養をすすめ、病院に行くのはかえって危険だという情報提供を行い、感染のリスクが高くなる場所や状況を伝える、という、今のやり方です。

専門家会議は、この「行動変容」こそが基本戦略だと言っています。全国一斉休校や中国韓国全土からの入国制限といった「行動制限」は入っていません。私は、こうした政策も、国民の信頼を回復するためにはやむを得ないものだったとは思いますが、先に見たように、その効果は限定的でしょう。

専門家会議によると、日本よりも急速に感染が拡大してしまった国では、「人々の行動を大幅に制限する戦略」を取らざるを得ない状況になる、としています。つまり、よほどのことがなければ、今以上の強制(自粛要請)はやらないということで、これは総理も同じ考えで、現状では緊急事態宣言を出さないと言っています。

そして、現在のところ、再生産数はおおむね1であり、感染者の急増(指数関数的増大)には至っておらず、もちこたえているので、当面の間、この戦略を強化すべき、としています。

 専門家会議の言う通り、日本での感染者数は、爆発的な増加はしていません。他国のほとんどが急激に感染者を増やしているのに、日本は、以下のグラフように、増加のスピードを抑えられています。

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Source: Financial Times, March 13 2020

Johnson under fire as coronavirus enters dangerous phase | Financial Times

上のグラフの横軸は、100人目の感染者が確認されてからの日数です。日本で100人目が見つかったのが、2月23日です。政府が、現状の方針を取り始めたのは2月24日です。24日に専門家会議が最初の「見解」を発表して、あと1~2週間が大事だと言って、25日に基本方針発表、26日に全国的イベント自粛要請、27日に全国一斉休校、3月5日に中国・韓国全土から入国禁止と続きますが、それらの効果は、グラフでは確認できません。2月23日以前のグラフと比べても(下記リンク参照)、変化はないように見えます。

新型コロナウイルス 国内感染の状況

専門家会議は、3月19日以降に効果が分かるように言っていますから、まだ(自粛要請という)行動制限の効果は分かりません。が、2月からずっと同じくらいのペースで増えているように見える現状では、政府による行動制限よりも、むしろ国民自身の行動変容というのが効いていて、それは政府が本腰を入れる2月24日よりずっと前から始まっていた、ということだと思います。行動制限の効果をこれから見ないと最終的な判断はできませんが。

上のグラフについて、他国がほぼ同じ増加傾向なのに、厳しい政策をとったシンガポール、香港はともかく、日本の増え方が小さすぎる、同じウイルスなのにおかしい、という見方もあるようです。それもそうですが、政策によって増え方が違うのは当然ですし、韓国などは、強力な感染防止策によって、途中から傾きが大きく変わっています。日本について言えば、2009年~2010年の新型インフルエンザのときも、日本の死亡率が世界一小さかったのも事実です。政策の違いだけでなく、もとからの医療インフラの違いが出ている可能性があります。

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出所:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/dl/infu100608-03.pdf

2009年当時、政府の特別な対策が効いた、というわけではありません。それどころか、政府は水際対策等で失敗をして強く批判され、政府も反省して、今後に生かしますという振り返りをやっています。今と全く同じです。それでも、国際比較では、日本は世界最高水準の結果を出しました。

ということは、効いたのは政府による強制的な行動制限よりも、国民が警戒して自ら行動を変えたことが大きかったのではないか、と思います。加えて、日本の医療インフラ(ベッド数等)が他国との比較で言えば充実していたのも理由でしょう。

当時は、関西地方で病院に人が殺到する事態も起きましたが、今回は、「医療崩壊は防ぐ」、「病院は感染のリスクが高い」という意識は、国民に広まっているように見えます。今のところ、病院に人々が殺到する事態は起きていないようです。今回、政府のガイダンスは、この点では大変適切でした。

ということで、感染防止策については、①政府による強制的な行動制限は、入国制限の効果はよく分からないし、イベント中止や学校休校の効果も案外小さい、中国のような強権策は望ましくないし出来もしないので、民主主義国家では、②国民が自由な意思決定で行動を変えるよう促す政策が望ましい、ということになります。

このように見れば、イギリスのようなやり方にも一定の合理性はありますし、日本の基本的な戦略も正しいことになります。

日本政府が引き続き、行動制限には謙抑的に、行動変容を重視した対策を冷静に続けて、自粛要請等の行動制限は、そろそろ段階的に解除することを望みます。この点で、大阪府の対応は合理的だと思います。