日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

米・イラン関係、一時的な緊張の後、イランによるテロ行為中止の合意が落としどころ。

アメリカによるイランのスレイマニ司令官暗殺で、一時的な緊張の後、両国の外交交渉はアメリカに有利に進み、イランがテロ行為中止を約束する可能性があります。

現在の緊張は戦争に至らない

トランプ米大統領は昨日1月4日、イランが米国人や米国の財産に攻撃を仕掛けた場合、米側は報復として「イランの52カ所を標的にする」とツイートしました。

文化施設の攻撃は戦争犯罪になるらしいので言い過ぎであり、撤回すべきですが、要は、ソレイマニ暗殺にイランが報復したら、その報復としてイランに大規模な攻撃を行う、と脅しています。アメリカとイランの間の緊張は高まっています。

それでも、アメリカとイランは戦争になりません。両国とも、戦争をすると言っていません。イランの代理勢力からの多少の報復はあるとしても、そう大規模にはならず、仮に双方の間違いで偶発的な衝突が起きても、全面戦争にはならない、と予測します。

イランの国連大使は、ソレイマニ暗殺について、国連安保理国連事務総長に、これは犯罪行為だとして非難し、イランは自衛権を留保すると伝えました。これは、自衛戦争の可能性を示唆するものです。

Iran tells U.N. it reserves right to self-defense over Soleimani killing - Reuters

The Latest: Iran urges UN to condemn ‘criminal act’ by US - The Washington Post

このように、イランは「国際法上は悪いのはアメリカだ」と言っていますし、戦争をする権利はあると主張していますが、実際には戦争をする気はないようです。

ワシントン・ポストの記事によると、トランプの「52か所攻撃」の脅しの後、イラン軍の報道官・准将が、イラン政府は「感情的で焦った行動をとることを拒否する」とイランのメディアで発言しました。そのうえで、イランの代理勢力による反撃はありうる、としたそうです。

しかし、有識者の見方では、あまり大規模な報復はできない、ということです。スレイマニが操っていた他国でも、イラクでの戦闘のエスカレーションについてさえ、意見が分かれるようです。イラク国内では、政府への大規模デモへの弾圧でスレイマニは恨みを買っていましたし、レバノンでも財政的な理由で、大規模な軍事行動は難しいと言います。

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このように、イラン政府は、正面からアメリカと戦争するつもりなどありませんし、「代理戦争」さえ出来ません。もちろんアメリカはイランと戦争する気など全くなく、トランプ大統領は、イランと戦争するのではなく戦争をやめるためにスレイマニを殺した、と言っています。

もちろん、戦争は偶発的な衝突からエスカレートして起きることが多いので、それに対する注意は、両国も、国際社会も、十分にする必要があります。その偶発的な衝突の可能性を高めていたのが、スレイマニのやってきた軍事的挑発でした。問題は、こうした行為が今後増えるのか減るのか、です。

スレイマニ暗殺が与える恐怖の教訓

スレイマニが率いるイラン革命防衛隊が今までイラクはじめ各国で行ってきた、アメリカや関係国への攻撃は止むでしょうか?

私は、こうした攻撃も、ゼロにはならなくても、減るだろうと思います。

スレイマニ暗殺は、イラン革命防衛隊やイラン軍の責任者達に、恐怖の教訓を与えました。彼らは、今までアンタッチャブルだった偉大な司令官殿さえ、簡単に殺されてしまうことが分かり、これまでのような大胆な軍事的挑発は控えるはずです。

イラン・イラク戦争以来、30年以上にわたって、イランの軍事・外交政策を牛耳って、イラク、シリア、レバノンにも影響を及ぼし、それらの国のテロ組織を自在に使ってきたスレイマニが、アメリカの攻撃であっさり殺されたことは、その「後釜」の人物を常に怯えさせることになります。

スレイマニを含むイランの軍人・政治指導者達は、今年は米大統領選だから、中東からの米軍撤退を主張するトランプは何も出来ないとなめてかかって、去年は好き放題に挑発をエスカレートしました。それだけに、警告なしに、今まで崇め奉ってきたトップが一撃で暗殺されたというのは、大変な衝撃だったはずです。この衝撃を簡単に乗り越えてアメリカへの全面反撃を仕立てられるような人物がいれば、とっくにスレイマニの後釜になっていたはずです。

ニューヨーク・タイムズの記事でも、MITの政治学者 Narang氏が、イラン革命防衛隊のトップ達が怯えて攻撃を控えることを「ベスト・ケース」ではあり得ることだ、としています。この記事は、スレイマニ暗殺の抑止効果について論じています。全体として見れば、慎重な論調ながら、イランの挑発行為に対して、ある程度の抑止効果があり得ることは認めています。

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スレイマニ暗殺に抑止効果があるという主張は、割にあるようです。

 もちろん、仮にトップのスレイマニが死んでも、彼の築き上げた政治的・軍事的ネットワークは強大で、今後も生き続けます。それらの中には、トップ暗殺に怒って、非合理的な復讐を企てる組織も出てくる可能性はあるので、十分注意は必要です。特に、欧米諸国の国内のテロ組織への影響が指摘されているので、日本も含め、各国は警戒レベルを上げるべきでしょう。

Iran retains its ability to launch terror attacks despite assassination - The National

しかし、立派なネットワークも、リスクをとって決断するトップがいなければ動きません。私は、スレイマニ排除で、イランや代理勢力の挑発は減る、と見ます。

アメリカの選択肢は増え、イランとの交渉はアメリカ優位になる

そもそも、欧米の対イラン政策は、行き詰まっていました。アメリカは経済制裁をしていますが、核開発も米国や関係国への攻撃を止められませんでしたし、イランとの核合意を守っているヨーロッパ諸国も、結局はイランの核ミサイル開発には無力でした。

今回のスレイマニ暗殺は、この行き詰まりを打開しようとして、あえてリスクをとったものです。

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そして、そのリスクに見合うものをアメリカは獲得しました。軍事的挑発の抑止と、今後の交渉上の優位です。

核合意から抜けたアメリカには、経済制裁を強めるくらいしか選択肢はありませんでした。私は、イランの核ミサイル開発は進み、もう、どの国にもそう簡単には止められないと思います。しかし、イランがアメリカや関係国への敵対的な態度をとって、代理勢力も使ってテロ攻撃を繰り返していることは、絶対に止めさせる必要があります。(加えて、イラク、シリア、レバノン国内での恐ろしい人権弾圧も止めさせるべきですが、アメリカは残念ながら当面はこちらにあまり関心がないでしょう。)

スレイマニ暗殺は、イランによる中東全域でのテロ行為と人権弾圧を止めさせるための、実効性のある新たな手段をアメリカに与えました。テロ行為の責任者は本気で排除する、という脅しです。この脅しをテコにして、アメリカはイランとの交渉を、今後は今までよりはるかに有利に運べるでしょう。

中東専門のシンクタンクのRobert Satloff氏も、ワシントン・ポストで、同様の主張をしています。同氏は、この交渉はうまくいけば、核合意以上の合意、つまり、イランがこれまで中東全域で代理勢力を使って行ってきたテロ行為やその支援をやめさせる合意ができるだろう、としています。

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私は、核ミサイル開発については、イランに諦めさせるのはそう簡単ではないと思いますが、ヒズボラやフーシ等のテロ勢力への資金援助や訓練をやめさせ、もちろんイラン革命防衛隊自身にも、テロ行為はやめさせる、という合意は、可能だと思います。アメリカはそれを目指すでしょうし、日本含む国際社会も、これを見越して、イランがテロ行為から手を引くよう主張し、必要な支援をしていくべきです。