日本の改革

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温暖化はスーパー堤防やダムの完成を待ってくれない:国交省は安価で効果的な堤防改修をわざと避けている?

台風19号で多数の堤防が決壊。国土交通省の役人は、安価で効果的な堤防改修方法を避けて、スーパー堤防やダムを選ぶ傾向があるようです。まず、それより安価で効果的な堤防強化をやるべきです。

国交省「堤防は原則として、土で作りなさい」??

今回の台風で、東日本の広い範囲で堤防決壊が同時多発的に起きました。朝日新聞によると、国土交通省の堤防調査委員会の委員長の大塚悟・長岡技術科学大教授は調査後、「非常に流れが強かったことがわかった。越水で堤防が削られた可能性もある」と話した、ということです。

digital.asahi.com

なぜ、堤防がこれほど簡単に決壊してしまうのでしょうか。今回の台風被害で、ダムやスーパー堤防を見直す声が出ています。治水に効果があれば、もちろん進めればよいことですが、それ以前に、堤防をもっと強化すべきではないでしょうか。決壊の現場を写真等で見ると、上の方は土だけで出来ていたように見えて、あまりに脆弱に見えます。

たとえば、大きな被害を出した長野市穂保の千曲川の堤防決壊現場は、以下のような状態です。

復旧工事が急ピッチで進む長野市穂保の千曲川の堤防決壊現場=15日午前10時17分(河川管理者らの承諾を得て小型無人機で撮影)

出所:信毎web 2019年10月16日

台風19号 県内 浸水被害8000戸 | 信濃毎日新聞[信毎web]

素人目には不思議ですが、なんと国交省が、堤防は原則として土で作るべき、と定めています。河川管理施設等構造令19条に、こうあります。

第十九条 堤防は、盛土により築造するものとする。ただし、高規格堤防以外の堤防にあつては、土地利用の状況その他の特別の事情によりやむを得ないと認められる場合においては、その全部若しくは主要な部分がコンクリート、鋼矢板若しくはこれらに準ずるものによる構造のものとし、又はコンクリート構造若しくはこれに準ずる構造の胸壁を有するものとすることができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=351CO0000000199#C

これを「土堤原則」と言うそうです。

但し書きで、土以外でも色々使ってよいことになっていますが、なかなか例外を認めないようです。

地中深く杭を打ち込む「インプラント工法」が初めて認められたのは2012年だそうです。場所は高知県黒潮町で、311後に南海トラフ巨大地震の想定津波高さが34メートルにも引き上げられ、住民が不安になって人口流出も起きそうだというので、しぶしぶ国交省が認めたと、産経が報じています。

www.sankei.com

国交省は、自分達の利益のために、わざわざ堤防を弱くている?

では、なぜ、わざわざ、豪雨時の越水で決壊しやすい土で堤防を作れ、という原則になっているのでしょう?土は安価で工事も容易ですが、当然、極めて脆弱だという欠点があるはずです。

私は、国土交通省は、自分達の利益のために、特に、治水行政で獲得できる予算を出来るだけ大きくして、自分達の権限や利権を大きくするために、こうした比較的安価で効果的な堤防補強工法をわざわざ避けて、巨額の予算を獲得できるダムやスーパー堤防を好む傾向にあるのだと思います。

レーガン政権のスタッフだったニスカネンが言うところの、官僚の予算最大化行動の典型的な例でしょう。

拓殖大学准教授の関良基氏が、エコノミスト誌の2017年10月31日号で書いていますが、堤防はあらかじめ「計画高水位までしか持ちこたえられないように設計されて」いる、ということです。これを、元国交省官僚である宮本博司氏は、「ダムの費用対効果を高く見せるため」と指摘しているそうです。関氏の論説から引用します。

計画高水位までしか強度を確保しないことでダムの建設に根拠を与えている。
 宮本氏は、「ダム予算を取るべく大蔵省(現財務省)を説得するためにつくった理屈だ」と喝破する。
 宮本氏は、近畿地方整備局の淀川河川事務所長だった2001年、住民参加の河川行政をつくろうと「淀川水系流域委員会」を立ち上げた。そこで住民たちと議論を重ね「ダムは原則として作らず、治水の最優先課題は、越流しても簡単に破堤することのない耐越水堤防の整備である」という結論を出した。しかし、国交省が同委員会の意見を採用することはなかった。

出所: 関良基(2017)「100メートル40億円、完成に400年の事業 非合理的な「ダムありき」の河川行政」『エコノミスト』2017年10月31日号

(データベースで調べたので、リンクはありません<(_ _)>)

京都大学防災研究所元教授の今本博健氏も、堤防治水での土提原則から脱却すべきだ、と主張して、他の色々な工法のメリットを紹介しています。

今本/記念講演−6」

関良基氏は、国交省は、ダムだけでなく、スーパー堤防に予算をつけるためにも、わざわざ土堤原則を守って、堤防の効果的な補強を意図的に避けている、と批判しています。

blog.goo.ne.jp

以上で挙げた有識者の方々、関氏も、宮本氏も、今本氏も、みんな八ッ場ダム等のダム建設に反対して市民運動にも関わってきた人なので、中立性を欠くかもしれません。

しかし、以上3氏とは全く対照的な立場の方として、橋下徹氏も、昨日発信のメルマガで、ダムに頼る治水行政を批判しています。

(抜粋は以下で見られますが、いつも通り、本当に大事なことはメルマガを見ないと分かりませんので、是非ご購読をご検討ください。)

president.jp

橋下氏は、ダムと河川改修の二つの手段を組み合わせて行われるのが治水行政であるとして、その得失を論じています。ダムは水を貯めて河川の水位を下げるけれど、豪雨時には緊急放流が必要となって、洪水のリスクを高める場合があります。橋下氏は、洪水のリスクをためこんで緊急放流という危険な手法をとるより、河川改修で川幅を広げたり、堤防を強化することを重視すべきとしています。

しかし、河川改修は、住民との利害調整等、時間も労力もかかって大変です。だから、それに比べればやりやすいダム建設を役人は安易に選んでしまいがちだ、というのが、橋下氏の主張です。

スーパー堤防やダムより、まずは、土以外で堤防の強化を!

国交省の意図が、関氏らの主張のように、獲得予算をとにかく増やそうということであるにせよ、橋下氏の言うように、面倒な民主的プロセスを嫌っているからにせよ、国交省には、堤防をわざと脆弱な土のままにしておく動機があります。多数の国民の人命がかかる治水行政で、もちろん許されることではありません。

私は、スーパー堤防もダムも、一概に批判し、否定するつもりはありません。関氏らも、橋下氏も、それは同じはずです。

スーパー堤防にも、メリットはあります。河川近くで、もともと大規模な再開発が予定されていたり、住民の合意が得られやすくて比較的速やかに計画を進められるような場合には、治水対策としては大変優れたものだろうと思います。ダムも、治水だけでなく、利水の機能との兼ね合いも考えるべきでしょう。

しかし、現在の治水行政が抱える一番大きな問題は、既に地球温暖化が急速に進んでいるという現実であり、数十年後の事業完成ではとても間に合わない、ということです。したがって、科学的根拠に基づいて、想定される降雨量や洪水確率を従来の実績よりもはるかに高く見積もったうえで、出来るところからすぐに、安価で効果的な方法で、堤防を強化していくという方法をとるべきです。

もちろん、ハード面の対策だけでは足りません。国も認める通り、もう国主導で国民の命は必ず守りますという建前さえ守れなくなってしまいました。それでも、一人の命も失わないようにするためには、ソフト面の対策を充実させて、避難対策に万全を期して、ハザードマップを周知し、最終的には移住の促進等、国土計画全体にわたる対策が必要です。

とりあえず、ハード面については、スーパー堤防やダム治水は全否定しないまでも、まず第一義的には、「堤防は、盛土により築造するものとする」というバカげた原則から脱却すべきです。

(補足)

私は、堤防の「土堤原則」というのを全く知らず、昨日の橋下徹氏のメルマガで初めて知りました。これについては、公開されているメルマガ抜粋には出ていなかったので、これに関する橋下氏の主張にはふれないようにしました。未登録の方は、是非ご購読下さい。