中国企業元顧問から現金を受け取ったことを認めた下地幹郎氏は、議員辞職すべきですし、日本維新の会は、下地氏を除名処分にすべきです。松井一郎氏は、昨年末、IR疑惑を軽く見た自分の発言を謝罪すべきです。
下地氏の行為は賄賂罪に該当しうる
IR参入を巡る贈収賄事件で、日本維新の会の衆院議員、下地幹郎氏が、中国企業「500ドットコム」元顧問、紺野昌彦容疑者から現金100万円を受領したことを認めました。
2017年の衆院選期間中、那覇市内の選挙事務所で、事務所職員が現金100万円入りの封筒を受け取ったと述べました。領収書は作成せず、政治資金収支報告書には記載しなかったということです。職員は現金授受を認めているが、自分には記憶がない、としています。彼の下で働くのは高いリスクがありそうです。
本人の記憶以外の客観的証拠で、仮に本人の故意が立証できたとすると、どんな違法行為になるでしょうか。
収支報告書に記載しなかったのだから、最低でも、政治資金規正法違反ですし、収賄罪が成立する可能性もあります。
賄賂罪は、職務の公正とそれに対する社会一般の信頼を守るためのものです。 このため、公務員(特別公務員である議員含む)の「職務に関し」という文言につき、法的な職務権限のある職務行為自体に限らず、職務に密接に関連する行為をも含める、というのが判例です。
リーディングケースの一つが、鈴木宗男氏が北海道庁長官時の収賄事件です。鈴木氏は当時は自民党、今は国政政党では日本維新の会に所属しています。この事件で最高裁は、長官には公共工事の受注に関する権限がなくても、特定業者に受注させるよう、職務権限のある下部組織に働きかける行為が、長官の職務行為に密接な関連があるとして、賄賂罪の成立を認めています。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=80661
逮捕された秋元司氏は、資金授受の事実を否認していますが、「職務に関して」という要件について言えば、内閣府のIR担当副大臣の職務だけでも、恐らく問題なく該当するでしょう。
では、下地氏のような国会議員、それも野党議員についてはどうでしょうか。
これについては、国会での質問が「職務に関して」に該当するとした判例があります。いわゆるKSD事件で、自民党の村上正邦元議員が、支援者からカネを受け取って受託のうえ、「ものづくり大学」なる機関を作るべきではないか、と国会で質問したことが、国会議員の職務に関する行為に該当する、とされました。村上氏は自民党議員でしたが、判例では、与野党の区別を特にせずに判断しています。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=36241
仮に下地氏がIR政策について質問していなくても、国会で質問すること自体が国会議員としての「職務に関して」行う行為とされるのですから、たとえKSD事件のように(具体的な請託・受託がなくて実際に質問が行われずに)受託収賄罪は成立しなくても、国会議員の職務関連行為を広めに考えるなら、単純収賄罪は成立しうるはずです。
以上のように、本人に故意があれば、政治資金規正法違反は確実、賄賂罪も成立しうるような事案なのです。本人の記憶の有無に関わらず、資金の授受があった以上、下地氏は議員辞職をするべきです。IR政策に関する公務の公正につき、国民の信頼を大きく傷つけたからです。
下地氏は500ドットコム側から直接の資金授受があったことを認めましたが、秋元容疑者を含む他の5人の自民党議員は、これを否定しています。
私は、下地氏が認めた程度の事実があったなら、全員同じように議員辞職すべきだと思いますが、当面は全員が否定しているので、今後の捜査を待ち、彼らの議員としての進退については判断を留保します。
維新は下地氏を除名し、松井氏は心得違いの暴言について謝罪せよ
所属政党の日本維新の会は、近く処分を決めるそうですが、一番厳しい除名処分にすべきです。党の理念から言って、最悪の非違行為だからです。
維新の松井一郎代表は、下地氏が現金授受を認めたことを受けて、議員辞職すべきと言っています。そこまでは当たり前です。
本件で、松井氏は昨年末、秋元司容疑者について、こう言いました。
「権限もないのに俺は力がある、俺は力があると業者に餌をまいて食いつかせた。個人的なオレオレ詐欺事件だ」
「副大臣という肩書で何らかの影響力を行使できると見せかけた。トラの威を借るキツネのようなものだ」
こんな発言はするべきではありませんでしたし、この発言について謝罪すべきです。
誰からどんないい加減な情報を上げられたのか知りませんが、たとえ国会議員団の誰かが、こんな事件は大したことはないと言ったところで、国民の信頼を第一に考える政党の代表として、秋元容疑者と同じく公職にあるものとして、この事件を重く受け止める旨の発言をすべきでした。
上に見た通り、賄賂罪の判例に限って見ても、実際の職務権限よりも広く政治家の刑事責任が認められています。にもかかわらず、「権限もないのに」だの、「何らかの影響力を行使できると見せかけた」だの、要するに、賄賂罪の要件をなるべく狭く解すべきだ、と言っているに等しい発言です。国民のIR政策への信頼が大きく揺らいだ時に、政治家全体の責任逃れに聞こえる言い方です。
まして、「オレオレ詐欺事件だ」などと、まだ全貌もよく分からないうちに、下卑た言い方で事件の矮小化を図っています。
松井氏は、IR事業について、「政策と個人の犯罪を一緒にしてどうするのか。メディアはIRに否定的だが(今回の事件が政策に影響するかのような)偏向報道はやめてほしい」とも言いました。
この言い方も間違っています。国民の信頼を失うような事件が政策に影響するのは当たり前です。
政治資金規正法にせよ、刑法の賄賂罪にせよ、その他、公務員の職務を規律付けるための多くの制度は、公務の公正さに対する国民の信頼を確保するためにあります。どんな政策でも、国民の信頼が必要だからです。まして、カジノ導入のように、国民の反対が強いような政策なら、なおさらです。
カジノ導入が、仮に国民へのマイナスがほとんどなかったとしても、未だに反感や疑問を持つ国民も大変多いのは厳然たる事実です。いよいよIRが実現に近づき、大阪府・大阪市は政策を進める当事者として、国政の動きについても、細心の注意を払って、治安や依存症等の国民の心配を丁寧に払拭するべき時期です。
それを、こともあろうに、IR政策への信頼を根本から揺るがすような犯罪の疑いについて、職務権限がないと言って国会議員の刑事責任を否定し、オレオレ詐欺だと言って事件を冗談めかして矮小化し、賄賂罪とIR政策に関係はないと言って、IR政策の遂行に国民の信頼などいらないと言わんばかりの発言をしました。
松井一郎氏は、下地氏を除名処分にするだけでなく、自分の当初の発言についても大阪府・大阪市の住民と国民全体に謝罪し、そのうえで、IR政策への理解を求めるべきです。