日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

逆進性のある金融所得税の是正、また見送り。合計所得1億円超の1万7000人のみ金融所得税の増税を。

合計所得1億円超の高所得者ほど低くなる所得税率、原因となっている金融所得の優遇税制の是正が、また見送りです。公正な所得分配のため、高所得者に限って、株式譲渡益への課税は、分離課税をやめるか、税率を上げるべきです。

金融所得税で生じる不平等は是正すべき

昨日11月21日、与党の税制調査会が、2020年度税制改正に向けて総会を開きました。自民党甘利明税調会長が張り切っていて、方針としては成長重視、特に、大企業による異業種のM&A(合併・買収)への税制優遇措置が目玉とされています。

www.nikkei.com

大企業によるM&Aへの優遇税制は、内部留保が過去最高を更新し続けて、新分野への投資がさっぱり進まないので、アメを与えようということです。内部留保課税というムチではなく、アメでやった方が良い、ということでしょう。

内部留保が増え続けているのは問題であり、これを投資や賃上げに回させるべきだ、という方向には賛成できます。内部留保が増えること自体、何の問題もないという議論が目立った頃と比べれば、いくらか進歩したと言えます。

ただ、この税制の目的には賛成できるのですが、効果については正直、私は懐疑的です。財源として大企業の交際費の経費の減税措置廃止が挙げられていますが、損金算入額は800億円くらい、あまり大きな額ではないからです。財務省はそもそも、投資促進効果を疑っていて、反対のようです。この税制については、いずれまた考えをまとめます。

今年の「目玉」はM&A税制? 甘利税調、反対の声も:朝日新聞デジタル

大企業の交際費、減税措置を廃止へ 政府・与党方針 :日本経済新聞

今日は、株式譲渡益等に課される金融所得について考えます。

株式の配当や売却益にかかる金融所得税は、他の所得と分離して課税され、税率は20%と低く設定されています。このため、金融所得の割合の多い富裕層ほど、実際にかかる税負担率が下がるという逆進性が問題になっています。

これについては、1月に本ブログでも取り上げて、高所得者に限って、金融所得の増税を行うべきだ、と主張しました。そのときは、合計所得10億円以上の税率を40%にすべきと書きました。アメリカの民主党議員の主張との比較で、超・富裕層への税制を中心に書いたからです。

超富裕層に限らず、所得税制全体について考えると、「超」のつかない普通の?富裕層に対する金融所得課税も強化すべきです。所得分配の公正が求められる所得税で、はっきりした逆進性が続いているのはおかしいからです。所得税負担が低下し始めるのが合計所得1億円からだということを考えて、所得1億円以上の税率を上げるべきです。

以前のブログで取り上げたときのグラフを再掲します。旧民進党の会合で示された財務省の資料です(すみませんが、役所のウェブサイトの出所はすぐ見つからなかったので、また探します)。

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【政策解説】「民進党税制改革の基本構想」を決定 - 民進党

2013年以前は何と10%しか課税されていなかったのを、2014年に20%にしました。いま、財務省は、本音では25%に上げたがっています。旧民進党も、同じことを主張していました。野党だけでなく、慶應義塾大学の土居丈朗教授や、財務省OBの森信茂樹教授(中央大学)も、金融所得税増税を主張してきました。

株高の裏で、「金融所得」増税が浮上している | 岐路に立つ日本の財政 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

税制大綱「消費増税対策、複雑になりすぎた」 森信茂樹・東京財団政策研究所研究主幹 - SankeiBiz(サンケイビズ)

財務省は是正しようとしても、官邸が反対。株価は本当に下がるか?

にも関わらず、昨年の税制改正に向けた議論では、財務省が金融所得の税率を20%から25%にしたいとお伺いを立てたら、菅官房長官が蹴った、ということです。朝日新聞から引用します。

 財務省の星野次彦主税局長(当時)は昨秋、首相官邸で、金融所得課税を段階的に25%に引き上げる案を菅義偉官房長官に示した。提案は、1年余で3度目だった。

 だが、菅氏は一蹴した。「株価への影響が出たらどうするんだ」。とどめを刺すように、こう加えた。「この件は、もう持ってくるな」。星野氏が4度目の提案に行くことはなかった。

 菅氏が引き上げを認めないのは、アベノミクスの成果を示す株高こそが、政権運営の生命線と考えているからだ。金融所得課税の強化で株価が落ちれば、政権に致命的な打撃になる。菅氏は周囲に語る。「株価が下がれば税収も減るのに、財務省は目先のことばかり。おれが官房長官の間は、金融所得課税の引き上げは絶対に認めない」

digital.asahi.com

増税案となると、三度も官邸に持って行くとは、財務省もなかなかしつこいですね(笑)。ただ、これについては、財務省の言い分が正しいと思います。

株式譲渡益等への税率を20%から25%に上げたら、本当に株価がそんなに下がるのでしょうか?2014年度税制改正では、10%を20%に、2倍にも引き上げました。株価チャートで変化を見ると、以下の通りです。

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出所:日経スマートチャートプラス

日経平均株価 : 指数 : スマートチャートプラス : 日経電子版

見た通り、なるほど2014年の頭に少し下がっていますが、その後またどんどん上がっています。要因は細かく見ないといけませんが、少なくとも結果として見れば、株式譲渡益等の税率を2倍にしたのに、株価下落はあっても一時的だったことが分かります。2014年には、消費税増税もありました。これによる景気後退を見越しての株価下落だった可能性もあるでしょう。

今年も消費税は増税されましたし、景気を考えて来年度は出来るだけ増税は避けよう、それよりも成長重視で、法人税について軽減を図ろうというのは、方向性としては分かりますし、金融所得増税についても、1年だけ待って再来年度から、というなら仕方がありません。

しかし、消費税が増税されてあれほど景気が冷え込んだ2014年でさえ、株価への影響は限定的でした。それだけを理由に金融所得増税を蹴るのはおかしいと思います。

金融所得税増税には、別の点からの批判もされます。

株式譲渡益等の所得がある人達はほとんどが所得1億円以下なのだから、一律で金融所得への税率を上げると、実は大衆課税になる、というのです。この主張は、以前から大和総研が繰り返し言ってきました。

https://www.dir.co.jp/report/research/law-research/tax/20180302_012801.pdf#search=%27%E9%87%91%E8%9E%8D%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E+%E5%A4%A7%E8%A1%86%E8%AA%B2%E7%A8%8E%27

上記のレポートによると、株式譲渡所得と給与所得等の合計所得が 1億円を超える層の人数は全体でも 17,382 名で、納税者に対する比率は 0.04%にすぎない、ということです。

それならなおさら、たったそれだけの人達への税制優遇は、もうやめるべきでしょう。その17,382 人の皆さんに、応能原則によるご負担をお願いすればいい、ということです。大和総研の試算では、20%から25%に、所得1億円超の人達だけに限って増税したら、それでも1000億円の税収増になります。

大事なことは、税制に対する信頼が失われかけていることです。特に所得分配機能を持たされているはずの所得税について、強い逆進性がある現状は、出来るだけ早く是正する必要があります。今年の消費税増税の悪影響との兼ね合いではありますが、遅くとも再来年度からの金融所得増税を目指すべきです。