日本の改革

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非難ごうごうの外為法改正案。企業統治と安全保障の両立のため、日米欧が「中国」のみを名指しで規制すべき

臨時国会で審議入りした外為法改正案、「物言う株主」を排除していると強く批判されています。企業統治と安全保障を両立させるためには、規制対象の国を特定し、「中国」資本による株式買収を裁量行政で規制するべきです。

外為法改正案は、無能な経営者を買収から守るため?

外為法改正案が臨時国会に提出されています。

今回の改正は、株式の10%以上保有としている出資の事前審査を「1%以上」に厳しくして、取締役選任や事業譲渡などで経営に影響力を及ぼす行為には事前の届け出を求める内容です。対象は原子力や宇宙、サイバーセキュリティー関連など安全保障に関わる業種で、国が審査します。一方、問題ない投資については事前手続を緩和します。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20191008/02.pdf

法案の要綱はこちらです。

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/200diet/in20191018y.pdf

この法案の評判が大変悪いようです。

特に、「経営への影響力行使につながる行為」、つまり、役員への就任や重要事業の譲渡について、事前届出を求めることについては、強く批判されています。日経によれば、10月第2週、米国野村証券がマンハッタンの本社で開いた日本株セミナーでは、集まった大手機関投資家ヘッジファンドは、この改正案に一様に落胆していたとか。投資家からは、これまで経営者と対話を続けてきたのに、これなら空売りするという声まであったようです。

こうした声は、ニューヨークにいた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の水野理事から、菅義偉官房長官に伝えられ、経営に関与する意図のない外国の資産運用会社などは事前届出が免除されると明確にされました。が、「経営への影響力行使につながる行為」への事前届出が必要、という改正案の骨格はそのままです。

www.nikkei.com

これでは、いわゆる「物言う株主」が排除されかねません。日本国内のしがらみのない欧米投資家が、合理的な企業経営の観点から、経営者に対してズバズバと不採算事業の売却を迫ったり、取締役会に有能な企業人を送り込んだり、ということがやりにくくなります。事前届出が必要な株主取得割合を1%に引き下げるというのも、1%あれば株主提案権が行使できるからで、単なる提案にさえ事前届出の網をかぶせることになります。これは、安倍政権が進めてきたコーポレート・ガバナンスの強化による「バイ・アベノミクス」の方向にも反しているので、欧米投資家から批判が上がるのは当然です。

フィナンシャル・タイムズ(の日本語版<(_ _)>)は、弁護士、投資家、銀行家といった関係者には「日本が政策上の歴史的な大失敗を犯そうとしているように見える」として、日本取引所グループの清田瞭最高経営責任者(CEO)の、この計画全体が「ばかげている」というコメントを紹介しています。

www.nikkei.com

こうなると、改正案が出来た「背景」に注目が集まります。

日経の先の記事は、こうした内容になったのは経産省のせいだ、という官僚の声を紹介しています。外為法改正案が公表された10月8日に、経産省産業構造審議会の「安全保障貿易管理小委員会」が発表した中間報告に、似たような内容がある、としています。

産業構造審議会 通商・貿易分科会 安全保障貿易管理小委員会‐中間報告(METI/経済産業省)

更に、6月の株主総会東芝に外国人取締役が送り込まれたのを経産省が嫌がって、外為法改正案に、外資が経営に関与しにくくする内容をねじ込んだのではないか、というのが日経の見方です。

同様の見方をしているのが『選択』11月号です。

こちらは、東芝の車谷会長が、ヘッジファンド関係の社外取締役に対して、自分は経産省出身の今井尚哉総理秘書官とパイプがあるから圧力をかけられるぞと暴言を吐いたとか、経産省にとっても国際石油開発帝石石油資源開発という天下り先に色々言ってくる海外ファンドが目障りだとか、要は、経産省東芝と自分達の天下り先を守るために、外為法改正案を歪めたのではないか、と書いています。

外為法改正の裏で「東芝」の暗躍 | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版

日経、選択の記事の真偽は分かりませんが、経産省の「安全保障貿易管理小委員会」というのは、確かに怪しいと言えば怪しいです。

確かに6月の東芝株主総会後、7月から9月に集中的に討議がされていますが、この期間につき、議事録どころか、配布資料も一切公表されていません。どの回についても、議事要旨とも言えない簡単な一枚紙がアップされているだけです。いくら安全保障に関わる小委員会と言っても、情報公開が足りなさすぎますし、意図を疑われても仕方ありません。

安全保障貿易管理小委員会 (METI/経済産業省)

 中国を「念頭に」ではなく、明確に中国のみを「名指しで」規制すべき

このように、欧米の投資家からも、メディアからも強く批判されて、不信感を持たれている外為改正法案ですが、安全保障上の対策を強化しなければいけないのは確かです。軍民融合で国際社会の基本的な価値観に挑戦する中国の投資には、厳しい規制が必要だからです。

米中冷戦に伴い、昨年8月にアメリカが対内直接投資について大幅に規制強化をして、それにEUもならっており、日本としても早急に、中国企業への技術流出等を防ぐための対策が必要となっていました。

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出所:財務省

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20191008/02.pdf

私は、外為法改正等により、安全保障上の理由から、中国資本の投資について規制を強化するのは大賛成です。

物言う株主」を排除するという規制は、実はアメリカにもあって、米国企業に「支配」を及ぼす投資行為は事後規制の対象となっています(最近の改正で、「支配」を及ぼさない企業も事前届出必要となりました)。

http://www.cistec.or.jp/service/uschina/11-bei_toushikisei_gaiyou.pdf#search=%27FIRRMA%27

問題は、外資の経営関与を認めるか認めないか、ではなく、安全保障上の脅威国の投資による機微情報流出等の防止のはずです。

こう考えれば、投資行為ごとの分類によって規制するよりも、脅威となる国の国名を名指しで規制することが最も端的で効果的なはずです。不必要に外資を排除して企業統治を歪めないようにして、しかも安全保障上の投資規制も行うためには、個々の行為よりも、対象国を決めた規制にすべきです。

こうした規制を導入することが難しいのは分かります。

外為法が1条で言うように、「対外取引自由」が現在の国際社会の原則であり、国籍によって経済活動を区別せず、対外取引には必要最小限の管理を行うべきだからです。アメリカでさえ、国名を名指しする形の規制にはしていません。

一方、「対外取引自由の原則」は、「対外取引の正常な発展」と「我が国又は国際社会の平和及び安全の維持」のためのものです(外為法1条)。軍民融合、官民一体で、民間投資も含めたあらゆる手段で他国の主権を侵害し、諸国民の自由を制限しようとする国家に対しては、その国家を名指しで規制すべきことが許されるべきです。

アメリカの場合、Foreign Investment Risk Review Modernization Act (FIRRMA)(外国投資リスク審査現代化法)でも中国を名指しで規制しているわけではありませんが、事後規制でも事前規制でも裁量の幅が大きく、脅威が実際にあるかどうかを検討して規制対象を決めることになっています。特に、「当該外国人が国家安全保障上 の脅威となるか脅威を引き起こす能力または意図を有するか」という要件で、中国という国の投資は特別に厳しく規制が可能なはずです(以下のJETRO報告書の15頁)。

https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/f1226c7a434de0f0/20190011.pdf#search=%27CFIUS%27

 投資行為ではなく、国によって規制すべきという意見は、私一人の思い付きでもありません。今回の外為法改正案について議論した、財務省の関税・外国為替等審議会の第43回外国為替等分科会(2019年10月8日)で、植田健一委員が、以下のように質問しています。

そもそもコーポレートガバナンスコードとかフィデューシャリー・デューティーといって片方で改革をしてきたことは、むしろ物を言う投資家を増やす。外国の方でもとにかくやってきて、投資効率が悪いと思ったら物をどんどん言ってもらって、場合によっては企業を分割して売ってということもやってもらわないといけないとずっと言ってきているわけですよね。もちろん、それが大事な、どうしても国の安全にかかわるというならいいと思うんですけれども、それを広げ過ぎてしまって、最初からだめだ、おかしいというふうな立場でやってしまうと、本当におかしな状況に、資本主義の根幹が揺るぐなという感じがいたします。

 だから、どうするかわからないのですけれども、もし一つのやり方があるとすれば、これまたさらに煩雑になるかと思うんですが、例えば考えている、想定している国というのがあると思うんです。それを公にするんですか。それとも、どの国も、アメリカのような国でも全部調査するのか。

www.mof.go.jp

つまり、「物言う株主」について事前規制を新たに設けるなどというのでは、これまでのコーポレートガバナンスの強化とは真逆のやり方で資本主義の否定だ、それなら、「想定している国」を公表して、その国の投資が脅威かどうか調べるべきではないか、ということです。

この全く正当な質問に対し、役所からは、残念ながらはっきりした答えが返ってきていないように見えます。

アメリカも、EUも、日本も、「想定している国」は明確です。国や地域によって、脅威と感じる国は微妙に違っても、少なくとも、中国については一致しているはずです。「対外取引自由の原則」は、国際平和と国際金融システムのために、出来る限り守るべきではありますが、それらに挑戦し、破壊する力を現に持っている中国に対しては、日米欧が一致して、特定国に対する外資規制を行うべきです。

本来、外為規制だけでは足りません。

アメリカは2018年8月以降、中国を念頭に、外国資本のアメリカへの投資規制を強化し、輸出管理も厳しくしました。

が、日経によると、小野寺良文弁護士は「法は整備されても外国企業からの技術漏洩は簡単には止まりそうもない」と話しています。中国政府の「中国製造2025」の中身は相変わらず生きています。JETROの天野真也・中国北アジア課長は、「集積回路設計企業などへの所得税減免措置を延長し、国内外から投資を呼び込もうとしている」とみています。

にもかかわらず、相変わらず、多くの日本企業には危機感が乏しく、「技術共用」を進めています。

www.nikkei.com

外為法のような、対外取引自由が原則のような分野でも、中国という特定国を対象とした規制が必要ではないかという意見が、財務省の審議会でさえ出ています。外為法、輸出管理全般に加え、日本企業と中国との技術共用にも何等かの規制が必要です。

日米欧は、「中国を念頭に」行為規制を行うよりも、「中国を名指しで」包括的な規制を行い、自由で民主的な社会を守るべきです。