日本の改革

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ドイツ・ロシア首脳会談、パイプラインでの協力を確認:プーチンのワナに喜んではまるメルケル

ドイツとロシアの首脳会談で、アメリカの反対にも関わらず、天然ガスの新たなパイプライン「ノルドストリーム2」での協力を確認。EUの安全保障を危うくするプロジェクトをドイツが強引に進めており、大きな問題です。安全保障面から、天然ガス調達はロシアからではなくアメリカからにすべきです。

アメリカもウクライナバルト三国ポーランドもスロヴァキアも反対のプロジェクト

ドイツとロシアの首脳会談で、中東情勢での協力のほか、ロシアからドイツへ天然ガスを送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の推進も、両首脳が確認しました。

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中東について、アメリカがNATOに任せようとした矢先に、NATOの中核のドイツと、早速協力を確認するあたり、相変わらずしたたかです。

それ以上に警戒すべきは、ノルドストリーム2です。これはロシアからバルト海を通って直接ドイツに至る天然ガスのパイプラインです。

ロシアの国営エネルギー大手ガスプロムと、フランス、オーストリア、イギリス、オランダ、ドイツの各社が出資した「ノルトストリーム」が事業主体となっており、同社の過半数の株はガスプロムが持っています。既に一本目の「ノルドストリーム」は2011年から稼働しており、現在建設中のノルドストリーム2は、今年中の完成を目指しています。

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Source: Gazprom

Nord Stream

このプロジェクトは、極めて評判が悪いにも関わらず、ドイツの連立政権(CDU/CSUSPD)が強引に進めてきたものです。アメリカも、ウクライナも、EU諸国の一部(バルト3国、ポーランド、スロヴァキア)も反対しています。

https://oilgas-info.jogmec.go.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/528/180524_motomura.pdf#search=%27%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%883%E5%9B%BD+%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3+%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%A0%EF%BC%92+%E5%8F%8D%E5%AF%BE%27

政治化する天然ガスパイプライン – NPO法人 国際環境経済研究所|International Environment and Economy Institute

独議会、ノルド・ストリーム2関連法案を採択

各国の反対の理由の一つは、経済的なものです。アメリカは、自国の天然ガスをドイツはじめ欧州に売りたいと思っています。ウクライナポーランド、スロヴァキアは、ロシアからのパイプラインから得られる利用料の収入(トランジット収入)を得たいと思っていますが、ノルドストリーム2は、バルト海を通るので、以前から得られていた収入を失うおそれがあります。

各国が反対するもう一つの理由は、安全保障上のものです。ロシアの天然ガスに西欧諸国がますます依存するようになり、バルト諸国、北欧、東欧への防衛協力が危うくなる、と懸念されています。上記のように、ウクライナポーランドが収入を失って、ロシアばかりが利益を得ることになることにもなります。

アメリカは、自国の経済的利益と欧州およびウクライナの安全保障を理由に、このプロジェクトに強く反対してきました。

そして、昨年12月9日、アメリカ上下両院の軍事委員会が可決した国防権限法案で、ノルドストリーム2建設に協力する企業に制裁を科すことをトランプ政権に義務付けました。

https://www.ft.com/content/a1678124-1cee-11ea-97df-cc63de1d73f4

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ドイツ政府はアメリカの制裁に強く反発しており、冒頭に紹介したドイツ・ロシアの首脳会談でも、パイプライン完成を目指すことで、ロシアと合意しています。プーチンは、今年中か来年3月までに完成できるだろう、という見通しを示しています。実際、プロジェクトはかなり進んでいて、制裁をしても手遅れだろう、と言われています。

独露首脳、天然ガスパイプラインに意欲…「米制裁にかかわらず完成できる」 : 国際 : ニュース : 読売新聞オンライン

https://www.ft.com/content/cfeb60f6-219e-11ea-b8a1-584213ee7b2b

Trump Imposes Sanctions To Stop Nord Stream 2 – But It’s Too late

プーチンに篭絡されたドイツの既存政党

残念ながらもう撤回させることは難しいようですが、このパイプラインのプロジェクトは、特にドイツ政府の与党、既存政党のキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党SPD)のおかした大きな誤りです。

もともと、このノルドストリームのプロジェクトは、社会民主党シュレーダー政権が最初にロシアと始めたものです。シュレーダー時代のドイツは、社会民主党政権ではあっても、労働市場改革を進めるなど、市場経済重視の現実路線をとりました。しかし、外交の点では、ロシアに甘すぎました。

もともと、ドイツの社会民主党は、冷戦時代のブラント政権での「東方外交」以来、親ロシアの傾向があるとも指摘されていますが、シュレーダーのやったことはそんな真面目なレベルの話ではありません。

シュレーダーは、政権末期の2005年にノルドストリームでロシアと合意して首相退陣をした後、間もなく、同プロジェクトを進めるロシアの大企業ガズプロムの株主委員会の会長に再就職しています。しかも、ノルド・ストリーム2AGのトップであるマティアス・ワーニヒは、西独企業に関する報告を任務とする東独側のスパイだった過去があり、ベルリンでも最も有力なロビイストの1人と見られている、とロイターが伝えています。このワーニヒはプーチンと長年の盟友です。

シュレーダー前ドイツ首相、ロシア国営石油会社の取締役候補に 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

アングル:エネルギーのロシア依存、深まるドイツのジレンマ - ロイター

A Friendship Forged in Spying Pays Dividends in Russia Today - WSJ

要するに、このプロジェクトに関して言えば、シュレーダーはドイツにとって、完全に売国奴です。

ロシアのカネで転んで、しかも旧東独の秘密警察出身だったワーニヒがトップの会社に国境をまたいだ天下りをして、ドイツとNATOウクライナの安全保障にとって極めて有害なプロジェクトを結び、現在に禍根を残しています。

ではなぜ、後を引き継いだメルケル首相は、こんなプロジェクトに賛成し続けているのでしょうか。政治的な理由はおそらく、連立政権を組んでいる社会民主党への忖度です。シュレーダーの影響は退任後も同党に及んでいたでしょうし、大昔の東方外交以来の新ロシア傾向を受け継いだ議員も多いようです。同党も若い世代にはこれに反対もあるようですが、主流となっていないようです(上記リンクのロイター記事)。

ドイツの経済界もロシアが天然ガスを安価に提供すると言うので、喜んでこのプロジェクトに賛成です。メルケル氏はこうした声にも忖度しているのでしょう。しかし、プーチン天然ガスの価格や供給を、平気で戦略的武器として使います。現に、2006年と2009年に、ロシアはウクライナを経由する天然ガスの量を制限しました。こうした過去を踏まえ、エコノミスト誌は、ノルドストリーム2は「ロシアのワナ」だと断じています。

独ロの新パイプラインはロシアのワナ(The Economist) (写真=ロイター) :日本経済新聞

Putin’s pipeline - The Nord Stream 2 gas pipeline is a Russian trap | Leaders | The Economist

なぜ、ドイツはここまで判断を誤ったのでしょうか。もともと、脱原発を決めたエネルギー転換政策に無理があった、という論調がありますが、私はそうは思いません。先に見た通り、もっと分かりやすい、もっと汚い、政治家個人の利権と連立維持の権力欲こそが原因です。

ドイツ国内では、緑の党がこのプロジェクトに反対です。パリ協定を守るために天然ガス依存に反対ということと、エネルギー安全保障のためです。同党は、化石燃料もウランもドイツは輸入に頼っているのだから、自立のためには再生エネルギー中心にすべきだ、と主張して、ノルドストリーム2に反対しています。

独議会、ノルド・ストリーム2関連法案を採択

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EUは、欧州議会緑の党が躍進したこともあり、再生エネルギーに賭ける姿勢を鮮明にしました。今のところ脱原発をはっきりさせているのはドイツくらいで、他の国は脱石炭のために原発を重視はします。

しかし、EUの2050年に温暖化ガス排出ゼロの目標達成を本気で考えて、年間1750億~2900億ユーロ(約21兆~35兆円)に上る追加投資の予定です。これによる新技術やビジネスで世界をリードできるというビジョンです。更に、ノルドストリーム2のような問題を今後避けるため、エネルギー自立のためにも再生エネルギー重視を掲げています。

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日本にとっての教訓は明らかです。エネルギー政策で、政治家個々人を監視すべきであり、既存政党の談合を警戒すべきです。

電力会社やエネルギー業界、更には経済産業省等と、個々の政治家のつながりは言うに及びません。根が深いのは、看板だけ何度も変える既存政党の旧民主党が、大企業の労組の言いなりに、脱原発にも脱石炭にも消極的なことです。彼らは、エネルギー政策については、経済団体べったりの自民党と事実上の談合をしています。

それでも、脱原発は、このまま何とか進むでしょう。民意が原発反対で固まっており、原発推進は不可能なのが政治的現実だからです。311を経て国民全体が再稼働だけでも反対の姿勢を示し続けています。電力業界さえ、原発推進の旗振り役だった関西電力が大スキャンダルで動けなくなりました。このため、経産省べったりの安倍政権までも原発推進で動けません。

問題は脱石炭です。現状では、経団連等も連合も炭素税反対、連合は表向きは脱石炭に賛成のような言い方をしながら、国民民主党の議員と連合がカーボンプライシング反対の要望を官邸に持っていっています。連合と旧民主党というのは、度し難い大ウソつき連中です。

連合の神津会長が「連合は原発推進派ではない」と大嘘。傘下の電力総連等は、経団連同様、原発再稼働も推進、石炭火力発電も推進で、国民民主党を拘束。 - 日本の改革

ドイツでは、キリスト教民主同盟社会民主党が大連立という究極の談合政権を作ってしまって、ノルドストリーム2のような誤りを犯しています。それと同様に、日本では、自民党旧民主党が、技術力も国際的競争力もない日本の大企業の経営者団体と労組に言われるがままに、再エネ立国など無理だと言い募っています。

ドイツでも日本でも、こういう政治的な構図があるので、再生エネルギー中心でいくのは無理だと言い張る政治家を、私は信用しません。

信用するなら、21世紀になってから長期政権を担った数少ない総理大臣経験者の一人、小泉純一郎氏です。そして、自民、旧民主、維新に散らばっている、先の見える改革派の政治家達です。

こうした人々が、脱原発、脱石炭で、環境保護と経済成長と安全保障の三つを実現できる、再エネ立国を目指してくれることを願っています。