日本の改革

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ヤフーとLINEの経営統合、1億人のデータ握る企業に、公取は大した規制できない?日本の議論の立ち遅れが浮き彫りに

ヤフーとLINEの経営統合、仮に認められたら、現状では、スマホ決済の強制や規約の一方的変更への規制は出来そうですが、プラットフォーマー利益相反取引への規制は出来なさそうです。日本のIT大手プラットフォーマーに関する議論は、アメリカやEUに比べて、立ち遅れており、今回の経営統合を機に、欧米水準の検討を始めるべきです。

企業結合について、キャッシュレス決済以外は問題ない?

検索サービス「ヤフー」を展開するZホールディングス(HD)とLINEが経営統合に向けて最終調整に入ったそうです。LINEの対話アプリの利用者は約8千万人で若者が多く、ヤフーのサービスは5千万人で30代以上が多いので、ユーザーがそれほど重なっていないので、これで1億人規模のデータを有するプラットフォーマーが出来ることになります。

日経は、統合の理由として、電子商取引(EC)サイトや金融サービスなどがどんどん統合されている実態を挙げています。

典型は中国で、1つの窓口で各種サービスをまかなう巨大企業、騰訊控股(テンセント)が生まれました。10億人規模の利用者を持ち、対話アプリ「ウィーチャット」のほか、ネット通販や決済、ゲームなどを手がけ生活全般にかかわるサービスを提供する「スーパーアプリ」として台頭しています。

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ヤフーとLINEの経営統合も、同様のサービス提供を目指すのでしょう。ソフトバンクが出資するアリババグループは、全世界に約10億人の利用者を抱える決済サービス「Alipay(アリペイ)」が、ショッピングモールや、個人間送金やローンを始めとする金融サービスへの「入り口」になっています。

ヤフーはショッピングサイト「PayPayモール」等をスタートさせ、通販サイト「ZOZOTOWN」運営会社を買収するなど、アリババのAlipayのように、PayPayを全てのサービスの窓口にするようです。

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検索も、対話アプリも、ショッピングも、決済も、何でもかんでも一つのアプリで出来れば、大変便利ですが、気になるのは、やはり独占・寡占による弊害です。ヤフー、LINEに比べれば、GAFAといった米系企業が圧倒的に強いですし、中国系もお手本にして追う立場でしょうが、日本人にとっては大変なじみの深い二つの企業が統合するので、ユーザーの選択の余地が狭まる心配があります。

ヤフーもLINEも、GAFAに比べればまだまだとは言え、日本の消費者・利用者企業が、なじみのあるヤフーかLINEあるいはその統合企業にこだわってしまうホームカントリー・バイアスのようなものが生じるかもしれません。米系や中国系企業が強いから、ヤフーとLINEは競争法上問題にならない、という議論だけでよいかどうか、考える必要はあるでしょう。

それはともかく、まずは競争法上、そもそも、今回の経営統合は問題なく認められるのでしょうか?

今回の統合による競争法上の審査は、日本だけでなく、台湾や韓国でも競争当局の審査を受けるようです。今回の統合で特にシェアが大きくなるのは、QRコードを使ったスマホ決済で、登録者は両社合わせて5500万人に達します。このため、日経によると、公取委関係者は、「スマホ決済はサービスの立ち上げ時期で、新規参入を妨げると判断される可能性もある」と言っているそうです。

公取は、10月に企業結合に関して、データの価値を審査に反映するための新たな指針案・対応案を公表したばかりなので、そのテストケースになります。

日韓台で競争法審査へ ヤフー、LINE統合に関し :日本経済新聞

両社との株価が大きく上がりった株式市場では、やはり企業結合上の規制についての懸念は聞かれたようですが、

「LIhoo」期待、時価総額9000億円動く :日本経済新聞

実際のところ、審査がどうなるか、現時点ではよく分かりません。

朝日によると、公取委の幹部は「実際にどんな分野で競争が制限されるおそれがあるかは、調べてみないとわからない」と話していますが、競争法に詳しい池田毅弁護士は「ヤフーとLINEはそれぞれ主力がポータルサイトとメッセージアプリ。2社の統合でデータが集積されることによる具体的な懸念を公取委が立証できるかというと難しいのではないか」と指摘。

スマホ決済で圧倒的に強い企業が出来ても、両者それぞれの「主力」が違うので、規制は難しいということのようです。

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朝日の別の記事でも、経営統合の審査について、公取委関係者が「データの囲い込みによる市場支配力の強化という視点も重要」としつつ、「いずれの分野にもライバル企業が複数社存在しており、これまでの運用を前提にすれば独占禁止法上問題になることはまずないのでは」と言っているそうです。

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ということで、現状の報道では、公取の「中の人」や関係者の意見としては、スマホ決済は問題になりうるけれど、二社の全体的なサービスを比較すると、問題なさそうだ、ということのようです。

「優越的地位の濫用」での規制は出来る

では、仮に統合が問題なく出来たとして、利用者にとっては具体的にどんな問題が生じる可能性があり、それに対して、どんな規制が出来るのでしょうか?

その一端を自民党山本太郎議員が、ブログに書いています。11月1日、自民党本部での競争政策調査会に出席し、公正取引委員会から、「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)」についてのヒアリングを受けたときのことです。

blogos.com

この調査は、先月末10月31日に発表されたもので、IT大手プラットフォーマーが多くの取引先に対して優越した地位に立ちやすく、利用者から不満も出ているために行われました。個別の問題ごとに、独禁法上の規制の方向性も示しています。

(令和元年10月31日)デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)について:公正取引委員会

山田太郎氏は、特に二つの問題を挙げています。

山田氏は個別企業の名前は挙げていませんが、挙げられた二つのケースについて、ヤフー・LINEの統合企業でどうなりそうか、考えてみます。

一つは、「アプリ内課金手数料の設定とアプリ外決済の制限」の問題で、山田氏も多くの相談を受けているそうです。

スマホのアプリストアがアプリ内の決済しか認めずに、代金の30%もの手数料をとっているという問題です。このように、アプリ内課金を強制することは、独占禁止法の拘束条件付取引になりうる、としています。

ヤフーとLINEの統合では、スマホ決済が特に大きな問題になりそうですが、アプリストアでPayPay利用を不当に強制するような場合は、拘束条件付取引として、処分できる可能性があります。

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出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/oct/191031c.pdf

山田太郎氏が挙げているもう一つの事例は、アプリストアの取引ルールが一方的に変更されるような場合です。報告書は、このときには、優越的地位の濫用による規制が可能だ、としています。

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出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/oct/191031c.pdf

実は、ヤフーショッピングについては既に、こうした問題があることが、公取の調査で分かっています。公取は今年1月から、「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査」で、オンラインモールやアプリストアの運営企業につき、アンケート調査を実施して、4月に中間報告を発表しました。

(平成31年4月17日)デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査について(中間報告):公正取引委員会

 それによると、ヤフーショッピング、アマゾン、楽天市場について、一方的に規約を変更されたり、不利益な規約変更をされたりした、と回答した利用者が、かなりの数にのぼっています。この三つの中では、ヤフーショッピングは一番マシで、最悪は楽天市場ですが、それでも、ヤフーショッピングで一方的な規約変更があったとする回答は49.9%、規約変更に不利益な内容が合ったとする回答は37.7%と、けっこうな水準です。

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出所:公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/apr/kyokusou/190417betten.pdf

ヤフー、LINEの新会社が、こうしたヤフーショッピング時の不当な慣行まで引き継いでしまった場合でも、規約の一方的変更等をした場合、優越的地位の濫用で規制できるでしょう。

優越的地位の濫用については、既に今年8月29日、公正取引委員会が、具体的に独占禁止法に違反する恐れがある4つの類型を示しました。ここでは、大量のデータを囲い込んでいることを根拠に、優越的地位を認めるという考え方を示しているので、1億人規模のデータを集めると見られるヤフー・LINEの新会社には、当然、「優越的地位」がある、ということになるでしょう。

(令和元年8月29日)「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集について:公正取引委員会

データ利用「違反」に4類型、公取委 独禁法の指針案 :日本経済新聞

公正取引委員会が示した、デジタル・プラットフォーマーが優越的地位にあるか否かの判断基準は、以下です。

 

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/aug/190829_dpfpc2.pdf

ところが、利益相反取引は規制できないらしい

このように、アプリサイトの利用に自社のスマホ決済を義務付けたり、規約を一方的に、利用者の不利に変更するようなケースについては、独禁法で規制が出来そうです。いずれも、ヤフー・LINE統合会社でありそうなケースなので、この二つの問題については、事後規制とはいえ、一応は抑止効果を効かせられるでしょう。

しかし、現状では規制が難しそうな、重要な問題が残っています。プラットフォーマーが自らネットショップに自社商品を出品するような場合の利益相反です。これは、ヤフーとLINEのような、どちらも極めて広範なサービスを展開している企業が統合するようなケースについては、色々な場面で問題になりえます。

この利益相反取引の存在が、アメリカでのGAFA分割論の一つの原因にもなっており、海外では重視されている問題で、本ブログでも取り上げてきました。

アメリカで盛り上がるGAFA解体論:アマゾンやフェイスブックから受ける消費者の利益・不利益とは? - 日本の改革

ついにアメリカでも、グーグルとフェイスブックを反トラスト法で調査。企業分割は必要でも、現行法も問題あり。 - 日本の改革

ところが、日経によると、公取の10月31日の先の調査報告書のスタンスでは、こうした問題についての規制は難しいようです。以下、日経から引用します。

IT大手のデータ寡占に密接に結びつくのが「競合の排除」だ。例えば通販サイトで出品業者が商品を売る際、どんな人にどの商品が売れたかなどの販売データを運営側のIT大手が独り占めし、独自商品の開発に利用する行為などがあたる。

報告書は、「独占・寡占」の場合にこうした行為が違法になるとしたが、独占・寡占と認めるには「プラットフォームが一つの市場として成立すれば」と条件づけた。

この条件は極めてハードルが高い。公取委の関係者は「他の通販サイトで類似商品を扱っていれば、対象になりづらいという意味」と解説する。例えば、強い影響があるアマゾン・ドット・コムの場合でさえ、楽天など他の通販サイトが利用できる状況なら、条件を満たさない可能性が高い。

出所:日本経済新聞2019年 

www.nikkei.com

アマゾンでさえ適用できないなら、ヤフーとLINEの統合企業にも無理でしょう。

「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書
(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引) 」の21頁に、「当該デジタル・プラットフォームが一つの市場として成立すれば」運営事業者はその市場で独占・寡占的な地位を占める蓋然性が高い、としています。つまり、「一つの市場として成立していなければ」独占でも寡占でもない、ということです。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2019/oct/191031b.pdf

というわけで、アメリカでGAFA分割論を生み、司法省や50州・地域の司法長官もIT大手への調査を始めた問題で、日本の公正取引委員会は、何も出来ないことになります。

公正取引委員会は、今年になって、IT大手プラットフォーマーに対して、積極的に調査し、新たな方針も次々に発表してきましたが、まだまだ不十分です。

ヤフーとLINEの企業統合という大事件を契機に、アメリカとEUのより厳しい議論と歩調を合わせた検討を、早急に始めるべきです。