日本の改革

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政府が預貯金口座とマイナンバー連結義務化を検討:6年前につぶされたリベンジで、ぜひ実現を!

政府が預貯金口座とマイナンバーの連結義務化を検討。社会保障制度改革のためには、マイナンバーと預貯金口座との連結こそが最重要の前提であり、義務化は必要です。政府は2014年4月にいったん義務化が決まりかけたのに、同年12月には任意の制度に後退しましたが、今度こそ実現すべきです。

まともな再分配のために、絶対必要なマイナンバーでの全預貯金口座の把握

読売新聞によると、高市総務相は1月17日、マイナンバーと金融機関の預貯金口座を連結する制度の義務化について、財務省金融庁に検討を要請しました。政府は、来年の通常国会での共通番号制度関連法改正を視野に、今年中に具体策をまとめる方針だそうです。

預貯金口座とマイナンバー連結義務化検討へ…総務相要請、今年中に具体策 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

私はこの動きを歓迎します。国民の所得と資産の正確な把握は、社会保障制度改革の不可欠の前提だからであり、マイナンバー制度の最も重要な役割はそこにあるからです。全然普及の進まないマイナンバーカードにしても、預貯金口座の利用でマイナンバーが必要となれば、一気に広まるでしょう。

マイナンバーによる全国民の預貯金口座の把握を政府が行うことについては、プライバシー保護という社会生活上の権利保障の点で言っても、経済的自由の点で言っても、不安や反発があるのは当然です。

しかし、社会保障制度改革を進めて、より効率的で公平な社会を実現するには、全国民の所得と資産の正確な把握は、どうしても欠かせません。

マイナンバーで全ての預貯金口座がひも付けられて、全ての国民の所得と資産の把握が正確に出来るようになった場合のメリットとして、社会保障制度改革に限って、例を二つだけ挙げます。

一つ目は、低所得者向けに消費税の負担を軽減する制度です。

2012年の社会保障と税の一体改革で、消費税率を5%から10%に上げると決めたとき、消費税の逆進性(低所得者の負担が相対的に大きいこと)を解消するために、二つの制度が挙げられました。一つが現在導入された軽減税率制度、もう一つが、給付付き税額控除という、一種の「消費税還付制度」です。給付付き税額控除は、低所得者に対して、所得に応じて現金を交付するものです。

当時の議論は、たとえば、2012年の、以下の国会図書館の資料にまとめられています。

https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_3488872_po_0750.pdf?contentNo=1

この二つの制度のどちらかを導入するというのが一体改革の最初の方針でした。それが2014年に行われた議論で、2015年度税制改正で軽減税率の導入が決まりました。

上に紹介した資料にもある通り、軽減税率では逆進性が解消されないのに対し、給付付き税額控除なら、低所得者の所得に応じて給付金の額を変えることが出来るので、より公平だ、と言われ続けてきました。

にも関わらず、実際に採用されたのは、軽減税率でした。従来から軽減税率を主張してきた公明党の主張に総理が押されたから、という面もあります。

しかし、理由は必ずしも政治的な力関係だけではありません。給付付き税額控除は、所得に応じて給付額を変えるので、所得の正確な把握が出来なければ、うまく執行することが出来ないのです。自営業者等について、所得が分かるようにするためには、どうしても個人の預貯金口座の把握が必要です。

逆に、所得の正確なデータが把握できれば、給付付き税額控除は、大変役に立ちます。働く意欲はあるのに所得がゼロの人には多くの現金を給付して生活を支え、働いて所得が上がるごとに給付金を減らして、働いて得られる給料が一定の金額になったら給付をやめる、という制度(アメリカの勤労所得税額控除等)にすれば、低所得者に働くインセンティブを与えつつ、最低限の生活を保障できるからです。各国の給付付き税額控除については、以下の資料で紹介されています。

https://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/issue/pdf/0678.pdf#search=%27%E7%B5%A6%E4%BB%98%E4%BB%98%E3%81%8D%E7%A8%8E%E9%A1%8D%E6%8E%A7%E9%99%A4%27

給付付き税額控除は、現在の軽減税率のような、企業には負担が大きいうえに実は不公平な制度よりも、よほど優れた制度です。マイナンバー制度を預貯金口座利用の際に義務付ければ、こうした制度の導入も可能になります。

以上が、マイナンバーで全口座を把握し、所得・資産を正確に把握することの一つ目のメリットです。

もう一つのメリットは、全世代型の社会保障改革の実現です。

少子高齢化が進む中で、これまで高齢者に偏っていた社会保障給付を現役の子育て世代に回して、人口減少を少しでも食い止めるためには、生活に余裕のある高齢者への負担を増やさざるを得ません。高齢者で高所得であり続ける人には自営業等の人も多いでしょう。何より、所得がそれほど高くなくても、多額の金融資産がある人については、負担増をお願いせざるを得ません。

以前のブログで紹介した通り、政府は、たとえば後期高齢者の医療費の自己負担について、所得と資産が一定以上ある人には、1割負担を2割負担に上げる、とする方針です。

日本医師会が自民党との会合で「カ~ネくれ!」と一本締め:2020年度診療報酬改定、国民のカネは開業医から勤務医へ回せ - 日本の改革

このとき、所得、資産の把握が今のように不正確では、当然、大きな不公平が生じます。マイナンバーで資産家の預貯金口座が全て分かっていれば、負担を段階的に求めるなど、より公平な制度にすることが出来ます。

以上は、ほんの二つだけの例です。他にも、マイナンバーで国民の所得・資産が分かることのメリットはいくらでも挙げられます。

そもそも、社会保障制度改革に限らず、税制や補助金交付金支出について、サラリーマンと自営業者等の間で、今のように所得捕捉率に大きな差があることは、容認すべきではありません。少子高齢化・人口減少社会では、財政での再分配の果たすべき役割は大きくなるので、事実に基づいた公平な制度にすることが特に大事になります。どの職業の人であっても、マイナンバーで経済状態がきちんと分かるようにすべきです。

2014年にいったん決まりかけた預貯金口連結の義務化

実は、既に2014年、政府はいったん、マイナンバーの預貯金口座への連結義務化の方向を出そうとしていたようです。

2014年3月18日の日経新聞は、「政府は銀行の預金口座に預金者の税と社会保障の共通番号(マイナンバー)の登録を義務付ける方向で、銀行界との調整を始めた」と報じました。自民税調幹部の中にも前向きな意見がある、とも書いています。一方で、「所得が捕捉されることに抵抗感を抱く農家や自営業者らの声を背景に、反発する議員も多いとみられる」とも書いています。

www.nikkei.com

この3月18日の時点では、政府は銀行業界にマイナンバーと口座連結の義務化をさせる方針で、あとは政治との調整という段階だったのでしょう。

その少し前、全銀協が、新規に開く預金口座にひも付けする場合、銀行側に300億円の負担になり、既存の約8億口座にも広げる場合は、さらに数倍のコストがかかる、という試算を政府税調の「マイナンバーと税務執行ディスカッショングループ」に示しました。

預金口座にマイナンバー、銀行の負担300億円 全銀協試算 :日本経済新聞

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20140227_25dis23kai4.pdf

マイナンバー・税務執行ディスカッショングループ 2013年度 : 税制調査会 - 内閣府

要は、2014年3月の時点では、全銀協がコスト増を嫌って、マイナンバーの口座連結の義務化反対を主張していたようですが、政府としては義務化の方針で、自民税調は賛否両論ありそうだ、という状態でした。

ところが結局、2014年4月8日には、政府は上記「マイナンバーと税務執行ディスカッショングループ」で、論点をまとめました。「義務化」という文言はないものの、ひも付けのメリットを強調し、一方で銀行の言う負担などの実務的な点も検討が必要、という書きぶりで、まだ義務化もあり得ると読めそうです。

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出所:内閣府

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20140421_26dis24kai6.pdf

マイナンバー・税務執行ディスカッショングループ : 税制調査会 - 内閣府

預金口座にマイナンバー連結 政府税調方針、資産を把握 :日本経済新聞

しかし残念ながら、結局、年末の税制改正大綱では、「任意」での登録となりました。このときに決まった方針通り、2018年から、ひも付けはするが任意という形になり、銀行も利用者もメリットを感じないということで、ひも付けは全然進んでいません。メガバンクマイナンバーが登録されている口座は、全体のわずか2%です。

預金口座にマイナンバー 18年から任意登録、政府方針 :日本経済新聞

預金にマイナンバー、導入進まず メガ銀2%どまり :日本経済新聞

と言うことで、どうも義務化に反対したのは、第一義的には、銀行業界のようです。コストがかかる、めんどくさい、そして恐らく、上得意の富裕層の預金者を怒らせたくない、というのが動機でしょう。

もしそうなら、マイナンバーの預金口座連結の義務化が今まで出来なかったのは、「国民の反発が大きい」というより、銀行業界の抵抗によるものです。反発する「国民」は、実は少数の富裕層、最初から自分の所得や資産がほぼ100%把握されている多くの国民は、実は賛成ではないでしょうか。

政府は、一部業界や一部富裕層の抵抗を抑えて、税制や社会保障に不公平さを感じている国民全体のために、マイナンバーの預貯金口座との連結を、今度こそ義務化すべきです。