日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

グーグルがクッキーの外部提供取りやめ:経団連や広告業界はもうあきらめて、国のクッキー規制強化にしたがうべき。

グーグルがクロームで得たクッキーの外部提供を2022年までに取りやめると公表。広告業界には打撃ですが、個人情報保護のためにはやむを得ません。日本は、クッキーを個人情報保護法の「個人情報」に位置付け、ユーザーの同意のないクッキー取得は独占禁止法で禁止すべきです。

デジタル広告業界にとっての「クッキー黙示録」

グーグルが、自社のブラウザーのクロームで集めたクッキー(閲覧履歴データ)の外部提供を2022年までに取りやめると公表しました。

Chromium Blog: Building a more private web: A path towards making third party cookies obsolete

クッキー提供、グーグルも廃止へ 22年に向け段階的に:朝日新聞デジタル

www.nikkei.com

これは、ネット広告業界には大きな打撃と見られていて、フィナンシャル・タイムズは、これを「クッキー黙示録」だ、と表現した業界関係者の声を紹介しています。同記事によると、グーグルの今回の動きはもともと、アイルランドの規制当局がグーグルによる個人情報の扱いについて調査したのがきっかけだったようです。

(Alex Barker and Madhumita Murgia  "Google to phase out most invasive internet tracking" Financial Times January 15 2020)

メディアの扱いを見ると、グーグルの決定は、EUの一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州法等で、クッキー取得の同意や情報開示が求められて規制が強化されているからやむを得ないものの、グーグルによる寡占がますます進むので、それが問題だ、という論調です。

Google Chrome to Phase Out Third-Party Cookies in Effort to Boost Privacy - WSJ

しかし、私はグーグルの今回の決定はやむを得ないと思います。グーグルは、個人情報保護にもなり、自社の利益にもなることを決めた形です。広告業界の寡占の弊害について言えば、デジタル広告全体でのグーグルのシェアは現在4割ですが、フェイスブックとアマゾンに押されて、シェアは減り続けてきました。

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Souce: Bloomberg

 https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2020-01-14/google-enhances-privacy-and-perhaps-itself-at-the-same-time

もちろん、クロームのシェアがブラウザ市場の6割もありますから、その点でグーグルの寡占・独占への懸念は大きいのは確かです。デジタル広告でも、グーグル、フェイスブック、アマゾンの合計シェアは増え続けています。ブラウザの寡占も含めて、大手プラットフォーマー4社の企業分割も含め、企業全体への反トラスト法上の対策は必要です。

しかし、それでも、今回のグーグルの決定に対しては、反トラスト法等の政府介入はすべきではないと思います。クッキーの外部提供取りやめで得をするのは、個人情報が守られるユーザーと、デジタル広告業界の中小のライバルを倒せるグーグルであり、損をするのは、倒される方のデジタル広告業界の企業です。そして、このデジタル広告業界というもの自体が、現状では信用がおけないと思うからです。

リクナビ事件があった以上、日本企業はクッキー利用で規制を強化されても仕方ない

日本で、デジタル広告業界が大きな問題を抱えていることを示したのが、リクナビ事件でした。クッキー自体は匿名の情報で、個人情報保護法の「個人情報」にあたらないことを悪用して、他の情報と組み合わせて個人を特定し、内定辞退率というセンシティブな情報を売っていたというのがこの事件でした。本ブログでも、何回か取り上げました。

リクルートキャリアの悪辣な脱法行為:2020年の個人情報保護法改正で、EU同様、Cookieや閲覧履歴も個人情報にして、「忘れられる権利」も認めるべき! - 日本の改革

「分からなかったら憲法の人権規定に戻れ」:AIのプロファイリングには、EUのGDPR同様の規制を! - 日本の改革

そこで分かったことは、この事件がおそらく氷山の一角だろうということです。

以前のブログでも紹介した、日経xTECHの浅川直輝記者の記事を再度引用します。

様々なWebサイトからWeb閲覧履歴を収集している「DMP(Data Management Platform)事業者」が持つデータと、自社の顧客データとを互いのCookie IDを突合してひも付け、ユーザーの属性を精緻に把握してターゲティング広告を出稿する――こうした技術はアドテクの1つとして以前から活用されていた。
(中略)
2014~15年ごろから、デジタルマーケティング目的で集めた顧客DBを拡充する手段として、外部データを購入して自社の顧客DBとひも付けて活用する事例が表れ始めた。「ある大手DMP事業者は、Web閲覧履歴データや同データから推定した属性データを積極的に企業に売り込んでいた」と複数の業界関係者が証言する。

tech.nikkeibp.co.jp

こうした業界のやり方が、リクナビ事件を生みました。今回のグーグルの決定が、この業界の「黙示録」になるなら、非専門家の一般のユーザーとしては、かえって歓迎すべきことにさえ思います。

そもそも、最近の個人情報保護の規制強化にしたがって、クッキーの提供や利用については、控える動きが既に広がっています。グーグルがクッキー外部提供をやめると発表するわずか1週間前、日経が、ネット広告で「クッキー離れ」が広がっている、という記事を出したばかりでした。クッキー等の個人情報を使わなくても、デジタル広告で成功している企業の例も出ているので、紹介します。

19年11月。就職情報を載せるニュースサイトに、IHIの企業広告が表示された。米スタートアップのガムガムが開発した人工知能(AI)がサイト内の画像や言葉を解析。「就活生向けの記事だ」と判断すれば、自動的に広告を流す。

クッキーなど個人データは原則使わない。IHI担当者は「一般的なクッキー広告よりクリック率も高い」と語る。ガムガムの新型広告は、日本でも19年の顧客が約150社と前年比倍増した。

www.nikkei.com

これ以外にも、クッキーが不要なアプリ広告や、既存の会員情報を販促に生かす新型広告も普及しているようです。大手プラットフォーマーでは、既にアップルの閲覧ソフト「サファリ」が広告向けクッキーは即時削除の方針を打ち出しており、最大手のグーグルがこうした流れに乗った形です。自社の利益にもなることですが、公益にもかなっていますし、クッキーに依存しないデジタル広告は十分可能なはずです。少なくとも、ユーザーの同意なしに集めたクッキーを利用させるべきではありません。

今回のグーグルの決定は、日本のクッキー利用規制強化には、追い風です。

これまでも本ブログで紹介してきましたが、現在、個人情報保護法で、クッキーを個人情報に含め、独占禁止法では、同意なしにクッキーを取得する行為を独占禁止法で禁止する(優越的地位の濫用として処罰対象とする)方向で、議論が進められています。

クッキー取得を規制しようとする公正取引委員会に、経団連が猛反対:リクナビ事件の前には、どんな反対も無駄な抵抗。 - 日本の改革

このブログでも書いたのですが、独禁法でのクッキー規制強化に経団連が何やら強く反対しているのは、無駄な抵抗です。リクナビ事件があった以上、公正取引委員会は、同意なきクッキー取得の独占禁止法で規制するつもりですし、世論はこれを支持します。

個人情報保護法については、クッキーを個人情報に含めるか否かにつき、まだ少し議論はあるでしょうが、この分野が専門の弁護士も、リクナビ事件があった以上、規制強化はやむを得ないと言っています。

個人情報保護法改正、公取委の規制を見据えたCookie(クッキー)情報取扱いのポイント - BUSINESS LAWYERS

ということで、経団連とデジタル広告業界は、もう無駄な抵抗はやめるべきです。もともとリクナビ事件が起きた時点で、勝敗は決まっていました。個人情報保護法で、クッキーは個人情報に含めて、同意なきクッキー取得は独占禁止法で罰するべきです。

今回のグーグルの決定は、ユーザーを無視したクッキーの使い方には、とどめの一撃になり得ます。ユーザーの同意なしにクッキーを使うような、後ろ暗い商売はもう終わりにすべきです。フィナンシャル・タイムズが書く通り、間違った広告手法には、「クッキー黙示録」で地獄に落ちてもらいましょう(笑)