日本の改革

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在職老齢年金制度というパズル:年金改革は年金だけいじってもダメ、税制とセットで考えるべき

働いている高齢者の年金を減額する在職老齢年金制度、修正は小幅のみになりそうです。これをなくすと、富裕層優遇になり、若者世代にも不公平、と批判されたからです。一方、高齢者の就労は今後、増やす必要があります。

所得分配と世代間公平を同時に実現し、高齢者就労を進めるには、年金制度だけ変えても無理です。

①所得分配の公平のためには、所得税を使い、②世代間公平のためには、就労状況と関係なく年金給付を減らし、③高齢者就労を進めるには、在職老齢年金を廃止、とすべきです。

年金を減らす基準となる収入:現行47万円を62万円に上げるつもりが、51万円に

働く高齢者の年金を減らす「在職老齢年金制度」につき、厚生労働省は今日11月13日の社会保障審議会の年金部会で、減額が始まる収入基準を、現行より4万円高い月収51万円とする案を示しました。当初案は62万円だったので、そこから大きく後退と言うか、現行に近い案になっています。

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出所:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565932.pdf

もともと、この在職老齢年金制度というのは、年金以外の収入がそれなりにある高齢者は、余裕があるのだから、年金をもらうだけではなくて、年金を支えて下さい、という趣旨の制度です。その分、現役世代が将来もらえる年金は増えますから、この制度は、もともとは世代間の公平のための制度です。

しかし、一定の給与と年金を両方もらっている高齢者は、年金を減らされるのですから、この制度には不満を言います。また、この制度は、高齢者が働くとそれだけ年金を減らされるから、就労意欲を削いでいる、とも言われました。

政府は、少子高齢化の中で、世代間の公平を図るために、高齢者にもなるべく長く働いてもらおう、という考え方ですから、今年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」(58~59頁)で、この制度を廃止すべきだ、としました。以下の通りです。

就労意欲を阻害しない観点から、将来的な制度の廃止も展望しつつ在職老齢年金の在り方等を検討し、社会保障審議会での議論を経て、速やかに制度の見直しを行う。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2019/2019_basicpolicies_ja.pdf

そこで、厚労省は、在職高齢年金制度をなるべく縮小する、つまり、よほどの高齢者でないと年金は減らない、という風に変えようとしました。で、最初は月62万円未満の収入のある高齢者の年金は減らさない、という制度にしようとしました。

しかし、これが、富裕層優遇だ、と批判されました。たとえば月55万円の収入がある高齢者は、現役世代の平均月収43.9万円より高い収入がありますが、そういう人の年金も減らさないのだから、その批判も分かります。

また、65歳以上への年金給付が年2千億円以上膨らみ、現役世代が将来もらえる年金額が減る、つまり、世代間の公平の観点から問題だ、とも批判されました。こうした批判も踏まえ、冒頭に書いたように、年金を減らす基準となる収入を、62万円ではなくて、今の制度と4万円しか違わない51万円という小幅修正にした、ということです。

以上のような、これまでの議論は、メディアもまとめていますが、

働く高齢者の年金減額、世代間格差に揺れ二転三転 :日本経済新聞

今日の厚労省社会保障審議会の年金部会の資料でも、最初の方で甲論乙駁の「ご議論」がずらっと並べられています。官僚の皆さんは本当にお疲れ様です<(_ _)>

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565932.pdf

所得分配の公平も、世代間の公平も、高齢者の勤労意欲も、みんな満たすには?

この議論、考えてみれば、皮肉な話です。

在職高齢者年金制度、つまり、一定の収入がある人は年金を減らす制度というのは、「若い人の将来の年金を増やすため」という意味では、世代間の公平のためだったのに、それでは「高齢者の働く意欲が減る」という意味では、世代間の公平のためにならない、と言われるのですから。

これについては、この制度で、高齢者の就労意欲が本当に減るのかどうか、という実証的な点も問題になります。複数の分析で、65歳以上はあまり変わらないけれど、60~64歳では確かに就労意欲が確かに減っているようです。

www.yomiuri.co.jp

以下、「世代間の公平」というのは、「現役世代の将来の年金を増やす」、つまり、今の高齢者への給付を抑えるという意味で使うことにして、「高齢者の勤労意欲を高める」のは、一応、それとは区別することにします。

すると、問題は、①貧富の差があまり広がらないようにする「所得分配の公平」と、②現役世代の将来の年金を増やすという「世代間の公平」と、③「高齢者の勤労意欲の促進」という三つの要請を満たすような年金制度を考えないけない、ということになります。

この三つを同時に満たすのは難しい問題です。①、②を満たそうと思えば、年金以外に高収入がある高齢者の年金は減らさなければいけない=在職高齢者年金制度はそのままにすべき、となりますが、③を満たそうと思えば、高齢者の年金は減らせない=在職高齢者年金制度は縮小・廃止すべき、となるからです。まるでパズルです。

これについては、年金制度だけを見て、仕事のある高齢者の年金を減らすか否か、という手法だけでは、結局は解決できません。

もともと、公的年金というのは、保険の仕組みを使っているので、保険料を支払った人がそれに応じた給付をもらえる制度です。だから、そもそも年金制度だけでは、所得分配の公平は十分に是正はできません。いわゆる低年金問題というのは、結局は、現役世代のときの貧富の差が引退世代にまで持ち越されるのが本質だからです。不安定な仕事で低収入だった人は、保険料もあまり払っていないのだから、引退してからもらえる年金も当然低くなりますし、逆の人は逆です。

このため、年金給付に関する所得分配の不公平を正すべき、というなら、それは年金ではなくて、税制で、特に所得税で是正するのが筋です。

私は、高齢者の収入については、特に金融商品から得ている収入について、分離課税の低率課税を改めるべき、と主張してきましたが、それ以前に、そもそも年金課税については、他の所得より優遇されすぎているという議論が以前からあります。

たとえば、森信茂樹氏は、年金と給与所得の両方を得ている人が、公的年金等控除と給与所得控除の2つを受けるのが「二重控除となっている」のでおかしい、と主張しています。

www.tkfd.or.jp

森信氏は、年金課税全体についての問題点を指摘しているのですが、年金以外の所得と年金所得の合計が高ければ、年金の控除が大きいことに伴う不公平は広がるでしょう。

(なお、こうした年金の控除等による所得税の減収額を、森信氏は1.8兆円と書いていますが、私が維新の職員のときに衆議院の調査室に一度試算してもらったときは、もっと大きな数字が出てきました。これについては、いずれ書きたいと思います。)

以上が、①の所得再分配の話です。要するに、年金制度で所得分配の公平を達成するなら、年金と所得税による再分配を組み合わせる必要がある、ということです。

次に、②の世代間の公平と、③の高齢者の勤労意欲の両立です。世代間の公平のためには、年金給付を減らさなければいけないし、高齢者の勤労意欲を高めるには、働いている人の年金も減らさないようにする必要があります。

これも、年金の財布だけで考えていては解決は無理で、やっぱり所得税を組み合わせるしかありません。高齢者の勤労意欲を高めるために、在職高齢者年金制度を廃止して、今まで高所得の高齢者に払っていなかった年金を支払うなら、財源が必要です。その財源は、年金に係る控除を縮小して、年金以外に高い収入のある高齢者への増税で賄うべきです。

こうすれば、現役世代の将来の年金を減らさないですみますから、世代間の公平の点で問題ありませんから、在職高齢者年金制度を丸ごと廃止しても構わないことになり、高齢者の勤労意欲も高められます。

在職高齢者年金制度が、実際に高齢者の勤労意欲を減らしているか、なお議論はあるようですが、とりあえずどの国も採用していない制度ではあるようですし、高所得の高齢者への所得税増税で財源を賄えるなら、廃止した方が年金制度の簡素化にも資するでしょう。

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出所:厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565932.pdf

日経は、今回の厚労省案が出たことを受け、来年の年金改革について、高齢者への給付抑制の議論がないのを批判し、以下のように書いています。

厚労省が20年の通常国会の改正法案の提出を目指す年金改革のメニューはほぼ固まった。柱は(1)在職老齢年金制度の見直し(2)受給開始年齢の選択期間の延長(3)厚生年金のパートへの適用拡大――だ。現在の高齢者への給付を抑制し、世代間の格差をならそうとする政策はない。課題はまた先送りになりそうだ。

出所:日本経済新聞11月13日

www.nikkei.com

これも一つの視点です。しかし、私は、在職高齢者年金制度に限らず、年金制度というのを年金の枠内だけで改革することにそもそも無理があって、所得税による再分配を適切に組み合わせて議論すべきだと思います。