日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

社会保障制度改革は中途半端、「自然増」の圧縮幅は例年よりやや少ない1200億円。政治への信頼がないと大改革は無理。

社会保障制度改革、医療では、主に開業医のために診療報酬本体アップ、介護では本人負担2割への引き上げはなし。社会保障費の自然増の抑制は、安倍政権の例年実績よりやや少ない1200億円になりそうです。政権への信頼がないので、大胆な社会保障改革は今後も難しいでしょう。

医療は相変わらず開業医重視の報酬アップ

12月17日、自民党は、党本部で人生100年時代戦略本部(本部長・岸田文雄政調会長)の会合を開き、全世代型社会保障改革に関する提言をまとめました。この自民党の提言は、政府の全世代型社会保障検討会議が12月19日にまとめる中間報告の土台になります。日経は、内容が中途半端だと言っていて、「年齢別ではなく経済力に応じた「応能負担」の原則は盛り込んだものの、慎重論を踏まえ、高齢者の負担増は限定的なものにとどめた」と評しています。

www.nikkei.com

記事によると、自民党の会議には、支持団体との政治的折衝も期待されていたのに、官邸がやる気なさそうなら、党もやらない、むしろ支持者に近い立場で忖度する、という感じだったようです。

日経が問題視するのは、たとえば、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を、一律で1割から2割へ引き上げる案が、「高所得者のみ」となったこと等です。

これについては、私も以前、本ブログで取り上げました。そこで書いたことは、必ずしも一律の引き上げでなくていい、むしろ、年齢でなくて所得・資産などの能力に応じての負担にした方が良いので賛成、ということでした。

日本医師会が自民党との会合で「カ~ネくれ!」と一本締め:2020年度診療報酬改定、国民のカネは開業医から勤務医へ回せ - 日本の改革

このため、私は日経とは違って、本人負担が一律2割にはならず、所得・資産が高ければ2割に上げる、というのは賛成です。日本医師会さんの主張と珍しく?いっしょなのですが、そこは是々非々です。

ただ、診療報酬についての決着はいただけません。診療報酬は全体で0.46%マイナス、薬価は1.01%マイナスで、医師の技術料にあたる「本体部分」は0・55%プラスです。これについては、加藤勝信厚生労働相麻生太郎財務相の大臣折衝で合意済みです。

これについても、上のリンクに挙げた同じブログで書きましたが、医師の取り分である本体部分の引き上げも、必ずしも反対しません。勤務医の働き方改革が急務だからです。病院の勤務医の数を増やしたい、あるいは、ジョブシフトを進めて看護師等の数を増やすため、人件費分を上げたい、あるいは、無給医やサービス残業を根絶するため、法律通りの給料を支払うために必要だ、というなら、本体部分の引き上げには、むしろ大賛成です。

しかし、大臣折衝での決着は、本体部分0・55%(国費約600億円)引き上げのうち、医師の人件費などは0・47%で、救急病院の勤務医の働き方改革に限定されている部分は、わずか0・08%分だそうです。

診療報酬0.46%下げ 薬価マイナス1.01% 来年度 - 毎日新聞

0.47%のうちの0.8%ですから、勤務医のための引き上げは、割合にして17%くらいにしかなりません。引き上げ分の80%超は、主に開業医さんに回るということではないでしょうか。

これとは別に、医師の過重労働是正に向け、国と自治体合わせて計143億円の基金の枠を新たに設けるということで、それは結構なのですが、上のブログで書いた通り、国が開業医に払う分を更に勤務医に回すべきだったと思います。

というわけで、医療に関する改革は、本人負担のところは良いとして、診療報酬の本体部分について、開業医の取り分への切り込みや勤務医の働き方改革への取り組みが足りないと思います。はっきり言って代わりが効くクリニックのお医者さんへの技術料はばっさりと切れば、医師不足の地方や最先端医療で頑張っている勤務医の皆さんへの給料を大きく上げても、なおお釣りが来る、つまり、全体として本体部分を下げることさえ、可能ではないかと思います。

介護は91%の人が本人負担1割未満

12月16日に、厚生労働省は、社会保障審議会介護保険部会で、3年ごとの介護保険制度改正に向けた改革案を示しました。高所得者の自己負担額の上限を引き上げて、具体的には、上限を、年収約770万円以上が月9万3000円、年収約1160万円以上は月14万100円にします。数字を見ればかなり重く見えますが、「上限」ですし、医療保険と同程度なので、やむを得ないと思います。

また、介護施設に入る低所得者への生活費の補助も縮小します。住民税が非課税となるような低所得の人に特養の食費等を補助する「補足給付」制度について、現状では、預貯金などの金融資産が1千万円以下の人だけが受けられなくなりますが、その基準を引き下げ、所得と資産に応じて細かく分けます。ざっと3段階なのですが、制度の詳細はものすごく細かいです。低所得者への負担増なので、出来るだけ丁寧に考えたのでしょう。

これも、低所得者向けに負担を増やすのですから、そこを見ればひどい話です。が、食費と居住費の補助なのですから、もともと本人が出来るだけ負担するべきものではあります。

一方、介護保険は、原則1割が自己負担ですが、これを2割負担に上げる対象者を広げる、といった抜本的な改革は見送ります。日経はここも、踏み込み不足だ、と言っています。

第88回社会保障審議会介護保険部会

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000576824.pdf

www.nikkei.com

介護保険制度は2000年に始まった比較的新しい制度で、国民の理解を得るために、当初かなり気前の良い制度にしたという一面はあります。このため、ちょっと本人負担が少なすぎるのは制度の課題とされてきました。

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出所:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000576825.pdf

上の図のように、自己負担は原則1割なうえ、負担の上限制度(高額介護サービス費等)と「補足給付」制度で、更に自己負担は減っています。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20191009/01v2.pdf

介護保険の由来を振り返ってみると、1970年に老人医療費の自己負担をゼロにしてしまったところ、いわゆる「社会的入院」が激増して医療費がパンクしそうになり、一方で老人福祉というのがお粗末極まるものだったので、医療よりは安価で、かつての老人福祉よりはサービスが良い社会保険、ということで始まったものです。このため、医療費を減らすことで、社会保障費全体の伸びを抑えることも期待されていました。

ところが始めてみると、自己負担も低いし、かつての老人福祉よりサービスが良くて順調に利用が伸びた、のは良かったですが、こんな風に給付ばかりが伸びすぎました。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20191009/01v2.pdf

給付(費用)は3倍になりましたが、保険料は2倍にしかなっていません。医療費のせいで急増する社会保障を抑えるために介護保険を導入したという面もあるのに、医療に劣らないスピードで給付が増え、しかも保険料とのギャップが開くばかりです。これではつぎ込むべき税金が増えるばかりです。

と言うわけで、介護については、世代間の公平ということも考えて、やはり自己負担を増やすことも必要になります。それが、今回の改革では、踏み込み不足なのは確かです。

社会保障費の「自然増」の「抑制」は、来年度は1200億円か

というわけで、医療も、介護も、今回の社会保障制度改革は、いまひとつ歯切れが良くありません。歯切れが良くありませんが、それなりに自己負担を増やしたのも確かです。では、仮に制度を変えなかったとして、人口の高齢化だけで、つまり「自然増」で伸びるだけの分について、どれくらい抑制できたのでしょうか。

毎日新聞によると、以下のようになるそうです。

薬価の引き下げで国費を約1100億円圧縮し、本体部分で増える約600億円と差し引きすると、全体の削減は約500億円となる。概算要求段階では約5300億円と見込まれていた高齢化に伴う社会保障費の自然増を介護などほかの制度改正と併せて約4100億円まで圧縮する。

診療報酬0.46%下げ 薬価マイナス1.01% 来年度 - 毎日新聞

とりあえずこれを信じると、自然増を前提とした概算要求5300億円を、診療報酬削減と介護などほかの制度改正と併せて4100億円に圧縮したのだから、自然増の抑制分は、差し引き1200億円になるのでしょう。

安倍政権になってからの「自然増の圧縮」は、以下のように推移しているので、昨年度と同程度、他の年度よりはやや少ない程度です。

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出所:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000474989.pdf#search=%27%E5%8C%BB%E7%99%82+%E4%BB%8B%E8%AD%B7+%E4%BF%9D%E9%99%BA+%E4%B8%80%E6%9C%AC%E5%8C%96+%E7%B5%B1%E5%90%88+%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E5%B9%B4%E8%A1%A8%27

ということで、総理があれだけ頑張って「全世代型社会保障改革」と言って、消費税はもう上げないから歳出削減で頑張ります、高齢者に理解を求めます、と言っても、結局は例年通りです。で、それではカイカクが足りない!と、日経(や私?)が文句言うのもいつも通りです。

www.nikkei.com

ちなみに、3年前の介護保険制度改革のとき、日経は同じように批判しています。

介護保険、高所得者頼みに限界も 17年度から負担増 :日本経済新聞

ただ、私は、安倍政権の財政運営の下では、社会保障で歳出削減などそう簡単に出来ないのは当たり前だと思います。身を切る改革のポーズさえしないで、行政改革なんてほとんどやらないで、消費税だけは自分が悪口言いたい放題の民主党政権で決めた通りに2回も上げている、そんな内閣が、高齢者の怒りを買うような社会保障費削減を出来るわけがありませんし、もっと言えば、やる資格もないでしょう。

たとえば介護保険について、自己負担を増やした方が良いのは確かですが、その前にまず削れるところを出来るだけ削って、一人一人の国民の生活に直接影響する支出は、最後に手を付けるべきです。たとえそれが高齢者向けの支出であってもです。

小泉政権は、毎年2200億円ずつ社会保障費を削減して、恨まれ、叩かれました。診療報酬の本体部分を初めて切ったので、医師会が怒って民主党支持に回ってしまいました。それでも圧倒的に国民の支持があったのは、消費税は絶対に上げないと約束して、とにかく徹底的に行革を行おうとしたからです。小泉政権の場合、その姿勢に対する国民の信頼が極めて厚くて、政治家がいわゆる「身を切る改革」などしなくても、ずっと高支持率のままで駆け抜けました。議員の定数や報酬がどうの、文通費がこうのと、そんなこと言わなくても、あの孤高の総理の姿勢を、国民は支持していました。

社会保障制度改革が不十分だと叩くのは簡単で、本ブログもしょっちゅうやってます(笑)。しかし、それを本当に実現しようと思ったら、少なくとも、消費税増税の封印と徹底行革、そして歳出削減の際には、正直に国民に向き合って語りかけることが必要です。安倍政権に社会保障制度改革が出来ないのは無理もありません。