日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

IMFの対日声明、問題点はむしろ日本政府への忖度。行革はぬるく、消費税は安易に15%に増税求め、規制改革はまるでなし。

IMFが日本に毎年の定例になっている声明を出しました。行革による歳出削減は甘く、財政政策の必要性を強調し、消費税は例年通り、15%に上げろと言っています。一方、金融所得税は30%に上げて炭素税を導入しろと、税制改革は踏み込んでいます。全体的に日本政府とのすり合わせをやり過ぎた感じで、もっと歯切れよく改革を求めてほしいところです。

例年通り、消費税を15%にしましょうと言うIMF

IMFのゲオルギエバ専務理事が、国際通貨基金協定4条に基づく定期的な協議のために来日しました。IMFは昨日11月25日、協議終了にあたっての声明を発表しました。

https://www.imf.org/ja/News/Articles/2019/11/24/mcs-japan-staff-concluding-statement-of-the-2019-article-iv-mission

IMF4条協議というのがどういうものか、過去の日本への提言はどのようなものだったか、概略は、以下リンクに出ています。勝手に言いっぱなしでもなくて、毎年、調査して政府と協議のうえ、発表しています。

https://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/f01_2019_01.pdf#search=%27IMF+4%E6%9D%A1%27

ゲオルギエバ専務理事は日経のインタビューにも答えています。上記声明のうち、消費税率を2030年までに15%に引き上げるべき、とした部分が、日経の見出しになっています。

www.nikkei.com

IMFの副専務理事の古沢満宏氏は、よく知られている通り、財務省出身なので、まあそれくらいは言うだろう、というところです。

digital.asahi.com

この声明、毎年出しているものなので、例年通りの部分もけっこうあります。ちなみに、2018年度、2017年度の声明は以下です。

2018年  対日4条協議終了にあたっての声明

2017年対日4条協議終了にあたっての声明

消費税を段階的に15%まで上げろというのは、IMFが以前から言ってきたことです。高齢化への対応として、つまりは年金・医療・介護等の支出増を賄うため、消費税率を上げろと言っています。

本ブログでは、消費税率の引き上げは最後の手段で、まずは政治改革、行政改革を徹底して、歳出削減を先行させて、景気を見ながら上げるべきだ、と主張してきました。その際、アレシナがIMFのサイトで発表した論文等も引用しました。ありがたいことに翻訳されています(『ファイナンス&デベロップメント』2018年3月号。IMF発行の雑誌掲載記事の日本語版です)。

1981年~2014年までのOECD諸国(一応日本も含まれています)の財政再建について、増税と歳出削減とどちらが経済に悪影響を与えるか、という点を調べたところ、歳出削減の方が悪影響が小さいことが分かったと主張しています。IMFは、こんな素晴らしい研究も発表しています。

https://www.imf.org/external/japanese/pubs/ft/fandd/2018/03/pdf/alesina.pdf#search=%27Alesina+%E5%A2%97%E7%A8%8E+%E6%AD%B3%E5%87%BA%E5%89%8A%E6%B8%9B%27

また、IMFは、別のレポートで、日本の財政をバランスシートを用いて分析もしており、それによれば、日本の財政は比較的健全、という結果になっていました。このため、OECDが消費税率を20%から26%にしろと言っていたのよりはまともな分析になっていました。この点も、本ブログで取り上げました。

「日本の消費税率を20~26%にしろ」:日本の旧大蔵省官僚がOECD事務次長なため、OECD報告書は消費税の部分だけメチャクチャ。 - 日本の改革

改革派の財政政策①-2:増税より歳出削減(Part2)⇒増税か歳出削減か、国民が選択できるようにすべき。 - 日本の改革

実際、IMFが日本に求めた消費税増税は、2030年までに15%、2050年までに20%というので、OECDよりは、いくらか控えめな数字です。

このように、増税より歳出削減を優先させろというアレシナの論文を発表したり、日本の財政はバランスシート上は健全だと言ったり、IMFは、OECDに比べれば、日本の財政についてはいくらかマシなスタンスに見えます。かつては東アジア危機、最近ではEU債務危機の際に批判を受けたりしたため、現実を配慮するようになってきたのかもしれません。世界銀行が年金改革について1990年代より現実的になったのと同様、関係国の批判を受け入れてスタンスを変えているのだとしたら、結構なことです。

しかし、それが行き過ぎれば、各国が十分実行可能な改革についてまで求めずに、なあなあで済ませてしまうことになりかねません。今回、いつものこととは言え、消費税増税については、2030年までに15%にしろなどと安易な増税を許して、それまでに厳しい歳出改革をどれくらい行うべきかを全く示していないのだから、ナンセンスです。歳出削減について具体的なことをほとんど言わずに、歳出削減を先にしろとも言わずに増税しろというのですから、その点はOECDの提言と変わりません。

あと10年で5%上げるべきというのは、おそらくは今の日本政府や議員の感覚からすれば、現実的に見える数字でしょう。しかし、国民は政治家の「相場観」通りの安易な消費税増税を許すべきではありません。やはり行政改革による歳出削減をまずどれくらいやって、それでも足りない場合に何%に上げるか、という議論を行うべきです。これについては、何回もブログで書かせていただきました。

もう10%超への消費税増税を言い出し始めている政府:その前にやるべきことは? - 日本の改革

消費税増税の是非:安倍政権は、小泉政権の改革の原点に立ち返れ。 - 日本の改革

金融政策、財政政策、税制改革は賛成、構造改革は全然足りない

消費税増税以外については、IMFの言い分については、賛成できる部分も多々あります。金融政策、財政政策、税制改革については良いことも言っているのですが、構造改革、特に歳出削減を伴う行政改革については、全く踏み込みが足りません。

金融政策については、金融機関の経営にも配慮すべきとはしつつ、金融緩和は継続せよと言っているのは結構なことです。特に、金融緩和の継続と財政政策との連携が大事と言っています。要は、2013年1月の財務省内閣府、日銀の共同声明通りに、これからも政府・日銀で協力してリフレ政策を続けろということで、これには賛成、というより、それ以外のやり方は無理でしょう。

次に、財政政策について、IMFは、消費税増税とともに実施した影響緩和政策を評価しています。キャッシュレス決済でのポイント還元やインフラ投資、それに、税制では軽減税率により、消費の乱高下が2014年よりも抑えられた、としています。そのうえで、来年2020年も、そして必要であれば2021年も、今年の消費税増税のマイナス効果を打ち消すような「中立的な財政スタンスを維持」して、継続される金融緩和との連携を図るべきだ、としています。

これについては、私もやむを得ないと思います。もともと、消費税増税自体をするべきではなかったので、今となっては、8%への減税をすべきですが、それが出来ないなら、仕方ありません。当面の下支えは続けるべきです。

それ以外には、保育、医療、介護部門の労働者の賃金の引き上げも言っています。これには必ずしも賛成できません。社会保障支出の伸びを抑制しろと言いつつ、十分な人材とサービス品質を確保するためには必要と言うのは、やはり一貫していません。いくら政府と協議をしたうえの発表とはいえ、消費税増税の影響緩和政策と言い、公的部門の賃金引き上げと言い、日本政府の既定路線に配慮しすぎているように見えます。プライマリーバランスの黒字目標を2025年に延長したことは現実的で大変よろしい、とまで言っていて、これがあのIMF?とびっくりします。

税制については、よくぞ言ってくれたというものが二つあります。金融所得税増税と炭素税の導入です。

金融所得課税について、一律20%のところを、2022年以降、段階的に30%に引き上げるべき、としています。以前ブログで書いた通り、財務省が25%に上げようとして官邸につぶされ続けたそうで、財務省案にだいぶ近い数字なのは気になりますが。

逆進性のある金融所得税の是正、また見送り。合計所得1億円超の1万7000人のみ金融所得税の増税を。 - 日本の改革

その他に、富裕税の導入を検討すべきとしていますが、私は当面、ずっと議論されてきた金融所得税増税高所得者に限って行うことを優先させるべきだろうと思います。と思ったら、こんなニュースも飛び込んできましたけれど。

www.nikkei.com

また、エネルギー使用の効率化や地球環境のためのインセンティブ課税として炭素税を導入し、その際には低所得世帯への支援策も導入せよ、としており、ここはもう、世界共通の方向でしょう。IMFに背中を押してもらったところで、小泉環境大臣の姿勢が問われます。

小泉進次郎環境大臣がまずやるべきは、炭素税の実現。経済団体の言い訳フレーズ「技術革新」に逃げないこと! - 日本の改革

肝心の構造改革ですが、行政改革の視点がちょっと弱すぎます。

「予算枠組みの透明性を改善」とか、「社会保障制度改革」とか言ってはいますが、税制のように数字込みの踏み込んだ表現は一切なしです。「2020年半ばまでに包括的な改革案をまとめるという政府の計画は歓迎すべき」と言って、いくつか項目を例示していますが、年金と介護は抽象的に効率化を言っているだけです。

これに対し、医療は、ジェネリック普及や入院・外来患者の診療の合理化、後期高齢者や富裕な高齢者の自己負担割合の引き上げ、医療行為や医薬品の保険範囲縮小をすべき、としていて、ここだけはいくらか具体的です。が、いずれも、全世代型社会保障改革等で既に挙がっている話で、ここも日本政府とすり合わせた印象です。医療改革というなら、一部開業医や一部病院経営者の団体の既得権を切る形で、診療報酬改革を言うべきでしょう。

日本医師会が自民党との会合で「カ~ネくれ!」と一本締め:2020年度診療報酬改定、国民のカネは開業医から勤務医へ回せ - 日本の改革

その他には、労働市場改革を挙げているのは結構ですが、「2018年の働き方改革を改善して生産性と賃金を高めるとともに、労働力の供給をさらに増やすための施策を導入すべき」と、これまた、今までの延長でやるべきという現状肯定的な言い方だけです。
規制改革には、ほとんど言及がありません。

以上のように、今回のIMFの声明は、賛成できる部分はあるものの、歳出削減を先行させずに安易に消費税増税をすべきと言っていること、そして、歳出削減についても大した切り込みをしていません。その割に、税金だけは、消費税15%、金融所得税30%、炭素税導入と、歯切れよく言っています。消費税を上げろと言うのはいつものことですが、今回は、財務省の悲願?の金融所得税増税が入っています。もともと日本政府と話し合ってから出す声明ですが、やっぱり財務省の言うことがはっきり入るのかな、という印象です。

そんなわけで、今回の声明、せっかく国際機関として日本にモノ申してくれるなら、もっと明快に、改革が進んでない、と言ってほしかったと思います。まだ2017年あたりの方が、ずっと歯切れが良かったです。何しろ、「アベノミクスの中では「第三の矢」である構造改革が引き続き遅れている」!と、小見出しでガツンとやっていたんですから。

2017年対日4条協議終了にあたっての声明

かつてIMFが紹介した論文を書いたアレシナにならって、消費税増税の前に行革を!と言ってくれれば、将来的に消費税増税にも賛成しやすいので、副専務理事含めてIMFの「中の人」達には、来年度に向けてご検討いただきたいと思います。