日本の改革

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なぜ気象庁は「命を守るための行動」と繰り返すのか:防災政策は今年になって大転換

台風19号気象庁は大雨の特別警報を発表する際、「命を守るための最善の行動」をとるよう呼びかけました。その中身は国民自身の判断によります。平成30年西日本豪雨を踏まえた取組で、防災行政が自己責任の原則に転換された結果です。

防災対策の基本が自助努力という原則は賛成ですが、今回のようなスーパー台風の対策を政府はしておらず、今後、再検討が必要です。

平成30年7月豪雨を踏まえ2019年度出水期までに実施する具体的な取組」とは何か

過去にほとんど例がないほどの大きさと強さの台風19号、今夜が被害のピークになりますが、既に夕方までに、7都県に大雨の特別警報が発表されています。多摩川、荒川等に氾濫のおそれが出ており、明日にかけ、残念ですが大変な被害が出るでしょう。

気象庁が特別警報を発表した時、「直ちに命を守るために最善を尽くす必要のある」警戒レベル5に相当する状況だとして、「少しでも命が助かる可能性の高い行動を取ることが重要だ」と話しています。

www3.nhk.or.jp

この「命を守るための最善の行動」という聞きなれない表現は、行政用語です。以下のように、一番左の「気象状況」が「数十年に一度の大雨」なら、その一つ右の「気象庁等の情報」として「大雨特別警報」を出して、これにより一番右の「警戒レベル」が「5」になって、その一つ左の「住民が取るべき行動」が「命を守るための最善の行動をとる」になる、ということになっています。気象庁の課長さんは、これにそった発表をしています。

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出所:気象庁

気象庁|防災気象情報と警戒レベルとの対応について

「命を守るための最善の行動」の具体的な中身として、気象庁が例示したのは、避難場所に行くのがかえって危険なら、川や崖から離れた近くの頑丈な建物に避難する、自宅なら上の階に避難する等です。自宅が安全なら自宅にいたままでいることも立派な避難だ、ということです。何が最善かは自分で判断することになります。

災害時の避難に関するこうしたルール・基準は、「避難勧告等に関するガイドライン」によります。政府は今年3月、このガイドラインを改定しました。

http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/pdf/guideline_kaitei.pdf#search=%27%E9%81%BF%E9%9B%A3%E5%8B%A7%E5%91%8A+%E9%81%BF%E9%9B%A3%E6%BA%96%E5%82%99%27

ガイドラインを改定した理由は、昨年7月の西日本豪雨です。この災害は、戦後日本の災害の歴史の中でも、転換点となるようなものでした。

平成30年7月豪雨」と呼ばれる去年の豪雨は、どんな意味があったのでしょう?

この豪雨をきっかけとして内閣府の中央防災会議に設置された会議の記録に、それが出ています。防災対策実行会議「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」の第3回の議事録です。

http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/dai3kai/181225gijiroku.pdf

中央防災会議 防災対策実行会議「平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ」 : 防災情報のページ - 内閣府

そこに出てくるある発言によると、戦後しばらくの間、今回の台風19号並みと言われた狩野川台風(死者1269名)や伊勢湾台風(死者4697名)等、1000人、数千人規模の死者を出す悲惨な台風被害が相次ぎました。これに対し、政府は公共事業をはじめとしたハード対策も、法制度整備等のソフト対策も進め、1983年7月豪雨以来、死者数が100名を超えるような豪雨は発生していませんでした。

ところが、平成30年7月豪雨では、死者224名、行方不明者8名という大災害になってしまいました。雨による災害としては1980年代以降では最悪で、最後の1983年時の豪雨と比べても2倍もの犠牲者が出たことになります。

気象庁 | 平成30年7月豪雨

これに対して、政府は中央防災会議に、先に挙げたワーキンググループを設置し、対策を検討させました。国交省農水省気象庁の関係省庁にもそれぞれ検討会を設けさせて、そこからのフィードバックも得て、昨年末、「平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について(報告)」をまとめました。

ここで、国の「避難に対する基本姿勢」が、これまでの「行政主導」から「住民の自己責任」に大転換しています。

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出所:内閣府

http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/houkokusho_gaiyou.pdf

報告書本文の13頁には、こうあります。

行政は防災対策の充実に不断の努力を続けていくが、地球温暖化に伴う気象状況 の激化や、行政職員が限られていること等により、突発的に発生する激甚な災害に対し、 既存の防災施設、行政主導のソフト対策のみでは災害を防ぎきれない。地域の高齢化 や外国人の増加など防災行政を取り巻く状況はますます厳しくなることが予想される。 防災対策を今後も維持・向上していくためには、行政を主とした取組ではなく、国民全体で共通理解のもと、住民主体の防災対策に転換していく必要がある。

http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/honbun.pdf

先の議事録で、ある委員が言う通り、「さらりと書かれておりますけれども、本当にここに書かれていることは日本の防災行政の大きな転換を示し」ています。

地球温暖化と行政の人手不足のため、これまでのように、ハード面、ソフト面で政府が防災対策に責任をもって行政主体で進めることはもう無理だ、これからは、住民主体で自己責任でやってもらうから、国民全体でそれを理解してください、ということです。

国民に対する避難の呼びかけが、「命を守るための最善の行動」を、という、これまでの感覚で言えば奇妙な表現になっているのは、この自己責任原則を反映したものです。昨日の本ブログで書いた通り、そもそも、東京の大規模水害では、避難先を行政が全く確保しきれていません。

首都圏の皆さん、洪水・高潮時の避難先は自分で見つけましょう:現状では、圧倒的に足りない避難所 - 日本の改革

行政が「危ないからここの小学校に行きなさい」と全員に声をかけて移動してもらうのはもう無理と割り切って、避難勧告、避難指示と言っても、「避難」は「自宅待機」も意味することを強調するようになってきました。今日も、かなり早い段階で、渋谷区が全区民に避難勧告を行いましたが、渋谷区の防災サイト自体に、安全なら自宅も可、としており、それはそれで一つの見識としても、「避難勧告」自体の意味がなくなってしまい、住民が今後無視するおそれもあります。

「住民の自己責任」は原則賛成、ただし、今回のスーパー台風を踏まえた新たな検討を

私は、災害から住民が自分で自分の命を守ることを原則にすることには賛成です。特に、台風のように、数日前から気象情報や自治体等の情報で、事前の準備が出来る場合には、できるだけ自分で自分を守るようにするのが筋でしょう。

ただ、やはり災害弱者に対する懸念は残ります。災害時の弱者が誰でどこにいるのか、そこも住民が主導で見つける形で、最後は行政のサポートが必要です。先の報告書でも、住民主導で行政がそれを全力で支援する社会を目指す、としていますが、その運用について、国民の不安がないようにすべきです。

また、平成30年7月豪雨の被害の教訓を、あらゆる災害に一般化するべきではありません。あのときは被害が広島県岡山県にほぼ集中し、特に広島県では安芸郡に被害が集中しており、地域性も重視すべき災害でした。

今回のスーパー台風は、全く違います。特に被害が大きいであろう地域に限っても、関東・東海の極めて広い地域にまたがっています。昨日のブログでも書いた通り、首都圏での避難先を行政は用意しきれない状態ですが、これが、首都圏以外の地方にも同時に大災害をもたらすというとき、政府はそれでも、自宅や親戚・知人の家に行け、と言うだけですむかどうか、です。その親戚・知人の家も全て被災するような台風が、今既に来ているのかもしれないのですし、これからもこういう台風は来るでしょう。地球温暖化で、台風の規模も更に大きくなり、頻度も更に高くなるでしょう。

地球温暖化があるからもう国民の命に責任を持つのは無理だ、と言わんばかりの姿勢を政府はとっています。住民がなんでも行政に依存しているよう社会はろくなものではありませんが、地球温暖化による台風の頻発という新たな事態について、政府は、昨年7月の豪雨被害時の見直しを上回る形で、真剣に新たな方針・対策を作るべきです。