日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

日本の来年度税制改正の目玉税制、アメリカが真っ向から否定:FTCが、IT大手のベンチャー買収による競争阻害を調査

アメリカの連邦取引員会(FTC)が、IT大手によるベンチャー企業の買収が競争阻害をしていないか、調査を始めます。日本は来年度税制改正で、大手企業のベンチャー買収を促す「オープンイノベーション税制」を導入する予定ですが、見直すべきです。

グーグルのユーチューブ買収やフェイスブックのインスタグラム買収は競争を阻害?

アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、グーグル(アルファベット)、アマゾン、アップル、フェイスブックマイクロソフトに対して、2010年から2019年まで10年間にお行った買収のうち、規模が小さくて届出をしていない(合併事前届出を定めた、ハート・スコット・ロディノ反トラスト改正法の対象外となっている)案件について、情報を提供するよう求める命令しました。

FTCのサイモンズ委員長は、デジタル経済での買収の実態を把握し、消費者の利益のために、競争阻害がないかを調べる、としています。調査対象は、企業の買収戦略に関する記録から他企業からの引き抜きの条件等に至るまで、あらゆる分野に及んでいます。

FTC to Examine Past Acquisitions by Large Technology Companies | Federal Trade Commission

これは、連邦取引委員会法6条(b)(Section 6(b) of the FTC Act)によるもので、特段の処分の前提になるものではありませんが、その後、反トラスト法上の処分にも利用できるようです。

実際、サイモンズ委員長は、ニューヨークタイムズに対して、この調査で問題が見つかれば、あらゆる手段を取り得る、と答えています。大企業がベンチャーを芽のうちに摘み取って競争相手にしないようにしているのではないか、懸念があるために調べる、ということです。

www.nytimes.com

FTCのRohit Chopra委員は、グーグルがユーチューブを作ったのではないし、フェイスブックがインスタグラムを作ったわけでもない、グーグル等は、競争相手をつぶすために買収をしているのではないか、という理由で、調査に賛成した、と言っています。

(もっとも、グーグルのユーチューブ買収は2006年なので今回の調査の対象外ですが)

この人は民主党のようですが、今回の調査は、FTCの5人の委員の全会一致で決まっており(上のFTCのリンク参照)、超党派の支持があるようです。また、他の産業でも、こうした"killer acquisition"が行われているという声明を一部の委員が出してもいます。

https://www.ftc.gov/system/files/documents/reports/6b-orders-file-special-reports-technology-platform-companies/statement_by_commissioners_wilson_and_chopra_re_hsr_6b_0.pdf

ということで、去年、エリザベス・ウォーレン議員が言い出したIT大手分割論に沿った調査を、FTCが本当に始めることになりました。既に、IT大手分割論がアメリカでは相当広まっていることは、本ブログでもたびたび紹介してきた通りです。

「誰がシリコンバレーを見張るのか」(ポリティコ):FTCの強化か、「フェイスブック省」の設立か、両方か - 日本の改革

ついにアメリカでも、グーグルとフェイスブックを反トラスト法で調査。企業分割は必要でも、現行法も問題あり。 - 日本の改革

アメリカで盛り上がるGAFA解体論:アマゾンやフェイスブックから受ける消費者の利益・不利益とは? - 日本の改革

日本のオープンイノベーション税制は、まるで逆の発想

このように、アメリカでは、特にIT大手によるベンチャー企業の買収について、自由で公正な競争の確保という点で、厳しい目が向けられ、規制を強める方向に動いています。FTC委員は、先の声明に見た通り、IT大手に限らず、他の産業(医薬品等)での同様の買収も問題だ、と主張しており、こうした動きは今後も強まるでしょう。

ところが、日本の2020年度税制改正に盛り込まれた「オープンイノベーション税制」は、その真逆の方向で、むしろ大企業によるベンチャー買収をどんどん促進しようとしています。

令和2年度与党税制改正大綱では、その目玉として、オープンイノベーションに係る措置を掲げ、既存企業が「従前の閉鎖的でコストの高い自己開発にこだわることなく」新たな分野に投資することが重要であり、そのために、事業会社によるベンチャー企業への出資の一定額を所得控除する措置を挙げています。背景としては、大企業が内部留保あるいは現預金を有効に利用できていない、という問題意識があります。

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/140786_1.pdf?_ga=2.18309626.254252881.1576716365-368123085.1548656289

www.nikkei.com

以前のブログでも紹介しましたが、この措置は、去年の成長戦略実行計画の考え方に基づいています。最近のアメリカでは、ベンチャーキャピタルがスタートアップを支援するよりも、むしろ既存の大企業が、豊富な資金力を使って大規模な投資をスタートアップにつぎ込んでいるようだから、日本もそうしよう、ということです。

5G減税とベンチャー投資減税で、投資は動くか:トランプ同様、法人税率は大減税で20%に、租税特別措置は全廃を! - 日本の改革

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf#search=%27%E6%88%90%E9%95%B7%E6%88%A6%E7%95%A5%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E4%BC%9A%E8%AD%B0%27

問題は、こうした大企業によるベンチャー投資が経済に与える影響について、大した検討がなされていないことです。成長戦略実行計画では、アメリカでは社歴が長い大企業ほど利益率が高く、米国企業は大規模化と多角化が進むほど利益率が上がる傾向にあるという事実があると主張し、大企業によるベンチャー投資の推進を正当化しています。

日本でこうした議論を進めて、成長戦略を6月に決めていた頃、アメリカでは逆に、大企業によるベンチャー買収、特にIT大手による競争阻害的な買収があるのではないか、という議論が盛り上がりを見せ、最初は民主党左派の主張と見られていたのが、どんどん超党派で広がり、とうとう今年になって、FTCが本格的な調査をすることを決定しました。

日本のオープンイノベーション税制は、アメリカでのこうした政策上の議論をきちんとフォローせずに、大企業によるベンチャー買収の競争政策上の弊害を全然考えずに、アメリカ企業のほんの一部のデータをつまみ食いして、極めて安易に導入されています。

もちろん、大企業によるベンチャー買収が、常に競争阻害をしてデメリットだけが生じるかと言うと、そうとは限りません。

今回のFTCの調査開始に対して、グーグルは、買収前のユーチューブはひどい状態だったじゃないか、買収でむしろまともにしてやったはずだ、と反論しています。今回、FTCが、小規模の買収を問題視しながら、裁判所が、スプリントとTモバイルの超大型合併を承認しているのは一貫性がない等の批判もあります。

Regulators demand info on past deals by Amazon, Apple, Facebook, Google and Microsoft - POLITICO

米テク企業のM&A環境、一段と複雑に - WSJ

問題は、日本のオープンイノベーション税制の導入にあたって、こうした議論が一切ないままに、前述のように安易に決めてしまっていることです。大企業の内部留保や現預金が積み上がっていることに批判が集まる中、経済団体が反対する内部留保課税はやりたくないので、全然逆に、ベンチャーに投資したら減税するというアメなら抵抗がなくていいだろう、という発想にさえ見えます。

いずれにせよ、日本のオープンイノベーション税制は、競争を阻害する効果を持たないのか、アメリカでの議論をよく精査して、見直すべきです。財務金融委員会等で、野党に質問してほしいものです。