日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

日本医師会が自民党との会合で「カ~ネくれ!」と一本締め:2020年度診療報酬改定、国民のカネは開業医から勤務医へ回せ

診療報酬の2020年度改定、厚労省、医師会、与党は医師らの人件費増額を目指していますが、医師数を増やさないなら、開業医の診療報酬を削って、勤務医に回すべきです。また、後期高齢者の自己負担は、所得の上位3~4割くらいの人は、負担率を1割から2割に上げるべきです。

不況だろうが財政難だろうが上がり続ける診療報酬の本体部分

厚生労働省医療機関に支払う診療報酬の2020年度改定で、薬価は下げて診療報酬全体はマイナス改定にしつつ、「病院の働き方改革を後押しするため」、医師等の技術料等の「本体部分」を0.55%引き上げようとしています。薬価を下げて診療報酬全体は抑えつつ、医師等の人件費などは上げ続けるのは、第二次安倍政権ではずっと続いてきました。

診療報酬は2年に1度改定で、来年度2020年度が改定の年なので、年末に向けて議論が本格化しています。

今回、診療報酬の本体部分引き上げの大義名分の柱は、勤務医の働き方改革です。医師数は増やさないで、看護師や補助者などに医師の仕事を分担する「タスクシフト」をするので、新たにスタッフを増やすため、一定の要件を満たした病院への報酬を増やそう、ということです。

診療報酬の本体部分を上げると患者の窓口負担も増えるので、全国健康保険協会健康保険組合連合会も反対していますし、財務省も本体部分をマイナスにすべきと言っています。が、厚労省と医師会はタッグを組んで引き上げを目指しており、与党も賛成の声が強いそうです。

www.nikkei.com

私は、医師数を増やすのでなければ、診療報酬の本体部分を安易に増やすべきではないと思います。今回、病院の勤務医の働き方改革大義名分にしており、医師数を増やすのではなくて、医師の仕事をタスクシフトさせる補助者の増員のため、ということですが、これだけでは、医師不足解消の決め手にはなりません。過労死水準の2倍もの残業時間を許しているのが何よりの証拠です。医師の負担を減らすための病院再編も進めていません。

もちろん、当面の対策として、病院に看護師や事務員を増やすための人件費はきちんと増やすべきです。が、それだけでは足りません。同時に、勤務医の働き方改革で本当に実効性のある、医師数の増加にも病院再編にも取り組ませる必要があります。これについては、本ブログで主張してきました。

公立病院の再編、技術革新も利用して早急に推進を。安倍総理と加藤厚労大臣は、勤務医の過労死を無視する知事たちに負けないで! - 日本の改革

病院に医師以外のスタッフの人件費増は当然認めるとしても、その財源も問題です。安倍政権に限らず、診療報酬の本体部分というのが、開業医中止の団体である医師会の圧力で削減されてこなかった経緯、病院と診療所の収益率の違い、更には、診療報酬の制度等を考えれば、勤務医の負担軽減のためには、開業医の報酬を切るべきです。

日本経済がどれほど不況になっても、国の財政がどれほど厳しくなっても、診療報酬の本体部分を上げ続けた団体である日本医師会が、今年9月19日、いま話題のホテルニューオータニの宴会場で、医療業界出身の自民党議員と会合を行いました。この時の様子を朝日が報じていますので引用します。

 「現場の我々に声がかからないのはおかしい。現場の声が反映されなければ、デモも辞さない」。温厚な人柄で知られる日医会長、横倉義武氏(75)が怒りをあらわにしたのだ。

矛先は、翌20日にスタートする政府の全世代型社会保障検討会議に向けられていた。急速に進む少子高齢化を踏まえ、今後の年金や医療介護の制度はどうあるべきか。医療と直結するテーマを議論するのに、医療系団体がメンバーに選ばれていなかった。

 「財源に裏付けられた国民医療の充実を期して」。会合を締めくくる一本締めで団体側がそう音頭を取ると、出席者らは「カ~ネくれ!」と手を打った。

出所:朝日新聞2019年11月23日

 まあ、業界団体が自民党と会合もったら、団体が言うことは要するに「カネくれ」でしょうけれど、何とも露骨なことです。この様子を見て自民議員も、「日医は本気だ」と気を引き締めたなどと言うのですから、やれやれです。

朝日の記事では、その他に、今年の参院選の結果では、日本医師会が前回より大きく票を減らして昔日の力はないこと、それでも、現在の横倉会長が安倍総理と麻生大臣に食い込んで、前回2018年度の診療報酬改定で剛腕を発揮し、増額幅を増やしたこと等が報じられています。一方で、後期高齢者の自己負担増にも反対、まともな財源を示してもいません。

digital.asahi.com

医師会の横倉会長が腹を立てたと言う、全世代型社会保障検討会議のメンバー、確かに、医療系団体は入っていません。しかし、高齢者偏重の社会保障制度を改革しようという会議で、従来型の社会保障の受益者団体を外すのはむしろ大変良いことです。介護関係の団体も入っていません。

正式な構成員は大臣だけ(議長は総理、西村担当大臣が議長代理、あとは官房長官、財務、総務、厚労、経産の各大臣)で、あとは有識者枠です。学識経験者以外の民間人は、櫻田謙悟 SOMPO ホールディングス株式会社グループ CEOと、中西経団連会長、新浪剛史 サントリー社長くらいで、相当絞り込んでいます。 

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/dai2/sankou.pdf

 診療報酬の本体部分は、バブル崩壊以降、ずっと上がり続けてきました。以下の表の通りです。例外は、小泉内閣のみで、2002年度と2006年度がマイナスになっています。このせいで医師会が一時、民主党支持になりました。

少子高齢化による医療費増という背景はあるにせよ、日本国民が失われた20年、30年で民間給与は低迷して苦しみ続けている間、そして、財政も厳しくて他の支出がどんどん削減される中、消費税も低成長下で何度も上げられているというのに、平均所得の高い医師の人件費を含む本体部分がずっと上がり続けていたのは、グロテスクでさえあります。これに異を唱えて、正面切って戦って勝てたのは、小泉純一郎氏だけでした。

もちろん、文字通り死ぬ思いで過重労働を続けて、医療を支え続けている多くの医師については、まともな労働時間に出来るようにすべきです。地方で医師が足りないから医師数を増やします、ついては本体部分を更に上げてほしい、というなら、国民も納得するでしょう。しかし、日本医師会は、医師数を大幅に増やすことには断固反対しながら、診療報酬の本体は上げろと言い続け、それを実現し続けていました。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20191101/03.pdf

 そうして上げ続けた報酬本体部分が、激務の病院勤務医の方々に回っているならまだしも、優遇されているのはむしろ開業医の方です。

病院と診療所の収益率を比較すると、下のグラフのように、診療所の方が圧倒的に高くなっています。相対的に見て、診療報酬が開業医の運営する診療所に手厚くなっている可能性が高いと言えるでしょう。

以下の資料は、財務省の財政制度審議会(の財政制度分科会)に、財務省が提出したものです。資料上部の囲み部分にある通り、財務省も、2020年度改定で、「病院(救急対応等)と診療所の間で改定率に差を設ける」べきだ、と主張しています(当日の議事録はまだアップされていません)。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20191101/01.pdf

11月1日の財政制度等審議会の分科会では、このように、診療報酬の増加を抑え、病院と診療所も区別し、更に、今後75歳の高機構映写になる人の窓口負担をこれまでの1割から2割に引き上げるべき、という財務省の立場が示されました。

75歳医療費「2割負担」柱…財政審分科会 医師会は反発 : 経済 : ニュース : 読売新聞オンライン

日本医師会の横倉義武会長は同日、緊急記者会見を開き、「財政的に支えられないからといって患者に負担を求めるのは、国民皆保険の理念に反対する」と批判しました。

一般病院と一般診療所の収益率を比較し、診療所が病院を上回っていることから、"結果として必要な点数配分がなされていないのではないか"との指摘に対しては、「診療報酬は中医協において支払側、診療側、公益側の丁寧な議論によって決められている」ということで、現状の決め方で決めたから良いんだ、と強弁。病院の収益率が低いのは、厚労省の間違いのせいだ、と決めつけて、その後発表予定の医療経済実態調査を見るべき、と言っていました。

www.med.or.jp

で、その医療経済実態調査によると、医療法人が運営する病院の2018年度の利益率は2.8%で、診療所の6.3%より低い水準でした(10頁、25頁)。この数字は、先に挙げた日経の記事にも出ています。やはり、診療所の方が余裕があることになります。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/22_houkoku_iryoukikan.pdf

診療報酬改定、勤務医の働き方改革が焦点に :日本経済新聞

収益率だけではありません。診療報酬の制度自体についても、診療所には、「特定疾患療養管理料」や「外来管理加算」等、二百床以上の病院にはない加算があります。また、血液検査等の検査料も、すぐに結果を出す必要があるので自前で検査する病院より、外注できる診療所の方がコストがはるかに低くなるのに、そうした事情は考慮されていないそうです。

また、診療所には、必要経費をあらかじめ定められた比率で計算できる「概算経費」制度というのもあります。売上が2500万円以下で72%、4000万円~5000万円以下で57%が自動的に経費として認められるというオイシイ制度です。これを使えば、経費計算の手間暇がいりませんし、第一、この割合より経費を低く抑えれば、それだけお得になります。

こうした問題点は、「選択」がたびたび批判してきました。

《日本のサンクチュアリシリーズ》利権の巣窟「診療報酬」制度 | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版

日本医師会長「横倉四選」の裏事情 | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版

 以上のように、色々な形で開業医は優遇されています。診療報酬の本体部分について、引き上げを行うのは、働き方改革の必要な病院勤務医等のみとして、財源は開業医、診療所向きの報酬で賄うべきです。そうすれば、勤務医の働き方改革を実現しつつ、本体部分全体の伸びをゼロかマイナスにさえ出来るでしょう。もちろん、医師数を増やすのでそれでは足りないというなら、その分の引き上げはやむを得ませんが、残念ながら現状では、医師数を大きく増やそうという話にはなっていません。

後期高齢者の自己負担引き上げの可否についてですが、政府は11月8日の全世代型社会保障検討会議の第2回会合を開き、結局その場に、医師会、歯科医師会、薬剤師会もヒアリングの対象ということで呼ばれました。

議事録はまだ公開されていませんが、読売によると、日本医師会の横倉会長は窓口負担について、一律の引き上げに反対したうえで、「負担能力に応じた形にしてほしい」と述べて、高齢者の所得・資産状況によっては一部で引き上げも容認できるとの考えを示したそうです。

www.yomiuri.co.jp

後期高齢者の自己負担率の引き上げについて、横倉氏は反対一本槍かと思ったら、ここでは柔軟な姿勢を見せました。

所得・資産に応じた引き上げを、という主張は全く正しいもので、政府も、社会保障と税の一体改革で同じ方針を示していました。年金の問題同様、一律の引き上げにしたら、高齢者間の所得再分配も必要になりますから、負担能力の低い後期高齢者については1割負担もやむを得ないでしょう。横倉氏の当日配布資料は以下です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/zensedaigata_shakaihoshou/dai2/siryou2.pdf

一方、後期高齢者のうち、どれくらいの割合の人を負担増にすべきか、ということですが、所得・資産で上位3~4割くらいの人達については、2割に上げるべきです。以下も11月1日の財政制度審議会分科会の資料ですが、右下のグラフにある通り、75歳以上の後期高齢者のうち、4割以上の人が、窓口負担を負担に感じない、または、あまり感じない、と答えています。他の世代と比べて、この世代がやはり負担感が特に低く感じているので、所得・資産で上位3~4割の人達に負担をお願いしするのは、やむを得ないでしょう。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20191101/01.pdf

もちろん、医師会であろうと構成員は国民の一部であり、まして後期高齢者の方々も国民です。こうした国民負担をお願いする前に、身を切る改革や行革は前提です。一方、現に議論が進んでいる診療報酬改定の議論で、政治改革と行革がなければ、一切何のカットもしない、医師会の言う通りで良い、というのでは、政治改革と行革を言い訳に、診療報酬削減による国民負担軽減や、勤務医の働き方改革を遅らせることになりかねません。

行革等とは別に、診療報酬の効率化はそれとして進めるべきですし、その際には、本体部分に手を付けることが必要で、特に開業医向きの報酬について、単に削減するだけでなく、制度面での見直しを含めて、改革を進めることが必要です。