日本の改革

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英総選挙、保守党圧勝:ボリス・ジョンソン首相はなぜ勝てたのか、勝利を予測した記者はイギリスの今後をどう言ってるのか

イギリスの総選挙、保守党が圧勝、ついにブレグジットが実現します。政治的リーダーの役割がいかに大事かをあらためて示した、劇的な幕切れでした。 ジョンソン勝利を早くから予測したライアン・ヒース氏によると、今後は、米英関係に注目です。

3年半の混迷に、遂に終止符を打ったボリス・ジョンソン

イギリスの下院選挙で保守党が圧勝しました。

Election results 2019: Conservatives gain in Labour heartlands - BBC News

2016年6月の国民投票EU離脱を決定してから、3年半にわたる紆余曲折に、とうとう終止符が打たれます。イギリスは今月中にEU離脱関連法案を可決し、来年には、「合意あり」で、円満にEUから離脱します。

EUは今回の選挙結果を、方針がはっきりして良かったと歓迎しています。予定通り2020年中に離脱手続を終えるのは大変だ、とは言っていますが。

EU welcomes Brexit clarity from UK Conservative victory - Reuters

本ブログでは、ボリス・ジョンソン氏が首相になってから、何度かイギリスのEU離脱を取り上げて、以下のように主張してきました。

・イギリスのEU離脱問題で最重要なのは移民問題。国民の不安を考えずに、EUのルールで、特にルーマニアブルガリアから移民を増やしたのは問題だった

・この問題を解決するために、思い切ってEU離脱か残留かという大問題を、国民投票で国民に問うたのは正しい選択だった

・その後の大混乱は、与野党双方のリーダー(保守党・元首相のメイ氏と労働党のコービン氏)が、離脱・残留につき中途半端な立場だったから起きた

・イギリスの混乱は他人事ではない。日本も、外国人の教育・労働・社会保障上の人権を早急に保障し、それが出来る範囲の外国人のみ受け入れるべきだ

https://www.kaikakujapan.com/entry/2019/07/24/212048

https://www.kaikakujapan.com/entry/2019/09/05/122259

https://www.kaikakujapan.com/entry/2019/10/30/163701

https://www.kaikakujapan.com/entry/2019/12/01/152439

以上のような主張をしてきましたし、今もその考えに変わりはありません。

そして、後に紹介するポリティコのライアン・ヒース(Ryan Heath)氏が「最後はジョンソンが勝つ!」と自信満々に書いていたので、私もそれに乗っかって、保守党が勝ちそう、と予想してみました。結局、ヒース氏の予測通りとなり、イギリス国民は、最初の国民投票の結果に沿った方針を実現しようとするジョンソン氏を支持したことになります。

ブレグジットにおける「国民」の意思とは

この選挙結果について、朝日新聞の言うことはいただけません。同紙ヨーロッパ総局長・国末憲人氏は、以下のように書いています。

 離脱か、残留かを巡って続いてきた論争は、これでいったん打ち切られる形になる。ただ、国民が納得したかというと、全くそうではない。

 国民投票以降、国論は相変わらず二分されたままだ。しかも、それぞれの立場の人々の考えはこの間ほとんど変わっていないことを各種調査が示しており、英国内の分裂の深まりをうかがわせている。

出所:朝日新聞2019年12月13日 

digital.asahi.com

離脱か残留かの論争は打ち切られるけれど、「国民」が納得していない、と、国末氏は書いています。一人一人の国民が、今回決まりそうな具体的なEU離脱案に完全に納得しているかと言うと、もちろん、そんなことはないでしょう。また、今回の下院選挙の結果も、ジョンソン首相の決めようとしている離脱案については、残留派の国民一人一人はもちろん、離脱派の国民の中にも、部分的には反対、という人は多いでしょう。

しかし、国民投票で示された、イギリス国民全体としての意思は「離脱」でした。僅差であったとしても、決められたルールの下では、そう見るべきです。今回の下院選挙も同じです。統合された存在として意思表示した「国民」は離脱に賛成しました。

一人一人の国民の意思と、民主主義の下で示される、統合された存在としての「国民」の意思は違います。この統合された存在としての国民の意思には、民主主義の下では、一人一人の国民も従うべきことになりますし、投票や選挙を経た後では、色々反対はあっても、多くの人は仕方がないと感じてくれるようになります。考えてみれば、不思議なことなのですが。

橋下徹氏が、民主主義には、民意を反映するという面と、民意を統合する面と二つある、と言われている通りです。国末氏や朝日新聞に限らず、メディアは、「国民」や「民意」という言葉を、もっと慎重に使うべきでしょう。

結局、ジョンソンのリーダーシップで勝った選挙

さて、多様な国民一人一人の意思を、一つの国民の意思にまとめるのが、政治的リーダーの役割です。今回の選挙、はっきり言って、保守党のリーダーだったジョンソン氏が、EU離脱に関わった他のリーダーより優れていたから、保守党はこれほど勝ったのだと思います。

前首相のメイ氏は、国民投票で示された国民の意思が「離脱」だったのに、EUとの交渉でそれを押し通すことができず、中途半端な案を議会に示したので、まとまったはずの国民一人一人の意思がまた噴出して、大混乱となってしまいました。

メイ氏については、能力や資質の問題というよりも、EUがまだ強硬で、イギリスの民意を無視してでも残留をさせることも辞さなかった時期だったせいもあるかもしれません。

3年間の混乱でEUも疲れ果ててあきらめた面もあるでしょうから、ジョンソン氏にはその意味で幸運だった、というか、そもそも、こうなるまで待ってたのでしょうか。

どちらか分かりませんが、とにかく、ジョンソン氏は、メイ氏がEUに納得させたよりも「離脱」寄りの案を、EUに納得させました。そして、散々駆け引きをして、保守党内も納得させ、野党に解散まで納得させました。イギリス国民は、ジョンソン氏がこうした結果を出した手腕を評価したのではないか、と思います。

野党第一党労働党は、最初からEU離脱問題で党内が割れていた形です。以前のブログでも書きましたが、中流以上のリベラルな労働党議員や支持者はEU離脱に反対、ところが、労組は伝統的に移民反対で、EU離脱に賛成。党内は股裂き状態です。今になって振り返れば、どんなに保守党がもめても、最終的な政治的出口では、誰がやっても勝てない勝負だったのかもしれません。小選挙区制なのに、野党は「第三極」政党も乱立、中には、スコットランド国民党のように、日本で言えば大坂維新の会並みに地元の選挙は強くてしかも本気で国家としての独立目指している党まであります。労働党の敗北も、コービン氏の能力や資質だけの問題でもないのでしょう。

では、ボリス・ジョンソンというリーダーは、何が良かったのでしょうか。先に言った通り、結果を出した政治的手腕も評価されたのでしょう。それ以上に、若い頃からEU懐疑派で、もともとEU離脱という方向にイギリスを引っ張った張本人の一人でもあって、だからこそ、国民にはその姿勢に一貫性が感じられた、というのも大きかったのだろうと思います。

選挙戦では、とにかく現在の混乱を終わらせる、自分の主張してきたEU離脱を何としても実現する、という力強いメッセージを発していました。保守党が公式に流したPR動画では、「立ち往生」(GRIDLOCK)と書かれた壁を、ジョンソン氏が運転するトラクターがぶっ壊して、トラクターには「ブレグジットを実現させろ」(GET BREXIT DONE)と書いてあるという、おバカだけど底抜けに明るいパフォーマンスもやっています。政治的手腕と主張の一貫性に加え、この「明るさ」もリーダーの資質の一つでしょう。

www.youtube.com

私にとっては、政治家のタイプは違うけど、小泉純一郎氏が総理大臣のときを思わせるやり方で、親しみも感じたことでした。あの、「抵抗勢力」と書いた幕を破って小泉さんが出てくるテレビ番組、今でも覚えています。

ジョンソン氏というのはまた、こういうおバカな演出やらせたら、本当に似合う人です。

もともと、遠い祖先はハノーヴァー朝の王様で本物の上流階級、オックスフォードでギリシャ語・ラテン語を学んだ後にジャーナリスト、その後は国会議員、イギリス市長、外務大臣という毛並みの良さなのに、テレビでも人気の出た庶民派で、ジャーナリストとしてはブリュッセルからフェイクニュースばっかり送っていたとか、議員のときも市長のときも女性問題起こして叩かれたりとか、スキャンダルに事欠きません。そして、トランプ氏どころではない失言大魔王です。

Boris Johnson wins £1k for writing 'offensive' poem about Turkish President Erdogan | Daily Mail Online

www.businessinsider.jp

このため、ジョンソン氏のキャラについては、メディアを見るとたいがい悪口が書いてあるのですが、庶民的には、「ボリス」とファーストネームで呼ばれて、親しみを持たれているのも確かなようです。

要は、相当スキャンダラスな人物だけど、庶民的な人気も高い、ということです。今回の選挙、EU離脱という主張の一貫性、その実現に向けた実行力、この二つへの評価があったので、こうしたキャラもポジティブに作用したんでは、と想像します。

イギリスは、メイ氏ではダメ、コービン氏はもっとダメ、そこで、ジョンソン氏を選んで、結果としては正解でした。色々と欠点だらけのジョンソン氏を批判するのはとても簡単なことですが、一国を立ち往生から救った功績は、やはり評価すべきです。

ライアン・ヒース氏の予測

最後に、9月最初あたりから、つまりは、ジョンソン氏が議会に解散動議案を否決されたりして、また大混乱だ、というか、また首相交代か、とさえ思われていた時に、ジョンソン勝利を予測していた、ライアン・ヒース氏が、イギリスが今後どうなるかを書いています。記事は12月11日付、つまり選挙開票前で、どちらが勝つかまだ分からないとしつつ、ジョンソン勝利は既定路線という書きぶりです。

まず、ジョンソン氏の「キャラ」につき、ヒース氏は、政治とエンターテインメントを融合させた、としていますが、同じことをしたトランプ氏やイタリアのベルルスコーニ氏とは、三つの点で大きく違う、としています。一つ目は、虚栄心がなくて、自虐ネタを平気で言えること、二つ目は、行政がどう動くか経験し知っていること(ロンドン市長・外相経験等)、三つめは、極右を無力化(neuter)させた唯一の西側リーダーだ、ということです。

肝心のイギリスの今後ですが、ブレグジットによる国民の傷は簡単には治らないだろうけれど、経済的には、イギリスはうまく適応できるだろう、としています。EU離脱をしても、何だかんだ言って、世界で5位の経済だし、海外投資も多いから、ということです。ヒース氏は、移民に対するオープンさも、むしろポジティブに評価しています。

そして、これからのイギリスのゴールも、このオープンさ(hyperopenness)だとして、たとえて言えば、「テムズ河沿いのシンガポール」、あるいは「帝国2.0」を目指すだろう、と予想しています。ジョンソン氏は、イギリスが引き続きヨーロッパの金融及び技術上の首都であり続けることを目指すだけでなく、貿易相手はEU以外にもどんどん広げていくだろうし、規制や税制上の優遇措置を外資等に準備するだろう、と見ています。こうして、ジョンソン氏はEUを弱める一方、NATOは強化する、つまり、アメリカを一層重視するだろう、としています。

米英の貿易交渉は、トランプ氏もジョンソン氏も望むはずだ、トランプ氏はEUとは相変わらずぎくしゃくしているから、と書いています。

www.politico.com

ジョンソン氏が、EU離脱後はアメリカを特に重視するだろうということや、EU以外に広く経済交流を求めていくというのは、当然そうなっていくでしょう。となると、日本にとっては大きなチャンスです。イギリスのEU離脱について、日本政府は、最初は嫌がっていて、避けられないとなったら、合意なき離脱だけはやめてと頼んで、ジョンソン氏の今回の選挙の勝利についても、菅官房長官はコメントしないとか言って、どうも冷たすぎる感じがします。が、ヒース氏が言う通り、ジョンソン氏は出来るだけオープンな経済関係を他国と結ぼうとするでしょうし、日米英の関係を、経済でも外交安保でも深めていく絶好のチャンスなので、日本政府は出来るだけ早くイギリスにアプローチして、日・EU関係以上に有利な外交関係の構築を目指すべきでしょう。

※付記

夕方のニュースでは、菅官房長官は、今後ますます日英関係を深めていきたいという趣旨のコメントを発表していました。出来るだけ早くそうしていただきたいものです。