2019年度補正予算案の審議で、前原誠司氏が、剰余金は財政支出でなく、財政法通りに国債償還に充てるべきと主張。相変わらず発想が緊縮財政すぎます。
「施政方針演説はウソじゃないか」
今日の予算委員会で、国民民主党の前原誠司氏が、首相の施政方針演説にウソがあると指摘する場面がありました。
大した話ではなくて、施政方針演説で「公債発行は8年連続で減った」と総理は言ったけれど、決算ベースではそうなっていないから、ウソだ、ということです。
総理は、当初予算では国債発行は演説通りに8年連続で減っている、政権の「姿勢」は当初予算で示すもので、年度途中に緊急の必要が生じたら、国債発行もやむを得ない、と答えて、話はそれで終わりです。
そこで前原氏は更に、補正予算の歳入で、前年度の剰余金が使われているが、財政法で半分は国債償還にあてるべきなのに、今回は特例法でそれ以上使えるようにしている、これでは財政健全化に反する、という批判をしました。
確かに財政法6条1項は、ちょっと長い条文ですが、「各会計年度において歳入歳出の決算上剰余を生じた場合においては、当該剰余金のうち、二分の一を下らない金額は、他の法律によるものの外、これを剰余金を生じた年度の翌翌年度までに、公債又は借入金の償還財源に充てなければならない」と定めています。
だから、剰余金を半分以上使おうと思ったら、特例法が必要です。このため、今回の補正予算案の関連法案として、剰余金処理の特例法案も提出されています。
「平成30年度歳入歳出の決算上の剰余金の処理の特例に関する法律案」について : 財務省
前原氏の指摘に対し、麻生財務相が、もっともだが当初予算で8年連続減らしたのは、マーケットに与える影響を考えてのことだ、野党の批判よりマーケットの影響を考える方が大事、という趣旨の答弁をして、前原氏が反発していました。
この話、予算委員会で補正予算案が可決された後、財務金融委員会でも少し続きました。剰余金処理の特例法案はこの委員会で審議・可決されましたが、立憲民主党の海江田万里議員が、剰余金は国債償還に充てるべきだ、過去に発行された国債の金利が高いから、低金利の新発国債の発行を減らすよりも財政再建に与える効果大きい、と主張していました。麻生財務相も、この指摘には、まともな反論が出来ていないようでした。
旧民主党は累積債務を少し減らすことにこだわり過ぎ
前原氏と海江田氏の言う、剰余金の半分は国債償還に回すべきだ、財政法の定める通りにやるべきで、特例法で補正予算案(と来年度当初予算案)に使うのは財政健全化に反する、というのは、事実です。
しかし、そこにあまりこだわっても、大した意味はありません。補正に使う剰余金はわずか8000億円です。
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2019/sy011213/hosei011213.pdf
(上の予算フレームの中身の説明は、たとえば以下に出ています)
補正でのわずか8000億円の剰余金収入、そのまた一部を、1000兆円を超える政府長期債務の償還に充てるの充てないの、というのは、焼け石に水を注ぐかどうか、というだけの話です。
前原氏や海江田氏は、剰余金収入を補正予算案(と当初予算案)で目いっぱい使うことで、新発国債を減らしているように見せている、これは粉飾のようなものだから、おかしい、と主張しています。
しかし、これは特段問題と言えるようなことではありません。
もし、政府の財政運営の仕方が粉飾のようなもので、財政健全化の姿勢が疑われて、日本の財政への信認が落ちるなら、それを理由として国債価格が下がって長期金利が上がるはずです。
去年後半、確かに長期金利は上がり続けましたが、上がり始めたのは去年9月、補正予算案が決まるはるか前、米中貿易戦争が一服しそうだ、という期待から、株が買われて国債が売られたのが理由です。補正予算案だろうが、来年度当初予算案だろうが、それを理由に、日本国債への信認が落ちて長期金利が上がったわけではありません。
年明けにはむしろ、新型肺炎の影響で株は売られ、国債が買われて、長期金利は下がっています。日本の財政運営など、全然材料視されていません。去年の債券市場の様子を見れば、新型肺炎問題が落ち着いても、日本の長期金利が経済に悪影響を与えるほど上がることはないでしょう。
https://fund.smbc.co.jp/smbc/qsearch.exe?F=mkt_bond_detail&KEY1=B0067.0/JBTZ
そもそも、剰余金の使い道は、何か決まっているわけではありません。剰余金収入を増やして、国債発行を減らしたとも言えるし、政府支出を増やしたとも言えます。問題は、その政府支出が本当に必要なものか、また、本当に必要な項目に十分な支出がされているか、です。
そもそも、国債について発想を変えるべき
前原氏は、予算委員会で、OECD諸国と比較して、日本は教育への公的支出が少なすぎる、教育無償化をもっと徹底してやるべきだ、と主張しました。私はその主張には全面的に賛成ですし、維新もそうでしょう。
問題は、その財源をどうするか、です。
今日の議論を聞く限り、前原氏は、国債発行は決算ベースでも減らすべき、剰余金は出来る限り既発国債の償還に充てるべき、というのですから、教育無償化の財源として、国債や剰余金等はあてにすべきでない、というスタンスです。行革による歳出削減ならよいのですが、やはり消費税増税を想定しているように見えてしまいます。
旧民主党系の野党の良いところは、人への投資を重視し続けていることです。私は、この点では、旧民主党政権は高く評価できると思っています。問題は、教育投資を含む各種政策の財源として、安易に自公と談合して消費税増税を決めたことです。公的投資で最も効率的といわれる教育投資は、より非効率な支出の削減だけでなく、国債発行も正当化されるはずです。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、教育のための国債発行に賛成です。ところが今日の前原氏の質疑は、政府の累積債務をほんの少し減らすことばかり重視して、本当に必要な財政支出である教育無償化の財源を、すぐにでも、必ず確保するという姿勢が見えません。
もちろん、財政支出は公平に効率的に行うべきですから、既得権向きのムダな支出はばっさり切ることも、教育無償化等の財源とすべきです。以前、本ブログでも書いた通り、ミクロで厳しく、マクロで緩和姿勢の財政運営が、現状に合っています。政府予算案について言えば、来年度当初予算案など、私に言わせれば、ミクロで甘すぎて、マクロで緊縮に過ぎます。
2020年度政府予算案決定、実はこれでも緊縮型、新しい分野の投資に国債発行を!マクロでもっと緩く、ミクロでもっと厳しく! - 日本の改革
リーマンショックから10年以上がたち、日本だけでなく、世界的に、財政金融政策についての考え方は大きく変わりました。低金利・低インフレ・低成長が常態化する長期停滞の時代、旧民主党の議員達は、国債や政府債務を問題視するばかりでなく、その有効活用の方法も考えるべきです。