日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

通商政策で民主党とも協力するトランプ政権:「アメリカ・ファースト」は他国にも悪い面ばかりではない

トランプ政権の「アメリカ・ファースト」の通商政策、民主党も実は賛成です。このため、民主党が政権を攻めあぐねており、各州でのトランプの支持も上向きです。自国民の生活水準を重視した「アメリカ・ファースト」の政策は、途上国の人権保障にもつながり、自由貿易システムの本来の目標と合致している面もあります。

アメリカの世論調査、全国規模でボロ負け、各州で健闘のトランプ候補

最初に、最近のアメリカでの世論調査を見ていきます。

来年の大統領選に向けた世論調査では、全国的な調査で、「トランプ対バイデン」でどちらを支持するか、という形で聞くと、トランプ氏は民主党の政治家に全然勝てていません。そこを見ると、来年の大統領選は民主党が勝ちそうです。

しかし、各州ごとの調査になると、最近はトランプ有利の結果が出ています。この半年くらいで、トランプ氏がリードを広げたり、民主党有利でも差が縮まったりしています。

2016年の大統領選、全国調査ではヒラリーの方が有利に見えたのに、実際の選挙では、トランプ氏が勝ったように、各選挙区や選挙制度を意識した調査も当然大事です。

各種世論調査をまとめているリアルクリアポリティクスから、いくつか引用します。このサイトで、各州の各社・各機関の世論調査の結果を並べているところを「トランプ対バイデン」の結果についてて、見てみます。異なる世論調査の結果を単純比較は出来ませんが、ここでは割り切って、時間の経過とともに結果がどう変わっているかに注目します。

アルクリアポリティクスの「Latest Polls」で、11月下旬から12月16日までに、各州の調査結果があるものを拾ってみます。

RealClearPolitics - 2020 - Latest Polls

まず、前回、得票率差が特に小さい激戦州だったウィスコンシン州では、バイデン氏が一貫してリードしていますが、その差は、9月末~10月初の9%から、12月上旬の1%まで、段々縮小しています。

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Source: RealClearPolitics

RealClearPolitics - Election 2020 - Wisconsin: Trump vs. Biden

 次に、前回まあまあの接戦州で、しかも、全米で最初に党員集会を開くため、全体への影響が大きいとされるアイオワ州では、トランプ氏がリードしていて、その差が10月から12月にかけて広がっています。

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Source: RealClearPolitics

RealClearPolitics - Election 2020 - Iowa: Trump vs. Biden

伝統的に共和党支持なのに前回接戦になったテキサス州では、5月と8月はバイデン氏がリードしていたのに、10月と12月はトランプ氏がリードです。12月にトランプのリードが縮まりましたが。

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Source: RealClearPolitics

RealClearPolitics - Election 2020 - Texas: Trump vs. Biden

その他に、アイオワ州の次に党員集会があるニューハンプシャー州も前回大変な接戦州でしたが、そこでは11月に2種類の調査がありました。どちらもバイデンがリードです。日付が新しい調査の方が差が縮まっていますが、同じ月なので、時系列での世論の変化よりは、調査による違いの方が大きいでしょう。ここでは、バイデンがリード、ということしか分かりません。

RealClearPolitics - Election 2020 - New Hampshire: Trump vs. Biden

他の接戦州では、アリゾナ州では、10月のバイデンのリードが12月のトランプのリードに転じています。

RealClearPolitics - Election 2020 - Arizona: Trump vs. Biden

接戦州以外では、民主党がもともと強くて、バイデンが圧倒的にリードしているカリフォルニア州で、9月と11月の27、28%の差が、12月には20%になっています。

RealClearPolitics - Election 2020 - California: Trump vs. Biden

ということで、11月下旬から12月半ばまで、リアルクリアポリティクスに出ているものだけですが、11月の調査結果しか分からないニューハンプシャー州を除けば、接戦州も、共和党有利の州も、民主党有利の州も、大体において、トランプ氏がバイデン氏より有利に変わっているのが分かります。

通商政策で守勢に立つ民主党

なぜ、こういう結果になるのでしょうか?

一つには、マクロ経済の指標が良いということがあるでしょう。雇用も良いし、株価も上がっていて、現職には有利です。

それに加えて、トランプ氏の掲げた「アメリカ・ファースト」の通商政策が、それなりの支持を得ているのだろうと思います。というより、民主党がトランプ氏に対して、通商政策を批判できなくなっています。民主党もこの政策を事実上支持しているからです。

昨日12月15日、ポリティコに、アイオワ州でのトランプ氏のリードの理由についての記事が出ていました。

この州は、米中貿易戦争で農家が大変なダメージを受けているので、当地の民主党支持者は、民主党の政治家に、トランプの通商政策を批判してほしいと思っているそうです。民主党の候補(の候補)が皆、スルーしている、貿易についてふれようともしない、誠にけしからんと民主党支持者たちが不満に思っている、というものです。

www.politico.com

この記事にも出ていますが、特に大きいのは、「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」でしょう。これが出来る前の協定であるNAFTAを、トランプ氏は2016年の選挙戦で、TPPとともに目の敵にして、徹底的に批判してきました。そして、NAFTAの後継であるUSMCAが結ばれることになりましたが、これについて、米政府は民主党の言い分を数か月にわたって聞いて、彼らの主張を取り込みました。

特に、メキシコの労働基準の厳格化ということで、メキシコの主権の侵害にもなりかねない話でしたが、メキシコの労働法が守られているかを、なんとアメリカ政府が監視できるようになりました。

jp.wsj.com

米議会民主党、トランプ政権とUSMCAの修正で合意、早ければ来週にも採決か(カナダ、米国、メキシコ) | ビジネス短信 - ジェトロ

修正された協定を、民主党も、支持団体の労働組合も歓迎しています。この交渉が秋に行われて、ちゃんと民主党の言い分を取り入れるようになるところだったので、民主党の政治家達は、来年大統領選に出ようと言う人達まで、表立ってトランプ政権の通商政策を批判しにくくなっています。

民主党が最終的な合意をしたのは弾劾決議案を作った12月11日のことですから、最初に引用した世論調査の結果には、直接の影響をまだ及ぼしていないでしょう。しかし、民主党と労組が、政府や共和党とこの数か月にわたって、同じ方向で交渉していたので、大統領選に向けた議論では、あえてふれないようにしてきたのでしょう。

これに加えて、米中の第一段階の合意がありました。本ブログでも取り上げた通り、民主党の上院院内総務のチャック・シューマー氏は、弱腰だと言って厳しく批判しました。

アメリカ民主党、大統領の弾劾訴追案を発表、かえってトランプ再選の追い風に? - 日本の改革

しかし、大統領選の候補たちから、あまりはっきりした批判が聞こえてこないようです。先ほど紹介したポリティコの記事に出ている通りです。そうなっている原因は、米中貿易戦争の休戦を歓迎する世論もやはり強いからでしょう。

もともと、民主党候補達は、通商政策を大統領選の争点にしたくなさそうです。独自の通称・貿易政策をはっきりと打ち出したのは、ウォーレン氏ですが、彼女が掲げるのは、「経済的愛国主義」であり、たとえば中国に対して、ILOの基準を厳しく守らせる、というものです。

medium.com

G7でのトランプ発言「私が中国にやっていることは、25年前に行われるべきだった」 - 日本の改革

これは、アメリカの労働者の生活を守るために米中貿易戦争を仕掛けたトランプ氏と、同じ方向の政策です。だから、せっかく独自の政策を発表したウォーレン氏も、貿易政策を争点にしたトランプ批判をあまりやっていないようです。

トランプ政権の「アメリカ・ファースト」の貿易政策は、自国の労働者を守るという面では、民主党の政策と共通しています。だからこそ、「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」での超党派の合意も成立したのでしょう。

アメリカ・ファーストの通商政策は、世界に自由と民主主義を広める面もある

では、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」の通商政策は、アメリカの労働者にとってだけ良いものなのでしょうか?

私は、必ずしもそうではないと思います。運用次第で、各国の労働者の生活水準の向上も見込めるからです。

低賃金や奴隷並みの労働で輸出される格安商品を高関税でストップして、「アメリカに輸出したいなら、ちゃんと自国の労働者にまともな賃金を払って、コストかけて生活水準を保障しろ」というのは、たとえばメキシコや中国の労働者の生活水準を引き上げることになります。そして、こうした国々の賃金を引き上げることで、日本やヨーロッパのような高賃金の国の企業も、競争上優位になるでしょう。

また、「アメリカ・ファースト」の通商政策は、使い方次第で、大企業が不透明で不公正な形で政治に介入することを防ぐ契機になります。

これがはっきり表れたのが、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)での、トランプ政権の、米製薬企業に関する態度です。

ウォールストリート・ジャーナル(日本語版<(_ _)>)から引用します。

 もう1つの変更点は、米製薬会社が諸外国に特許保護の延長を要求できるとした規定が土壇場になって削除されたことだ。製薬業界はこれを新協定の標準として盛り込むよう働きかけていた。また、米多国籍企業が他国に投資する際の保護も盛り込まれなかった。これも最近の米貿易協定に顕著な特徴といえる。いずれの変更点もトランプ氏が貿易協定を、多国籍企業が外国でビジネスを行う助けとするのではなく、企業が国内生産を重視するよう促すことが目的だとみていることの現れだ。

 「これは、貿易障壁を引き上げ、投資家保護を低下させるために米国が結んだ初の貿易協定だ」。ジョージ・W・ブッシュ政権下で通商当局幹部を務めたダニエル・プライス氏はこう話す。

jp.wsj.com

つまり、製薬業界は、外国での特許保護の延長も、対外投資もやりにくなり、アメリカ国内での生産を促される、ということです。

これは、アメリカ以外の国にとっては、全体としてはマイナスの方が大きいでしょう。アメリカ企業の進出が抑えられれば、自国企業は保護されます。しかし、投資の対象国にとっては、アメリカからの投資が減ることになりますし、自国の消費者の選択肢も狭められます。

ただ、この政策の目的は、多国籍企業の利益よりも、自国の労働者の利益を優先させるというものです。使いようによっては、この方向性は他国にとっても理解できるものになるでしょう。

たとえば、ウォーレンの「経済的愛国主義」政策は、通商政策の決定に、大企業だけが情報を得て関与できるのではなくて、国民への情報公開等を徹底させるべきと主張しています。この形なら、むしろ自由貿易体制にとって望ましい政治過程です。

トランプ政権は、高度な経済連携協定であるTPPから離脱してしまいました。そして、「アメリカ・ファースト」の通商政策を進めています。この政策を、自由貿易体制への否定だ、と言って、批判することは簡単です。

しかし、自由貿易というのは、当然、世界中でちゃんと人権が守られて、労働者の最低限の権利や生活水準が保障されて、通商政策の決定も各国で民主的に行われるのが大前提のはずです。NAFTAについては、それが守られていないということが問題となり、結局は、超党派で、アメリカ政府がメキシコの労働者を守るような形での修正が実現しました。これは、利己的な保護貿易協定というより、自由貿易協定をその名に値するものにするための改善だった、と考えるべきです。

本来は、同じことが、全世界で行われるべきです。先進国が協力して、中国や東南アジア、アフリカ諸国等、全世界での強制労働や極端な低賃金労働が起きないよう、ILOのルールを守らせるよう、一層強い監視体制をしくべきです。日本については、まず自国内での外国人労働者の人権保障が先ではありますが。

このような視点で米中貿易戦争を見れば、トランプ政権と米民主党が目指すものは、アメリカの労働者を守るだけでなく、結局は、中国の国民の人権を守り、中国の労働者を守ることにもなるものです。最終的には、通商政策の決定過程の民主化、つまりは中国での自由民主主義革命につながるはずです。

アメリカ・ファースト」の通商政策は、現在のアメリカでは超党派で進められているものであり、それは他国にとっても利益をもたらす面があります。もちろん、世界中でまともに人権が守られるようになるのは、まだまだ先のことですし、高関税政策は、当然、大きなデメリットも伴います。それでも、世界全体に自由と民主主義を広げるという大事な一面もあることは忘れるべきではありません。自由貿易体制とは、人間と人間の関係であるべきで、人間と奴隷の関係を含むものであってはならないからです。