日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

FRBが利下げしても米株下落、金融政策の限界露呈:短期的な財政政策と、中長期的な「脱・中国」経済の構築が必要。

米連邦準備理事会(FRB)が利下げしても米株は大きく下落。今後は、短期的には財政政策、中長期的には、中国に依存し過ぎない経済の構築をすべきです。

金融政策だけではもう無理

昨日3月3日、米連邦準備理事会(FRB)は、0.5%の利下げを決定しました。正式な金融政策会合ではなく、臨時会合による利下げを決定したのは、2008年のリーマン・ショック以来で、FRBが、やれることは何でもやる、という強い姿勢を示した形です。

www.nikkei.com

それでも、ダウは785ドルも急落しました。下げ幅も、臨時会合でやるという下げ方も、市場が完全に予想していた通りでサプライズがなかったようです。また、純然たる金融危機だったリーマン・ショックと違って、今回は、感染症拡大の終息が見えず、実体経済への強い不安が残るままなのが大きいようです。

この先、FRBが更にゼロ金利まで下げることや、その先にも、長期金利を抑えるための政策などが予想されるにも関わらず、米株が大きく下げています。金融政策はやるべきですが、それだけでは足りず、やはり消費や投資を実際に増やす政策が必要です。

www.nikkei.com

信用危機か、緩和バブルか コロナ相場に揺れるシナリオ :日本経済新聞

FRBが0.5%緊急利下げ、新型肺炎リスクで:識者はこうみる - ロイター

そこで短期的には財政政策、ということになるので、G7は共同声明で、あらゆる政策手段を使ってリスクに立ち向かうと言ったのですが、具体策がないので、こちらも効いていません。各国が早急な具体化をすべきです。

「脱中国」経済の構築が必要

日本のとるべき対策について、本ブログでは昨日、「子育て特例給付」と、低所得者向きの「簡素な給付措置」を10兆円規模で行うべきと主張しました。これは、感染症による景気減速への対策だけでなく、消費税増税による打撃を帳消しにもするためです。

昨年の消費税増税のための対策だったはずの軽減税率は激変緩和には全然効果がありませんでした。それなら、逆進性緩和のためのもう一つの政策手段である給付付き税額控除をより簡素にした給付金を、消費性向の高い子育て世帯と中低所得世帯に支給するのが、即効性のある景気対策だと思ったからです。規模も、消費税増税分5.6兆円を打ち消して、感染症による景気減速と不確実性を緩和する上乗せが必要と考えたため、10兆円としてみました。

そして、政府が来年度予算案の参議院での審議に忖度してぐずぐずしているので、与野党で協力して国会が政府に、ただちに補正予算案を要求すべき、と書きました。

この対策は短期的な景気刺激のためのもので、中長期的には、教育国債による教育無償化や、低所得者への給付付き税額控除の本格導入につなげるべきもの、という位置づけのものです。

株価が過去最高の上げ幅の一方、米議会は今週中に75億ドルの緊急対策:日本は与野党で家計向き臨時給付金を打ち出すべき。 - 日本の改革

ちょうどこのタイミングで、自民党が来年度の補正予算に関する提言を出してきました。当初予算案の審議中に、自民党の方から先取りして補正予算の提言をするのは異例のことです。

www.nikkei.com

提言には、中小・小規模事業者の資金繰り対策や観光業支援キャンペーン(クーポン発行)等、いつもの項目が並びますが、注目すべきは、「中国から国内や東南アジアなどに製造拠点を移す企業への支援」も盛り込まれたことです。

自民党はこれを、短期的な緊急対策と考えているかもしれませんが、中長期的にも、日本経済にプラスをもたらしうる政策です。

短期的な経済対策としては、中国の統制を逃れる企業を助けることにもなるうえ、国内の雇用を増やすのでプラスでしょうし、感染症が広がる間も、中国よりも日本の政策の方がまだ透明性があって予測可能性が高まります。いま、市場も含めて経済全体が委縮しているのは、この先どうなるか分からないという不安からですが、それを減らすことが出来ます。

中長期的に見ても、今回のような「中国リスク」を減らすことになり、米中冷戦のさ中、アメリカとともに、経済安全保障で協力することになります。

あの中国べったりの自民党でさえ、このタイミングでの経済対策として、サプライチェーンの脱・中国化を支援しようと言うのですから、中国経済とのデカップリングは、普通思われている以上に早く進められる可能性があります。

私は、日本は短期的な利益よりも中長期的な利益を重視して、価値観をともにするアメリカとともに米中冷戦を戦うために、日本経済も脱・中国化を進めるべきと考えてはいましたが、正直言って、当面はなかなか難しいだろうと思っていました。

以前、経済財政白書にも、日本が中国を含むサプライチェーンにしっかり組み込まれており、一般に、こうした国際生産ネットワークは、一度構築されると多少の外的なショックがあっても容易には変更されない、という実証研究も紹介されていたこともあり、そこは動かしにくいと思っていました。

第2節 日本と海外のサプライチェーンの構造 - 内閣府

しかし、米中貿易摩擦が激しくなったため、生産拠点の脱中国化を招くかについて、結論としてはそう簡単には進まないにせよ、経済合理性から言っても、どちらの可能性もありうる、という議論も出てきました。

www.nikkei.com

それならば、政治が脱中国に誘導する余地は十分あります。自民党までが、中国から国内・東南アジアに生産拠点を移転しろ、と、正式に政府に要求するような事態になっている現在、政治の意志で、中国に依存し過ぎないような産業政策も可能でしょう。トランプ大統領が、どれほど批判され罵倒されても米中関税合戦を断行して、知的財産権保護等で一定の成果を得たのと同じです。

既にドイツは、ICT技術を生産工程に利用する「インダストリー4.0」によって、自国の工場での生産コストを大幅に引き下げ、工場の国内回帰を進めています。たとえば、独アディダスは、生産設備のコンピューター・シミュレーションであらかじめ無駄のない生産工程を作ることでコストを下げ、欧米の消費者の好みに合わせた少量多品種の靴を、自国の小規模な工場で作ることを可能にしています。

www.nikkan.co.jp

日本の経済産業省も、これをまねて、「コネクテッド・インダストリーズ」という政策を始めています。そこで重視されているのは、国内の人手不足を補うためという視点ですが、今回のような感染症リスクも含めた安全保障上の理由からも、生産過程のICT化による国内への産業回帰を進めるべきです。

(製造業を巡る環境変化に関する直近の議論はたとえば以下の審議会資料に出ています)

第7回 産業構造審議会 製造産業分科会(METI/経済産業省)

選択3月号の記事も、今回の感染症によって、世界の製造業が生産拠点を中国以外に移す動きが加速する可能性が高い、という見方です。

この記事では、コンピューターの世界での「エッジ・コンピューティング」(データやアプリをクラウドに集めたのでは不安定で遅延の問題があるので、アプリ等をクライアント側の端末に分散する手法)のように、先進国の顧客に近い場所で、効率的で規模の小さい自国工場での生産を行う「エッジ生産」が今後進み、先進国への製造業回帰も起きてくる、と見ています。

www.sentaku.co.jp

英王立国際問題研所長も、日経の取材に対して、今回の事態を踏まえて、先進国のサプライチェーンで脱中国を進めるべき、と主張しています。国際的にも十分理解が得られるばかりか、むしろ、安全保障上は、歓迎されるでしょう。

英王立国際問題研所長「新型コロナで脱・中国依存」 :日本経済新聞

いま現在、感染症対策で中国と協力せざるを得ない局面ではあるにしても、経済対策は日本の判断として、欧米と強調もしながら早急に進めるべきです。金融政策だけでは足りないので、家計向き臨時給付金10兆円のほか、自民党の言う脱中国企業への支援を、緊急対策としてだけでなく、今後の中長期的な日本の経済政策の方針としていくべきです。