日本の改革

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とうとう宿敵イランを抑え込んだアメリカ。中東はNATOにまかせて、次の「ターゲット」は・・・

イランのミサイル攻撃で死傷者なし=スレイマニ殺害にイランから事実上報復なし。アメリカは中東をNATOにまかせて徐々に撤退し、中国との対決をより重視するのでは、と見ます。

スレイマニ殺害という大バクチに勝ったトランプ

まだこれからイランが何をするか分かりません。しかし、スレイマニ殺害直後のイランからの「報復」は事実上何もないのと同然でした。

今日午前1時過ぎからトランプ大統領が会見、イランのミサイル攻撃による死傷者がいなかったと発表、当面の対応として、経済制裁の強化のみと発言しました。戦争へのエスカレーションはありませんでした。

https://www.washingtonpost.com/politics/2020/01/08/transcript-trumps-iran-speech/?utm_campaign=wp_main&utm_medium=social&utm_source=twitter

今回のミサイル攻撃、イランの意図については、まだ分からない部分もありますが、少なくとも、大きな被害を与えるつもりはなかったようです。

まず、イラク首相は、イランからミサイル攻撃について事前通告があった、と言っています。この通告がアメリカにも伝わったのかどうかは分かりませんが、イラク基地全体への被害は出来るだけ小さくしようとしたことが分かります。

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イランのミサイル攻撃は、結局、人的被害を出しませんでした。ミサイルをそもそも意図的に外した、という報道さえあります。これについては、アメリカ政府の一部から、イランはミサイルをわざと外したという声があったようですが、ミリー統合参謀本部長は、アメリカ軍の兵士を本当に殺そうとした攻撃だった、としています。少なくとも、今後には当然備え続けるべきでしょう。

edition.cnn.com

まだまだイランの脅威は残っています。完全に安心はできません。

が、30年以上イランの外交・軍事政策を牛耳っていた「英雄」スレイマニの暗殺に対し、世界中が真剣に心配したような大規模攻撃はなく、戦争へのエスカレーションもありませんでした。

イラン最高指導者ハメネイ氏は、今回はアメリカに平手打ちを食わせた、大事なのはアメリカのこの地域へ駐留を終わらせることだ、と言っているので、当面の攻撃より中長期的な対応を呼びかけています。

www.aljazeera.com

では、アメリカ軍の駐留を終わらせるために、これまでのような小中規模のしつこいテロ攻撃をしかけるのかと言うと、当面、代理勢力には抑えを利かせるようです。シーア派民兵リーダーの大物サドルが、民兵に自制を呼びかけているからです。

Iraq's Sadr says crisis over, tells militias to stand down: statement - Reuters

 以上をまとめると、全体として見れば、アメリカはスレイマニという中東全体のガンを取り除き、イランからは報復もほぼなし、テロ行為もしばらく抑止できた、と見るべきでしょう。

この成果につき、いつもはトランプ批判をすることが多いイアン・ブレマー氏も、手放しでトランプ政権を評価しています。メキシコに強気に出て国境管理を厳格化させたことと並べて、スレイマニを殺したのに報復もなしですんだことを、トランプの顕著な外交上の勝利だ、と言っています。

 ただ、ブレマー氏はすぐに続けて、これは弱い国に強く出た結果であり、中国は強いから同じようには全くいかない、と言っています。

中国相手の戦いが簡単でないのはもちろんです。しかし、今回のスレイマニ排除で、アメリカはイランと代理勢力の脅威をある程度抑え込みました。アメリカはこれから、中国との覇権争いに一層の力を入れると予想します。

なぜなら、トランプ氏が、今回の会見で、アメリカはもう中東の資源に依存していない、これからは、中東に利害関係を持つ欧州諸国を中心としたNATOが、もっと中東地域の安全保障に責任を持つべきだ、と言っているからです。

この会見の後、すぐに、トランプはNATOのストルテンベルク事務総長と電話会談、両者は、中東にNATOがより関与するべきだという方向で合意しました。

 こうなれば、イランのハメネイ最高指導者の「アメリカ軍撤退」という発言の意味も見えてきます。アメリカとイランは、アメリカ軍の段階的な中東からの撤退で、既に何らかの合意をしているのではないでしょうか。米イラン間の「合意」は暗黙のうちに、かもしれませんが、アメリカ、NATO、イランの足並みは、アメリカ軍の中東撤退でぴたりと揃っています。

もちろん、NATOにはアメリカも入っていますが、米軍の中東での役割を段階的に縮小していくと予想します。これなら、そう簡単にロシアや中国がこの地域で影響力を伸ばせないでしょう。

次の「ターゲット」は、どこの誰か

では、中東から撤退するアメリカが、次に注力する目標は何でしょうか。それこそが、ブレマー氏が、そう簡単ではないと述べる米中新冷戦での勝利でしょう。更に、北朝鮮の非核化も含まれるかもしれません。

私は、北朝鮮の非核化の方が、ある意味で中国との冷戦に勝つより難しいと思います。中国と違って、北朝鮮は失うものがほとんど何もないからです。これが、イランと比べても北朝鮮の非核化が特別に難しい理由なのだろうと思います。

しかし、今回、アメリカがイランのテロ行為を抑止するために、スレイマニ殺害という驚天動地の手段をとったことで、国際社会でのゲームのルールが変わる可能性が出てきました。軍事・外交上の新たな選択肢として、ある国の一機関のトップを「テロリスト」として殺害する、という極端な方法が、認められる可能性があります。

スレイマニ殺害については、もちろん、国際法違反だ、という批判も強くなされています。一方で、スレイマニが立案していた米軍攻撃計画次第では、合法的なものになる、という見方もあります。

焦点:イラン司令官殺害、米政府の法的根拠に疑問の声 - ロイター

焦点:イラン司令官、死につながった米軍攻撃計画の内幕 - ロイター

私は、国際法における合法性というのは、それが現実にもたらす効果によっても、変わってくるのではないか、と思います。

問題の性質は違いますが、北方領土問題一つとっても、いくら日本がロシアにはもともと領有の権原がないと言っても、現状がこれほど長く続いている以上は、その現状が追認されることも、「国際法上」十分あり得るようです。

「日本は第二次大戦の結果を受け入れるべき」ではないか:北方領土と国際法 - 日本の改革

スレイマニ殺害が「合法的」と言えるかどうかは、彼の行為が実際に危険だったか、だけではなく、スレイマニ殺害で実際に中東がより平和になるかどうか、にもかかってくるのではないか、と思います。今後、中東で去年のようなアメリカ等への攻撃や、イランの影響下の国々での虐殺等が実際に大きく減るならば、スレイマニ殺害は正しかった、という国際的世論は今以上に高まり、国際法もそれを追認せざるを得なくなるのではないでしょうか。

話を北朝鮮と中国に戻します。

今回のスレイマニ殺害は、北朝鮮金正恩に、「教訓」を与えた、という報道があります。金正恩が、核やミサイルの更なる実験には、より慎重になる可能性がある、としています。逆に、核兵器への依存を一層強めて、更に大胆になる可能性もある、ともしています。

いずれにせよ、アメリカは、北朝鮮に直接何も言わなくても、必要があれば本気で一国の事実上のリーダーをピンポイントで殺すと示すことで、「金正恩殺害」というカードを手に入れたことになり、金正恩の判断に何らかの影響を与えられるようになります。

edition.cnn.com

中国はどうでしょうか。中国寄りの論調で知られるサウス・チャイナ・モーニング・ポストに、妙な陰謀論記事が出ました。スレイマニ暗殺の本当の狙いは中国だ、というのです。

www.scmp.com

この記事は全体として見れば荒唐無稽で、アメリカは中国を苦しめるためにイスラム過激派をけしかけている、ウイグル問題で中国を批判するのもイスラム過激派を守って中国を弱体化させるためだ、という無茶苦茶を言っています。

が、この中国寄りのプロパガンダに、中国の本音が透けて見えるように思います。この記事が被害妄想的に言っている、スレイマニ暗殺の本当の目的は中国、という言い方は、中国の指導層が、実際に恐怖感を覚えていることを示唆しているのではないでしょうか。

これとは別に、もちろん中国は、スレイマニ暗殺を「国際関係の基本的な規範に違反している」と言って批判しています。

www.newshub.co.nz

北朝鮮ほどではないにせよ、中国の指導層も今後、「アメリカは本当に何をしてくるか分からない」という恐怖、緊張感の中で、米中冷戦に臨むことになります。私も、まさか習近平や中国の政治局常務委員をアメリカがいきなり狙うことはないと思います。スレイマニも、あくまで、イラン革命防衛隊のコッズ部隊の司令官でした。

逆に言えば、ウイグルチベット、香港、更には中国内のキリスト教徒やアメリカ人等に危害が及ぶなら、原理的には、何らかの非人道的行為を担当している中国共産党の一機関をテロ組織に認定して、そのトップに対する殺害を行うことも、考えられるでしょう。実際にそうした行動に出るというよりも、そうした脅威を中国に与えつつ、米中冷戦に臨むことが今後は可能になる、ということです。まして、米軍をこれから中東から徐々に撤退させられるなら、なおさらです。

いずれにせよ、米イラン関係が今後改善すれば、イランが新たな核合意のうえでテロ行為をやめることを条件に、米軍の中東からの段階的撤退とイランへの制裁解除、それを進めながら、アメリカは、中国との冷戦に集中し、その際、アメリカは今までより多くの選択肢を持って、より有利な立場に立てるのではないか、と考えます。