日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

軽減税率導入は本当に「平成最悪の経済政策」か:評価は、今後の消費減退の程度で決まる

軽減税率制度は非効率的で不公平な制度です。一方で、消費税増税のたびに経済全体に大きなマイナス効果が生じているのは、課税品目が広すぎるからかもしれません。軽減税率導入は、消費減少が緩和されれば成功なので、制度の評価は今後の消費次第です。軽減税率制度を廃止するなら、消費税による増収分を教育無償化等の形で家計に100%直接還元すべきです。

軽減税率制度は非効率的で不公平なのは確かだが・・・

今日から導入された軽減税率制度は、市場の相対価格を歪めて非効率的な上に、執行費用も高く、逆進性緩和の効果も不十分だ、として批判されています。

たとえば、財務省OBで中央大学の特任教授の森信茂樹氏は、「平成最悪の経済政策」として、口を極めて批判しています。

理由は、第一に、消費税の「広い課税ベースで経済への影響(ゆがみ)を最小限に抑えつつ税収を調達する」長所が失われ、第二に、高所得者も恩恵を受けるので「政策意義が不明」で、第三に、「消費者・事業者・税務当局に多大なコストをかける」し、第四に、税収が減るし、さらに、利権型政治の復活を招くからだ、と言います。

president.jp

こうした批判のもとになっているものの一つに、イギリスで2010~2011年に出された、「マーリーズ・レビュー」という報告書があります。この報告書では、特にEU諸国の付加価値税で一般的な複数税率制度を批判し、単一の標準税率にすべきだ、と主張しています。イギリスについては、非課税や軽減税率の品目についても単一税率にしたら、家計は以前と同じ状態の厚生水準を維持できるうえ、追加の税収が30億ポンド、日本円で約4000億円も増える、と言っています(2011年の報告書"Tax Design"のp216)。

https://www.ifs.org.uk/uploads/mirrleesreview/design/ch9.pdf

また、軽減税率制度は高所得者にも恩恵が及ぶので、結局、所得再分配が十分できない、という批判もしています。マーリーズ・レビューの内容については、日本でも紹介されてきました。

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11173208_po_r102_08.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11056198_po_201803ma.pdf?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F11056198&contentNo=1&__lang=ja

単一税率にすると家計の厚生水準(満足感)が上がるのは、何か1種類の財に偏った消費よりも、色々な財を適度に組み合わせた消費する方が、消費者の満足感が高いからです。軽減税率制度があると、消費者は低い税率の財を高い税率の財より増やすので消費が偏ってしまい、その分、消費者の満足感が落ちます。このため、単一の税率にしておいた方が、消費者は市場価格だけによって何を買うかを割り振りできて、自分に最適な財の組み合わせを選べるので、その分、満足感が上がります(税収と国民への還元を考えても、結論だけ言えば、同じことが言えます)。

こうした理由から、経済学者達は、マーリーズ・レビューの出る以前から、軽減税率は非効率的で、単一税率が効率的な税制だ、と言ってきました。

一方で、マーリーズ・レビュー等では、労働供給を促進するという別の点も考えれば、軽減税率制度は効率的になり得る、ともされています。たとえば、労働者が、保育園の利用料に消費税がかかっているのを見たら、自分で子供を育てるかもしれないし、DIYで出来そうなあらゆるサービスについても同様です。そうなると、生産性の高い労働者が、保育等のプロに任せた方が良いことでも家庭労働でやろうとして、労働供給が阻害されます。このため、保育等に対しては、軽減税率にした方が効率的だ、としています。

以上のような例外は認めるものの、基本的には、軽減税率は非効率的なうえに不公平だから、単一税率にすべきだというのが、マーリーズ・レビューをはじめ、多くの経済学者の主張となっていますし、日本でも、そうした主張が多く見られます。

私も、基本的には軽減税率制度は非効率的で不公平だと思いますし、制度導入前は、そのように周囲の人に言ってまわったりもしていました。

消費税増税の打撃が大きいのは単一税率のせいでは?

一方で、日本の場合、あらゆる品目に課税されてきた消費税が、増税のたびに経済全体に大きなマイナス効果をもたらしてきたのも事実です。だからこそ、消費税率を上げるか否かが、政治的に大問題であり続けました。

これまでも本ブログで主張してきましたが、消費税増税で手取り所得が減ることによるマイナスの「所得効果」は大変大きく、持続的です。何度も挙げたグラフですが、以下のように、消費の水準は2014年の増税時から、4年間も低迷を続けています。消費低迷が2014年の消費税増税によること、そして、消費税増税による所得効果が持続することは、経済学者も主張しています。

 

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データ出所:総務省

物価上昇も、実質賃金マイナスも、消費不振も、消費税増税が原因!悪いのは、自民・旧民主・公明の三党すべて! - 日本の改革

消費増税による消費低迷は一時的な「反動減」ではない。消費低下はずっと続く。消費税増税は財源調達の最後の手段に。 - 日本の改革

仮に、日本の消費税制で、増税をするとこうした大きなマイナスの所得効果が出てしまうのは、単一税率のせいだとしましょう。

すると、単一税率でこれほど持続的な消費減退が続くのと、軽減税率も入れた形で消費減退を少しでも抑えようとするのと、どちらが良いかは、それぞれの制度のメリット・デメリットの大きさによります。

マーリーズ・レビューの試算を例にとります。イギリスのかなり大規模な軽減税率制度を全部廃止して、単一税率にするという大改革をやったとしても、国民の得は4000億円くらいです。日本のGDPはイギリスの2倍弱だとして、大雑把に2倍の8000億円のメリットがあるとしましょう。それが、これほど持続的な消費減退による負の所得効果を打ち消すほど大きいかどうか、というのが問題です。

 

欧州諸国で付加価値税が20%前後なのに、社会はおおむね安定していて、増税についても、日本ほど毎度の大騒ぎにならないように見えるのは、軽減税率があるからかもしれません。あるいは、欧州諸国では、日本よりも、税収が目に見える形できちんと国民に還元されているからかもしれません。だとすると、日本は、これまでの単一税率での消費税制度、あるいは、これまでのような政府の無駄遣い体質とは違う政策運営が必要になります。

軽減税率については、理念、理屈を大事にする改革派ほど、強く反対してきました。しかし、経済の現実を見て、どのような効率性を大事にするのか、多面的に考える必要があります。軽減税率制度に非効率性と不公平性があるのは厳然たる事実で、日常生活の感覚から見ればひどい制度ですが、まずは、今後の消費減退の程度も見て、評価を考えるべきです。