日本の改革

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ツイッターが政治広告を全面禁止:日本では、SNS等の政治的な議論を誰がどう歪めるのか

ツイッターが政治広告を全面禁止、フェイスブックは継続。ネット上での選挙干渉や、意図を隠した世論誘導の対策は、難しいですが必要です。対策は、政府規制は最小限にして、国会の対応と、SNSユーザーの自衛によるべきです。

フェイスブックが対応に苦慮する政治広告、ツイッターは撤退

ツイッターのCEOのジャック・ドーシー氏が、全世界で政治広告を禁止するとツイートしました。

朝日新聞の訳によると、「私たちは、世界中のツイッターで、すべての政治広告を停止することを決断した」、理由は「政治的なメッセージは、人々がそのアカウントをフォローしたり、リツイートしたりしたときに、(人々に)到達する。『到達』を金で買うことは、(人々の)決断を奪うことになる」とのことです。

digital.asahi.com

私は、政党や政治家は、ルールで決めた一定の金額内なら、SNSを含めて、ネットでの政治広告をやっても全然構わないと思います。日本のルールでは、政党等についてのみ、その政党等の「選挙運動用ウェブサイト等に直接リンクする政治活動用有料広告」ならOKという謎ルールになっていますが、

総務省|(1) インターネット等を利用する方法による選挙運動の解禁等

これも、個人でやっても良いと思います。金額にさえ上限をかければ、選挙運動や政治活動は出来るだけ自由にすべきだからです。

ツイッター社の今回の決定は、大義名分としては、カネでなくてネットでの活動で支持を得るべき、ということですが、当然、企業としての計算があって決めたことです。

そもそもツイッター社は、政治広告であまり儲かっていないようで、フェイスブックとはけた違いに政治広告収入が低いです。フェイスブックも全体の収入から見れば、ごくわずかな割合しかなく、朝日の記事によると全体の0.5%未満だそうです(各社の政治広告の収入は以下に出ています)。

Twitter drops all political ads in shot at Zuckerberg - POLITICO

ツイッターにとっては、政治広告をやめてもさして損失にならない、というのが一つの理由でしょうが、それ以上に、プラットフォーマーに対する政治からの最近の批判が大きく影響したのでしょう。

SNSでの政治広告は、候補者等の主張を有料で優先的に表示するものですが、これについて最近、特にフェイスブックが、民主党から批判されていました。

トランプ陣営の流した、民主党のバイデン氏の息子のウクライナ疑惑について、カネのやり取りまであったという政治広告につき、バイデン陣営が、虚偽だから取り下げろと要求していました。しかし、フェイスブック、グーグル、ツイッターはこの要求を拒否しました。政党の主張をプラットフォーマーの判断で載せないと、「検閲」として批判されてしまうからです。ツイッター民主党の要求を蹴ったのに、フェイスブックは最大手のせいか、一番強く叩かれることになったようです。

ウォーレンはわざと虚偽広告をフェイスブックに掲載して批判のネタにしたり、オカシオ・コルテスが議会でザッカーバーグをいびり倒したり、さすがにちょっと気の毒なくらいでした。

www.businessinsider.jp

そもそもフェイスブックは、極右のアカウントを削除したことで、トランプ大統領共和党から叩かれていました。そこで慌てて、保守派の政治家や論客を招いてオフレコで夕食会を開いたら、またそれをメディアに叩かれてしまい、もう共和党民主党双方から袋叩き状態でした。

www.politico.com

これを見て、ロイターが既に2週間前の10月16日、政治広告からは全面撤退すべきだ、というコラムを掲載していた矢先に、ツイッターが「政治広告全面撤退!」とやった形です。民主党が歓迎、共和党が批判していますが、業界トップの競合企業と差別化するのも目的でしょう。

コラム:フェイスブックの政治広告問題、全面撤退が賢明か - ロイター

要は、プラットフォーマーは、独自の利益のために、政治広告や政治的なコンテンツに対する対応を決めています。民間企業であるプラットフォーマーが独自の判断で政治広告を受け入れたり拒否したりするのは、現時点ではやむを得ません。それを前提に、国や利用者がどのように対策をするかが問題になります。

選挙活動や政治活動は出来るだけ自由にすべきで、政治広告がお金を払って優先的に表示されるものだから、というだけの理由で規制したりすべきではありません。しかし、国民の議論や意思決定が、自由で公正な形で出来なくなるような介入等があるなら、それは排除すべきです。ここでは、国の内外からの秘密裡の世論操作について見てみます。

日本のSNSでは、国外向けにも、国内向けにも、対策が必要

アメリカでは、2016年の大統領選で、SNSの世論形成にロシアの介入があったうえ、秘密裡の世論操作があったことで、プラットフォーマーに対する批判も起きました。

フェイスブックは、ロシア政府とつながりのあるネットワークが、50のインスタグラムのアカウントとフェイスブックのアカウント1つを通して24万6000人のフォロワーを獲得、このうち約60%が米国内のユーザーだったとしています。

www.newsweekjapan.jp

こうした、外国勢力によSNS等での政治議論への介入には、日本でも十分な警戒が必要で、本ブログでも、中国やロシアの工作があり得ると主張してきました。

中国サイバー軍は、日本の統一地方選と参院選に必ず介入する。狙いは何か、影響力はどうか。 - 日本の改革

中道+リベラルが勝利の欧州議会。問題は、親EUか反EUかではなく、ロシアと中国の不当な影響を排除できるか。 - 日本の改革

外国政府によるネットを通じての日本への選挙介入について、東京海上日動リスクコンサルティングが、対策について提言をしています。政府の役割を重視するとともに、国会、企業、個々の国民それぞれに、以下のような対策を呼びかけています。

政府がすべきこととして、選挙に関する外国からの不当な発信につき、発信元を特定する能力(アトリビューション能力)の向上と制裁措置の整備等が挙げられており、外国からの選挙介入の備えとしては、私も賛成です。

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出所:川口貴久・土屋大洋(2019)「現代の選挙介入と日本での備え」(東京海上日動リスクコンサルティング

https://www.tokiorisk.co.jp/service/politics/rispr/pdf/pdf-rispr-01.pdf?fbclid=IwAR3xAXyHPs6zGYfDVshWAehNU9goeeidhEQSlFismRH-N6d139Xr4XvYn0w

このレポートでは、2017年のドイツの選挙へのロシアの介入(右翼政党AfDの躍進を狙ったと言われています)のように、日本でも、単一の争点を中心に社会分断を狙った介入がありうる、特に憲法改正についての議論は有権者を二分しやすいので、注意が必要だ、としています。

ロシアや中国の選挙介入の一つの目的は、民主主義国家を貶めて、権威主義的な自国の体制強化や独裁制の輸出を容易にすることだ、とも言われています。そのためには、国論を二分するような問題につき、両方の極論を感情的に煽り立てて、対象国の国内政治を混乱させるのは、効果的なやり方でしょう。

www.foreignaffairsj.co.jp

こうした問題に、民主主義の主権国家が対抗するためには、政府の対策が必要です。

しかし、日本の場合、政府だけに頼るのは危険です。国内でも、SNSの利用者に、実質的な発信源や発信の意図を知らせずに、世論操作が行われている可能性があるからです。

日本で多数のボット(プログラムによる自動投稿をするアカウント)が活動していて、その多くが保守系の主張をしている、という論文が、2017年に、エアランゲン=ニュルンベルク大学のファビアン・シェーファー博士によって発表されました。ここでは、2014年の日本の衆議院選期間中におけるツイートの統計分析が行われています。

https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/big.2017.0049

作家の一田和樹氏によるこの論文の紹介では、2014年12月8日から30日の間のツイートの中から政治に関係あると考えられるキーワードを含むツイート約54万件を抽出して分析したところ、そのうち、単純なリツイートは30万件、それ以外の類似ツイートは14万件存在したことで、これらがボットによるものでは、という主張です。

この情報を統計解析し、5つのパターンを抽出すると、3つのパターンは「安倍政権支持キャンペーン」のボット、残りの2つのうち一つが「反安倍政権」で、最後のパターンは「ボットに似た人間」だろう、ということです。

日本で進むネット世論操作と右傾化 - THE ZERO/ONE

(同じ論文を、ジャーナリストの高松平藏氏も紹介しています)

SNSが日本の政治に与える無視できない影響 | インターネット | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

ボットによる大量投稿が、どの立場だろうと、一般の国民のアカウントを装って、実際は組織的に行われ、その裏に政治団体や政党がいたとしたら、それはおかしいし、国民は実態を知る権利があると思います。

外国政府への対策に関する先に紹介したレポートにあるように、国内のこうした発信に対しても、国民が事実を知ることが出来るよう、「アトリビューション能力」、発信元を知る能力や権利が国民自身に付与されるような規制や仕組みが必要です。

こうした組織的投稿が仮になされているとして、それを行う動機は、政府・与党にも、野党にも、両方に当然あるでしょう。ただ、言論の自由、政治的自由の侵害の可能性は、やはり政府による行為の場合の方が大きいはずです。規制の議論は国会で行うのはもちろん、規制の仕組みも、チェック機関は国会の委員会にする等、政府だけに頼らないようにすべきでしょう。あとは、SNSを利用する国民にも、リテラシーや自衛が求められます。

言論の自由、政治的表現の自由を守りつつ、目的や発信元を秘匿した形での発信については、少なくとも、事実上の発信源がどこかを開示させる仕組みが必要です。それが外国政府であれ、自国政府であれ、国内の与野党政治団体、企業であっても同じです。発信源さえ分かれば、国民自身が目的はある程度分かった上で、その発信の意味を判断できるでしょう。憲法改正も現実味を帯びてきた今、与野党で議論を始めるべきです。