・「グレタはまず中国に文句言え」。もっともなようで、パリ協定上は無理です。条約上の義務が、先進国と開発途上国で全く違うからで、先進国が排出絶対量を減らして「先頭に立つべき」とされているからです。国際的な枠組みであるパリ協定は守りつつ、中国のCO2排出を減らすには、先進国が一致して削減策を強化することが必要です。
・日本では既に事実上の脱原発は成功、脱石炭も反対しているのは経済団体と連合だけ。小泉純一郎氏が言う通り、中長期的には自然エネルギー100%を目指すのは現実的です。
「なぜ、日本ばかりが責められるのか」
COP25が、成果なく終わりました。12月15日閉幕したCOPは、会期を2日間延長したものの、温室効果ガス排出の削減目標引き上げは盛り込まれず、「可能な限り高い野心を反映するように強く要請する」という表現の文書しか出せませんでした。
成果文書、強くうたえず 温室ガス削減目標引き上げ COP閉幕:朝日新聞デジタル
積極的だったEUは、2050年までの排出の実質ゼロを打ち出し、いやがるポーランド抜きで合意をつくりました。しかし、排出量が多い国はみな、やる気がありません。
排出量1位の中国と同3位のインドは、ブラジルと南アフリカとともに、「我々は国情に基づいて野心的な気候対策を行っており、大きな進展をしている」と、目標は引き上げないと宣言。同2位の米国はパリ協定から離脱手続き中で、同5位で、温暖化対策の長期戦略を今年作ったばかりの日本政府は引き上げの検討すらしていない、というのが、朝日新聞のまとめです。
このように、温室効果ガス削減に消極的なのは、日本だけではありません。むしろ、日本よりも排出量の多い、中国、アメリカ、インドが、削減幅を増やす気がないではないか、なぜ、日本ばかりが化石賞がどうのと言って、叩かれなければいけないんだ、という反応が見られます。
一見もっともな話ですが、それでも、日本は石炭火力をやめる具体的な見通しを示すなど、もっと踏み込んだ対策を行うべきでした。
まず、先進国のアメリカについては、日本より排出量が多いから何とかすべきなのはその通りなのですが、連邦はともかく、各州は連邦政府の言うことを聞かずに独自の厳しい環境規制を導入しており、連邦は州とのほとんどの裁判で負けています。実態としては、それなりの規制を行っています。
トランプ政権の環境規制緩和、敗訴率8割超。日本政府・企業は、現政権は無視して州の厳しい規制の尊重を。 - 日本の改革
こうしたこともあってか、トランプ政権は炭鉱労働者にも配慮するという姿勢だったはずですが、実際には、石炭火力発電を減らしているようです。
Trump promised to save coal—the numbers show otherwise. pic.twitter.com/5GOsROLPHH
— Steve Westly (@SteveWestly) 2019年11月26日
トランプ政権の対応は確かに問題であり、日本も批判すべきですが、自治体の対応まで含めて、そして口で言っていることと実際とが違うこともあるようで、実はそれなりの対応をしています。たとえ日本が批判しても、すぐ日本の対応不足を指摘されて、話は進まないでしょう。
問題は、中国やインド等の発展途上国の反応をどう見るべきか、です。特に中国です。私は、中国の独裁制と覇権主義を批判し続けており、国際社会が香港人や中国国内の改革派等と組んで、中国共産党を倒して民主化を実現するべきだと本気で信じており、本ブログでそう主張し続けています。
しかし、CO2削減については、パリ協定の枠組みで中国に義務履行を迫るべきと考えています。当面、これ以外の条約や、まして軍事力や経済制裁といった強制的な手段で中国のCO2削減を実現する手段がないからです。パリ協定は、中国も調印しているのですから、まずはこの枠組みで義務を果たせと主張するのが、一番実効性が高い方法です。
パリ協定は、先進国と発展途上国について、全然異なる義務を決めている
そして、パリ協定上は、まず先進国が厳しい義務を設定・履行し、むしろ発展途上国のCO2削減を支援せよ、ということになっています。
この点は、パリ協定の第4条4項、5項に明記されています。
4 先進締約国は、経済全体における排出の絶対量での削減目標に取り組むことによって、引き続き先頭に立つべきである。開発途上締約国は、自国の緩和に関する努力を引き続き強化すべきであり、各国の異なる事情に照らして経済全体における排出の削減目標又は抑制目標に向けて時間とともに移行していくことが奨励される。
5 開発途上締約国に対しては、開発途上締約国に対する強化された支援がその行動を一層野心的なものにすることを可能にするとの認識の下で、この条の規定を実施するための支援を第九条から第十一条までの規定に従って提供する。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop/shiryo/10a01tr_jp.pdf
このように、「絶対量での削減目標に取り組む」ことで「先頭に立つべき」は先進国なのです。
理由は簡単で、18世紀半ば以降、累積で地球温暖化に一番原因があり、しかもそれによって現在の高い生活水準を享受しているのは先進国だからです。そして、発展途上国はこれから成長する権利はあるはずで、政府も社会全体もインフラが未熟なところから、いきなり高い基準の環境規制をクリアすることが難しいからです。少なくとも、こうした価値判断に立って、先進国も発展途上国も含めた、世界全体での条約としてパリ協定が出来ています。
この合意の基礎となる価値判断自体を否定してしまうのも、一つのやり方でしょう。現に、トランプ政権はそうしようとしています。
では、同じことが日本に出来るでしょうか。私は絶対に無理だと思います。
今回のCOP25で、日本は石炭火力発電の削減目標を更に上乗せしたり、現在の約束の実効性を高くする新たな方法を何も打ち出しませんでした。私はそれを問題だと思っていますが、現状では、何かパリ協定に明確に違反することをしたとまで言えません。それでも、これだけ批判されています。
日本だけ批判されるのが嫌だと言って、本当にパリ協定から離脱したら、どんな反応が起きるでしょうか。EUは今回のCOP25に合わせて、2050年までにCO2排出ゼロを目指すとして、国境炭素税という制裁措置を盛り込もうとしています。アメリカを念頭に、国際目標を重視していない国々の企業との不公平な競争から域内企業を守るため、外国企業に選択的に課税する権限を持とうということです。反発するアメリカを尻目に、EUは既にそこまでやろうとしています。
温暖化ガス削減、企業に迫る EU「50年に実質ゼロ」 (写真=ロイター) :日本経済新聞
今でさえ批判されている日本が、このうえアメリカのようにパリ協定脱退などと言ったら、更に厳しい制裁を科される可能性があります。日本には、パリ協定の枠組みの中で義務を履行するしかないのです。今さら、発展途上国の義務が甘いのが気に食わない、まず先進国が義務を負うべきというのがおかしい等と言っても、全く通りません。
先進国に第一義的な削減義務が課されているのは、何も「発展途上国可哀そう」という歴史観だけによるものではありません。一人当たりのCO2排出量で言えば、産油国と原発依存度の高い国を除けば、先進国の方が発展途上国よりも多くの排出を行っており、仮に国際社会で人間の人格的価値が等しいとするならば、まずは先進国が削減の努力をする方が公平だからです。
先進国でCO2排出量が少ないのは、以下のようにフランスやイギリス等、原発依存度の高い国です。日本で原発依存度を高める選択肢がもうないのは御存知の通りであって、日本は、原発も使わず、石炭火力も段々と減らしていく政策が必要です。
第一、日本は既に、2050年までにCO2排出量を80%減らすということを、長期戦略にはっきり書いています。
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/mat2.pdf
しかし、これから更に石炭火力発電を新設すると言うのですから、40年間発電所を使うとして、2050年をまたいで10年間は石炭火力発電を使うことになります。そのうえ既存の石炭火力発電も減らさないということなら、国際社会に宣言した長期戦略自体がウソではないか、ということになります。実際、電力会社の計画によると、今後10年、石炭火力発電は全く減りません。
https://www.occto.or.jp/kyoukei/torimatome/files/190329_kyokei_torimatome.pdf
以上を含めて、UCバークレーでエネルギー・環境政策を専門としているPhD.studentの白石賢司氏が、私などより分かりやすく正確にスレッドにまとめていますので、是非ご参照ください。
なんで日本だけこんなに石炭火力発電のことで世界中から批判されているのだろう?と思われる方が多いようなので、短く解説します。(スレッド)
— Kenji Shiraishi (@Knjshiraishi) 2019年9月25日
第一に、石炭火力発電は、発電する電気量あたりのCO2排出量が天然ガスで発電する場合の約2倍です。
https://t.co/NGhy69fnLi
以上を踏まえれば、国際的な枠組みであるパリ協定は守りつつ、中国のCO2排出を減らすには、先進国が一致して削減策を強化することが必要です。もちろん、米中冷戦に参加して、中国を経済的にいったん追い詰めて、エネルギー消費自体を減らすような低成長にもっていくことも、可能ならやるべきです。その場合でも、パリ協定はパリ協定として中国を条約で縛り、米中冷戦は冷戦で、正面から締め上げるというに正面作戦でやるのが、中国のCO2削減には効果的でしょう。
エネルギー政策に限っては、細野豪志氏等より、小泉純一郎氏を信頼する
今回、私がちょっと失望したのは、細野豪志氏です。
気候変動と脱石炭の流れは止まらないでしょう。省エネは有力だが再エネは時間がかかります。
— 細野豪志 Goshi Hosono (@hosono_54) 2019年12月14日
中長期的には様々な方法を模索すべきですが、短期的には安全性が確認された原発の再稼働を認めるのが現実的選択肢だと思います。
現時点で気候変動、脱石炭、原発即ゼロを同時に目指すと八方塞がりになる。 https://t.co/BLf2POuCuj
失望、と言っても、「ちょっと」です。なぜなら、エネルギー政策については、どうせ大概の政治家はこの程度の見識だろうと思っているからです。
まず、原発即ゼロは、既にほぼ実現しています。政治的現実としても、原発を今後どうするかについては、どの社が何回世論調査をやっても、脱原発が多数になっています。経済界と労組と立地自治体はこだわってきましたが、それも関電の事件のせいで、全て終わりです。経団連会長が政治家は逃げずに何とかしろと言っても、官邸含めて馬耳東風。誰も原発ルネッサンスで旗振りなんかやりません。
電力会社さえ原発推進は腰がやや引けていたのを、関電だけが必死で引っ張ってきたようですが、あそこが原発を柱でいくことは、もう出来るはずがありません。労組と自治体は気の毒と言えば気の毒ですが、もう諦めるしかないでしょう。
原発が安全保障上必要だ、という意見についても、以前、本ブログで取り上げました。小泉純一郎氏いわく、核武装のためと言うのもウソです。実験場なんか日本中どこも作れないのですから。
脱石炭はどうでしょう。石炭が安全保障上必要だ、という意見については、以前、本ブログで批判しました。中国の一帯一路に対抗するためには、自由と平和のためには石炭だ!という電力中央研究所出身の人の言い分でした。その一帯一路に日本政府が協力している事実に目をつぶって、平気で変なウソを言っています。
石炭についても、原発と同じです。炭素税などのカーボンプライシングが進まないのは、経団連も商工会議所も連合も反対している、つまり、自民党も旧民主も両方やる気がないから、というだけの理由です。
経団連:パリ協定に基づくわが国の長期成長戦略に関する提言 (2019-03-19)
温暖化で成果見込めないG20。日本の環境政策は、欧州緑の党の「炭素税・配当」政策と、アメリカの「グリーン・ニューディール」を取り入れるべき! - 日本の改革
連合の神津会長が「連合は原発推進派ではない」と大嘘。傘下の電力総連等は、経団連同様、原発再稼働も推進、石炭火力発電も推進で、国民民主党を拘束。 - 日本の改革
これでは、民主党政権で脱石炭なんて、出来るわけがありません。連合が反対しているのですから。細野氏は賢いから、担当大臣としてちゃんと空気を読んだのでしょう。
優等生の細野氏は、今また自民党内で空気を読んでます。逃げずに現実的なエネルギー政策を語ってくれた!脱石炭なんてとんでもないという、経団連と日本商工会議所の言う通りのことを言ってくれた!何なら原発再稼働まで言ってくれた!肩を落としている関西電力の人達や、経団連会長にとっては、どれほど甘い慰めであることでしょう。
どれもこれも、自民党に移ったばかりで気軽な立場で、支持団体や一部支持者に覚えのめでたい立ち居振る舞いを賢くとっているだけに見えます。
民主党政権にあっても、自民の外様になっても、エネルギー政策については、国民の方を向かずに、支持団体や一部支持者に向けたメッセージを発しているだけ。今は身軽だから、原発再稼働などと、一部の人達には歓迎されることを言えますが、大臣にでもなれば、とても無理です。安倍政権さえもう諦めてダンマリなのですから。入閣すればしたで、賢く振舞うでしょう。
こんな人の主張よりも、私は、小泉純一郎氏の、脱原発かつ脱石炭で、自然エネルギー100%を目指す、という理想の方がはるかに国民を動かす力があり、したがって実は現実的だと思います。
平たく言えば、細野豪志氏よりも、そして、この問題について発言している誰よりも、政治的な実績のあるのが、小泉純一郎氏です。自民党をはじめ、全政党が反対だと言った郵政民営化を、たった一人の信念で本当に実現した人です。総理在任中は、原発はクリーンだ、つまり、CO2削減が出来ると思って推進していたのだから、もともと脱化石燃料の政策を、「総理大臣として」進めた人です。その人が、311を経て、色々と自分でも勉強して(元総理の「勉強」は本読むだけではありません)、脱原発、脱化石燃料で自然エネルギー100%でいける、と本気で信じて、残りの人生を賭けて戦っています。
脱原発と脱石炭の両立は非現実的だ、役所は大概のことは検討している、などというのも間違いです。どの総理も、その両方を達成するよう検討を指示したことは一度もありません。ミサイル防衛システムも、最初はレーガンの素人考えから始まったSDIがスタートでした。誰も考えたことがない、アメリカ政府で検討されたこともない考えでしたが、核兵器を無力化すべきだという信念一つでレーガンはSDIを作り、それがソ連を崩壊させ、ミサイル防衛システムとなりました。こういう歴史を変える大きな決断で、役所の今までの相場観など、大した意味はありません。役所と自民党の中の相場観なら、一番良くわかるのは、長く総理大臣を務めた人だけでしょう。
郵政民営化に文字通り命を懸けて、自民党も民主党も含めて全ての政党が反対した郵政民営化を、国民の支持一つで実現した政治家、小泉純一郎氏が、今本気で実現できると信じている事実を、私は重く見ます。本当に申し訳ないことですが、エネルギー政策というこの重大問題について、こればかりは、発言する資格というものも問われると考えています。