日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

2010年代とは、どんな時代だったのか:リーマン・ショックが変えた先進国の経済と政治

・2008年のリーマン・ショックに続く2010年代は、先進国で、低金利なのに低インフレ、株高と失業率の低下の一方、低成長、投資不足、格差拡大が起きました。そして、低成長と格差拡大が各国で既存政治を否定する動きを生みました。

・各国の政治を決めるのは経済であり、日本の政治を変えるにも、まずは経済政策で、ミクロでの徹底した行革と同時に、マクロで新たな公的投資(教育・科学・環境・国防等)の増加が必要です。

ポリティコとウォールストリート・ジャーナルが論じる「2010年代」

晦日なので、今年1年の日本を振り返ろうかと思ったのですが、海外のメディアで、「2010年代」という振り返り方が目に付きました。中期的な視点も大事だと思いますので、ちょっと大上段に過ぎますが、2010年代の先進国はどんな風だったか、それを踏まえて、日本は次の10年にどうすべきか、を考えてみます。

ポリティコが、2010年代は将来の歴史書ではどんな時代と言われるかについて、歴史の専門家にタイトルとコメントをつけてもらう、という記事を載せていました。

タイトルの例をいくつか挙げると、「白人優位主義の技術革新」、「プライバシーの終焉」、「社会秩序へのポピュリストの脅威」、「オバマ・トランプ外交の出現」(意外に共通点多い)等々、それぞれになるほどと思わせます。中でもやっぱり目立つのは、アメリカを中心に先進国で進む社会の分断や既存政治への不満というのが、関心をひいているようです。上に挙げたもの以外でも、「グローバリゼーションによる統合と分断」、「エリートへの反発」、逆に「既得権者の逆襲」等々、先進国内の社会的・政治的対立を挙げた人が多いようです。残念ながら日本はあまり視野に入っていないようですが。

www.politico.com

では、こうした変化はなぜ生まれたのでしょうか?やはり、経済が原因でしょう。2010年代という10年間をまとめて見るならば、何と言っても、2008年のリーマン・ショックとそこからの回復の過程というのが、この時代の基調をなしているからです。こうした経済と経済政策の変化が、日米欧の社会や政治、場合によっては人の考え方も変えてきたのだろうと思います。もちろん、中国の台頭や中東の混乱による難民危機の影響も大きいのですが、ここでは、経済について考えてみます。

そこで、ウォールストリート・ジャーナル(の日本語版<(_ _)>)の見る「2010年代」についてです。同紙は「2010年代を振り返る」という大特集を組んでいますが、

www.wsj.com

私が特に重要だと思ったのは、エコノミストがなぜ2010年代の低金利を予測できなかったか、という記事です。多くのエコノミストが、これほど低金利が長い間続くとは考えず、予測を外し続けたことと、その原因を論じています。

jp.wsj.com

グレッグ・イップ氏によるこの記事は、これほど低金利が続いた原因につき、三つの説を挙げています。

一つ目は、「債務の後遺症」(ラインハート、ロゴフ)です。日本のバブル崩壊後と同様、リーマンショック後に、銀行は貸し剥がし、企業と家計の借入需要は激減して、低金利が常態化した、ユーロ圏もギリシャ危機以降同じことになった、というものです。

二つ目は、「長期停滞論」(ローレンス・サマーズ)です。少子化が経済成長と金利を抑制し、IT大手等の成長産業の投資不足や、格差拡大で貯蓄性向が高く消費性向が低い富裕層に所得が流れることで、投資が少なすぎて貯蓄が増え過ぎて低金利少子化に加えて中低所得者層の消費が落ちて低成長が続いている、という考え方です。

三つ目は、失業率についての新たな考え方です。これまでの経済学では、失業率が下がるとインフレ率が上がると言われてきましたが、今の経済状況では、失業率がよほど下がってもインフレにならない、ということです。

以上が記事の概要です。

これらの考え方は、理屈の上では対立するのかもしれませんが、私は、少なくとも日本について言えば、どれもそれぞれ全部正しいのだろうと思います。

日本では、「債務の後遺症」説が言うように、リーマンショックから11年たっても(バブル崩壊から30年近くたっても)、企業が借入で投資をするのを怖がっているようです。

また、「長期停滞論」が言うように、投資が伸びずに企業のバランスシートの右側には内部留保(利益剰余金)が、左側には現預金が積みあがるばかりで、要は投資が不十分です。少子化と中低所得者層の消費減で低成長なのはその通りです。

一方、失業率についての新しい考え方が言う通り、失業率は大変低いのにインフレにはなっていません。

こうしたことが、欧米についても、おおむね当てはまるようです。

更に、低金利で、資産価格は上がり続けています。日経平均株価の年末終値は2万3656円62銭、29年ぶりの高値を付けました。世界の株式時価総額は86兆ドル(約9400兆円)と過去最大に膨らんだうえ、株高時に値下がりする傾向がある債券や金も値上がりしました。

www.nikkei.com

このように、多くの先進国では、低金利、低インフレ、低失業率、株高となっている一方、低成長、投資不足(貯蓄過多)、格差拡大という状態が続いています。私は学説には詳しくないので、これら全部が続いている状態を、とりあえず、「長期停滞」と呼んでおきます。

(サマーズの長期停滞論や日本での議論は、たとえば以下のリンクにあります)

Secular Stagnation | Larry Summers

サマーズ氏、「長期停滞論」の説得力高まった - WSJ

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h28pdf/201615302.pdf#search=%27%E9%95%B7%E6%9C%9F%E5%81%9C%E6%BB%9E%E8%AB%96%27

先進国が患う長期停滞に克つには(大論戦) (写真=ロイター) :日本経済新聞

2010年代、経済の長期停滞が各国の既存政治を揺るがした

この長期停滞は、失業率は低いし株は高いので、1930年代の大恐慌時ほどの深刻さはありません。1970年代のスタグフレーションのようなインフレも起きていません。しかし、企業の投資が不十分で成長率は低く、株等の資産価格上昇で得をする人と、低成長で給料の上がらない中低所得層との間で、格差が広がります。

これが各国の政治を変えました。ポリティコの記事で挙げられた「エリートへの反発」の言葉通りです。

アメリカでは、トランプ氏という政界のアウトサイダーが大統領となり、2018年の下院中間選挙では、リーマンショックで大卒後にバーテンダーになったオカシオコルテス議員が民主党の重鎮議員を破り、民主党の大統領予備選ではなんと「社会主義者」サンダーズが生き残っています。既存政党や既存の政治エリートへの不信感が、右だろうが左だろうが関係なく、こうした新たなタイプの政治家に力を与えました。

ヨーロッパでは、ドイツでは「ドイツのための選択肢」(AfD、アーエフデー)がギリシャ危機時のドイツの支援への反対を契機に結党されて、ユーロ廃止を掲げて、議席を伸ばし続けています。この党と左翼党、緑の党などが、既存二大政党であるキリスト教民主同盟(+キリスト教社会同盟)と社会民主党議席を大幅に食ったため、両党は大連立という談合政治に逃げて何とか与党の地位にしがみついています。

フランスでは、既存二大政党の共和党社会党がほぼ壊滅、移民・難民問題から躍進する極右の国民戦線を抑えて、マクロン大統領の与党で急ごしらえの新党・共和国前進が国民議会の多数を得ています。

イギリスでは、移民問題から国民投票EU離脱、その後の混乱の末、ジョンソン首相の保守党が圧勝したのは周知の通りです。欧州の大国では珍しく既存政党が大復活を遂げましたが、2019年12月までは第三極も伸びて相当の混乱でした。

日本では、リーマンショックと大震災と消費増税民主党が分裂・下野しましたが、結局、国民は自民党政権を選び続けました。低成長と格差拡大への不満よりも、株高と低失業率が好感されているのでしょう。低成長と格差拡大による不満は、自民党を倒す方向よりも、第三極政党の伸長や民主党民進党の分裂の方向に働いた形です。自民が消費税を2回も増税して、消費税率を2倍にもして、野党がそれでも全然自民党にかなわないのは、旧民主党こそが消費税増税を自公とともに決めたからでしょう。要は、日本で破壊された既存政党が民主党だけだったのは、全くの自業自得です。

欧米については、移民への反発という要素もあるのは確かですが、文化的摩擦だけでなく、経済的な摩擦が大きいはずです。イギリスが典型的ですが、リーマンショック後の長期停滞で中間層の生活水準が下がっていたため、低賃金の移民の急増が特に強い反発を受けました。

日本は、金融緩和継続と時代に合った「公共」投資を

このように、2010年代の先進国は、リーマンショック⇒長期停滞⇒既存政治の打破や動揺、ということが起きました。ポリティコに寄稿した碩学の皆さんにも、政治のこうした新たな動きを、「ポピュリストが社会秩序に及ぼす脅威」だとか、「白人優位主義のイノベーション」だとか、ネガティブに捉える人もいるようですが、背景にある経済的不安や不満にこそ目を向けるべきだと思います。

間もなく終わる2010年代の後、2020年代には、欧米はどうなっていくでしょうか?私は、長期停滞はまだしばらく続くと思います。今のところ、これが終わる兆しがなかなか見えないからです。

とは言え、各国が政策で対応しようとしているのも確かです。たとえば、アメリカでは、2兆ドルの巨額インフラ投資法案の検討で、大統領・共和党民主党が4月に合意しました。その後、弾劾騒ぎでいったんストップしているようですが、そのうち復活するだろうと読みます。下院での弾劾手続き真っ最中に、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)であっさり両党が合意しているからです。弾劾自体は大統領選向けのプロレス、議員達は自分達の選挙向けに景気対策のチャンスは逃さないはずです。

インフラ投資計画「野党・民主党は協力を」 :日本経済新聞

温暖化で成果見込めないG20。日本の環境政策は、欧州緑の党の「炭素税・配当」政策と、アメリカの「グリーン・ニューディール」を取り入れるべき! - 日本の改革

では、日本はどうすべきでしょうか?

金融緩和の継続や更なる徹底、低金利を利用した国債大量発行で新分野の公共投資の大幅増、一方で徹底した行政改革でのムダ削減、という政策を行うべきです。

まず、低インフレ、低金利が長期間両立するのが長期停滞の特徴です。金融緩和は継続しても、インフレ率が上がるという副作用は考える必要はほとんどありません。金融緩和は継続どころか、マイナス金利を更に下げても良いでしょう。

このように中央銀行が徹底的に金融緩和を続け、どのみち長期停滞で金利が上がらないならば、今のうちに国債を発行して、新たな分野での公共投資を大幅に増やすべきです。長期停滞ですから、よほど国債発行をしても、金利なんか上がりません。日本政府と日本銀行を合わせたバランスシートで言えば純資産はゼロ程度、他の先進国と比べて大して変わりありません。金利急上昇だの、ましてや国債の信認低下だのということは、気にする必要はありません。

投資する対象としては、維新が言うように、幼児教育から高等教育まで完全無償化がまず必要です。バウチャー方式で、現役世代の生産性向上に役立つ場合に限って、介護への国費投入を増やしてもよいでしょう。同時に、米中欧に遜色のないような、大規模な科学技術投資を行うべきです。更に、2050年頃までに再生エネルギー100%を目指した大規模投資です。日本の場合、風力発電等の土地が高くて入手しにくいようですが、場合によっては補助金も投じるべきです。更に、科学技術投資と一体化させる形で、核ミサイルを無力化させる防衛システム(特にレーザー、レールガン等)にも投資すべきです。

もちろん、どんな政策でも、国民の信頼がなければ動きません。以上の大規模投資と同時に、ミクロの個別行政事業について、徹底した行政改革・情報公開で、ムダの削減を行い、効果の薄い既得権向きの支出は全て切るべきです。身を切る改革で政治家に、天下り全廃等で公務員に、補助金交付金の全面見直しで各種業界団体等に、それぞれ厳しく細かく歳出削減を行いつつ、上記のような新たな分野の投資を行うべきです。

長期停滞論で言う投資不足の問題のためには、法人税減税とともに、内部留保課税を導入するといった税制改正もすべきです。

このような、マクロで大規模投資、ミクロで厳しく行政改革という組み合わせは、本ブログでは、来年度予算案については既に述べた通りです。

2020年度政府予算案決定、実はこれでも緊縮型、新しい分野の投資に国債発行を!マクロでもっと緩く、ミクロでもっと厳しく! - 日本の改革

長期停滞論を主張するローレンス・サマーズも、日本が更に財政拡大をすべきだ、と主張しています。

digital.asahi.com

来年度予算案も、史上最大とは言いつつ、上記ブログで書いた通り、実は相当の緊縮型です。2020年代を迎える来年こそは、2010年代から続く長期停滞時代にふさわしい、経済と政治の姿に変えていくべきです。