日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

「代替肉」本格普及へ。ヴィーガンは結局、正しかったのか?:日本での脱・畜産酪農業は、案外良いことづくめ

2040年、食肉市場の6割が、植物肉と培養肉になると言われています。日本の畜産・酪農業を工業化することは、この産業の担い手不足による供給不足を埋め、食糧安全保障に貢献し、外国人技能実習生を減らし、補助金削減で行政改革にもなり、環境負荷も減らします。日本の伝統的食生活とも調和しやすい面もあります。

環境省は菜食主義や代替肉普及に賛成、農水省は「多様な文化守るべき」

昨日11月10日の日経ヴェリタスが、「食品×技術(テクノロジー)」の融合で生まれる「フードテック」について特集しています。植物由来の代替肉で知られるスタートアップ企業、米ビヨンド・ミート(BYND)の時価総額が、一時1兆円を超えた、ということです。経営コンサルタント会社のATカーニーは、2040年に世界の食肉需要の6割が代替肉と培養肉に置き換わると予想しているそうです。

style.nikkei.com

フードテックが注目を集めるのは、世界人口増で急増する食肉需要を補う必要があることと、畜産・酪農業が温室効果ガス(メタンガス)を大量に排出するので地球環境にも悪いからです。更には、赤身肉が健康に与えるリスクも分かってきて、健康志向からも代替肉の需要が増えているようです。

この代替肉の普及、もともとは動物愛護と環境保護を主な目的に、ヴェジタリアンやヴィーガンが言ってきたことでした。欧米での消費は急速に伸びていて、身近なところでは、バーガーキングが100%代替肉のインポッシブルワッパーを全米で販売し始めています。

www.cnn.co.jp

こうした背景のもと、日本でも政治が動き出しました。

訪日外国人の増加で、ヴェジタリアンやヴィーガンが安心して日本国内を旅行・生活できない、という問題が出てきました。

そこで、彼等・彼女らに対応した飲食店の増加や、動物性食品の表示の整備等を図ろう、ということで、今月11月6日に、超党派の「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」(ベジ議連)が出来ました。ベジタリアン・ビーガン表示の基準の明確化や飲食店などへの教育、旅行者向けの情報発信などを進める、ということです。

ただ、省庁の足並みは揃っていません。この議連の設立総会では、環境省は菜食主義の今日的意義を説明したのに対し、農林水産省が「多様な文化への配慮方法などを記した分厚い資料を配った」そうです。

www.nikkei.com

要するに、環境省は、畜産・酪農業の環境負荷という点から、菜食主義や代替肉の普及には前向き、農林水産省は、畜産・酪農業の保護の観点から、「多様な文化」を守れという名目で反対、という構図です。

「日本では」畜産業・酪農業を工業で代替していくのは、実は合理的

環境保護の観点から菜食主義や代替肉の普及を支持する環境省と、「多様な文化」保護という名目で後ろ向きな農水省と、どちらが正しいのでしょう?

この問題、もともと、ベジタリアンヴィーガンが、動物愛護と環境保護の観点から、畜産・酪農業の存在自体を批判してきました。肉食自体をやめて、この産業はなくしていくべきだ、という主張です。

私は、ヴィーガンの主張については、目的は分かるものの、現実的には難しいだろうし、食生活は人間の生存と文化・宗教に関わるから、なるべく政府介入はすべきではないと考えています。

本ブログでも、畜産・酪農業の全廃には反対と書きました。今夏に問題となったアマゾンの大火災について、畜産業批判だけをしているだけではダメで、メタンガス等の排出に課税するとともに、それに伴う消費者負担を軽減するための再分配政策も必要、と主張しました。

アマゾン火災と地球温暖化:畜産業含む農業に国際的な「炭素税・配当」政策を。ヴィーガン生活は無理でも、知識は有益。 - 日本の改革

ただ、アマゾン火災で問題となった、世界最大の牛肉輸出国ブラジルと、日本とでは、おのずと政策は異なるべきです。

ブラジルの場合、環境問題を無視するボルソナロ大統領がどれほど批判されようと、重要な産業である畜産業を守ることは、それなりにブラジル国民の利益にはなっているでしょう。文化的な面でも、ブラジルの食生活から、牛肉等はなかなか切り離しにくいのではないかと思います。

これに対し、日本では、畜産業・酪農業をやめないまでも、時間をかけて出来るだけ家畜の肉を代替肉に移行させて、この産業を「工業化」していくことは、案外良いことづくめだと思います。

第一に、日本の畜産・酪農業は、いずれにしても、今後の国内需要を賄いきれません。輸入増か、代替肉や乳製品の代替品を増やすことが、いずれにせよ必要になります。代替肉等は、国内での供給不足を補う手段となります。

どちらの産業も長年の保護政策にもかかわらず、あるいは保護政策のせいで、収益が上がらず、担い手がいなくなって供給力が下がっているからです。

以下、農林省生産局畜産部の昨年の資料「畜産・酪農をめぐる情勢(平成30年12月)」
から見ていきます。下に挙げたいくつかのグラフは、こちらのリンクにあります。

http://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/tikusan/attach/pdf/181203-27.pdf#search=%27%E7%95%9C%E7%94%A3+%E9%85%AA%E8%BE%B2+%E5%8F%8E%E7%9B%8A+%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%27

まず、酪農です。生乳の需給は、もともと天候や国際市況の変動等の影響を受けやすいですが、最近は、「国内生乳生産量の減少により、不足傾向にある」とされています。確かに、この数年、グラフにあるように、追加輸入でどうにか需要を賄っています。先進国のはずの日本で、しょっちゅうバター不足になっていますから、生活実感とも合っています。

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出所:農林水産省

その理由は、乳製品について、国家貿易の枠組みが未だにあって、農水省が需給調整に失敗しているからでもあります。

が、根本的な原因は、上のグラフの説明にもある通り、「国内生乳生産量の減少」のせいです。

実際、以下の表を見れば分かる通り、酪農家の戸数は毎年4%も減り続けています。飼養頭数も、平成30年にちょっと増えましたが、それまでは年率2%程度減り続けていました。 大規模化が一応進んで、一戸当たり頭数や一頭当たりの乳量が増えたとはいえ、上の需給全体のグラフを見れば分かる通り、それではとても間に合っていないことが分かります。 

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出所:農林水産省

同様のことが、畜産業についても言えます。牛肉と豚肉の需給動向は、以下の通りです。どちらも、左側の折れ線グラフは、「牛肉(豚肉)需給の推移」となっていますが、これは消費量のグラフですから、「需要の推移」とすべきところです。国内の畜産業の供給と国内需要のギャップは、右側の「牛肉(豚肉)の自給率の推移」で分かります。

牛肉の時給りてゃ、重量ベースで徐々に減り続けて現在は36%、飼料輸入も考慮したカロリーベースでは、10%にすぎません。豚肉の自給率は、重量ベースでは50%くらいで、カロリーベースでは6%です。

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出所:農林水産省

 

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出所:農林水産省

そして、肉用牛、豚肉それぞれの畜産農家戸数等は以下の通りです。どちらも戸数は減り続けています。頭数については、肉用牛は最近少し増えていますが、豚肉はずっと減り続けています。

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出所:農林水産省

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出所:農林水産省

肉用牛については、頭数ベースでは多少回復の兆しが見えますが、担い手不足が深刻なのは同じですし、豚肉にいたっては、戸数も頭数も減り続けています。このうえ、豚コレラ対策等で、家畜伝染病予防法上の飼養衛生管理基準(現在は遵守状況が問題になっています)をまともにしたら、コスト増に対応できない畜産農家は更に増えるでしょう。

飼養衛生管理基準について:農林水産省

以上のように、少なくとも生乳、豚肉については、今後、国内の畜産・酪農業は、国内需要も賄えないでしょう。代替肉増か、輸入増がいずれにせよ必要です。以上が、代替肉の需要・供給を増やす第一のメリット、必要性です。

第二のメリットは、代替肉や乳製品の代替品を増やすことが、食糧安全保障にもなることです。先に挙げた通り、牛肉も豚肉も、特にカロリーベースで極めて自給率は低いですが、代替製品を使うことで、これを高めることが可能になります。乳製品も同様です。

第三のメリットは、現在のような畜産・酪農業でなく、メーカーでの生産に切り替えていけば、技能実習生に頼らない形での食糧生産が可能になることです。

酪農家も畜産農家も、上記のような深刻な担い手不足によって、やはり技能実習生を増やそうとしています。新たに認められた在留資格での「労働者」ではなく、相変わらず「技能実習生」という、ひどい待遇の外国人労働者に頼り続けるのは間違っています。

人手集まらぬ 畜産・酪農現場が悲鳴 北海道 - ライブドアニュース

牛の分娩 兆しを通知、乳搾り完全自動化 :日本経済新聞

第四のメリットは、こうした非効率的な国内畜産・酪農業を、税金を使って助け続ける必要がなくなっていくことです。したがって、行政改革にもなります。

農林水産省は、畜産・酪農経営安定対策だけでも、令和2年度予算概算要求額 で、2200億円も計上しています(以下リンクの9頁)。長年、こうした支出で支え続けても、成長できないのですから、家畜由来でない製品で代替するという方向も進めるべきです。少なくともそのようにして、経営の効率化を促していくべきでしょう。

http://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_zigyo/attach/pdf/index-103.pdf

そしてもちろん、代替肉等の普及は、環境負荷も減らすし、動物愛護にもなります。食肉についての様々なタブーを持った外国人の人達にも、日本が暮らしやすい場所になるでしょう。

このように考えると、代替肉というのも、案外メリットだらけだということが分かります。

一方、それでも、実は私も、抵抗感はあります。その抵抗感が何なのか考えてみると、たぶん、「代替肉なんて結局ニセモノじゃないか、「本物」に比べて劣ったものを食べさせられるのは、生活水準の低下じゃないか」という感覚なのだろうと、自分については思います。

これについては、以上のような色々なメリットとの兼ね合いで考えるしかないかな、と思います。何がニセモノで悪いもので、何が本物で良いものかも、時代とともに変わるのかもしれません。

日清のカップヌードルに使われている例の「謎肉」、かつては本当に不気味に感じて(笑)、カップヌードル自体、全然手にしなかったものですが、あれが大豆由来の代替肉だということで、最近また大豆ミートを採用する企業が増えてきたというのだから、分からないものです。日清食品の安藤CEOが、「カップヌードルでは発売当初から「謎肉」と呼ばれる大豆由来の疑似肉を使用しており、さらに発展させていきたい」と胸を張っているのですから、本当に世の中は変わったものです。

「謎肉」起点の植物肉人気、ケンコーマヨの勝算 | 食品 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

安藤宏基氏 「持続可能性 カップ麺で追求」 日清食品HD社長・CEO :日本経済新聞

しかし、それでも、やっぱり、何か抵抗感が残る人はいるでしょう。

そもそも、生き物の命に感謝して肉等をいただくことは、それ自体良い面があるのではないか、人工的に作るものは、安全性はもちろん、なんだか自然に反していて不安だ、という感覚です。

正直、私もそんな感じを少し持っています。毎日口にするものですし、納豆を食べるときはどうしても生卵と混ぜて食べたいんです(笑)。

これについては、考えてみれば、日本の伝統的な食文化は、なるべく動物の肉は避けてきたというのも確かです。もちろん、地域、時代によって大きく違いますが、西欧や中東と比較すればそう言えるでしょう。私は厳格なヴィーガンにはやっぱりなれそうにありませんが、日本の昔からの食文化と両立する範囲では、偏見を持たずに、まずは試してみようかな、とは思います。

農水省が、文化の多様性を守るべきと言うのは、一般論としては正しいことです。ただし、それが、国民に不当な負担を押し付けて一部業界を守る言い訳になってはいけないし、日本の伝統的な文化では、畜産・酪農業というのが絶対不可欠でもなかったとは言えるでしょう。代替肉の普及が、日本国民に自然に受け入れられる形で進められるなら、政府としても広報くらいはちゃんとやるべきですし、技術革新のために必要な支援もするべきです。

とりあえず、日清さんやオイシックスさんは、早くおいしい生卵の代替品を作って下さい<(_ _)>