日本が融資を検討しているベトナムの石炭火力発電所、中国企業が受注することを小泉環境大臣が批判。小泉大臣の言う通り、海外の石炭火力発電支援での日中協力は、絶対にやめるべきです。
小泉環境相、COP25でのリベンジを図り、石炭火力輸出で戦闘開始
小泉進次郎環境相は1月21日、三菱商事等が出資し、中国企業等が建設を担当するベトナムの石炭火力発電所につき、日本が資金を出して中国企業が発電所建設するのはおかしい、計画を見直すべきだ、と主張しました。
ベトナム中部の石炭火力発電所「ブンアン2」のプロジェクトで、国際協力銀行が融資を検討中で、建設は中国や米国のプラントメーカーの予定、ということです。
これにつき、NHKによると、三菱商事は「個別の案件について現時点では回答することはできないが、当社としてはすでに開発に着手した案件を除いて、新規の石炭火力発電事業には取り組まない方針だ」と回答。
また、国際協力銀行は「ベトナムのブンアン2の案件については、当社として融資を決定した事実はない。石炭火力発電事業に対する融資については、政府の方針にのっとって対応するのが大前提で、今後も政府の方針にのっとって対応していきたい」とコメントしているそうです。
このプロジェクト、環境NGOが批判をしてきたものですが、現時点でどの程度進んでいるものなのか、もう少し調べたいと思います(経済産業省の「質の高いエネルギーインフラの海外展開に向けた事業」のはずです)。
ただ、小泉大臣の主張が事実なら、以前、本ブログで予想したような「日中がいずれ石炭火力輸出で協力する」という事態が、既に現実のものになっていた、ということになります。事実なら、極めて重大な問題であり、小泉氏の言う通り、即刻見直すべきです。
まず、石炭火力発電のインフラ輸出をする際のルールですが、日本は、四つの要件を課しています。上のNHKの記事から引用すると、
▽エネルギーの安全保障と経済性の観点から、石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、
▽相手国から日本の高効率石炭火力発電への要請があった場合に行うとしています。そのうえで、
▽相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、
▽原則として熱効率が高く二酸化炭素の排出が従来よりも少ない発電設備について、
導入を支援する、ということです。
これは、以前のブログで、「インフラシステム輸出戦略(令和元年度改訂版)」 37~38頁に出てくる要件として既に紹介しておきました。
COP25で日本の新提案なし:安倍政権は、いずれ中国と石炭火力発電のインフラ輸出で協力するのでは? - 日本の改革
今回初めて知ったのは、「エネルギー基本計画(平成30年)」20頁にも書かれているということです。
この四要件を前提に、小泉氏は、ベトナムの石炭火力発電へのインフラ輸出、「ブンアン2」というプロジェクトを批判しています。
少し長いですが、1月21日の小泉会見の該当部分を引用します(適宜、段落分けをしました)。
また、石炭火力プラント、この輸出の在り方については、COP25の過程で私が、関係省庁といわゆる輸出4要件と言われる、このことについては問題提起をしました。
そういった中で、今日は1件具体的なことに触れたいと思いますが、今、ベトナムの石炭火力、ブンアン2という案件があります。この件に関しては、実態としてどうなっているかというと、日本の商社が出資をして、そしてJBICが入り、これは結果的にプラントのメーカーとして中国のエナジーチャイナ、そしてアメリカのGE、こういった形で成っています。
私は、今までこの4要件の話の中でさんざん聞いてきた一つのロジックというのは、日本がやらないと中国が席巻すると、そういったことも聞いてきました。しかし、この構図は、日本がお金を出して、結果、つくっているのは中国とアメリカと、こういう実態を私はやはりおかしいと思います。
こういった具体的な事例が見つかったことも一つ契機としまして、各省庁との議論、そして問題提起を引き続き行っていきたいと。
そして、やはり私は、これは国民の皆さんの理解、そして国際社会からの理解、この二つを考えたときにも、明らかに私は、その理解は得られるものではないというふうに思いますので、こういったことの問題提起をCOP25でしてきたところです。
環境省_小泉大臣記者会見録(令和2年1月21日(火)11:02 ~ 11:34 於:環境省第1会議室)
つまり、小泉大臣は、「政府はこれまで、日本が東南アジア等に石炭火力輸出をしなければ、その穴は中国が埋めてしまう、それは安全保障上問題だから日本がやるべきと言ってきたのに、何のことはない、日本が投融資して中国が受注する案件があるじゃないか、これは国民の理解も国際社会の理解も得られないからやめるべきだ」と言っているわけです。
先の四要件で言えば、中国が利益を得るのだから、一番目の、安全保障上の要件に違反するということになるでしょう。また、経済性という点で、日本の資金で中国企業が利益を得ることに国民の理解が得られない、ということも小泉大臣は主張していて、これもその通りです。
また、小泉大臣は、去年のCOP25でも、自分は同様の主張をしていた、と言っています。確かに去年2019年12月11日に、さっきの四要件を紹介した後に、日本のやり方には問題がある、自分は直したかったが出来なかった、と言っています。これも、小泉氏自身の言葉を引用します(適宜、段落分けしました)。
一つ目は、世界の開発銀行は石炭火力への支援を縮小しているということ(中略)、そして三つ目が石炭火力の輸出自体が抱える課題です。一つが価格の競争力そして二つ目が相手国の脱炭素化を結果として阻害をしてロックインをしてしまうと、そういった懸念、そして三つ目が他国との技術的優位性が低下してきている、そういった事もあります。
このような世界の金融の流れ、我が国のインフラ戦略、石炭火力の輸出自体が抱える課題、民間ベースの経済活動とは別に石炭火力の輸出という事業に対し公的信用をつけているという現状についてステートメントでも述べたとおり、何とかしたいと思っておりましたが今回は石炭政策について新たな展開には至りませんでした。
しかし我が国のインフラ輸出の在り方そしてこういったことについては今後も引き続き議論していくべきだと考えています。
環境省_小泉大臣COP 25_内外記者会見録(令和元年12月11日(水)17:30~18:00 於:プレスコンフェレンスルーム)
このように、世界的に石炭火力への支援が減らされる中で、日本が石炭火力発電のインフラ輸出をすると、石炭が安いことから相手国は石炭火力発電をやめられなくなる、石炭火力にロックインされてしまう、という懸念を挙げています。また、日本が他国にない技術を輸出すると言っても、優位性も失われてきている、とも言っています。
そして今回、COP25までには出来なかった石炭火力輸出問題の是正につき、具体的な案件で着手し始めた、ということです。
石炭火力輸出での日中協力は絶対やめるべき
私は、小泉大臣の方針を強く支持します。石炭火力発電のインフラ輸出を日中で協力して行うことは、地球環境にとって有害であるだけでなく、我が国の経済にとっても極めて有害であり、何より、安全保障上、最悪の政策だからです。
去年、12月12日のブログで、いずれ日中両国が、一帯一路の一環として、発展途上国での石炭火力発電のインフラ輸出で協力するだろう、と書きました。先進国の金融機関は、もう石炭火力発電には投融資はしない方針ですが、日本と中国は両国とも、発展途上国への石炭火力発電を増やそうとしています。日本は既に一帯一路に事実上協力すると言っているのだから、この分野で利害は一致するだろう、と思ったからです。
COP25で日本の新提案なし:安倍政権は、いずれ中国と石炭火力発電のインフラ輸出で協力するのでは? - 日本の改革
しかし、小泉大臣の会見によると、私は全然甘かったことになります。
日中は、とっくにベトナムでの石炭火力発電で協力していました。
小泉氏の認識が正しければ、日本は中国に対抗するために、安全保障上の理由もあって石炭火力発電を輸出すべきなのだ、という理屈は、まるっきり嘘っぱちだった、ということになります。
私は、COP25で、小泉大臣が石炭火力発電を減らすことをはっきり打ち出せなかったことを残念には思いつつ、直前まで何とかしようと閣内で戦ったことを評価していました。そして、経産省・経団連の言いなりの安倍政権の閣僚が、この問題で結果を出そうと思ったら、東京都や大阪府はじめ環境問題で先進的な地方自治体と協力して、国民世論に訴えるところからだろう、と書きました。
小泉大臣は、その努力は続けながら、早くも具体的な案件で、政府の従来の方針に大きな間違いがあるとして、戦いを始めました。実に素晴らしいことであり、一国民として感謝し、小泉氏を強く支持します。一昨日のブログで、安倍総理は親中政策を理由に退陣させるべきだ、と書きましたが、環境大臣としてそれをやるにも最適なテーマで、今後に期待します。