日本の改革

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吉野彰氏が目指す「移動+蓄電でCO2ゼロ実現」:科学技術は国民の夢を挫くためではなく、実現するためにある

今年のノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏、今後、「AIEV」(全自動運転EV)によって、自動車と発電所からのCO2排出ゼロ社会の実現を目指す、ノーベル賞をとった発言の重みで、しがらみのないシステム構築を提言する、と発言。再エネ100%社会の実現は夢ではなさそうです。

 再エネ100%社会は夢ではない

2019年のノーベル化学賞を、旭化成の吉野彰名誉フェローが受賞しました。

おめでとうございます!

日本のノーベル賞受賞は18年の京都大学本庶佑特別教授に続き27人目(米国籍を含む)で、化学賞の受賞は計8人です。

www.nikkei.com

吉野氏の記者会見を毎日新聞が詳しく紹介しています。以下、吉野氏の発言については、引用形式で紹介します。

やはり、ストックホルムの人はリチウムイオン電池が、環境問題に対して一つの答えを出してくれることを非常に期待されておりました。

「環境問題に一つの答え」ノーベル化学賞・吉野さん 会見詳報(1) - 毎日新聞

スウェーデン王立科学アカデミーの発表を見ると、確かに、「(リチウムイオン電池は)太陽光から風力に至る大量のエネルギーを蓄電することが出来て、化石燃料フリーの社会を可能にする(It can also store significant amounts of energy from solar and wind power, making possible a fossil fuel-free society.)」とあります。

www.nobelprize.org

吉野氏は、電気自動車の普及を特に重視しています。電気自動車普及は「リチウムイオン電池じゃないとできません」として、

単に車だけかというと、そうではなくて、普及すると巨大な蓄電システムができあがることになる。太陽電池風力発電、変動の激しい発電が普及しやすくなってくる。そこが一番大きな環境問題への貢献だと思います。

更に、研究者としてどんな形で環境へ寄与しようと考えているかについて、以下のように答えています。

再生可能エネルギーで発電する社会システムをつくっていかないといけない。それによって、発電所から出るCO2(二酸化炭素)の問題が解決されていくと思います。絶対、蓄電システムが必要なんですね。ただ、そのためだけに蓄電システムをつくろうとすると相当な費用がかかる。ですから、電気自動車に積んでいる電池が、実は蓄電システムという機能を持つんですよと。そうすると当然、太陽電池だとかサステナブル(持続可能)な発電が非常に普及しやすくなる。

「研究者は頭は柔らかく、最後まで諦めない」ノーベル化学賞 吉野さん 会見詳報(2) - 毎日新聞

再生可能エネルギーで発電する社会システムをつくっていかないといけない」

言い切りました。

その実現のためには、蓄電システムが必要だが、蓄電だけに使うのでは費用がかかりすぎる、そこで、電気自動車を蓄電システムとして使えば、再エネ発電は普及する、というビジョンです。

吉野氏は、技術革新の三つの段階についての比喩を使って、現状を説明しています。

三つの段階とは、「悪魔の川」(一つの研究開発プロジェクトが基礎研究から、製品化を目指す開発段階へと進めるかどうかの関門)、「死の谷」(開発段階へと進んだプロジェクトが、事業化段階へ進めるかどうかの関門)、「ダーウィンの海」(事業化されて市場に出された製品やサービスが、他企業との競争や真の顧客の受容という荒波にもまれる関門)のことです。

bizgate.nikkei.co.jp

そして、「リチウムイオン電池の電気自動車へ応用によって環境問題にソリューションを提供すること」については、現在は、「死の谷あたりをうろうろしている」し、次はダーウィンの海があるけれども、「これは多分乗り越えうると思います」と、明るい見通しを語っています。

「環境問題にソリューション提供」ノーベル賞吉野氏 会見詳報(4) - 毎日新聞

吉野氏は、毎日新聞のインタビューで、今後の抱負を語っています。

そこでも、「一番重要なのは、化石燃料による発電から太陽電池風力発電などの再生可能エネルギーに切り替えていかないといけないということ」と語っています。吉野氏の信念なのでしょう。

再エネによる発電量の変動の問題は、移動と蓄電を兼ねる電気自動車によって、「最終的には発電所から出る二酸化炭素(CO2)がゼロになり、車から出るCO2もゼロになり、かなり理想的といえる」と述べています。

そのうえで、以下のように、今後の抱負を語っています。

啓発活動として、そのような考え方を広げていきたい。社会を変えるには、法律など全てを変えていかなければならない。今回ノーベル賞を受賞させていただけたので、一言一言に重みが出てくるかもしれない。だから、過去のしがらみもいったんすべてなくして、新しいシステムを作って、「それが最終的なサステナブル(持続可能)な社会なんですよ」という提言をしていきたいと思う。

mainichi.jp

これは一国民としては、本当に心強い、有難い話です。

311で原発を国民が全く信じなくなりました。また、台風の連続直撃など、地球温暖化が日本国民の生命と安全を脅かすようになって、国民は温暖化防止にも強い関心を持つようになりました。

政府も一部の「識者」も、こうした国民の希望に対して、出来ない理由ばかり並べて、ネガティブなことばかり言ってきました。

風力や太陽光なんて不安定だ、蓄電技術はまだダメだ、だから原発だが必要だ。あるいは、無知な国民の世論に迎合して原発止めてる間は、石炭火力発電が必要だ。それが科学的な考え方だ。こんな主張ばかりが幅を利かせ、政府のエネルギー基本計画にも反映されています。

科学技術の現状だけを踏まえて、傲岸不遜に説教をするばかりのこうした主張に、国民は飽き飽きしています。

今回、ノーベル賞を受賞した吉野氏が、これまでの科学技術の発展を踏まえ、今後の技術革新のあり方を見通したうえで、再エネ社会への転換を力強く訴えてくれることは、国民にとっても、改革派の政党や政治家にとっても、一つの大きな道しるべとなり、励ましにもなります。

科学技術とは、科学的にはこうなっているからあきらめろ、と国民に説教をするための道具であるべきではなく、国民の夢を実現するために生かされるべきです。現状で夢の実現が難しいなら、どうすれば夢に近づけるか、その指針を示すのも、科学の大事な役割であり、吉野氏が明るく語るビジョンにこそ、国民を動かす力があります。

ダイヤモンド・オンラインのインタビューで、吉野氏は、更に具体的に突っ込んでいます。

2025年以降のシナリオとして、ヨーロッパでの講演で、

主に「AIEV」(全自動運転EV)の世界に変わるという話をしました。AIEVとは、私が勝手に考えた造語で、Artificial Intelligence Electric Vehicle の略です。要するに、AI(人工知能)の技術で実現する「無人自動運転機能」を有した電気自動車のことを指します。

diamond.jp

このように、単に蓄電する電気自動車というだけでなく、それにAIを組み合わせた、「AIEV」(全自動運転EV)の時代が、あとわずか6年後、2025年以降にやってくる、というのです。

既にその芽はいくらでも出てきています。

日産自動車とカナディアン・ソーラー・ジャパンは、住宅の太陽光発電電力を、日産の電気自動車(EV)「リーフ」に貯められる「V2H」システムの販売で協業すると発表、リーフを蓄電池代わりに使用する、としています。

www.nikkei.com

東京電力ホールディングス(HD)は、電気自動車の蓄電機能を電力網の運用に生かす「V2G(ビークル・ツー・グリッド)」の実証実験を三菱自動車などと共同で開始しました。電気自動車を、単に蓄電というだけではなく、電力供給にも使ってしまおう、それで電力供給の安定性や需給調整もしよう、という実験が、もう始まっています。

東電、EVで電力需給調整 実証実験開始 :日本経済新聞

同様の方向で、ホンダは米ゼネラル・モーターズGM)と連携し、電気自動車を蓄電池として活用するスマートグリッド(次世代送電網)の共同研究を始めています。ブロックチェーン(分散型台帳)を用い、送電網とEV間で電力がやりとりされた情報を正確に記録して、蓄電への対価をEV所有者が得られるようにし、普及を促す狙いです。

www.nikkei.com

こんな風に、民間は既に、吉野ビジョンの実現に向けて、走り出している部分があります。

一方、政府のエネルギー基本計画には、一応は、再エネを主力電源にする、と既に書いてあります。吉野氏の「移動+蓄電」、「AIEV」(全自動運転EV)というのは、その実現のための有力な手段です。が、経済産業省は、まだこのビジョンを本格的に検討していないようです。経産省の最近の資料を見ると、「需給一体型の電気自動車」として、太陽光搭載自動車の世界初の行動実験ということが「参考」として掲げられている程度で、具体的な検討項目とはなっていません。

http://www.jpea.gr.jp/pv2019/pdf/PV-6-1_keisan.pdf#search=%27%E8%93%84%E9%9B%BB+%E9%9B%BB%E6%B0%97%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A+%E5%86%8D%E3%82%A8%E3%83%8D100%25+GM+BMW%27

今後、吉野氏の「ノーベル賞受賞の重み」で、優先順位を高くしていくことになるでしょうし、そうすべきです。あわせて、これは吉野氏が現状で明言していませんが、目指す再エネ比率自体も大幅に引き上げるべきです。

既に吉野氏が国で進めている事業が、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の事業、「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」です。ここでは特に、液体を全く使わないために、より安全で容量も小さくできる「全固体電池」について、研究が続けられています。

この事業の第1期(2013~2017年度)では、標準電池モデルと同モデルを用いた材料評価技術を開発し、企業や大学などが評価を行って、その評価結果をサンプル提供者にフィードバックするという取り組みを行いました。

現在進行形の第2期の事業は2022年度までで、第1期の成果を発展させて、大型化・高容量化により、いよいよ、EVへの搭載可否や量産プロセスへの適合性も含めて研究していきます。

この研究事業の委託先は「技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター」(LIBTEC)で、自動車・二輪車メーカー4社、蓄電池メーカー5社、材料メーカー2社も新たに参加しています。

NEDO:全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクトの第2期が始動

産経新聞によると、NEDOは、2020年代後半に車載用では全固体電池が主流になるとみています。

また、リチウムイオン電池の正極に用いるリチウムやコバルトはレアメタルですが、日本はこれを輸入に頼っています。レアメタルは、中国に偏在しているという安全保障上の困った状態も続いています。

そこで、海水に大量に含まれ無尽蔵な資源で、リチウムと性質が似たナトリウムを使う「ナトリウムイオン電池」の研究も進め、「レアメタルフリー」を目指しているようです。何重にも夢の広がる話です。

www.sankei.com

とは言え、研究事業の委託先である、「技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター」(LIBTEC)という長ったらしい名前の組合について、参加企業の顔ぶれを見ると、三菱ケミカルのように、経営者が再エネ推進への理解に乏しい企業もあります。取締役会長の小林喜光氏は文化人ぶってはいますが、どうにも発想が古臭く、脱原発にも脱化石燃料にも海洋プラスチック問題にも後ろ向きに見えます。

それだけではなく、吉野氏自身が、NEDOのこの研究について、懸念の表明というか、注意すべき点があると述べています。吉野氏は、「今回のプロジェクトは、各社が他社を様子見する状態になってはいけない」と語っています。これは何を意味しているかというと、日刊工業新聞によると、一般的に競合企業が相乗りする研究では、「自社の成果を小出しにして、競合企業の進捗を探り合う」(電機メーカー幹部)ことが少なくないので、そうならないように、世に出るまでは協力し、研究スピードを上げるべきだ、という趣旨です。

幸い、世界で最も多くの全固体電池の特許を持つトヨタ自動車は、同社の持つ特許の一部も、必要なものはプロジェクトメンバーと共有する考えを示してはいます。

しかし、もしも企業が後ろ向きなら、吉野氏が理事長として辣腕をふるえるよう、政府は後押しすべきですし、国民も応援すべきです。

newswitch.jp

吉野氏のノーベル賞受賞のニュースとほぼ同じタイミングで、原発に依存する関西電力の会長と社長が辞任しました。

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明暗二つのニュースは鮮やかなコントラストをなし、日本が進むべきエネルギー政策がどちらなのか、国民に強く印象付けました。

原発と石炭火力発電の時代は終わりです。再エネ100%社会の実現は、国民の夢ですし、夢の実現に向かって、政府も各政党も、科学的裏付けを伴うビジョンを示すべきです。