日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

2018年の旅行消費は6000億円減、訪日外国人増でも自然災害で日本人減。高級ホテルへの財投はあっても良いが、国内需要のための災害対策もセットで!

高級ホテルに財政投融資を、との官房長官発言、叩かれまくってますが、高級ホテル不足も確かで、全否定はしません。ただ、昨年の国内の旅行消費全体を見ると、日本人の観光増も大事で、被災地支援や災害対策への重点投資が必要です。

右も左も叩く「世界の一流ホテル50か所新設に財政投融資

昨日12月7日、菅義偉官房長官は、外国人観光客の誘致に向けて世界の一流ホテルを国内に50カ所設ける考えを示しました。2020年度予算編成にあたって「世界レベルのホテルが不足している。財投の活用や日本政策投資銀行による資金支援などを実施し、全国各地に整備する」と発言しました。

www.nikkei.com

ツイッターを見てると、この発言は猛烈に批判されるばかりで、賛成が全然見られません。野党がこんな風に叩くのは当然として、

twitter.com

安倍政権を支持している有本香氏まで批判しています。

 が、この政策、私はもう少し冷静に見るべきだと思います。良い面も悪い面もあります。

結論から言うと、高級ホテル不足は確かなので、財投を使うのを全否定はしません。富裕層向けのビジネスをしている世界的ホテル・チェーンは自分達で投資できるのは確かですが、そもそも来てくれるか、が問題です。そこで、誘致に本当に役立つなら、という条件付きではありますが、投資額の一部を財投で出しても良いと思います。

ただし、50か所というのが横並びで多すぎるので、もっと絞り込むべきでしょう。また、財投の前に、あるいは同時に、休日分散化等のお金を使わない施策もすべきです。更に、昨年の旅行消費等を見ると、国内の観光産業全体と国の経済全体への影響を考えると、インバウンドの富裕層の需要に応えつつも、日本人の国内旅行の需要を支えることも劣らず重要で、復興支援や災害対策に、財投は一層の重点投資をすべきです。

まず、日本に高級ホテルが不足していると言うのは、以前から指摘されています。よく知られている通り、デービッド・アトキンソン氏がそうした主張をし続けていました。国際比較で見て、日本には本物の富裕層が使うような五つ星ランクのホテルが少なすぎるので、ビジネスチャンスを逸しているし、観光収入の単価も低いので、何とかするべきだ、ということです。

www.newsweekjapan.jp

貧弱な観光インフラでは稼げない デービッド・アトキンソン氏 :日本経済新聞

アトキンソン氏は安倍総理や菅官房長官の信頼が厚いので、彼の主張が最低賃金上げ等の政策に反映されています。今回の菅氏の発言は、アトキンソン氏の主張も、一つの背景としてあるのでしょう。

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本ブログでも、最低賃金引き上げに関するアトキンソン氏の考え方は紹介し、賛成しました。彼の最近の著作での中小企業政策の全否定は行き過ぎと感じますが、最低賃金の段階的引き上げや、観光業についての提言の多くは、説得力があります。日本に富裕層向けのホテルが少ないという主張も、その通りだと思います。

最低賃金は全国一律引き上げを。緩やかな上昇なら雇用減らず、ブラック企業も淘汰。あわせて、技能実習制度廃止と内部留保課税を! - 日本の改革

もちろんアトキンソン氏だけでなく、民間企業も、高級ホテル不足を見込んでいます。日本で海外の高級ホテル事業を実際にやっているのは、日本の不動産会社です。フォーシーズンズは三井不動産、マリオットは森トラストウェスティン積水ハウス等々です。で、こうした不動産各社は、東京オリンピック後も高級ホテルの不足が続くと見て、積極的に投資をしています。ヒルトンの日本担当の責任者も、東京の不動産サービス大手等も同じ見方のようです。

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もちろん、それならなおさら、民間に任せておけばいいじゃないか、というのは一つの見識です。高級ホテルに財政投融資を使うなら、民間補完に徹しているか、財投の利用で、これまで関心のなかった海外のホテルが新たに投資するようになるか、と言う点が厳しく問われるべきですが、それがクリアされるなら、一応は構わないでしょう。

そもそも、政策投資銀行によるホテル・旅館業支援なら、政府はもう始めています。

星野リゾート日本政策投資銀行が組んで、国内の宿泊事業等の企業を支援対象とした共同運営ファンドを以前から組成し、大阪の新今宮別府温泉等、いくつも支援をしています。

https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2019/files/0000034081_file1.pdf#search=%27%E6%94%BF%E7%AD%96%E6%8A%95%E8%B3%87%E9%8A%80%E8%A1%8C+%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB+%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%89%27

星野リゾートと政投銀、共同運営ファンドを通じて「星野リゾート 界 別府」開発計画へ投融資実行 :日本経済新聞

このように、高級ホテル・旅館に財政投融資を、という手法自体は、これまでも行われてきたことです。

もちろん、財政投融資の出口である政策金融をもっとスリム化すべき、という主張はもっともです。今回のケースで言えば、政策投資銀行にやらせると言いますが、この銀行は本当は民営化するはずでした。

小泉改革で政策金融は政策金融公庫一つにするはずだったのが、財務省天下り先で政策投資銀行経産省天下り先で商工中金が残っているのはおかしなことで、もうなくすべきだ、というのは分かります。ただ、政策投資銀行等をちゃんと民営化して、一つだけ残った政策金融公庫も、高級ホテルへの財政投融資は絶対やってはダメかと言うと、そこはさっき書いたように、目的次第だろうと思います。

まあ、政投銀と星野のファンドは、山口県への投資もあるので、首相周辺との癒着も一応は疑う価値はあると思いますが。

https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2018/files/0000032054_file1.pdf#search=%27%E6%94%BF%E7%AD%96%E6%8A%95%E8%B3%87%E9%8A%80%E8%A1%8C+%E3%83%9B%E3%83%86%E3%83%AB+%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%89%27

というわけで、財政投融資が民間の補完に徹していて、財投でなければ、これまで来なかった高級ホテルを呼べない、ということであれば、使ってもいいだろうと思います。もちろん、こうした条件がちゃんと満たされるかどうかは、厳しく精査すべきです。

50か所は多すぎ、財投以外の政策もやるべき、日本人の旅行需要も大事

ただし、50か所も作るというのは、いくら何でも多すぎます。

この「50」という数字も、一応は根拠のあるものです。政府の「観光ビジョン実現プログラム2019」の一番最初(2頁の表)に、「1.外国人が真の意味で楽しめる仕様に変えるための環境整備」という大項目があり、その最初に、

・主要観光地の多言語対応(英・中・韓)や無料Wi-Fi整備、キャッシュレス対応等をモデル的に直ちに整備することとし、本年度中に少なくとも50程度、令和 3年までに100の主要観光地を抜本的に改善する。

とあって、これが政府の成長戦略の一部にもなっています。

https://www.mlit.go.jp/common/001293516.pdf#search=%27%E8%A6%B3%E5%85%89%E6%88%A6%E7%95%A5+50%E3%81%8B%E6%89%80%27

観光・スポーツ・文化芸術|人口減少下での地方施策の強化|成長戦略ポータルサイト

ここではあくまで、多言語対応やキャッシュレス対応「等」という形で書いてあり、その対象を「50程度」としていますが、菅氏の発言は、この数字を、高級ホテルへの財投の利用という政策にも、横滑りさせたのでしょう。

私は、これはいくら何でも多すぎると思います。日本の高級ホテル不足でよく挙げられる数字が、ホテル情報サイト「Five Star Alliance」で現在紹介されている5つ星ホテルの数です。日本国内の5つ星ホテルは32軒しかないけれど、ロンドン(79軒)やパリ(61軒)、ニューヨーク(60軒)などの欧米の都市に比べて半分程度で、アジアの中でも中国(137軒)やタイ(112軒)、インドネシア(58軒)を下回るから、とされています。

(数字は以下のリンクから取りましたが、

https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=2&n_cid=DSMMAA13&ng=DGKKZO47844720W9A720C1TJC000&scode=8801&ba=1

 

現在の数字とはズレがあるかもしれません)

Search and Book Luxury Hotels Worldwide : Five Star Alliance

そこで、50増やせば、82軒になって、他国に比べて遜色ないでしょう、ということかもしれませんが、民業補完であるべき財政投融資のあり方として、最初から50か所も決めて横並びでやるのは行き過ぎています。特に、アジアにこれだけ高級ホテルがあるということは、いくら日本の現状で少なすぎても、将来にアジア全域で供給過剰になる可能性も考えて、段階的に増やしていくべきです。

また、高級ホテル不足は、財投という公金を使う以外の政策も動員して解消していくべきです。特に、民間企業の投資を増やすためには、それだけ地方の観光需要を増やして、民間企業が投資できるだけの収入が出来ることが必要で、たとえば、休日を分散化するのもその一つです。これは、星野リゾートの星野佳路代表の主張です。星野リゾートは政投銀と組んでファンド作っているくらいですから、財投の利用に反対というわけではないはずですが、それでも、インバウンドだけでなく、国内消費もいっしょに上げる必要があること、そのための一つの手段として、休日分散化を実現すべきこと、等を主張しています。

jp.wsj.com

私も、理想的には、政府は税金はもちろん財投という公金を使うのは最後の手段とすべきで、第一義的には、制度改正等の環境整備によるサポートを行うべきだと思います。年末年始やお盆は仕方ないとして、ゴールデンウィークくらいは、もっと分散化するようにして、日本各地での旅行需要がもっと掘り起こされるようにすべきでしょう。

また、星野氏の言う、国内需要という点は特に見逃せません。星野氏は、2013年度に訪日外国人は増えたのに、日本人の消費が減って、トータルではマイナスになった、という事実を指摘しています。

同じことが、2018年度に起きています。2019年度の観光白書によれば、訪日外国人は増えても、日本人の国内旅行が減って、2018年度の旅行消費は、トータルで6000億円も減っています。

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出所:国土交通省

http://www.mlit.go.jp/common/001294467.pdf

日本人の旅行が減ったのは、観光白書によれば、「豪雨、地震等の災害が相次いだこと10や、台風や猛暑等の天候 要因の影響等により、宿泊旅行、日帰り旅行ともに減少し、特に日帰り旅行の減少が大きかった」(16頁)からです。と言うことは、今年度2019年度も、相当悪い数字が出る可能性があります。

このため、財政投融資を使うと言うなら、仮に旅行消費だけの話をするとしても、やはり被災地復旧や災害対策という、民間では特に難しい分野に、より重点的な投資をするべきです。

この意味で、菅官房長官の「海外の高級ホテル50か所に財政投融資」発言への国民の反発には、狭い意味での経済的な視点だけから言っても、ちゃんと合理性はあることになります。

いくら高級ホテル不足だとは言っても、いくら地方には観光収入が必要だとは言っても、そのための政策は、訪日外国人と日本人の支払うお金の合計が増えるようにするために行うべきだ、それなら、仮に海外の高級ホテル建設のための(国内不動産会社向けの?)投融資をするとしても、必要性は厳しく見て事業数は絞るべきだし、お金を使わない政策をまずやるべきだし、何より、自然災害で苦しむ地方をまず助けるという政策が必要だ、ということです。

こう考えれば、「海外の金持ちより国内で困っている人を助けろ」という国民の批判に、政府は誠実に耳を傾けるべきですし、そのような不公平感を国民が感じないよう、慎重に対応すべきです。