日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

宗教保守派がプーチンとトランプに反旗:ロシアの動揺はキリスト教保守派ネットワークに打撃となるか

ロシア正教会が公然とプーチン政権を批判し、アメリカではキリスト教保守派の雑誌がトランプ大統領を批判。特に、プーチンロシア正教会の関係悪化は、世界のキリスト教保守派ネットワークを弱める可能性があります。

プーチンのデモとロシア正教会

今日はクリスマスらしいので、キリスト教のネタです(笑)

プーチン氏の大統領就任以来、政権と蜜月関係にあったロシア正教会が、プーチン批判を公然と行うようになり、驚きをもって報じられています。

今年6月、ロシア正教会モスクワ総主教庁のトゥトゥノフ主教が、核兵器などの「大量破壊兵器には祝福を与えてはならない」と述べました。それまでロシアの各産業や軍とも関係が深かったロシア正教会が路線変更をしました。

ロシア核兵器開発を支えてきた正教会の大英断 プーチン大統領も利用してきたが、もう核兵器は祝福しない!(1/5) | JBpress(Japan Business Press)

更に、今年7月、地方選への野党有力候補の出馬禁止に対する抗議で大規模デモが起こり、警察当局が鎮圧に乗り出して何人もの逮捕者が出ました。デモは秋以降も続けられています。もともと、ウクライナ危機以降の経済制裁で国民生活に影響が出ていたうえ、年金改革で支給年齢引き上げで、プーチン政権の支持率が落ちていたところへ、野党の出馬禁止という無茶をやったので、国民の怒りが爆発したようです。

(ちなみに、プーチンの年金改革案は、年金支給年齢が男性は60歳、女性は55歳なのを、それぞれ65歳と63歳に段階的に引き上げるという、我が国からすればかわいい?ものなのですが…)

jp.wsj.com

モスクワで反プーチン集会の逮捕者釈放求めるデモ、2万人超が参加 - ロイター

ロシアの年金制度改革がプーチン人気を潰す | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

問題は、このデモへの対応で、ロシア正教会が弾圧に反対に回ったことです。

もともと、ロシア正教会は、エリツィン政権での社会的不正や混乱に対処して、秩序を回復したプーチン政権を高く評価し、政府の強力なリーダーシップで危機を乗り越えたことを「神の奇跡」とまで言ったそうです。

ところが、今回のデモには、ロシア正教の信者も参加し、多数が拘束されました。これに対し、今年9月に、ロシア正教会の聖職者200名ほどが公開書簡で政府を批判、警察の逮捕等は比例原則に反してやりすぎだ、と主張しました。

www.pravmir.com

 ポリティコによると、ある教父は、教会も社会の中でしか存在できないし、警察が不当な暴力をふるっている場合には、キリスト教の良心によって行動するとインタビューで発言、こうした行動が、ロシア正教徒はもちろん、その他の国民の間でも、共感をもって支持されているようです。

要は、ロシア正教会は、やはり信者の世俗的な生活を重視せざるを得ず、国民生活全般が低下して、信者も含めた国民の多くが反プーチンとなりつつあるなか、いつまでも政権支持も出来なくなってきた、ということです。

なお、ロシア正教会の支持団体で過激な右派の元リーダーが、プーチン政権に愛想をつかして、なんとプッシー・ライオットのメンバーと付き合い始めて、プーチン政権が宗教を利用していると批判し始めました。プッシー・ライオットは、周知の通り、徹底した反プーチンのリベラル系パンク・ロック・グループで、ロシア正教会を侮辱するような過激な抗議活動をやってきました。

www.politico.eu

トランプ弾劾と罷免に賛成するクリスチャン・トゥデイ誌

一方、アメリカでは、キリスト教福音派の指導者、故ビリー・グラハム氏が創刊した雑誌「クリスチャニティー・トゥデー」が今月、二度にわたって、トランプ氏の罷免を求める論評を掲載しました。

www.christianitytoday.com

The Flag in the Whirlwind: An Update from CT’s President | Christianity Today

CNN日本語版(<(_ _)>)のまとめを更にまとめると、同誌のマーク・ガリ編集長は論評で、「トランプ氏の罷免は党派ではなく十戒の創造主への忠誠心が試される問題となっている」と述べ、弾劾公聴会によって大統領の道徳的な欠陥が浮き彫りになったとの見方を示しました。

トランプ氏は同誌を激しく批判しています。また、この雑誌の創刊者の息子のフランクリン・グラハム氏は、トランプ支持に変わりはない、としています。

www.cnn.co.jp

グラハム氏だけでなく、福音派の多くのリーダーがクリスチャン・トゥデイを強く批判しています。トランプ批判記事を書いたガリ氏も、実際に罷免される可能性は低いが言うべきことは言う、というスタンスのようで、現在のところ、政治的影響は限定的と見られているようです。

Nearly 200 evangelical leaders slam Christianity Today for questioning their Christian witness - The Christian Post

世界的なキリスト教保守派のネットワーク

ロシア正教プーチン、そして、キリスト教福音派の中でも特にグラハム親子とトランプという、米ロの二つの宗教保守派・政権のつながりは、世界全体のキリスト教保守派ネットワークの中核と見られています。

金子夏樹氏(2019)『リベラルを潰せ ~世界を覆う保守ネットワークの正体』(新潮新書)によると、この米ロ二つの宗教勢力は、世界家族会議という団体を通じて、各国政府や国連に対して、同性婚の反対等のキリスト教保守派の活動でリーダーシップをとってきました。 

リベラルを潰せ ~世界を覆う保守ネットワークの正体 (新潮新書)

リベラルを潰せ ~世界を覆う保守ネットワークの正体 (新潮新書)

  • 作者:金子 夏樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/16
  • メディア: 新書
 

 私は、各国の家族制度については、宗教も含めた各国の実情に合わせる形で、自由主義・民主主義と両立するならば、国ごとの違いはあっても良いと思います。伝統的価値観を大事にする人達が大多数という国で、そうした意思を全く無視するような改革は、結局うまくいかないでしょう。その意味で、こうしたキリスト教保守派の活動自体には、反対ではありません。

ただ、このキリスト教保守派ネットワークは、自由主義を侵害するような制度を作ってしまうことがあるのは、問題です。典型的なのは、やはりロシアです。

上記の『リベラルを潰せ』p75~79中で、プーチン政権で成立した保守的な制度について、いくつか紹介されています。正直、要件によっては、まあ仕方ないかと思う法律(公の場での信仰心の侮辱を禁止する法律)もありますが、ゲイ・プロパガンダ法(ゲイ・パレード等を禁止)や平手打ち法(家庭内暴力の罰則軽減)は、やはり少数者や女性・子どもの権利の深刻な侵害となりえます。まあ、家庭内の体罰がやっと禁止された日本の国民である私が言える資格もあるかどうか微妙ですが。

更に、こうしたロシア主導のキリスト教保守派ネットワークは、他国のロシア正教徒、あるいはキリスト教徒を守れ、という名目で、ロシアの強権的な対外政策を正当化してしまうこともあります。上記『リベラルを潰せ』p116~120は、プーチンによる2008年のジョージア侵攻、2014年のウクライナ併合、2015年からのシリア空爆も、キリスト教保守派の支持・理解の下に行われた、としています。

戦争を含む対外政策は、何も宗教だけで決まるものではありませんが、ロシアの政策を各国で、特にアメリカで正当化するために、一定の役割をキリスト教保守派ネットワークが果たしているのは確かなようです。

ところが、こうしたロシア正教プーチンの強固な結託が、今大きく揺らいでいます。こうした強引な対外政策が招いた経済制裁と年金改革による国民の経済的不満という、誠に世俗的な理由で、ロシア正教会プーチンから離れつつあるようです。

そして、それよりははるかに小さな影響しかないとは言え、トランプ大統領にも、福音派の一部が公然と批判を始めています。アメリカはロシアと逆に、国内景気は絶好調に近く、いくら宗教上の良心で反トランプと言っても、広がりを欠くでしょう。弾劾自体が、民主党には逆効果という声も広がっています。ただ、来年は大統領選ですし、共和党民主党も、ロシアやウクライナ等、外国勢力の不人気な政策をあまり支持はしたくないところです。むしろ、タカ派的に振舞うことが求められるでしょう。

すると、キリスト教保守派同士の付き合い方も、アメリカとロシアは、少なくとも大っぴらにはやりづらくなり、ロシア内部では、プーチン政権に対する国民の内面的な支持の要となったロシア正教会が政権から離反していけば、キリスト教保守派ネットワークの働きは、弱まるはずです。特に、ロシア正教の影響力が強い東欧の一部等で、教会が反プーチンに回ることは、ロシアには大きな痛手でしょう。

私は、国内政治も国際政治も、基本的には世俗的な理由・理念で動くと思っていて、宗教はそれを正当化するための数多くの理屈や理念の一つと、割り切って考えることが多いのですが、世俗的に見ても、キリスト教保守派と政治の関係は、今後も注視していく価値がありそうだと思います。特に今後のロシアの対外的影響力の帰趨については、宗教という面からも見るべきでしょう。