日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

米中第一弾合意の正式署名:中国の義務ばかり並び、アメリカの関税引き下げは口約束。中国は統制経済へ逆戻り。

米中、第一弾の合意で正式署名。巨額の輸入目標はじめ、ほとんど中国の義務ばかり定めた一方的合意で、アメリカの勝ちです。今後の中国は、大企業国有化を進め、貿易も管理貿易化して市場経済を捨て、経済成長の鈍化と更なる貿易摩擦を招くでしょう。

得られたものの大きさはともかく、文書の内容は一方的

米中は、貿易戦争以来初の、第一弾合意で正式に署名しました。

中国が米製品の輸入を2年間で2000億ドル分、1.5倍に増やすことや、知的財産権の保護等を盛り込み、アメリカは制裁関税の一部を下げます。中国の産業補助金は先送りで、アメリカの制裁関税は7割ほど残っています。

www.nikkei.com

この合意、本文をざっと見てみると、特に知財保護の強化と輸入増加の部分で、具体的な義務については、"China shall"となっている部分が大変多く、義務を負うのは中国ばかりなのが分かります。

https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/phase%20one%20agreement/Economic_And_Trade_Agreement_Between_The_United_States_And_China_Text.pdf

全体的にも、形の上では両当事者向きに書いてあっても、実際には中国の義務を定めているものがほとんどだ、とウォールストリート・ジャーナルが書いています。

更に驚きは、中国がこうした義務について署名する代わりに、アメリカは1200億ドル分の中国製品の関税を半分、7.5%下げるという合意ですが、アメリカの関税引き下げについては、文書化されていません。これもウォールストリート・ジャーナルが指摘しているので、本文をtariffで検索してみましたが、確かにアメリカの関税にはふれていないようです。

www.wsj.com

 もちろん、関税引き下げは公式に発表しているので、国際法としての法源にはなるでしょうが、文書化されていないなら、その分、効力も弱いはずです。

つまり、今回の合意は、文書化された義務の比較という点で言えば、義務を負うのは中国ばかりなので、アメリカの一方的な勝ちです。

もちろん、米中間の課題はまだまだ残っています。

まず、知的財産権保護と強制的技術移転の禁止です。私は、先月に発表された合意予定のファクトシートを見て、知的財産権保護より強制的技術移転の禁止の文言の方が厳しいから、技術移転は一応の成果になるだろうが、知的財産権保護はどうなるか不明、と書きました。

米中「第1段階」合意、強制的技術移転の是正が一応の成果。日本は中国にTPP11加入要求して、アメリカの援護射撃を! - 日本の改革

今回、ふたを開けてみると話は逆で、知的財産権保護については、相当詳しく中国の義務を定める一方、技術移転については、極めて簡潔にしか書いていません。

技術移転について簡単にしか書いていないのは、中国が外商投資法という新法(昨年3月に作成で今年施行)で、技術移転の禁止は既に定めたので、そこで定めていない部分を今回の合意で決めたためのようです。同法には、知財保護の強化も書いてあるので、日経は、知財保護と技術移転につき、今回の合意は焼き直しにすぎない、と言っています。

米中「第1段階合意」に署名 中国、米製品の輸入5割増 :日本経済新聞

このため、知財保護と技術移転について言えば、今回の合意の価値は、外商投資法でカバーできない部分をどの程度改善できているか、で決まるでしょう。私は、中国の国内法である同法だけでなく、米中合意履行のための仕組みも新たに定めている点で、一定の前進はあった、と考えます。

今回の合意の30日以内に、中国は合意履行のためのアクションプランを作成する義務を負いますし、米中政府が最低でも1か月に一度は進捗をチェック、合意の枠組みや紛争解決についての定期協議の枠組みも作ることになっています。

https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/phase%20one%20agreement/Economic_And_Trade_Agreement_Between_The_United_States_And_China_Text.pdf

 中国は統制経済に逆戻りせざるを得なくなり、国力が今後弱まる

問題は、産業補助金と輸入義務です。

アメリカが最大の問題だと見ていたのはハイテク企業等への大規模な産業補助金だったので、この点が先送りになったのは、今回の合意の大きな限界です。海外メディアでも、これが合意の「大穴」だという指摘があります。

www.politico.com

もともと単なる貿易摩擦にとどまらない、軍事・技術・経済全体での覇権争いなのだから、今後も当然対決は続きます。技術覇権で軍事覇権も握ろうとする中国は、産業補助金政策をやめるつもりはありません。

中国の産業補助金は一昨年2018年まで5年間で5倍に増えています。WTO協定違反と言われてきたのに、全く改めるつもりがありませんでした。

中国の産業補助金5年で倍増 18年、上場企業に2.4兆円 :日本経済新聞

それどころか、補助金についてアメリカから批判を受けた中国は、今度はハイテク大企業をどんどん国有化しはじめました。日経によれば、中国の民営上場企業44社が2019年に国有企業に転換、その多くがハイテク企業で、国有化された44社の合計の時価総額は4兆円規模に達するそうです。

www.nikkei.com

こうして、中国は市場経済のルールを守るどころか、むしろ逆のことを始めています。

これに拍車をかけるのが、今回の米中合意です。中国は表向き、市場経済での自由な意思決定で輸入を増やす、他国の輸入を減らさないようにすると言っていますが、巨額で広範な数量目標を本当に達成できるのか、疑問視され続けています。

U.S. and China Face a Steep Climb to Meet Trade Goals - WSJ

結局は、政府が強権的に管理貿易で民間に輸入させるしかないでしょう。アメリカ以外からの輸入も減らさざるを得なくなるでしょうし、EUは早速、WTO違反がないか厳しくチェックすると言って、警戒しています。

'Devil is in the detail': EU says will check U.S.-China deal - Reuters

結局、今後の中国は、ハイテク・軍事覇権を目指す自らの産業政策からも、米中合意での輸入増という外圧からも、国家による経済統制をますます強くせざるを得ません。産業補助金政策を国有化で進めようとすれば、当然、経営の非効率化が進むでしょう。また、管理貿易化は各国との貿易摩擦を激化させ、対外貿易・投資を難しくさせ、中国へのバッシングやパッシングが起きるでしょう。

すると、経済成長をテコに、カネの力で世界を黙らせてきた中国のやり方が通用しなくなってきます。

私は、米中合意に関する前回のブログで、中国にTPP加盟をつきつけて、経済改革を促すべきだ、と書きました。そのときは、中国のシンクタンク副会長の発言等から、中国もTPP参加の可能性があると書きましたが、企業の国有化まで進めているのを見ると、私の現状認識が甘かったと思います。TPP参加を要求して、あるべき政策を実現するよう求めるべきとは思いますが、中国は実際にTPP参加など出来ない、社会主義国に先祖帰りしつつある国として扱うべきだ、と考えを変えました。

米中「第1段階」合意、強制的技術移転の是正が一応の成果。日本は中国にTPP11加入要求して、アメリカの援護射撃を! - 日本の改革

今後の中国は、もう資本主義のふりをすることも段々とやめて、社会主義全体主義国家としての正体を、経済面でも露呈せざるを得なくなるでしょう。日本も、政治でも経済でも、抜本的な対中政策の転換を図り、アメリカ・EUと協力して、中国経済からのデカップリングを図るべきです。