日本の改革

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山中伸弥教授の京都大学iPS細胞研究所への支援減額か:研究所も、情報公開の充実と、iPS細胞研究への疑問への丁寧な説明が必要

政府が、京都大学iPS細胞研究所への支援を減額すると報じられています。民間の寄付が集まっているから、というだけの理由なら問題がありますが、同研究所も情報公開はより充実させるべきです。また、iPS細胞による再生医療への様々な疑問にも、引き続き答える必要はあります。

頑張って寄付を集める研究所は補助金減らす?一方、研究所への寄付が大学全体へ?

政府が再生医療向けにiPS細胞を備蓄する「ストック事業」への支援を減額する可能性がある、と、日経や朝日が報じています。

www.nikkei.com

iPS備蓄事業、支援打ち切りも 政府「基礎研究から事業化段階」 企業ニーズとの違いも浮き彫り:朝日新聞デジタル

対象となるのは、再生医療に使うiPS細胞の備蓄事業(iPS細胞研究中核拠点)で毎年約10億円、2013年から2022年まで10年間の支援事業の一部です。この10億円が、2020年度からゼロになる可能性が出てきました。

今年の夏、山中伸弥教授らは、iPS細胞の製造や安定供給のため、新たに財団法人を設立する方針を決めました。これは国の方針にも沿っていて、国としては、iPS細胞を使った再生医療への補助金を減らして、自立を促す狙いがもともとあったようです。これは既に、8月の時点で日経が報じています。

www.nikkei.com

この話が、11月11日に山中教授が記者会見で予算減額の可能性について批判したこともあり、また今、取り上げられています。

先にも挙げた11月17日の日経の記事によると、研究所の財団法人への移行が8月に文部科学省の専門部会で了承された直後、「20年度から支援をゼロにする」と、内閣官房の官僚が山中所長に直接伝えに来てきた、ということです。

iPS備蓄事業、予算減額案 山中伸弥氏「非常に厳しい」 :日本経済新聞

山中教授は、研究所が民間からの寄付を一定程度集められていることが予算減額の理由とされており、それはおかしい、としています。

山中教授は、「寄付金がもらえるのなら、その分、政府の支援は減らすべきだ」という意見が自民党などから出ていることに対しては、「寄付金があるから支援を減らすというのは、寄付をしてくれた人に対しての『冷や水』になるので、これだけは絶対やめてほしい」と、記者会見で訴えています。

wedge.ismedia.jp

私も、民間からの寄付が集まっているから、というだけの理由で、国の支援を減らすのはおかしいと思います。山中教授のように、色々な努力をして寄付金を集めたら補助金が減らされてしまうのでは、寄付を集めるインセンティブが削がれてしまうからです。地方自治体が行革を頑張って歳出を削減して財源を作ったら、そのせいで国からの地方交付税交付金補助金を減らされるのがおかしいのと同じです。

一方で、京都大学iPS細胞研究所も、情報公開はもっと充実させた方が良いと思います。

研究所の事業のうち、寄付を受け入れているiPS細胞研究基金の2018年度収支報告によると、2018年度は、個人からの寄付23500件、法人1100件、総額で48億円になっています。これに対し、支出は、約7億6000万円です。

支出の用途は、人件費3億6000万円、研究費2億1000万円、知財管理費3700万円等、大まかな内訳だけが出ています。収入が支出を上回る部分は、基金に組み込む等していて、2018年度末(2019年3月31日)時点での基金の残高は、約143億円です。

気になるのは、研究所運営補助費という項目1億4700万円で、そのほとんど1億1000万円が、「大学運営に係る共通的な経費へ充当」されています。大学の共通経費というのは、(iPS細胞研究基金を含む)京都大学基金の維持・管理、(iPS細胞研究所CiRAを含む)京都大学全体の環境整備等に使われる、としています。

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出所:京都大学iPS細胞研究所

ご寄付の使い道 | iPS細胞研究基金 | 京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

他の項目も結構大まかな使途しか公開していませんが、特に、大学全体の運営費に使っている部分については、それがどのように、iPS細胞研究に役立っているのか、開示すべきでしょう。税金も(国立研究開発法人を通じて)入っているのですから、財団法人化を待たずに、ウェブサイトでの情報公開を徹底しないと、国からの支援継続への理解が得にくくなるのでは、と思います。

iPS細胞への期待と現実

より重要なのは、iPS細胞研究に対する色々な批判につき、国民に伝わるように一層の説明を尽くすことです。

そもそも論として、ES細胞があるのに、なぜiPS細胞が有用か、という点です。

私は、iPS細胞の最大のメリットは、倫理的な面にあると思います。

ES細胞は、人の生命の萌芽である受精卵を改変して作るので、「人間になるはずの何か」を臓器等にしてしまう、言わば、「ヒト」を移植のための道具として使ってしまっている、という見方があり、倫理上の問題がある、と言われ続けてきました。

https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/about_hESCs_2019.pdf

これに対して、iPS細胞は、こうした問題を一応クリアできる、ということになっています。iPS細胞では、受精卵を破壊することなく、皮膚などの体細胞から幹細胞を作ることが可能になるからです。野家啓一氏によると、iPS細胞の実験成功が伝えられたとき、それを最も「歓迎」したのはローマ法王アメリカ大統領だったそうです。もちろん、iPS細胞から生殖細胞を作ったりすれば、やはり倫理的な問題が生じますが、最初からヒト胚を滅失するES細胞よりは、はるかに社会的に受け入れやすいでしょう。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/18/2/18_2_26/_pdf/-char/ja

ただ、逆に言えば、メリットはそれくらいなのかもしれません。

iPS細胞のもう一つの大きなメリットとして、患者自身の体細胞から万能細胞を作れるので、拒絶反応がない形で移植手術等が出来るのではないか、と言われてきました。しかし、実際には、患者の体から皮膚等の体細胞を採取して、そこからiPS細胞を培養するのは長い時間がかかり、その間に患者が亡くなってしまうことも考えられます。

そこで考えられたのが、今回の予算削減の対象となった、iPS細胞の備蓄事業です。

多くの種類のiPS細胞をあらかじめ備蓄して、患者のタイプごとに拒絶反応が起きにくい形での再生医療を目指しましたが、なかなか集まらないので、拒絶反応が起きにくいようゲノム編集したものもそろえる方針に変えたそうです。

ところが、iPS細胞から移植用の細胞をつくる企業は、複数の型を使うのは多額の費用と試験の手間がかかるので、1種類のiPS細胞だけを使い、あとは進歩した免疫抑制剤で拒絶反応を抑えるたい、ということのようです。

京大iPS細胞備蓄事業、国支援打ち切りか 年10億円:朝日新聞デジタル

要するに、iPS細胞の備蓄事業というのは、もともとうまくいっておらず、企業のニーズとも合致しなかったようです。すると、iPS細胞のメリットとして喧伝されていた、拒絶反応がない、という点は、あまり生かせないことになるでしょう。

備蓄事業に限らず、iPS細胞による再生医療には、色々と限界があることも分かってきました。

iPS細胞を使った治療で、現在のところ成功と見られるのは、目の難病「加齢黄斑変性」の患者に他人の細胞から作ったiPS細胞を活用した治療です。目の病気でうまくいっても、たとえば心臓病では、数百倍にあたる1億個もの細胞を移植することになります。細胞数が多いと、がん化する細胞を取り除けないリスクが増してしまうそうです。

臨床では、他の治療法との比較で有用さが決まりますが、コストも考えると、iPS細胞以外を使った治療法の方が優位なことも多いとされています。

iPS、医療応用へ前進 問われる真価 :日本経済新聞

iPS細胞に関する研究への積極的支援は、既に第一次安倍政権から始まっていましたが、2012年に山中教授がノーベル賞を受賞した直後に発足した第二次安倍政権で本格化しました。いま問題になっている補助金が10年計画でついただけではなく、旧薬事法を薬機法に改正した際、再生医療分野の関連製品を迅速に実用化するため、条件・期限付きの「早期承認制度・先駆け審査指定制度」を導入しました。要は、再生医療については、治療法や関連製品の承認・審査を大幅に簡素化しました。

これが今、国際的に批判されています。科学専門誌のネイチャーが今年4月に、治験で通常行われるような方法(薬を与えた「治療群」と与えない「対照群」とを比較する方法)をとっていなかったり、サンプル数が少なすぎる治験だったり、学術論文にないままだったり、という治療法等が、承認されている、ということです。

webronza.asahi.com

こうした問題点を指摘されている治療法の中に、iPS細胞を使ったものも含まれています。と言うよりも、iPS細胞を利用した再生医療が認められやすいようにするために、規制を緩和したという一面があります。『選択』4月号は、安倍政権が目玉政策としてiPS細胞支援を打ち上げて、山中教授と中高の同級生だったという世耕弘成氏が肩入れして、リスクを軽視して臨床応用が進められている、として批判しています。

www.sentaku.co.jp

こうした色々な問題点を指摘はされていても、私はやっぱり、iPS細胞研究や、臨床応用は、出来る限り支援し続けるべきだと思います。山中教授の研究所にこれだけの寄付が集まるのは大きな期待の表れで、その期待には根拠があると思うからです。

iPS細胞を使った再生医療のメリットが、仮に、倫理面のものだけだったとしましょう。しかし、それはとても大きなメリットだと思うのです。

バイオテクノロジーの発展には、大きな期待が寄せられていますが、同時に、不安や恐怖感を感じる人達が、日本でも世界中でも大変に多いのが現状です。実際、大きなリスクを伴うものもあるのだから、当然のことです。再生医療について言えば、ES細胞だろうと、iPS細胞だろうと、ガン化のリスクは避けられません。

こうした科学的なリスクだけではなく、「そんな不自然なやり方で大丈夫?」とか、「治るかもしれないけど、そんなことやっていいの?」という、何が起きるか分からないけど不安だ、あるいは、危険はないにしても、人間がそんなことしていいんだろうか、という、漠然とした不安やこだわり、というものを感じる人達は多く、そうした直観が、再生医療に対する倫理的批判の背景としてあるのだろうと思います。

iPS細胞による再生医療というのは、珍しく、こうした不安感を国民がそれほど感じずに受け入れられた技術なのではないか、と思います。もちろんiPS細胞にも倫理的な問題はありますが、「もともと」体細胞だったものを使う、というのが、私を含めた素人には、不安感を払拭できる理由になっているのかもしれません。

いずれにせよ、最先端技術の応用、それも医療での臨床での応用については、出来るだけ国民が不安感を抱かない、納得できるものである方が良いと思います。だからこそ、現状では国民的理解のあるiPS細胞による医療は、たとえES細胞の方が安価に同じことが出来たとしても、研究支援は続ける価値はあると思いますし、これからの発展には期待しています。

こうした国民の期待に応えるためにも、iPS細胞に関する研究、ビジネス等に携わる方々には、情報公開を更に徹底していただき、専門家から指摘されている問題点について、国民にも目の届く形で、説明をしていただきたいところです。