日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

5G減税とベンチャー投資減税で、投資は動くか:トランプ同様、法人税率は大減税で20%に、租税特別措置は全廃を!

2020年度の与党税制改正大綱で、5G減税とオープンイノベーション税制(大企業が現預金をベンチャー投資に使うときの減税)で、大規模な投資は起きそうにありません。法人税は、トランプ政権の大減税にならって、法人税実効税率を20%まで思い切り下げて、その代わり全ての租税特別措置を廃止するべきです。そのためには、税制改正のやり方を、与党から官邸に移す必要があり、これには与党より国民に支持される強いリーダーが必要です。

2020年度の与党税制改正大綱、成長重視のはずが力不足

自民、公明両党は12月12日、2020年度税制改正大綱を決めました。今回、経産大臣等を歴任した甘利明氏が税調会長となって張り切って作っただけあって、成長重視になっているのは大変結構なことです。

www.nikkei.com

企業の投資を促すための目玉となるのが、5G減税と、いわゆるオープン・イノベーション税制です。

5G減税では、次世代通信規格5Gの通信網整備を促す2年間の時限措置での減税を行います。「安全性の高い事業者」、つまりはファーウェイ等の中国企業でない企業を政府が認定し、5G基地局などへの投資額の15%を法人税から税額控除します。国内の携帯通信大手のほか、工場などで独自の5G通信網を築く事業者が対象です。

もう一つ、オープンイノベーション税制は、大企業が異業種ベンチャーへのM&A(合併・買収)をしたら減税する、というものです。

大企業が設立10年未満の未上場企業に1億円以上を出資すれば、出資額の25%を所得控除します。趣旨としては、大企業に内部留保が460兆円もたまっているうえ、現預金は220兆円あり、これを投資に回させて有効活用させる、ということです。

www.tokyo-np.co.jp

本ブログでは、そのための方法として、内部留保課税という「ムチ」を利用すべきと主張してきましたが、

内部留保463兆円、7年連続で過去最高:内部留保課税、最低賃金引き上げ、ESG投資促進等、ありとあらゆる手段で吐き出させましょう! - 日本の改革

政府・与党・野党・国民は、力を合わせて、経団連の抵抗を排して、内部留保課税を実現しましょう! - 日本の改革

甘利氏はそうではなくて、むしろ「アメ」として、スタートアップに投資すれば減税する、という方法を取りました。

財源は大企業の交際費で、資本金100億円超の大企業は接待などの飲食費を損金として扱えなくします。また、「ムチ」もほんの少しだけあって、収益が伸びているが設備投資の少ない企業には優遇税制の適用を厳しくします。

(来年度与党税制改正大綱はこちらです)

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/140786_1.pdf?_ga=2.18309626.254252881.1576716365-368123085.1548656289

では、この二つの目玉減税で、企業投資は増えるでしょうか?私は、どちらも大した効果はないと思います。

まず、5Gですが、こちらはもう、日本があまりに出遅れ過ぎました。あと2年間の間に何としても増やせと言っても、限界があります。

日経によれば、NTTドコモKDDIソフトバンク楽天の通信4社は2024年度までに1兆6千億円以上の5G投資を計画しており、減税でこれが前倒しになると言います。財務省は減税策の規模を120億円程度と見込んでいるそうです。

新産業育成へ投資減税 ベンチャー・5G支援へ大綱決定 (写真=共同) :日本経済新聞

ただ、各社の投資計画は既に5Gの電波割当を行ったときにもう決まっているわけで、今回の減税で2年のうちに前倒しはしても、更にどれくらい積み増しになるかは分かりません。ただ、現在の投資計画自体では、あと5年たっても、5Gはどこでも利用可能とはならないようです。今年4月9日の日経の記事から引用します。

総務省は5Gの参入条件として全国を10キロメートル四方に区切り、5年以内に50%以上のブロックで5G基地局を整備することを求めている。ドコモとKDDIは5年以内に9割超のブロックで基地局を整備する計画を提出したもようだ。ただしブロック内に1カ所でも基地局を整備すれば条件を満たすことができる。全国をくまなくエリア化するまでには時間がかかりそうだ。

www.nikkei.com

なお、通信基地局の世界シェアで、日本メーカーは以下の通り、ほぼ存在していないも同様です。通信会社が投資してもベンダーの多くは欧米か韓国の企業になるので、波及効果は限られるでしょう。

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出所:内閣官房

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/dai32/siryou1.pdf

もう一つ、スタートアップへの投資を促す、オープンイノベーション税制はどうでしょう。

こちらについては、減税の規模が小さすぎると思います。政府が問題視した内部留保は460兆円、現預金も220兆円という規模ですから、投資も「お豆腐屋さん」の単位、兆のお金を刺激するような減税であるべきでしょう。しかし、今回、大企業の交際費減税を削って調達したのは800億円の損金算入額、減税として企業に還元されるのは更に少ない金額です。以前も、本ブログで書いた通り、全然少なすぎます。

逆進性のある金融所得税の是正、また見送り。合計所得1億円超の1万7000人のみ金融所得税の増税を。 - 日本の改革

 この税制が出来たのは、官邸の未来投資会議での議論で決めた、今年度の成長戦略実行計画の考え方によるものです。

最近のアメリカでは、ベンチャーキャピタルがスタートアップを支援するよりも、むしろ既存の大企業が、豊富な資金力を使って大規模な投資をスタートアップにつぎ込んでいるようだから、これをマネしよう、ということでした。下の左側のグラフ、図19にある通り、新規上場企業は日本はアメリカに近くなっているけれど、下の右側のグラフ、図20にある通り、M&Aが少なすぎる、これは大企業によるベンチャー投資が少ないからだ、ということでした。

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出所:内閣官房

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/ap2019.pdf#search=%27%E6%88%90%E9%95%B7%E6%88%A6%E7%95%A5%E5%AE%9F%E8%A1%8C%E4%BC%9A%E8%AD%B0%27

この考え方を認めるとしても、さっき書いた通り、減税の規模が小さすぎて、「大企業のたまりカネを吐き出させて最先端の投資をさせます!」という看板ほどの効果は生まれないでしょう。

もう一つ、アメリカでの大企業によるスタートアップ投資は、良いことばかりではありません。特に、IT大手プラットフォーマーによるスタートアップ買収は、かえって技術革新を停滞させている可能性があるし、寡占も進めてしまう、プラットフォーム企業が利用企業を買収すれば利益相反も起きる、ということで、プラットフォーマー分割論まで出ていることは、本ブログで何度も紹介した通りです。

ついにアメリカでも、グーグルとフェイスブックを反トラスト法で調査。企業分割は必要でも、現行法も問題あり。 - 日本の改革

アメリカで盛り上がるGAFA解体論:アマゾンやフェイスブックから受ける消費者の利益・不利益とは? - 日本の改革

 必要なのは、法人税の大減税と課税ベースの拡大

では、成長重視で投資を促すためには、法人税改革は、どのように行うべきでしょうか?

私は、法人税の実効税率を20%まで大幅に下げる、そのかわり、租税特別措置という各種の減税措置は全廃し、内部留保課税を導入する、というのが目指すべき方向だと思います。

まず、大減税による投資促進ですが、トランプ政権と同様のことをやるべき、ということです。アメリカに見習うべきは、大企業がスタートアップを買収してしまうことではなくて、そもそも企業の税負担自体を大幅に下げて、それこそ「日本ファースト」で、企業が国内に戻り、投資のリスクも取りやすくすることです。日本ファーストと言っても、我が国の法人税率はかなり高い方なのですから、特段、利己的な政策というわけではなく、他国との競争条件を揃えましょう、ということです。

トランプ政権は、2017年12月に大減税法案を成立させました。本格的な税制改革としては、レーガン減税以来、約30年ぶりで、減税規模は10年間で1.5兆ドル(約170兆円)、肝心の法人税率は、翌2018年から、それまでの35%から21%に下がりました。

www.j-cast.com

これだけやって、景気が悪くなるはずがありません。

ウォールストリート・ジャーナル(の日本語版<(_ _)>)によると、減税が18年初めに実施されると、2018年の米国経済は、なんと年率3%のペースで成長しました。その後低下して、2019年第3四半期の成長率は年率1.9%にはなりましたが、直近1年の成長率は2%です。ウォールストリート・ジャーナルの経済担当チーフコメンテーターのグレッグ・イップ氏は、これでは、2011~17年の平均成長率とほとんど変わらない、とか、最初約束したほどではない、とか言っていますが、この10年間アメリカは2%くらいの高成長だということですし、減税初年度にはそれを3%にまで高めた、ということです。

しかもこれが、2018年以降には、中国と本気で貿易戦争をやってすさまじい関税合戦をしている真っ最中のことです。そのうえ、ヨーロッパとも貿易で散々もめる、下院の選挙では民主党に負けると、散々すったもんだしながら、先進国としては安定した2%成長を去年も今年も達成しています。株価も雇用も絶好調で、何度も書いている通り、そのせいで、どれだけ批判されても底堅い支持率を保っています。

jp.wsj.com

トランプ政権は、まずガツンと法人税の大減税で成長重視の姿勢を打ち出して、経済成長を達成し、経済には一時的にマイナスでも国益になる米中戦争を行える余裕を作った、と見ることができます。

日本が見習うべきは、こういう大胆でダイナミックな法人税改革です。もちろん、ただ減税するだけではなく、減税によって出来た余裕をちゃんと国民に還元させる必要があります。

法人税率を下げるだけでは、法人税収が減るだけで、れいわ新選組共産党が言うように、法人税の穴を消費税で埋めるだけのことになりそうですが、そうはなりません。「法人税パラドックス」と言われますが、法人税率を下げても、色々な抜け穴を防げば、法人税収は大して変わらないようにできる、と言われています。

要するに、税率を下げても、それでかえって企業収益が上がるし、個人の法人成りも増えるし、そのうえ、色々な制度的抜け穴をふさげば、ちゃんと法人税収を以前通りに確保できる、ということです。

法人税パラドックスについては、政府税調で佐藤主光教授(一橋大学)が説明用に使った資料のリンクを貼っておきます)

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20140312_25dis31kai7.pdf#search=%27%E6%B3%95%E4%BA%BA%E7%A8%8E%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%27

ここで言う「抜け穴」の最たるものが、租税特別措置という減税措置です。今回の、5G減税だとか、オープンイノベーション税制とかも、結局はその一種です。

自民党がやっている毎年の税制改正というのは、各業界の要望、各役所の要望を聞きながら、ひたすらこの租税特別措置を作ったり削ったりして、プラスマイナスでゼロにするだけの作業です。各業界団体の要望ごとに、「電話帳」とか言われる分厚いリストで、〇、△、×をつけていくんだそうです。

自民党は何十年もこのやり方で税制を決めているので、今となっては主な租税特別措置は、まるで根雪のように残ってしまい、完全に各業界団体の既得権となっています。本ブログでも、その既得権の一つ、研究開発減税について、研究投資を増やしても減らしても、これまで通りに使っている「根雪」のような研究開発費について減税を受けられる「総額型」は完全に既得権化しているので、廃止すべきだ、と主張しました。

大企業ほど軽くなる法人税負担率:研究開発減税の「既得権」部分は廃止を! - 日本の改革

本来は、総額型だろうが何だろうが、租税特別措置による減税は全て廃止して、国民にも国会にも、そして官邸にも分かりやすい、補助金の形で色々な政策を行うべきです。今回の5G減税だのスタートアップ投資だのというのも、補助金でやるべきでした。

そもそも、この租税特別措置というのは、1970年代頃から急に増えてきたそうです。

 経緯については、森信茂樹氏の以下の本の78~79頁に出ていますが、要は、石油ショック以降に大蔵省が各省の予算に厳しくシーリングをつけ始めたので、それを嫌って、税制に逃げた、ということで始まって、業界団体も税制での陳情を増やすようになってどんどん租税特別措置が膨らんで、今ではもう税制全体を怪物のように複雑膨大なものにしてしまった、ということです。

税で日本はよみがえる ―成長力を高める改革

税で日本はよみがえる ―成長力を高める改革

 

 こうした租特の一番大きな問題は、税収を減らすこと以上に、納税者である企業のプライバシーを理由に、個別企業が各租特でどれくらいの利益を得ているのかが分からない、ということです。補助金なら、支出先は原則として全て公開されますし、行政事業レビューシートのように分かりやすい整理された資料も公開されています。租特から補助金に変えれば、情報公開も徹底できます。

そして、大規模減税の代わりに租特を廃止するのですから、補助金として残すものは本当に必要最小限度にして、可能な限り、租特を廃止したうえで、補助金にもしないようにして、減税の財源にすべきです。既に補助金補助金で極めてたくさんあるのですから、種々の政策目的は、原則として補助金の組み替えで実現していくべきです。

そのうえで、内部留保課税も導入します。実効税率が現行の30%弱から20%まで下がれば、さすがにリスク取って投資をしやすくはなるはずですが、大粒のアメをあげる以上、ムチもそれなりに厳しくふるう必要があります。アメリカの留保金課税制度を更に強化して、投資・雇用・配当にお金が回るような、日本型の内部留保課税制度を作るべきです。

そして、一番重要なことは、こうした大改革をするために、税制を決めるための政治過程を変えることです。法人税に限らず、日本の税制が抱えている一番大きな問題は、それを決めているのが政府ではなくて、自民党(と公明党)という「政党」になってしまっていることです。

予算と法律も、自民党政務調査会で、いわゆる事前審査制によって決めたうえで、政府案が作られて、国会に提出されます。税制も法律ではあるから基本的に同じではありますが、税制の場合は、自民党税制調査会が、業界団体の要望リストの「電話帳」で細かいところまで実際に全てを決めて、政府の税制改正案はそれを追認するという形になってしまっています。毎年毎年、政党内部で、情報公開などほぼ全く行わないで、業界団体と役所と政治家が話し合って、「インナー」とか呼ばれる一部政治家達が最後は決める、というやり方です。

安倍政権は、この過程を少しは変えたのが立派でした。たとえば、政策としての是非はともかく、党の税調が反対していた消費税の軽減税率を、官邸主導で押し切りました。そういうことはあったにせよ、基本的には自民党税調がまず決めるというやり方は同じです。来年度税制改正も同じで、税調会長の甘利氏が首相寄りだから、例年よりは少しは財務省への忖度が少なかった、ように見えるだけです。

これでは、業界団体でがんじがらめの中での微調整しか出来ません。来年度税制大綱の目玉の投資減税も、誠にしょぼいものです。

今後は、予算案について経済財政諮問会議が出来たように、内閣府税制調査会の権限をもっと強くしていくべきでしょう。もちろん、それが財務省や官邸官僚の跋扈を招くだけではいけません。税制改正の権限を自民党から政府に奪い返すためには、総理大臣が、国民の高い支持を得ていることが必要です。そうした形を作って、法人税については大減税、租税特別措置は原則全廃、内部留保課税導入という改革を行うべきです。

税制全体のビジョンについては、また今度書きたいと思います。