日本の改革

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アメリカ民主党、大統領の弾劾訴追案を発表、かえってトランプ再選の追い風に?

アメリカ民主党が、大統領への弾劾訴追案を発表し、今週にも下院で可決される見通しです。現状ではトランプ大統領にはさほど打撃にならず、逆にプラスになる可能性さえあります。

大統領弾劾が大統領への追い風に?

アメリカ下院で多数の民主党が、トランプ大統領への弾劾条項2項目を発表しました。「権力濫用」と「議会妨害」の2項目で、これによる弾劾訴追案が、今週中にも下院司法委員会で審議されて、下院本会議では可決される見込みです。その後、与党・共和党が多数を占める上院が弾劾裁判を開きます。

「権力濫用」は、トランプ氏が、来年の大統領選の民主党候補になりうるバイデン氏の息子(ウクライナのガス企業に父親のコネで勤務)について捜査するよう、ウクライナへの軍事支援の停止まで示唆してウクライナ大統領に圧力をかけた、ということです。これが、「国益を無視し、もしくは国益を傷つけながら、不当な個人的利益を得るため」に行ったから権力濫用だ、ということです。もう一つ、「議会妨害」は、大統領が弾劾調査に協力しないよう各省に命令したことがこれにあたる、ということです。

www.bbc.com

Read the Articles of Impeachment Against President Trump - The New York Times

Chairman Nadler Announces the Introduction of Articles of Impeachment Against President Donald J. Trump | Committee on the Judiciary - Democrats

ニューヨーク・タイムズのトマス・フリードマンは、トランプは弾劾されるべきだ、と主張します。トランプがやったことを許せば、今後の大統領も外国を使ってアメリカの選挙に介入できてしまう、民主主義の危機だ、株価は上がっていてトランプはそれを誇っているが、経済よりも憲法が大事だ、その証拠に、トランプ支持率は下落している、と言っています。

Opinion | Impeach Trump. Save America. - The New York Times

確かに、トランプの支持率は落ちています。リアル・クリア・ポリティクスの最近の調査結果まとめ(12月11日時点の"Latest Polls"、下のリンクはこれから更新されるので、この記事を書いている時点とは今後内容が変わります)をざっと見ると、トランプの支持率の下落と不支持率の上昇が目立ちます。一方で、大統領選全体への影響が大きいとされるアイオワ州(最初に党員集会があるため)の世論調査で、トランプがバイデンはじめ主要な民主党候補(の候補)よりも支持されています。前回僅差だったアリゾナ州でも、ごく僅差ながらトランプが上です。全国調査では、相変わらずほとんどの民主党候補(の候補)が、トランプより支持されているのですが、カギになりそうな州で、最近の変化率で言えば、民主党の劣勢が目立ちます。

RealClearPolitics - 2020 - Latest Polls

RealClearPolitics - Election 2020 - Iowa: Trump vs. Biden

RealClearPolitics - Election 2020 - Arizona: Trump vs. Biden

では、大統領の弾劾自体についての国民の支持はどうなのでしょうか。

これも、リアル・クリア・ポリティクスが、トランプ氏が弾劾・罷免されるべきか否かを聞いた各種世論調査の結果を、10月以降の時系列で示しています。結果は以下の通りで、弾劾・罷免に「賛成」が、直近では47.7%、「反対」が47.0%です。これまでのところ、賛成が反対を上回っていますがその差は小さく、ずっと4%以内です。反対もほぼ一貫して44%以上で、要するに世論は僅差で弾劾・罷免に賛成ではあっても、賛否はほぼ真っ二つに割れた状態がずっと続いている、ということです。下のグラフでは、反対が最近になって急増していますが、それでも1%くらいの上昇です。

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Source: RealClearPolitics

RealClearPolitics - Election Other - Trump Impeachment and Removal From Office: Support/Oppose

CNNが、弾劾の世論調査結果が動かない理由につき、解説記事を載せています。CNNの調査でも、下院での弾劾調査は、弾劾の賛否にも、大統領の支持率にも、ほとんど影響を与えていない、としています。その理由は、弾劾に関心のある人は最初から賛否の態度を決めていて、まだどちらとも決めていない人は全体の15%にすぎず、その人たちは弾劾そのものに興味がないからだ、としています。

edition.cnn.com

大統領の弾劾については、本ブログでも9月末に取り上げました。そのときは、この弾劾騒ぎは、トランプとバイデン両方に不利で、双方の泥仕合の結果、民主党のウォーレンが大統領候補として有利になるだろう、と書きました。8月のNBCとウォールストリート・ジャーナルの世論調査で、70%の人が現在の政治システムに不満で、政治エリートばかり優遇されていると感じているので、ザ・ヒルが9月23日に欠いている通り、バイデンにもトランプにも不利に働く、と思ったからです。

その時も書いたのですが、弾劾手続きでは、下院では民主党主導でさんざんトランプ叩きを続けてきましたが、これから上院に話が移れば、一転して、さんざんバイデン叩きを続けることになります。ほとんどの有権者はもう態度を決めているのだから、白けるだけです。

thehill.com

トランプとバイデン、ウクライナ疑惑で泥仕合。日本は、「ウォーレン大統領」に備える必要あり。 - 日本の改革

私にとって残念だったのは、ウォーレンがその後、予備選で大失速してしまったことです。医療保険改革法、いわゆるメディケア・フォー・オール法案で、富裕層と企業負担だけで国民皆保険が実現できる、と主張したことで、かえって支持率を大きく下げてしまいました。本ブログで応援してきたウォーレンの失速についてはまた書きますが、残念ながら、もうレースから脱落したと見るべきでしょう。直近のアイオワ州の支持率でも、ウォーレンは大きく落ちています。

RealClearPolitics - Election 2020 - Iowa Democratic Presidential Caucus

そうなると、最近支持率を上げてるブティジェッジはまだ37歳でさすがに若すぎるでしょうし、来年の大統領選は、トランプ対バイデンという、白人の老人男性同士のつまらない戦いになりそうです。つまらない戦いになれば、株価と雇用で結果を出している現職が有利でしょう。

先ほど見た通り、今のところ全国世論調査では、民主党は誰が出てもワン・オン・ワンの調査ではトランプより支持率が高いようですが、その予想がひっくり返った2016年選挙以来、アメリカのメディアは、最初に党員集会があるアイオワ州や、スイング・ステートであるミシガン、ウィスコンシン州などを重視しています。アイオワ州スイング・ステートでもあるので、たった1州だけの話ではあっても、そこでトランプがバイデンを抑えているのは、やはり弾劾調査は民主党に対したプラスになっていないということでしょう。

上院では、共和党が多数なので、弾劾訴追案は粛々と否決されるでしょうが、そう「粛々」でもなくて、今度は共和党がバイデン叩きに回るでしょう。共和党の中には、造反の動きもなくはないようですが、どうも民主党でも弾劾反対に回りかねない議員もいるようです。否決自体はまず確実でしょうし、そもそも関心のある人達は既に結論を出していることで騒ぐだけとなって、有権者はますます白けて、もう経済がまあまあだから現職でいいや、となりそうです。

thehill.com

今回、民主党にとっては、タイミングが悪かったのも災いしました。

弾劾訴追の理由はこれです!とせっかくアピールした同じ日に、トランプ大統領の進めてきた新たな貿易協定「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」に、民主党は同意しました。

ワシントン・ポストの言い方を借りれば、民主党トランプ大統領を「我々の民主主義と国防上の脅威だ」と言いつつ、同じ大統領を、アメリカが進めてきた包括的な貿易協定の取りまとめで信頼に足るパートナーだと認めたことになります。

これは一応、民主党なりの見通しがあってのことではあります。下院で弾劾調査ばかりやっていたら、「他にもった大切なことがあるだろう」と、どこかで聞いたような批判をやっぱり浴びかねない、と思ったようです。そこで、弾劾手続は進めつつも、ちゃんと国益のために働いてます、批判ばかりじゃありませんと有権者にアピールするため、という、これまたどこかで聞いたようなことをアメリカ民主党も考えて、この協定に賛成したようです。一応、メキシコでの労働基準をチェックできるようにしたりして、NAFTAよりもアメリカの労働者には有利になったから、という大義名分は打ち出しています。

もちろん、トランプ氏にとっては、大勝利です。彼はNAFTAやTPPを徹底的に批判して、大統領になったようなものですし、自分が進めてきた「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」と日米貿易協定が、それをはるかに上回る素晴らしい貿易協定と宣伝してきたのですから。トランプ氏は、民主党が弾劾調査の負の影響を打ち消すために協定に同意したのだ、と言っています。

www.washingtonpost.com

民主党の議員達は、ペロシ下院議長をはじめとして、今回の協定合意を一所懸命に正当化していますが、支持者からは反発が出ています。オバマ政権の大統領上級顧問だったDan Pfeifferはツイッターで今回の民主党のやり方を強く批判していますし、ザ・ヒルによれば、民主党支持者の間には同じように厳しい批判があるようです。

Pelosi's whiplash moment brings praise and criticism | TheHill

 そんなわけで、下院で採決直前の大統領弾劾訴追案、主導した民主党にとっては、来年の大統領選に向けては、あまりプラスに働かなかったか、場合によっては逆効果、かえってトランプ再選の追い風にさえなりかねないのが現状です。

トランプ大統領は、ウクライナの一件だけでなく、とにかく色々と無茶苦茶だと思います。が、個人的なスキャンダルだけでは、選挙で選ばれたリーダーを倒すのは、やっぱり難しいというのがあらためて分かる事例だと感じます。安倍政権が、安倍総理個人を守るために公文書改竄・破棄等、あれだけひどいことかっていながら、それだけでじゃ倒れないのと同じです。

トランプ政権では、何だかんだ言って、株価も雇用も歴史的に見ても大変良い水準です。外交安保では、あっちもこっちもほころびつつも、最重要と定めた米中冷戦には超党派の支持があります。そして、私にとっては残念ですが、民主党からアメリカ国民の心に火をつけそうな候補者も出てきそうにありません。今回の弾劾騒ぎは結局何もならず、どちらかと言うとトランプ有利に働くと見ます。