日本の改革

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大企業ほど軽くなる法人税負担率:研究開発減税の「既得権」部分は廃止を!

ソフトバンクグループの節税策を財務省が禁止へ。一歩前進ですが、企業規模が大きいほど税制優遇が増えて、税負担率が軽くなる傾向は相変わらずです。研究開発減税で、研究開発投資を増やしても減らしても減税される「総額型」は廃止すべきです。

大企業ほど税負担率は軽い実態

今日の日経によると、財務省は、ソフトバンクグループ(SBG)が用いたM&Aでの節税策を防止する方針を固めました。「同一グループ内の資本取引で実態に変化がないにもかかわらず巨額の赤字を意図的につくり出して、ほかの部門の黒字と相殺して法人税を減らす」手法を禁止して、制度の抜け穴をふさぐ、ということです。

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背景には、大企業の間でも、税負担率に大きなばらつきがあり、不公平感が強まっていることがあります。

日経の調査によると、税率が低い海外での稼ぎや節税対策の度合いも影響して、大手企業ほど負担が低い傾向があります。

先に紹介した節税策を使ったソフトバンクグループは、18年3月期の日本国内での法人税の支払いが単体ではゼロ。これは一番極端な例ですが、企業の規模別でみると、大手企業の方が税負担は低い傾向があります。税引き前利益が500億円以上の企業の税負担率の中央値は27.8%と過去最低。10年3月期に1.8ポイントだった大手企業の税負担率と平均の差は、19年3月期には3.5ポイントに広がりました。

日経は、背景として、「大手企業ほど日本より税率の低い国で幅広く事業を展開していることが多いうえ、節税のための専門チームを抱える余裕も生じやすい」としています。

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研究開発減税の「総額型」廃止を

法人税については、税率を下げて成長を促すべきですが、上に紹介したような節税スキームを使うやり方は、いたちごっこではありますが、きちんと穴をふさぐべきです。企業が節税のために多額の人件費を使うことも、ゼロサムゲームにお金を使っているのだから社会的にはムダだからです。

また、企業規模が大きくなればなるほど税負担率が下がる、という点については、グループ企業の持ち株会社のような場合でなければ、やはり不公平感は残ります。

特に、法人税については、以前から、各種の租税特別措置が、補助金同様の既得権になっており、適用対象も偏っていると批判されてきました。

なかでも減税額が大きいのが、研究開発減税です。企業に技術革新を促すための減税なら良いことのように見えますが、減税の対象となる研究開発費は、製品の製造、技術の改良、考案又は発明ということで、かなり幅広く認められます。このため、技術革新というほどではないモデルチェンジ等でも認められているようです。

この研究開発減税は、大手に偏っているだけでなく、特定の業界、特に自動車産業と化学産業に偏っているのが問題ではないか、と、批判されてきました。安倍政権が2013年に控除上限を大幅に引き上げたこともあって、朝日が2016年に批判を重ねました。

財務省の報告書で、減税対象の企業名は非公表ですが、朝日は大手企業の有価証券報告書などと突き合わせて分析して、研究開発減税の適用が多い上位5社として、トヨタ自動車(減税額1083億円)、日産自動車(213億円)、ホンダ(210億円)、JR東海(192億円)、キヤノン(157億円)を挙げ、大きな話題となりました。

当時、維新もこの問題を取り上げ、租税特別措置廃止を主張しました。

digital.asahi.com

研究開発減税には、企業が研究開発投資を増やしても減らしても、研究開発費の総額の一定割合を減税してもらえる制度があります。これを、研究開発減税のうち、「総額型」と言っています。

この「総額型」の研究開発減税は、政府税調からも強く批判され、制度が何度か変わりました。が、その骨格は残っていて、企業が使う経費のうち、研究開発に関する部分の中には、根雪のように減税の対象になり続けている部分があります。

私は、こうした税制上の既得権は、廃止すべきだと思います。技術革新促進はもちろん必要ですが、研究開発の中身は基本的に問われていません。このため、技術革新への貢献がないような研究開発費でも現行制度では減税の対象となるうえ、適用対象への偏りが、企業規模でも業種でも見られるからです。

実際、政府税調も、2014年に、研究開発減税の総額型を強く批判し、見直しを求めました。 

https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20140626_26zen10kai2.pdf

 これに答えて、政府は2015年度税制改正で研究開発費(一般試験研究費)の控除限度額を30%から25%に引き下げました。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei15_pdf/01.pdf

更に、2017年度税制改正で、研究開発費を増やすと減税が増え、減らすと減税も減る、という制度を部分的に導入しました。

以下のグラフのように、横軸の、研究開発費の割合が増えれば、縦軸の控除率、つまり減税の割合も増える、という仕組みです。

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出所:経済産業省

https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/tax/kennkyukaihatutaxgaiyou5.pdf

しかし、この仕組みでも、一部業界の大企業の「既得権」のかなりの部分は手付かずです。

なぜなら、研究開発費を増やした分だけが減税になるのではなくて、研究開発費を増やしたらその「総額」が減税になるからです。もともと1億円の研究開発費を毎年使っている企業が、次の年に100万円研究開発費を増やしたら、100万円分について減税になるのではなくて、1億円プラス100万円について減税となります。たとえ100万円分は技術革新に資する場合でも、1億円部分がそうでなかった場合にも1億100万円全部(の一定割合)が減税対象になります。

また、研究開発費の割合(上のグラフの横軸、増減試験研究費割合)が25%以上減少した場合には、一定割合(6%の控除率)の減税となりますので、ここでは研究開発費を増やすインセンティブが働きません。

今年度税制改正で、ベンチャー企業への研究開発減税拡張等、多少の変更がありましたが、以上のような問題は残ったままです。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei19_pdf/zeisei19_03.pdf

繰り返しになりますが、私は、法人税率の引き下げには賛成です。アメリカのトランプ政権は、連邦法人税率を35%から15%に下げました。州税も含めた法人実効税率は、40.75%から22.51%に下がっています。これが米景気の底上げと、米企業の国内回帰を促しました。トランプ政権の支持の底堅さは、このためでしょう。

日本は法人実効税率が29.97%で、アメリカ以外の諸国と比べても、まだ高めです。安倍政権が、法人税率を23.2%まで下げたのには賛成ですし、維新が言うように、出来れば20%まで下げるべきです。

先進国、減税競争再燃も 経済界「日本も追随を」 :日本経済新聞

法人課税に関する基本的な資料 : 財務省

しかし、税制上の既得権は切るべきです。研究開発費の総額について、中身も見ないで一律減税にする現在の制度は、昔に研究開発費を増やした業種の大企業の既得権を生んでいます。こうした企業が、本当に技術革新に資するような研究開発投資を増やすよう促すために、研究開発減税の総額制は廃止するべきです。減税で研究開発を促進するなら、社会的にプラスの効果が大きい投資のみを対象に行うべきです。

研究開発促進は、減税よりも、補助金の方がかえって透明性が高くなります。現在は、プライバシーを理由に、どの企業がどの程度の研究開発減税を受けているかさえ、公表されていません。企業の研究開発投資が社会的に有用かどうかをきちんと中立的・専門的に判断したうえで、補助金交付を行う方が、現在のような減税制度よりも、効率性の点でも公平性の点でもすぐれています。

これから年末の来年度税制改正に向けての議論では、大企業の税負担の効率性・公平性の観点から、研究開発税制の総額制の是非につき、あらためて俎上に載せるべきです。