日本の改革

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香港の緊急状況規則条例、抗議活動は「香港基本法上の権利保護」から「本物の民主化」へ、更に先鋭化

香港で半世紀ぶりに緊急条例発動。この決定は、香港基本法上の従来からの権利を守る戦いを激化させ、普通選挙を含めた新しい権利の要求を更に強めるでしょう。古い権利を守る戦いが新たな権利を生むという、歴史上の革命と共通のコースをたどりつつあります。

「緊急状況規則条例は香港基本法に違反」

香港政府は10月4日、緊急状況規則条例の発動を決定し、デモ参加者が顔を隠すのを禁じる「覆面禁止規則」を5日に施行しました。この条例の適用対象の範囲は広く、デモのマスク着用だけでなく、ネットの遮断や出版物の検閲、逮捕や拘留に加えて、人や貨物輸送の管制、輸出入など経済活動の制限も可能です。

この緊急条例はイギリスの植民地時代の100年近く前に出来て、最後に発動したのは1967年、大陸の文化大革命に呼応した左翼暴動の鎮圧のためでした。

www.nikkei.com

立法手続なしで行政特別立法を認める決定に対し、反発が強まっています。

今回の決定に抗議するデモ参加者の14歳少年に実弾を発砲した私服警官を、怒ったデモ隊が袋叩きにして、更に火炎瓶を投げました。少年も警官も命に別状はなかったようですが、殺し合いの寸前までいっています。

香港で警察発砲 14歳少年撃たれ大けが 香港メディア | NHKニュース

デモと実力行使に加え、法律上の戦いも始まっています。

二人の活動家が、覆面禁止規則施行の差止を裁判所に求めましたが認められませんでした。

続いて、立法会議員のDennis Kwok氏が、24人の議員でいっしょになって、この規則の停止を求める訴えを起こしました。法的根拠は、ワシントン・ポストによると、「様々な憲法上の理由(on wider constitutional grounds)」ということで、香港の憲法にあたる、香港特別行政区基本法の違反を主張しています。同法が定める表現の自由の侵害や、行政長官の権限の違法・不当な濫用等が問題となります。Claudia Mo議員は、緊急条例を「大量破壊兵器だ」と批判しています。

Hong Kong lawmakers challenge mask ban as protests persist - The Washington Post

今回の緊急条例は、これまでの香港政府の対応から、一線を越えました。

この条例は、立法会抜きで、行政府が香港市民の自由を広範に抑圧できるものです。しかも植民地時代の法律で長年死文化していた条例によって、改革開放後に制定されて中国さえ認めている香港基本法の内容を逸脱した規制を行いました。

つまり、香港人に保障されてきた権利を、これまで以上に完全に踏みにじろうということです。これに対し、怒った市民は街頭でも裁判所でも、従来からの自分達の権利を守ろうと訴え始め、立法会の議員も動き始めました。

「香港基本法を守れ」から「本物の民主化を実現せよ」へ

思えば、香港の最近の動きは、香港人に認められてきた旧来の権利を守れ、というところから始まりました。その点では、逃亡犯条例に対する抗議活動も、今回の緊急条例への抗議活動も同じです。

これが、2014年の雨傘革命と違うところだ、と言われます。日経ビジネスの池田信太朗氏は、雨傘革命はそれまで香港になかった「普通選挙」の実施を求めたが、今回は、今までの権利を守る戦いだった、としています。引用すると、「つまり「いまないものを求めた」のが雨傘革命だった。これに対して今回のデモは「いまあるものが失われようとしていることを食い止める」という闘争だ」、というわけです。

business.nikkei.com

しかし、実は今回は、旧来の権利を守れというところから始まって、結局は雨傘革命同様、新たな権利を創設し、保障せよ、という要求も含んでいます。デモ隊の五大要求は、行政長官の辞任や普通選挙の実施を含んでいます。

更に、香港デモを象徴するリーダー達(リーダーなしのデモと言われますが、仮にリーダー達と呼んでおきます)は、アメリカに対し、米議会の提出した「香港・人権民主主義法案」を早急に成立させるよう要求、国際社会全体に対しても、人権侵害に関する独立委員会の調査を求めています。

もう、「今までの権利を守ってくれ」から、端的に、「これまでなかった民主化を実現させてくれ」へと、要求が変質しています。

「香港・人権民主主義法案」は、 香港で「一国二制度」による自由や民主主義が守られているかを、政府がを監督し、米議会に報告せよ、というものです。遠藤誉氏は、この法案はそのうえ、行政長官や立法会議員を選ぶ権利を香港市民に与え、「一人一票」の原則を守れということにまで踏み込んでいる、としています。

www.newsweekjapan.jp

条文を見ると、以下のように、アメリカの政策として、香港の行政長官を自由で公正に選べる本物の民主的制度を確立することを支持し、2020年までに香港立法会の直接選挙を求める、と書いています。

SEC. 3. STATEMENT OF POLICY.  It is the policy of the United States—  (略)

 (4) to support the establishment of a genuine democratic option to freely and fairly nominate and elect the Chief Executive of Hong Kong, and the establishment by 2020 of open and direct democratic elections for all members of the Hong Kong Legislative Council;

https://www.cecc.gov/sites/chinacommission.house.gov/files/Senate%20Version--HKHRD.pdf

Summary of S. 1838: Hong Kong Human Rights and Democracy Act of 2019 - GovTrack.us

これは確かに、香港特別行政区基本法(香港基本法)より、はるかに踏み込んだ内容です。 

実は、香港基本法にも、民主化に関する規定は、付属文書の形で書いてあります。天安門事件を契機に出来たもので、2007年以降に選挙方法の改正の可能性があるとしていますが、それを決めるのは中国次第で、全く不十分なものです。

行政長官の選出法改正については、香港特別行政区基本法の付属文書1に、以下のように定められています。

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出所:アジア経済研究所

また、立法会(議会)の選挙については、同法の付属文書2に、以下のように定められています。

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出所:アジア経済研究所

全文検索 - アジア経済研究所学術研究リポジトリ ARRIDE

要するに、どちらの選挙についても、立法会の全議員の3分の2の賛成が必要で、最後は全人代の常務委員会への報告が必要ということです。特に、行政長官については、常務委員会の承認が必要となっているので、中国がうんと言わなければ、普通選挙など実現できないことになります。

香港デモの多くの参加者達も、「リーダー」のジョシュア・ウォンらも、このような制度に全く満足していません。香港基本法付属文書による民主化を目指した雨傘革命の失敗で、中国の承認を得た民主化など不可能だと悟ったからです。平和的な雨傘革命のやり方を捨てて、命がけの暴力闘争も辞さないグループが出てきたのも、そのためでしょう。

ジョシュア・ウォン、デニス・ホー、そして学者グループらが、米議会の超党派委員会で証言、ジョシュア・ウォンは「我々の最も重要な要求は、香港の本物の構造的改革、即ち、自由選挙だ」と言っています。

彼らは、ワシントンにHong Kong Democracy Councilという団体を設立、アメリカの首都で香港民主化の活動を始めました。革命の形が整ってきました。

Hong Kong activists Joshua Wong and Denise Ho press U.S. lawmakers to act against China's erosion of city's freedoms - The Washington Post

www.youtube.com

革命は、古い権利の擁護に始まり、新しい権利の創設・保障で終わる

歴史上の革命の多くは、古い権利を守れという声から始まり、結局は全く新しい権利の創設・保障で終わっています。

イギリス名誉革命は、マグナ・カルタの昔から守られてきたイギリス人の旧来の権利を守れ、という要求から始まり、結局はスチュアート朝の君主を追放して、権利章典を制定し、立憲君主制を確立しました。

アメリカ独立革命は、イギリス王室が植民者に対して特許状で認めた既得権のカタログを守れ、という要求から始まり、結局はイギリスから独立したうえ、連邦憲法の制定に至りました。

フランス革命は、身分制議会の三部会を開けという要求から始まり、二転三転のうえ、結局は、封建的特権の無償廃止、不完全ながら男子普通選挙の実現にまで至りました。

2019年の香港では、逃亡犯条例で、香港人に香港基本法で従来から保障されてきた権利を守れという要求から始まったデモ活動が、たちまち本物の普通選挙の実現を要求するようになりました。

人権も民主主義もない世界での革命は、手段を問わない権力闘争であり、あらかじめ決めた方針で、決められた手続きで政治的目的を達成していく、という形を取らないのがむしろ普通です。香港で、まだ誰がどのような勝者になるかは分かりません。ただ、革命を起こす側が、最初は昔からの古い権利を守れという要求から始めて、いつの間にかそれをはるかに超える新たな権利の確立を目指している、という点では、成功した過去の革命と共通点が見られます。少なくとも、目的がぶれたからおかしい、ということにはなりません。むしろ、多くの革命で普通に起きたことが、香港でも起きています。

なぜ、多くの革命は、最初は、今までの古い権利を守れ、という要求から始まるのでしょう。

おそらく、どの時代のどの国でも、ほとんどの人達は保守的で、特別に不満がなければ、いつも通りの生活を望んでいるので、革命家が人々を動かすためには、「今までの生活が失われますよ」という呼びかけが必要なのでしょう。革命家自身が、最初は、昔からの権利を守りたいだけと思っているかもしれませんし、革命の初期では、そのような人達が支持を得やすく、主導権を握りやすいのでしょう。

しかし、要求しても運動しても世の中変わらない、ということになると、もっと根本的に政治の仕組みを変えるべきだ、今の権力者を倒して白地で新しい制度を作るべきだ、という急進派が出てきます。その頃には、デモ等に参加する大衆も成果が上がらないことに幻滅したりして、急進派に賭けてみる気になって、新たな権利を求めるようになる、ということなのでしょう。

香港革命も、これから更に急進的に、本物の普通選挙を更に過激なやり方で求めていくかもしれません。林鄭月娥行政長官には最初から辞任要求が突き付けられていますが、今後、行政機能の一部を革命側が勝手に代替し始めたり、親中派が占める立法会に見切りをつけて、革命議会の設置が宣言されることも、可能性としては考えておくべきです。

国際社会は、「香港革命政府」、「香港革命議会」の設立を支援し、彼等との外交関係構築に備えよ

 香港の革命に戻ります。香港のデモ隊も、革命がもし成功すれば政権の核となりうるHong Kong Democracy Councilも、アメリカ含む国際社会に、香港民主化への支援を呼びかけています。

国際社会も、彼等の要求に答え始めています。国連人権高等弁務官事務所は、香港政府の緊急条例に対し、集会の自由を保障すべきだと指摘しています。そして、いかなる形であれ、実力行使は、比例原則を含む国際的基準にしたがうべきだ、としています。

Hong Kong Must Protect Freedom of Assembly: U.N. Rights Office - The New York Times

国連のバチェレ口頭人弁務官は、10代の少年二人が実弾で撃たれて重傷を負ったことに関連し、香港での警察の暴力に対して懸念を表明、独立した調査が必要だと発言しました。

U.N. Calls for Probe Into Violence Related to Hong Kong Protests - The New York Times

更に、マレーシアのマハティール首相は、林鄭月娥行政長官につき、市民と中国の板挟みという本人の発言を踏まえ、「辞任するのが最善だ」と発言しました。世界の首脳では、初めての反応でしょう。

Malaysia's Mahathir Says Hong Kong Leader Should Step Down: Report - The New York Times

最初は、図に乗った行政長官がうかつに通そうとした逃亡犯条例で、これまでの人身の自由が否定されるという恐怖感から始まった香港のデモ。中国も現状では肯定する香港行政法上の権利を認めろというのが最初の動機でした。ところが間もなく、行政長官辞任と、普通選挙の実施をデモ隊は要求するようになりました。香港基本法の内容をはるかに超えるアメリカの香港人権・民主主義法案の早急な成立と、国際社会による圧力を求めるようになりました。

その上、緊急条例によって、火に油が注がれました。これまでの生活が完全に否定されるという恐れと怒りが更に強まりました。国際社会からの中国と香港政府への圧力も、強まりつつあります。

今後、中国政府も香港政府も態度を全く変えないなら、香港が独自の革命政権樹立と革命議会の設置を宣言する可能性もゼロではありません。どんな形であれ、香港革命の成否はまだまだ分かりませんが、自由民主主義革命が成功する可能性はありますし、国際連合に加盟するすべての国は、自由主義、民主主義の確立を求める香港デモを支持する義務があるはずです。