日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

イスラム国指導者は「犬のように」死んだ:アラブの春は終わらない。中東は必ず民主化される。

イスラム国指導者が死亡。同団体の「領土」は既になく、これで権威もほぼ失われました。中東民主化を目指した「アラブの春」はイスラム国台頭を招いたから間違いだ、とはもう言えません。過激派の伸長は一時的なものであり、中東民主化は可能なので、国際社会は今後一層それを目指すべきです。

「領土」も権威も求心力も失ったイスラム「国」

イスラム国指導者のバグダディが殺害されました。トランプ大統領はシリアから全面撤退すると言いつつ、クルド人勢力とも協力して、この成果を上げました。

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アメリカのメディアは、シリアから撤退するのは愚かなことだ、ロシアとイランが影響力を増す、イスラム国が復活するかもしれない、と言っていました。ところが、トランプ政権は逆に、イスラム国の精神的支柱である指導者を殺したうえ、世界中に向かって、その死にざまを徹底的に罵倒して、権威を失わせました。トランプ氏は、バグダディが最後に泣き叫び、「犬のように」死んだ、と述べました。イスラム国は既に「領土」をほぼ失っていたとは言え、アメリカの態度次第で復活するとの懸念が持たれていた矢先、世界中を安心させるニュースです。弾劾騒ぎを続けている米議会も、さすがにこの作戦を評価しています。

米議会も評価、IS指導者殺害で :日本経済新聞

もちろん、まだまだ油断は出来ません。イスラム国は各地で報復を行おうとするでしょうから、日本を含めて世界中が備えるべきですが、それでも、求心力を大きく削いだことには間違いないでしょう。

イスラム国がイラクでもシリアでも支配地域を失い、指導者も失って、先進国の若者まで引き付けた妙な力も失いつつあるというのは、世界全体にとって、どんな意味を持っているのでしょうか。

イスラム国は、イラク戦争アラブの春をきっかけに台頭しました。

2003年のイラク戦争は、フセイン政権を倒して民主主義国家を作ることを大きな目的として行われましたが、イラクシーア派スンニ派クルド人の対立でまとまらず、イスラム国の誕生と台頭を許しました。

2010年に始まったアラブの春は、中東諸国での民主化を各国の民衆が目指したものでした。ところが、シリアではアサド政権の残虐な大弾圧を招いて、シリア内戦と人道危機を引き起こしました。これがイスラム国を大発展させてしまい、彼等はどんどん図に乗って、イラクとシリアにまたがる地域で建国宣言までしました。

このため、イスラム国が勢力を保っているときには、中東の民主化なんて無理だ、かえって混乱を招いて、あんな原理主義勢力が強くなるだけだから、やめた方がいい、という見方もありました。この意見は、イスラム教は中東の「文化」であり、もともと民主主義と両立しないものだから、中東の民主化は無理だ、という考え方に基づいています。こうした考え方は、批判されつつも根強く主張されています。

中東で民主主義が定着しない「本当の理由」~イスラームをめぐる2つの問題について(末近 浩太) | 現代ビジネス | 講談社(2/5)

そもそも、まだイスラム国が形をなしていなかった時期、イラク戦争が始まる前でも、日本では、中東の民主化なんて無理だ、アメリカは傲慢に、侵略戦争民主化を実現しようと言うが、そんなことはやめるべきだ、と言われてきました。当時はテレビ朝日のニュース・ステーションでキャスターの久米宏氏が、部族社会の民主化なんて無理だと言っているのを見て、驚いた記憶があります。

イスラム国が強かった時期には、こうした見方に説得力を感ずる人も多かったことでしょう。

しかし今、イスラム国は、領土も権威もほぼ失いました。もう、イスラム国の存在を理由に、中東の民主化は不可能だ、とは言えなくなりました。

民主化はもともと大変時間がかかるし、自由と民主主義のための戦いに終わりはない

それ以前に、イスラム国が強かったときでさえ、中東の民主化は無理だ、などという主張は間違っていました。そもそも民主化というのは、とても長い時間のかかるプロセスだからです。

イスラム国やその他の原理主義者等の台頭など、要は一時的な揺り戻しで、しばらくすれば、また元に戻る一過性の現象にすぎません。これに対し、民主主義というのは、形のはっきりした統治形態であり、結局はこれを目指す経路に戻っていくものです。

フランスでさえ、フランス革命が10年かかった末に、ナポレオンが人権保障は一応続けつつも第一帝政。ナポレオン失脚後は王政復古の時代が15年続きました。その後、1830年七月革命、1848年の二月革命とまた民主化が進んだものの、ナポレオン3世第二帝政を敷いてしまい、その後、普仏戦争でフランスが負けて、ようやく1875年に第三共和政ということで、一応は安定した民主主義の世の中になりました。1789年のバスティーユ襲撃から、100年近く経ってのことです。女性含めた普通選挙は1945年にようやく実現しました。他の先進国の民主主義の歴史も一直線どころではありませんが、結局は段々と民主化を実現してきました。

中東諸国のように宗教の影響力が強い社会では、民主主義の世の中となって安定するのに、100年くらいかかっても不思議はありません。2003年のイラク戦争からまだ16年、2010年のアラブの春から9年しか経っていません。

結局、イスラム国というのは、ちゃちでグロテスクな「王政復古ごっこ」にすぎませんでした。今後、他の原理主義勢力が出てきても、結局はその程度のことで終わるでしょう。

今また中東諸国で、独裁的な政治体制や経済格差への不満から、既存の政治体制への挑戦が始まっています。

民主化されたはずのイラクでも、汚職や失業問題、劣悪な公共サービス等、民意が反映されない政治への抗議から大規模なデモが発生、最初の1週間で150人以上もの死者を出し、第二波のデモでも40人以上の死者を出しながら、抗議活動が続いています。

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他にも、アルジェリアでも、シーア派スンニ派等の宗派ごとのエリートが国民生活を無視して進める政治に対して、大規模なデモが起きています。

抗議活動の起きたイラクアルジェリア、そしてレバノンに共通するのは、2010年のアラブの春ではほとんど呼応する動きがなかったことですが、イスラム国の弱体化と対テロ戦争が一段落したことで、抗議活動が活発化した、と言われています。

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イラクアルジェリアには、一応は選挙があるのに、イラクでは汚職が蔓延して豊富な石油収入がインフラに回されず、政治組織に参加しなければ公職につけませんし、アルジェリア産油国なのに同じように政治腐敗、長年にわたって軍が牛耳る政治体制への不満が今年になって爆発しました。

アルジェリア、反体制デモ続く 支配構造の維持に抵抗 :日本経済新聞

これらの国では、選挙は一応あっても、強力な「各種団体」、「特殊利益」のせいで民意が反映されないから、一層の政治改革を求めるというのだから、そこだけ見れば、日米欧と課題は共通しているようにさえ見えます。違いと言えば、先進国より宗教と軍の影響力が強い、経済がまだまだ発展途上で産業が育っていないから、多様な世俗的政治勢力が生まれにくい、という点くらいでしょう。

サウジアラビアのような本物の独裁体制の国でも、民主化の動きはあります。惨殺されたジャーナリストのジャマル・カショギ氏は、殺害される前、アラブ諸国民主化を支援する団体の設立を米国で準備していました。設立を予定していたのは「今こそアラブ世界に民主主義を」(略称DAWN)という団体です。

サウジ記者殺害:カショギ氏、アラブ民主化支援団体を計画 - 毎日新聞

カショギ氏の死は、中東の民主化を求める人達を奮い立たせています。エジプト政府の計画・国際協力大臣だったアムル・ダラグ氏は、カショギ氏の死を無駄にしてはならない、として、昨年11月、以下のようにニューズウィーク誌に書いています。

物語はまだ終わっていない。大きなうねり――アラブの春よりもはるかに大きなうねりが胎動している。地域の文化や歴史的背景と関わりなく、普遍的なモラルとして民主主義を守らなければならない。欧米諸国は中東外交を見直し、抑圧的な政権の実態に目を向けるべきだ。辛うじて保たれている世界秩序を維持する、あるいは立て直すには、それが不可欠だ。

アラブ世界で根底的かつ持続的な変化が起きている今、単純に古い秩序に回帰するわけにはいかない。欧米諸国はいくら頰かむりを決め込もうとしても、中東で起きている事態を無視するわけにはいくまい。民主化を求める闘いは下火になるどころか、燃え盛ろうとしている。

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アムル・ダラグ氏がこのように書いたのが去年11月です。現に、今年になってから、中東各地で、既存の政治体制への抗議活動が激化しています。民主化を求める闘いが燃え盛ろうとしている、という予言は、見事に的中しました。

アラブの春は終わっていませんし、終わることもありません。自由と民主主義を求める戦いに、もともと終わりはないからです。先進国でも同じです。日本でそれは「改革」と呼ばれています。

イスラム国指導者は死にました。国際社会も日本も、中東民主化に向けた努力を更に強く進めるべきです。アメリカはイラク戦争での性急な方法への反省から、中東からは軍事的には段々と撤退せざるを得ないでしょう。オバマ政権もトランプ政権もその点は同じで、トランプ後の政権も変わらないはずです。そうした現実を受け入れ、今後は、アメリカの軍事力でアメリカ認定の民主化勢力を助ける方法だけではなく、もっとソフトな形での民主化を図るべきです。

中東諸国の国民による民主化運動をバックアップして、中東諸国政府には経済支援と経済制裁のアメとムチで、インフラ整備や産業育成をさせることで、諸国民に力をつけさせる方法を更に強化すべきです。既にある程度行われてはいますが、国際社会と日本政府は、中東民主化という長期的な目標を一層はっきり掲げて、こうした政策を更に進めるべきです。