日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

バイデン復活、ブティジェッジ撤退:次の大統領が誰になっても、医療費削減が難しいアメリカ

アメリカの一人当たり医療費は世界一高いのですが、病院、医師、保険会社等の既得権者が強力で、共和党民主党、どちらの政権も医療費を下げられていません。今年の大統領選で誰が当選しても、保険加入者は多少増やせても、高い医療費の問題は解決できそうにありません。

アメリカでは既に9割超が医療保険に加入、問題は高い医療費をどう下げるか

アメリカ大統領選、民主党の指名獲得競争は、アフリカ系の多いサウスカロライナ州でバイデンが圧勝、ブティジェッジが撤退を表明しました。中道派ではブルームバーグがこれから資金力で伸びるかもしれませんし、バイデンは最初のつまずきが響いて資金集めがいまひとつで、長期戦になりそうだという観測があります。が、結局は、中道派のバイデン対左派のサンダースの構図になる可能性が高くなってきたようです。

jp.wsj.com

民主党の穏健派と左派で、有権者が関心を持つ一番大きな違いは、やはり医療保険についての対立でしょう。バイデンは、現行の医療保険制度を修正して保険加入者を増やそうとしていますが、サンダースは政府が単一の保険者となる形での国民皆保険の実現を目指しています。

アメリカの現行医療保険制度は、いわゆるオバマケアで、アフォーダブル・ケア・アクト(ACA)と言われています。アメリカの医療保険は、高齢者向きには連邦政府によるメディケアと、低所得者向けには州政府が連邦補助金付きで運営するメディケイドがあります。この二つでカバーできない部分は民間の医療保険によっています。

以下、本節でのアメリカの現行制度の説明は、以下のリンクの資料によります。

注目のメディケア・フォー・オール-民主党大統領候補者選定の主要な争点。財源問題も含めた議論が本格化へ | ニッセイ基礎研究所

【ホワイトペーパー】2020年メディカルデバイス市場で注目するべき6つトピックス:医療保険制度改革法(The Affordable Care Act) | DRG Japan

現行の医療保険制度(ACA)は、保険加入者を増やし、他の先進国より高い医療費を抑制すること等を目的に、オバマ政権で導入されました。企業が労働者に最低限の医療保険を提供し、国民に保険加入を義務付けることが柱で、これにより、アメリカで無保険者はほぼ半減、現在では9%となっったので、91%が医療保険加入者です。なお、無保険者のうち3分の1程度が不法移民と見られており、仮にですが、彼等に医療保険を認めないという立場をとれば、保険加入率は94%くらいになり、「国民」皆保険までは、あと一歩ということもできます。

問題は、医療費自体が高すぎることです。加入している民間保険の対象にならない疾病が多くて、本人負担が高くて治療を受けられない、という問題は、現行制度によっても解消されていません。アメリカの一人当たり医療費は、先進国では断トツで高くなっています。

f:id:kaikakujapan:20200302211537p:plain

出所:厚生労働省

医療保障制度に関する国際関係資料について |厚生労働省

ということで、今度のアメリカ大統領選での医療保険の議論、日本から見ている限りでは、「国民皆保険か否か」だけでなく、「いかに医療費を下げるか」についての、やり方の違いも重要に見えます。

オバマケアを批判してきたトランプ政権でさえ、現行の医療保険であるACAを撤廃できず、後に述べるように、医療費を何とか下げようとはしてきました。

バイデンは、現行のACAでメディケアの対象とならない現役世代に対して、連邦政府が運営する新たな公的保険、「パブリック・オプション」を追加すべき、という主張です。いま民間の保険に入っている人はそのままでもいいし、パブリック・オプションを選んでもいい、もちろん無保険者も入れる、というものです。現行制度はそのままで、新しい公的保険の選択肢を増やす形です。バイデンは、この政策が全体として医療費も下げると主張しています。

これに対し、サンダースは、政府が運営する単一の医療保険制度を作って加入を義務付けるという「メディケア・フォー・オール」を主張しています。民間保険加入者も全て、この公的医療保険に入りなおす形になります。サンダースも、この方が医療費を下げると主張しています。

以上のように、民主党内では、中道派が現行制度にパブリック・オプションという公的保険を追加、左派は政府のみが保険者となるメディケア・フォー・オールを主張しています。

www.nytimes.com

医療費削減の試みは、民主党共和党もことごとく失敗

では、こうした政策で、世界一高いアメリカの医療費は削減できるでしょうか?残念ながら無理そうです。理由は政治的なもので、特に、病院、医師、保険会社等が自分達の取り分削減に反対するからで、これまでのところ、こうした反対を歴代政権は抑えられていません。

バイデンのパブリック・オプションは、単に新たな選択肢を追加するだけのようですが、実はけっこう大胆な内容も含んでいます。特に、パブリック・オプションという公的保険の場合には、病院等に支払う報酬を民間保険会社が払う報酬よりも大幅に下げて、保険料も下げる、と言っています。しかし、こうした報酬引き下げの議論は現行のACA以前、メディケア、メディケイドだけの時代からあったものの失敗続きで、政治的な議論になるたびに、かえって報酬が引き上げられるようなことになってきたようです。

www.wsj.com

サンダースのメディケア・フォー・オールへの反発は、当然、更に強いものです。

アメリカ病院協会(the Federation of American Hospitals, 1000以上の営利病院の団体)のCEOのチップ・カーン氏は、他の病院団体、製薬会社、保険会社、医師らに呼びかけて、the Partnership for America's Health Care Futureという団体を作って、この政策に反対するキャンペーンをしています。

病院、製薬会社、保険会社等は、いつもは3.6兆ドルの医療費をめぐって分捕り合戦をする仲のようですが、現行のACA導入のときには、低所得者への医療で政府支出が増えたり、オバマ政権も色々とインセンティブを与えたようで、病院団体も保険会社も、今では現行のACAに賛成で、トランプ政権がこれを撤廃しようとしたときには反対しました。病院の収益は上がり、保険会社の利益に至っては倍増したからです。

サンダースのメディケア・フォー・オールはトランプ政権どころではなく、民間の保険会社はそもそも医療保険市場から排除されることになりますし、病院の報酬も抑えられます。

ということで、こうした医療関係の団体は、トランプ政権のオバマケア撤廃であろうが、バイデンのパブリック・オプションであろうが、サンダースのメディケア・フォー・オールであろうが、全部反対です。

www.politico.com

そして、医療費引き下げに対するこうした医療団体の反対が、アメリカでは常に勝ってきました。

トランプ政権も、オバマケア撤廃がうまくいかないとなると、今度は、病院への報酬を何とか減らそうとしましたが、全部失敗です。

Opinion | No, Medicare for All Won’t Save Money - POLITICO

サンダースのメディケア・フォー・オールについては、医療団体だけではなく、労働組合の意見も割れています。教員組合や看護師の団体等は賛成しているものの、建設業界の団体等は、負担増を嫌って、はっきり反対しており、多くの組合で各地域ごとに意見が割れているようです。全国団体のAFL-CIOは、2016年の大統領選でサンダース支持者が離反したのに懲りて、今のところ中立の立場をとっていますが、最終的には反対するでしょう。

そして、以前のブログでも書きましたが、サンダースという政治家は古くからの左翼だけあって、実は労働組合べったり、民主党の候補の中で一番、労組寄りの政策を主張しています。サンダースにとっては、労組が支持しなければ、強力な医療団体に大きな痛みを伴う政策を実現することなど、無理でしょう。

www.politico.com

盛り上がり始めたアメリカ民主党予備選:旧民主と維新、本気で政権狙うなら予備選を! - 日本の改革

ということで、今度の大統領選で誰が勝っても、 医療費の引き下げを実現するのは難しそうです。歴史的経緯でスタートから難しいのでしょうが、保険制度がバラバラで無保険者もいたのは、昔の日本も同じです。アメリカには、診療報酬を初めて下げた小泉純一郎のようなリーダーがまだ出ていないということなのかもしれません。