日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

トランプが新たな貿易戦争の準備完了:日欧中、全て対象。日本の金融緩和は円安に注意を。

トランプ政権が、為替操作国に高関税をかける方針を発表。日本は、金融緩和の深掘りをすべきですが、円安が進行しないよう注意が必要です。

アメリカは他国の「為替操作」をどう認定するのか

アメリカ商務省が、通貨操作をしていると判断した国に対して、新たな関税をかける方針を発表しました。

https://www.commerce.gov/news/press-releases/2020/02/department-commerce-issues-final-rule-countervailing-unfair-currency

米、通貨安誘導に相殺関税 4月実施へ (写真=ロイター) :日本経済新聞

これは、アンチダンピング・相殺関税(AD/CVD)プログラム(Antidumping and Countervailing Duty:AD/CVD) と呼ばれる制度のうち、相殺関税(CVD)プログラムを改正するものです。

相殺関税(CVD)とは、ある国がアメリカへの輸出を伸ばそうとして自国企業に輸出補助金を出して、アメリカの産業に損害を与えたら、その損害を「相殺」するような関税を課す、という制度です。要は、外国が自国企業に輸出補助金を出したら報復関税をかけるというものです。

関税制度 | 米国 - 北米 - 国・地域別に見る - ジェトロ

今回の制度改正は、この制度を、輸出補助金だけでなく、為替操作にも拡大適用する、というものです。既に去年5月に、為替操作国に関税をかけるようにするとしていましたが、具体的な制度を決定しました。

もともと特定の輸出補助金への対抗措置として関税を課す制度なので、通貨操作による自国通貨を安くする誘導も、補助金の一種にする、ということです。自国通貨の減価がなされたかどうかは、市場で実際に成立している実勢為替レートだけでなく、各国の物価水準も考慮する「実質為替レート」や、その他のマクロ経済の状態(金利差や政府債務等)も考慮する「均衡為替レート」によって決めるそうです。

そして、関税の対象とするのは、政府による通貨安政策であって、独立した中央銀行の金融政策については「普通は(normally)」考慮しない、ただし、為替レート変更への政府決定の透明性については、考慮する、としています。米政府の解説を引用します。

In assessing whether there has been such government action, Commerce will not normally include monetary and related credit policy of an independent central bank or monetary authority. In making its assessment of government action on the exchange rate, Commerce may consider the relevant government's degree of transparency regarding actions that could alter the exchange rate.

www.federalregister.gov

これはかなり裁量の余地が大きい制度です。

トランプ政権は、「実質実効為替レート」で見たら、円は安すぎると言って日本を批判してきました。そして去年2019年5月には、日本を中国やイタリア等とともに、為替監視国に指定しました。リストに載った日欧中の諸国は、既にまな板の鯉の状態でしたが、今回のCDV制度の改正で、いよいよ「料理法」が決まった形です。

日米物価差20年で5割超拡大、たまる円高マグマ :日本経済新聞

米財務省、日中など9カ国の為替監視 対象を拡大 (写真=ロイター) :日本経済新聞

それでも、実質実効為替レートは、物価指数に基づいて決めるので、ある程度客観的な数字による議論になります。

しかし、均衡為替レートはマクロ経済のファンダメンタルズと呼ばれる色々な指標から計算されるもので、アメリカが通貨安を認定しやすいモデルを選択する余地があります。

(試算例や解説には以下のようなものがあります)

実質実効レートに基づく対ドル均衡値の推計 | 公益社団法人 日本経済研究センター

均衡為替レートの考え方と算出法 | 公益社団法人 日本経済研究センター

均衡為替レートとは 経済実態に沿った適正水準を推計 :日本経済新聞

中央銀行の金融政策は「普通は(normally)」対象にしないと言いますが、普通でないと判断するのは米政府の裁量でしょうし、2013年以来の日本政府と日本銀行の関係は、為替相場に関する政策について、「不透明だ」という認定をするのも、米政府の裁量次第でしょう。

日本の金融緩和の際には、円安に振れ過ぎないような注意が必要

今回の制度改正には、アメリカのメディアでは批判の声が聞かれます。

フォーリン・ポリシー誌は見出しで、これは「貿易戦争の新たな戦線」を開くものだとして、批判しています。理由は、関税を上げると消費者の負担が増えるし、アメリカの輸出産業の雇用にもかえって悪影響であり、そのうえ、特定企業等への補助金だけでなく一国全体の政策に基づいた関税政策はWTO協定違反になりかねない、ということです。こうした批判は小さな政府路線のケイトー研究所の人も言っています。

Trump Administration Currency Rule Seeks Tariffs Against Undervalued Currencies

Commerce Claims Powers to Countervail Undervalued Currencies | Cato @ Liberty

しかし、こうした批判は、3年前なら説得力があったでしょうが、今ではアメリカ国内でもそれほど強く支持されないでしょう。

まず、米中冷戦を戦う上で、関税というのが有効な政治的手段だ、少なくとも、一定の効果をもたらしうる、ということをトランプ政権は示しました。米中第一弾合意の一方的な内容を見れば分かります。

今回の制度改正は、以前から予定通りではあったでしょうが、アメリカが新型コロナウィルス対策で中国に協力すると言いつつ、対中政策を緩めるつもりはないことも示しています。

次に、日本や欧州諸国に対しては、恣意的に関税など課すべきではないと思いますが、これもアメリカに言っても無駄でしょう。上記のフォーリン・ポリシーの記事等には、こうした為替操作国認定による関税政策は、トランプ政権の出来るはるか前から、民主党上院トップのチャック・シューマーも、共和党トップのリンゼー・グラムも賛成で、米議会は実現しようとしていた、という経緯も紹介されています。ある意味、トランプ政権は、米議会の以前からの要望を受け入れたにすぎません。

実際、現在の鉄鋼・アルミニウム等の関税で、日欧中のメーカーはみんな打撃を受けていますが、トランプは更に鉄製品の関税を上げる始末です。関税は米中冷戦の手段だけでなく、アメリカ・ファーストで自国の産業を守るために、徹底して利用しようとしています。

www.piie.com

日本としては、アメリカの高関税政策の被害を受けもしますが、米中冷戦で中国を良い方向に変えるためには、やむを得ない政策手段だ、という認識が必要です。今やっているように、「自由貿易」が大事だなどと言って、自由と最も縁遠い中国といっしょになって、アメリカの関税に対抗しようとするのは間違いであり、やめるべきです。

一方、アメリカに為替操作国と認定されて、高い相殺関税を課せられるという事態も、もちろん避けなければいけません。そのためには、金融緩和を継続し、更にマイナス金利を深掘りするときにも、出来るだけ円安にふれないようにするべきです。

理屈から言えば、これは難しいことです。現在の金融緩和は、脱デフレのため、つまりは物価を上げるためにやっていますが、日本の物価が上がれば、先に見た「実質実効為替レート」で見れば円安になってしまうからです。

しかし、幸か不幸か、物価はあまり上がっておらず、日銀は2%の物価上昇を未だに達成できていません。一方、金融緩和には、企業・家計の債務負担を減らし、金融業界の効率化を促したり、政府債務も軽減して国債発行をやりやすくする等のメリットもあります。

政府・日銀は、まずは実勢の為替レートが円安にふれないように日々十分注意しつつ、実質実効為替レートで見て、アメリカに円安だと言われないように、日米間の物価上昇率の違いを見極めつつ、均衡為替レートで難癖をつけられないように理論武装も日頃からしておきながら、金融緩和の深掘りを進めていくべきです。