日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

米株が史上最大の下落:「中銀バブル崩壊」でも金融緩和は必要、「石油カルテル崩壊」は、長い目で見れば良いニュース。冷静に、迅速・大規模な財政・金融政策と構造改革を。

米株が史上最大の下落。OPECプラスの石油価格カルテル崩壊が引き金になりました。信用危機にならないよう、各国は、金融緩和姿勢を持続し、財政・金融政策を迅速に、大規模に行うべきです。一方、エネルギー価格の下落は長期的には経済にとってプラスであり、日本を含め、各国は更に再エネへの転換を促進すべきです。

「中銀バブル」は続けるしかない、連鎖的な信用危機だけは防ぐべき

昨日3月9日、原油価格の急落等のため、米株価も急落し、過去最大の下げ幅を記録、米企業全体の時価総額は約2兆ドルが1日に吹き飛びました。

原油価格の下落は、OPECとロシアの協議で、石油の減産がロシアの反対で頓挫、その後サウジが一転して増産すると言い出したことで起こりました。ロシアもサウジも、アメリカのシェール企業を倒すために、安値攻勢を仕掛けた、と見られており、アメリカのエネルギー産業株が下がり、連鎖的に他の株も下がりました。

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OPEC「落日」 ロシア、打倒シェールへ転換 (写真=ロイター) :日本経済新聞

今回の株暴落の影響について、市場の見方は分かれています。これが社債市場に飛び火して、高格付け債でさえデフォルトが増えて、連鎖的に信用危機、金融危機になりうる、という見方もあれば、そこまでいかず、株価は原油価格につられてパニック的に落ち過ぎている、また戻す、という見方もあるようです。

ダウ一時2000ドル超急落、売買停止発動:識者はこうみる - ロイター

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まず、信用危機への波及は防ぐべきなので、金融政策は、更に緩和を進めるべきです。

日経の永井洋一編集委員が、今回の株価下落は、リーマン・ショック以来の低金利政策による「中銀バブル」の限界を示している、と書いており、信用力の低い企業の債務を束ねたローン担保証券(CLO)を持っている日本の金融機関が心配だ、と書いています。

確かに、信用力の低い企業の債務が増え過ぎているのは問題です。が、だからと言って、「中銀バブル」を終わらせるべく、金融緩和を終わらせる、という選択肢はあり得ません。企業債務の累積については、金融規制の強化で対応すべきで、日本の金融機関については、CLO等の保有を規制するべきです。これについては、本ブログで何度も主張してきました。

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今回の株価暴落への対処も同じです。金融緩和はあくまで継続し、株価の下落した企業のデフォルトが連鎖的な信用危機に陥らないよう、各国の中央銀行・金融当局は、金利を更に下げ、公的金融による貸付や保証を行い、必要なら何らかの債務免除まで可能にすべきです。もちろん、過剰債務を積み上げるに際して、金融規制上の違反があった企業等については、個別に責任追及をする必要があります。

金融政策・金融規制は、財政同様、「マクロでは緩く、ミクロでは厳しく」すればよいことです。

金融緩和の継続や追加によって、金融業界は低金利・マイナス金利でますます苦しくなり、FRBの前回の利下げ時のように銀行株は下がるでしょうが、金融業自体がフィンテックによって変革を迫られています。金融緩和の副作用として、既存金融機関の経営が圧迫されて、業界自体の変化が加速することは、やむを得ないことです。低金利の継続で、旧態依然たる銀行業界がより効率的なフィンテック業界に変わっていけば、長期的に見れば、金融仲介コストが下がるのですから、経済全体にはプラスです。

以上のように、先週から起きた株価暴落が、リーマン・ショック以来の金融緩和の調整局面だとしても、その解決方法は、マクロで言えば、やはり金融緩和の継続・深掘りしかありません。信用危機の発生は防ぎつつ、個別の業界・企業の債務に問題があれば、ミクロの金融規制で適切に是正すれば良いことです。

OPECプラスのカルテル崩壊も、長い目で見れば経済にプラス

金利政策が短期的には株式市場にマイナスでも長期的には経済全体にプラスであるのと同様、石油価格の下落も、短期的には株式市場にマイナスでも、中長期的には、経済全体にプラスです。エネルギーコストが全体として下落するからです。

もともと、原油価格の下落は、2010年代後半に、ずっと続いています。以下、資源エネルギー庁のエネルギー白書2019により、最近の原油価格の推移を見てみます。

原油価格は、2000年代半ば以降、中国等で石油需要が急増したので、上昇し続けましたが、2008年のリーマンショックで急落、その後、中国経済回復、OPEC減産、アラブの春等でまた2014年まで上がりました。

ところが2014年7月以降は、米国シェールオイルや市場シェアの確保を重視するOPECの増産、中国経済の減速で、原油価格は急速に下落しました。以来、原油価格はかつての水準には達していません。

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出所:資源エネルギー庁「エネルギー白書2019」

第2部 第2章 第2節 一次エネルギーの動向 │ 平成30年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2019) HTML版 │ 資源エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2019html/data/222-1-11.xlsx

このように、2000年代に急上昇した原油価格は、2010年代後半以降、下がっています。今回の原油価格急落は、この長期的な傾向のダメ押しに過ぎません。

原油価格のこの動きを、長期的な傾向であって動かしがたいと見るべき理由は、これが中国経済の急成長と成熟化に合わせて起きているからです。今後、中国経済がかつての高度成長を達成する見込みはないのですから、石油だけでなく、エネルギー需要はそうそう上がりません。現に、上記のような価格の動きは、原油だけでなく、天然ガスや石炭でもだいたい同じです(上記エネルギー白書に出ています)。

2018年以降の変化としては、トランプ政権が国内の環境規制緩和で石油増産を行ったのも大きいでしょう。現に、今回のロシアとサウジの増産は、アメリカのシェール企業を倒そうとしてやっていることですが、中小業者は厳しくなっても、大手は更に効率化を進めて生き残ると見られているようです。

そのうえ、再エネが台頭しています。昨日のブログで書いた通り、安さだけが取り柄の石炭火力よりも、再エネの方が更に安くなる見込みが出てきました。

太陽光パネルの7割超が中国産、感染症の影響で調達に不安:再エネ産業の中国依存は、見直しが必要。 - 日本の改革

要するに、石油に限らず、化石燃料に依存する従来型のエネルギー産業は、中国の需要減少という大きな動きに加え、技術革新と国際的競争の激化で、もともと厳しかったわけです。今回のような暴落になるかはともかく、原油価格等の下落は長期的に見て避けられません。

トランプ政権は、従来型のエネルギー産業に何とかテコ入れしようとした守旧派政権だったわけですが、連邦が規制緩和しても各州は言うことを聞かず、アメリカ全体では再エネへの転換が進んでいることは、本ブログでも書いた通りです。

トランプ政権の環境規制緩和、敗訴率8割超。日本政府・企業は、現政権は無視して州の厳しい規制の尊重を。 - 日本の改革

http://www.21ppi.org/pdf/thesis/190531_2.pdf#search=%27%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97+%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%AF+%E7%9F%B3%E6%B2%B9+%E7%92%B0%E5%A2%83%E8%A6%8F%E5%88%B6%27

トランプ氏御本人も、今回の原油価格下落について、こんなツイートをしています。

おっしゃる通りで、市場全体への悪影響を政策対応で防げば、原油価格の下落は、基本的には歓迎すべきことです。トランプだろうが誰だろうが、選挙でその方が有利となれば、あっさり石油産業など見捨てるでしょう。今回の石油価格暴落、OPECとロシアのカルテル的減産の失敗は、古い石油産業の断末魔の一つであり、新しい再エネ産業にとっては大きなチャンスとなります。

短期的な財政・金融政策と、中長期的な構造改革

各国の政策対応についてですが、既に連邦準備銀行は9日、短期金融市場への資金供給を増額すると発表しましたし、FRBは3月17~18日の会合で、更に金利を下げると見られています。トランプ政権は給与税(payroll tax)の減税を表明、ムニューシン財務長官も今日3月10日、追加経済対策を議論するようです。

当のアメリカ石油業界のトップ(Mike Sommers, the President and CEO of the American Petroleum Institute (API))は案外冷静で、一日の値動きだけで政府に業界として対策を要求はしない、と言っています。

ヨーロッパでは、ECBの動きがあまり見えませんが、各国が財政政策を追加すると言っており、感染症が広がるイタリアの経済減速が連鎖しないように備えるようです。

Coronavirus, oil prices drive market meltdown | TheHill

Europe’s policymakers search for answers to virus crisis | Financial Times

アメリカの金融当局はまあまあ迅速に動きそうですが、欧米の財政当局と、ECBの動きが遅く見えるのは少し心配です。

今日、緊急経済対策の第二弾を発表する日本も、家計消費を直接支えるような大規模な対策がまだ見えません。ここについては、国民民主党の玉木氏が、対策の規模については、正論を言っています。

 本ブログでは、消費税減税には反対でも、家計向きの簡素な給付措置を10兆円規模でやるべき、という主張をしてきたので、玉木氏の主張には、消費税減税を除いて、賛成です。もちろん、金融政策の更なる緩和(マイナス金利深掘り、買いオペ増額)も必要です。

株価が過去最高の上げ幅の一方、米議会は今週中に75億ドルの緊急対策:日本は与野党で家計向き臨時給付金を打ち出すべき。 - 日本の改革

このように、財政政策・金融政策を迅速・大規模に行うとともに、中長期的な構造改革ために、法人税減税、サプライチェーン改革、フィンテック促進、再エネ支援を進めるべきです。