日本の改革

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日米貿易協定の勝者は日本の農協:コメのTPP輸入枠は撤廃、関税撤廃はTPPの半分、そのうえ「国内対策」も

 

日米貿易協定で合意。農業で、飼料用とうもろこし以外は「TPP未満」。コメとバター・脱脂粉乳のTPP輸入枠がなくなり、そのうえ、「国内対策」でこれから農業向け補助金も。得をしたのは日本の農協だけです。今後、農業市場の一層開放を行うとともに、TPP加盟国を増やすべきです。

とうもろこし以外は、農協の大勝利

日米貿易協定で両国政府が合意しました。農業、自動車・部品、デジタルとありますが、農業分野は、農協には最高の内容で、日本の消費者・国民には最低の内容です。

まず、コメですが、精米や玄米、調製品や加工品も含め、関税撤廃や削減の対象から全て除外です。ここまではTPPと同じです。もともと、コメに関するTPPの内容自体が、ありえないほど国内の農家保護を徹底させたものでした。

それでもTPPでは、わずかながら、最低限これだけは輸入を認めます、という輸入枠を設定していました。

今回の日米貿易協定の問題は、このわずかなコメの輸入枠さえなくなってしまったことです。

TPP協定の締結前、日本はWTOで定められたミニマム・アクセスとしての輸入枠77万トンがありましたが、TPP締結で、アメリカから最初は5万トン、最終的に7万トンのTPP輸入枠を追加することになっていました。下の図の通りです。今回の日米貿易協定では、このわずかな輸入枠も撤廃されてしまったのです。コメ市場は、「TPP同様」どころか、TPPをはるかに下回る「TPP未満」になってしまいました。

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出所:農林水産省

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/2-1_5hinmoku_kekka.pdf

コメだけではありません。

脱脂粉乳やバターなど、TPPで輸入枠を設けた33品目についても、米国向けの輸入枠を新設しません。TPP同様の輸入枠を設けるのは、小麦だけです。

輸入枠だけではありません。

関税撤廃の水準でも、TPPより大幅に後退しました。

TPPでは、農産品の82%の品目で関税撤廃となっていましたが、それでも、18%もの品目で関税が残るという、他のTPP加盟国と比べて、あり得ないほど国内農業保護に偏った内容でした。他国はほとんど0~5%程度です。日本政府が、他国と比べて、いかに自国の消費者をないがしろにしているかがよく分かります。

ところが、今回の日米貿易協定では、農林水産品のうち関税を撤廃する品目は、4割程度だということです。以下が日本農業新聞のまとめです。

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出所:日本農業新聞2019年9月26日

日本農業新聞 - 日米貿易協定合意へ 米・調製品は除外

まだ曖昧さが残るのは、米国産牛肉の緊急輸入制限措置(セーフガード=SG)です。一定数量以上の輸入があると、自動的に関税を引き上げる措置です。農業自由化での激変緩和のためにやむを得ない制度です。

TPPでも参加国全体に設定されていて、2019年度は60万トンです。

日米協定ではTPPとは別に、米国産の発動基準数量を独自に設けて、最初は24万トンから徐々に29万トンに増やします。

このとき、TPPのセーフガード発動基準数量が、アメリカが抜けた後なのに、アメリカが入っていた時と同じ水準になっているのに、アメリカには更に個別にセーフガードを設けることになりました。このため、TPPのセーフガードの水準が高くなりすぎて、相当たくさん輸入されないと関税を上げられない、ということになります。ここについては、今後、オーストラリア等のTPP11加盟国に対し、アメリカが抜けた分、TPPのセーフガードを下げてくれと頼むようですが、納得してくれるかは分かりません。

これを心配だ心配だと、日本農業新聞は夏ごろから書き続けていましたが、そもそもTPPでも牛肉の関税は高すぎます。TPP発効から16年経っても9%の関税が残るのですから、消費者のことは全然考えていません。これでセーフガードの水準が高すぎると言うのが、わがまますぎます。

ちなみに、牛肉でも、TPP輸入枠3000トン(1年目)の無税での輸入枠がありましたが、今回はこれもなくなっています。

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出所:日本農業新聞2019年9月15日

日本農業新聞 - 日米貿易協定で調整 牛肉SGまず24万トン 発動基準毎年上げ TPP修正を要望

あとは、日米貿易協定とは別の話と日本政府が言っていますが、飼料用トウモロコシを購入することになりました。これについては、やはり国内需要に比べて過大な数量のようです。
東京新聞が主要な飼料メーカーに取材したところ、追加または前倒しで購入すると答えたのは現時点でゼロだったようですが、以前のブログで書いた通り、これはもう米中冷戦でアメリカを助けるために仕方ありません。

しかし、これも以前書いた通りですが、とうもろこしに限らず、飼料のほとんどはTPP以前から無税でしたし、もちろんTPPでも飼料はほぼ全部が無税です。一時的にたくさん買わされるのは迷惑でも、農協にはもともと大したこだわりもない分野でしょう。

www.tokyo-np.co.jp

飼料用とうもろこし輸入だけが「TPP以上」:日米貿易協議で次にやるべきことは何か - 日本の改革

そんなわけで、農協からすれば、「牛肉セーフガードはもっと高くしたいな、飼料用とうもろこしを押し付けられるのはちょっといやだな、でもまあ、コメもバター・脱脂粉乳も牛肉もTPPのようや輸入枠はないし、関税がなくなるのもTPPの品目の半分未満だし、これならTPPより全然良いや!」というところです。

現に、全国農業協同組合中央会JA全中)の中家徹会長は26日、日米貿易協定の締結合意を受けて、コメの無関税枠が導入されなかったことに対し「生産現場は安心できる」と「高く評価した」、と日経が報じています。合意内容全体についても、想定の範囲内にとどまっているとの認識を示しています。

要は、今回の日米貿易協定、農協の大勝利です。

JA全中会長、コメ無関税枠見送りを評価 :日本経済新聞

しかも、です。今回の合意を受けて、日本政府は早速、「国内対策の検討に着手」します。要するに、アメリカから輸入が増えるからということで、また国内農家に補助金をバラまきます。

具体的には、子牛の共同育成施設の設置や現場への機械導入等の補助のようです。

既に、TPP対策であれだけ大判振る舞いしたのに、一粒で二度おいしいことになってしまいます。江藤拓農相は、TPP大綱を見直す、要はバラマキを上積みする、として、「将来的には」国内への影響は無視できない、つまり、今は影響なくても税金だけは使うんだ、と言っています。それどころか、輸出増が一応は見込めそうな「牛肉に限らず、日本の農業が傷まないよう目配りしたい」、つまり、幅広くバラまきます、と言っています。

日米貿易協定合意で国内対策へ 農家支援 輸出促進で「攻め」も :日本経済新聞

農業以外の分野では、特段大きな成果はありません。

自動車とその部品の関税撤廃は先送りです。まだ輸入関税発動の恐れも残っています。8月26日、仏ビアリッツでのG7閉幕時、トランプ大統領は、マクロン仏大統領とともに会議の成果を発表する場で、「(輸入車関税の発動は)現時点ではない。私がもしやりたいと思えば、後になってやるかもしれない。でも、今は我々はそれを考えていない。我々をフェアに扱ってほしいだけだ」と言いましたが、それは変わりません。

digital.asahi.com

あとは、データの流通促進に向けた合意で、人工知能(AI)などのアルゴリズムやソフトウェアのソースコードについて、国が企業に開示を求めるのを原則禁じます。ここは中国を意識して、もともとTPP協定に入っていたものなので、日本から言えば元に戻っただけです。

データ流通、促進へ新ルール 日米が「デジタル協定」 :日本経済新聞

そんなわけで、得をしたのは農協だけなのに、経済団体は一応歓迎のコメント。自動車等の関税がいきなり上がらなかっただけでもよしとしているようです。日経に出ている識者のコメントで、「評価する」声が多いと言いますが、何を評価しているかというと、合意が「TPPの範囲内におさまった」から、という言い方ですが、あまりに農協目線です。消費者、そして農業への補助金をまた税金で増やされることを思えば、国民にとっては、「TPPから大幅に後退した」ひどい合意です。

「バランス取れた合意」日米協定で経団連会長 :日本経済新聞

日米貿易協定、専門家から「評価」の声 (写真=共同) :日本経済新聞

農業市場の更なる開放とTPP拡大を!

では、今後、日本政府はどうすべきでしょう。

今回の日米貿易協定は、分野を絞り込んで、とにかく成果を欲しいトランプ大統領に配慮して、ありえないスピードでとりあえずの合意を結んだ、というものです。今後、自動車等の関税撤廃はもとより、アメリカからも、TPPより後退した部分について更に農業市場を開放するように言ってくるでしょう。今回、政府は農協に忖度し過ぎました。アメリカがTPP協定から離脱したのを良いことに、農協が火事場泥棒をしているような話です。今後のアメリカとの交渉では、TPPを超える水準の農産品市場の開放を行うべきです。

日本経済全体で考えれば、これ以上無理筋の農業保護を続けるより、自動車と自動車部品の関税撤廃を早期に決めた方がプラスなのは明らかです。幸い、トランプ氏はアメリカの農業団体の声を非常に気にしているので、農産品市場の更なる拡大、特に、TPP協定以上の関税撤廃や輸入枠拡大、更には国家貿易システムの見直しを行うことが、自動車・部品の関税撤廃を求める際のカードになります。

政府が、今のような農協べったりの姿勢を改めるためにも、国政では野党が、消費者目線に立って農産品の価格引き下げにつながる自由化を主張すべきです。野党と言っても、旧民主党系の会派は、残念ながら自民党以上に農協寄りです。一貫してTPP賛成を訴えてきた維新が、10月4日から始まる臨時国会で、今回の貿易協定の内容を厳しく批判し、高い農産品を買わされる消費者の声を代弁すべきです。

臨時国会は、消費税増税直後です。食品には軽減税率適用とは言え、国民は消費財の価格に特に敏感になります。そこで、農産品の関税下げが全く不十分だ、TPPからも大幅に後退した、と言って、政府を批判し、今後の日米交渉に少しでもプレッシャーを与えるべきです。更に、補正予算で議論される「国内対策」でも、どうせ旧民主系は補助金を増やすことに賛成ですから、維新は、TPP対策と二重取りになりかねないと言って、反対の論陣を張るべきです。

政府がすべきことについては、更に、以前も本ブログで書いたことですが、TPP加盟国を増やす努力を加速していくべきです。

まずは、ASEANのTPP非加盟国であるインドネシア、フィリピン、タイ、ラオスミャンマーカンボジアです。そして、インド、韓国にも積極的にTPP参加を呼びかけるべきです。TPPが更に拡大して、加盟のメリットが大きくなれば、トランプ政権の間は無理でも、アメリカの次期政権は復帰を希望するはずです。特に、民主党政権になれば、TPPを締結したオバマ政権の副大統領だったバイデンはもちろん、ウォーレンでも、基本的に内容が自由で公正なTPPには、復帰するでしょう。

今回の日米貿易協定、とりあえず農協の勝利に終わりましたが、まだまだ第一ラウンドです。日本の消費者のためになり、自動車の輸出も伸ばせる改定を行う、TPPをどんどん拡大して、アメリカを復帰させる、という方向で、外交努力を続けるべきです。