日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

WHOの緊急事態宣言、科学的判断を中国が歪めた可能性大。ただし、水際対策はもう十分すぎる、今後は中程度以上の症状への準備を。

 WHOの緊急事態宣言、中国への配慮で遅れた可能性が高くなりました。緊急事態宣言によって、各国は水際対策を強化しましたが、もう十分過ぎます。今後は、肺炎等の中程度以上の患者への治療対策に向けた準備を優先するべきです。

ランセットの編集長がWHOの判断を批判、同誌の論文が大流行を警告

1月31日、新型コロナウィルスにつき、WHOが緊急事態宣言を出しました。

本ブログでは、WHOは2009年に過剰な宣言を出して信頼性を失うようなことをしていたから、その反省に立って慎重にやったと言うなら理解できるが、2014年には逆に、アフリカ諸国への政治的配慮でエボラでの緊急事態宣言を遅らせたので、WHOというのは信用できないときがある、日本国民は慎重に見るべきだと書きました。

新型コロナウィルス対策、2009年の新型インフルエンザでの失敗も踏まえて、冷静な対応を。 - 日本の改革

その時は、WHOの判断が中国のせいで歪められたと言えるのか、まだはっきりしないと思っていました。そもそも、中国の政治的圧力から守られるべき「科学的判断」とは何なのかが、その時点では分からないと思ったからです。が、その後、中国がWHOの判断を歪めた可能性が高いと思わせることがありました。

WHOが緊急事態宣言を出した同じ日に、医学雑誌ランセットが、このウィルスの感染者が75000人にのぼるという論文を発表しました。その論文では、人口の移動を制限する「強権的な措置さえ(even draconian measures)」検討されなければ、世界的な流行になる、と警告しています。

論文の抜粋を、ランセット編集長のリチャード・ホートン氏がツイートしています。

 論文はこちらです。

https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30260-9/fulltext

ホートン氏は、WHOの仕事もしていて、Co-chair of the independent Expert Review Groupという立場でもあります。専門的な助言を独立の立場で出来る職種のようです。

彼は、WHOが緊急事態宣言をしないという最初の発表をした後、1月28日にフィナンシャル・タイムズに対して、この判断を批判していました。緊急事態宣言は出されるべきだったし、2014年のエボラの時と同じ政治的配慮を感じる、と言っています。彼は同時に、中国が検疫政策を決めた委員会に公衆衛生の専門家が入っていないことを問題視し、限られた情報で移動禁止措置が長引いたときの社会不安を憂慮しています。

on.ft.com

ホートン氏が「公衆衛生の専門家がいない」と言って批判した、中国の委員会に関する記事はこちらです。

Coronavirus infections surpass 1,900 as China appoints top-level team to manage crisis | South China Morning Post

そして1月31日にWHOが緊急事態宣言を出したときには、こんなツイートです。私の拙い英語力では訳しにくいですが、「緊急事態宣言(がやっと出た)。出しとくべきだったんだ。それで(これから)どうするんだ?」という感じでしょうか。

 以上を見ると、WHOが専門機関として重視すべきは、ランセットが1月31日に出した論文に見られるような提言であり、ホートン氏のような独立の専門家の意見だったはずです。つまり、「緊急事態宣言を出すべき」というのが、政治的圧力から守られるべき判断です。

(もちろん、専門誌の編集長の個人的判断と、専門誌掲載の論文の判断とは必ずしも一致するわけではありません。が、この場合は、ホートン編集長が事前にメディアで表明していたのと似た方向の論文が、査読を通過したということでしょう。)

ところが、彼の判断に反して、最初の段階で緊急事態宣言が見送られたのですから、中国への政治的配慮で、科学的・中立的であるべき決定を歪めたと言うべきです。今になって緊急事態宣言を出したのは、同じ日にランセットで厳しい移動制限を主張する論文が掲載されることも考えたのかもしれません。

このように、本物の専門家で中国に忖度しないホートン氏のような人物が、人間の移動を制限するような「強硬な措置」を求めているのだから、水際対策には一定の合理性はあると考えるべきです。

水際対策はもう十分すぎる。国内での感染防止と治療体制の充実が優先課題

一方で、彼が、中国が今やっているような「強硬な措置」を素人だけで決めたことを批判して、情報公開が不十分な中での社会不安を心配していることも重視すべきです。

中国の強硬策については、実は感染防止には逆効果だった可能性が高いと思います。

既に1月24日の日経で報じられていますが、香港の証券会社、京華山一国際の彭偉新・研究部主管は、「ウイルスが充満した武漢に閉じ込められてしまうと心配して移動制限が発動される直前に慌てて武漢を出た人も多く、むしろ拡散を加速させている」と指摘しています。

異例の封じ込め「むしろ拡散を加速」 武漢の現実 :日本経済新聞

これが恐ろしい規模で確認されたのが、1月26日の、武漢市の周先旺市長の会見で、「すでに500万人余りが市を離れた」ということでした。

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中国は最初、地方はもちろん中央も、徹底して情報を隠そうとして、隠しきれなくなったら急に、強権的に一切の移動を禁ずるという無茶苦茶な措置をしました。移動制限に賛成のホートン氏でさえ、こんなやり方については社会不安を懸念していますし、実際に起きたことを見れば、移動制限が全く逆効果だった可能性が高いでしょう。

国民が政府を全然信用しない状態だと、そもそも命令にもそう簡単には従いません。自分や家族の生命や健康がかかっていると思えば、なおさらです。

では、せめて、日本のような先進国についてだったら、「徹底した水際対策」が必要でしょうか。

WHOの緊急事態宣言以降、日本は湖北省に滞在歴のある外国人は入国禁止、アメリカは中国に2週間以内に渡航した外国人の入国禁止にしました。似たような措置を各国が取り始めています。

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こうした措置は、基本的には正しいと見るべきです。権威ある医学雑誌や独立した立場でWHOに助言している立場の専門家の科学的意見でも、移動制限が提言されているからです。こうした意見と一致している以上、今回のWHOの緊急事態宣言は一応信頼すべきで、それに沿った各国の判断は支持すべきです。

しかし、私は、日本については、いわゆる「水際対策」はもうこれで十分で、これ以上の強化はする必要はないし、むしろ弊害が大きくなると考えます。

今朝のNHK日曜討論を見ていると、とにかく、簡易検査キットで短時間に大勢を見ることが出来るようにすべきだ、とか、法律上の扱いを変えるべきだとか、水際対策を更に強化させる話ばかりが強調されています。

最悪は長妻昭氏で、「政府はオリンピックまでには必ず収束させると宣言しろ」と不可能事を要求する無茶苦茶ぶりでした。そんなこと、絶対に宣言なんかできませんし、するべきでもありません。

こんな風に、「徹底した水際対策」というのを、与野党がお互いに競い合うような状態になると、世論を気にしただけの、形だけの、ムダな対策に医療従事者や医療予算を使うことになりかねません。

感染者の入国を徹底して防ぐなどというのは、もう完全に手遅れです。1月の前半に騒ぎになり始めたころに、今と同じ入国管理をしますと言ったところで、既に手遅れだったでしょう。

空港の検査にだって医療従事者が必要です。簡易検査キットも含めて、医療に使える予算も無限ではありません。限られた医療資源は、入国時の予防よりも、国内での診察や相談、正しい情報の広報等に使うべきです。

もちろん、今決めてしまった範囲での入国管理はきちんとやるとして、後はもう、一定の流行が国内で起きるのは避けられないと覚悟して、そのための準備をするべきです。

この点で、先日の参議院予算委員会での、柳ヶ瀬裕文議員の質問は大変良かったと思います。

この時点では、政府もまだ入国禁止まで決めていなかったので、柳ヶ瀬氏もその点を聞いてはいました。が、重点はむしろその後の質問に置いていました。

柳ヶ瀬氏が主に質問したのは、「中国では、人工呼吸器や人工肺が足りていない、武漢では中国全土から集めている。今の日本では足りているか、数を把握しているか」ということです。

厚労大臣の答えは、分からない、調査しないといけない、ということでした。

そこで柳ヶ瀬氏は畳みかけます。

東京都も分からないと言っていた、不安をあおるわけではないが、重症患者への対応が出来るようにしてほしい。SARS、MERSでも、同じことが繰り返された。10年前にも都議会で自分は同じことをやった、しっかりしてほしい、と言っていました。

柳ヶ瀬氏が言う通りで、今後は、水際対策よりも、国内の医療体制を重視すべきです。

特に、院内感染を防ぐ体制がまだまだ不十分と言われているようですし、肺炎対策について柳ヶ瀬氏が言うように、医療機器の準備さえ不安があるなら、早急に解消すべきです。今でさえ、不安に思った人たちから、既に相談が激増しているそうですし、念のため診察してほしいという人も増えているはずです。

今後、大流行となって、医療従事者や医療機器が物理的に足りない、という事態を避けるために、入国管理よりも国内での感染防止と医療充実に努め、それも、無理のない、出来る範囲のことをやるべきです。

武漢の医師たちが過労で追い詰められている動画が報道されていますが、他人事ではありません。既に、官僚で自殺者が出たという報道もあります。

東京新聞:内閣官房職員、飛び降り自殺か 埼玉の中国帰国者受け入れ先施設:社会(TOKYO Web)

日本の医療システムはただでさえフリーアクセスで、かからなくてもいいときに気軽に病院に行き過ぎる傾向にあります。これから新型コロナウィルスの感染による病気が流行して、本当に医療者が足りないなら、新型ウィルスに感染しても軽い症状なら自宅療養を原則にしても、やむを得ないでしょう。不幸中の幸いで、今回は、そこまで深刻な病気ではないとされています。

国民が冷静に対応すれば、政治家も人気取りで意味のない不可能事をアピールしようとしなくなります。入国管理では既に一定の結論が出たので、これからは、国内の医療体制を充実させるよう、求めていくべきでしょう。