日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリは、国連でなぜ泣き、何を語ったのか

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリが、国連気候変動サミットで演説。その主張と行動の意義を考えます。

グレタ・トゥーンベリ演説のポイント

国連の気候変動サミットで、16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリが演説し、参加した世界のリーダー達に、地球平均気温の上昇を産業革命時から1.5℃以内に抑えるよう、強く要求しました。

しかし、彼女の話を聞いていた政治家や官僚たちは、あまり真面目に受け取っていない様子でした。司会者にメッセージを促されて、彼女は冒頭、

「私のメッセージは、私達はあなた達を監視しているということです」("My message is that we'll be watching you.")

と発言。これに対して、聴衆から笑いが起きました。「おいおい、監視(watch)かよ、いきなり強い言葉だなあ、おじさん困っちゃうなあ」という、嘲笑も混じった笑いでした。

これでスイッチが入った感じです。感情を高ぶらせ、涙声になって以下のように続け、How dare you!は叫ぶように発言していました。

"This is all wrong. I shouldn't be up here. I should be back in school on the other side of the ocean. Yet you all come to us young people for hope. How dare you!
"You have stolen my dreams and my childhood with your empty words. And yet I'm one of the lucky ones. People are suffering. People are dying. Entire ecosystems are collapsing. We are in the beginning of a mass extinction, and all you can talk about is money and fairy tales of eternal economic growth. How dare you!

www.youtube.com

続けて、30年前から温暖化は分かっていたのに対策をしなかったことを批判し、若者の声を聞いていると言いながら実は何もしなかったのは邪悪なことであり、言うことが信じられないと断じました。

その後は、比較的冷静に話しています。が、そこでは、パリ協定が前提としているICPP報告書を超える地球温暖化への強い懸念が、最近の科学論文の知見に基づいて示されています。

まず、2018年10月のIPCC報告書の内容に基づき、2030年までにCO2排出を50%削減すれば、2050年に1.5℃の気温上昇になる確率が50%になる、という、現在目標とされている相場観を批判します。50%の確率はあなた方には十分だろうが、今後の地球で生きていく我々には不安だ、と主張しています。この数値は、臨界点を超えて温暖化の連鎖反応がおこりうる可能性等を考えていない、と批判しています。

そして、残余カーボンバジェット(1.5℃の気温上昇に抑える確率を67%にするために許容されるCO2の総量)は、2018年1月には420 ギガトンだったのが、もう350 ギガトンに減っている、このままならあと8年半で終わりだ、と指摘。こうした数字を不快すぎるからと無視しているリーダー達を更に批判しました。

そして、若者はこの裏切りを理解し始めている、これ以上我々を見捨てるなら、絶対に許さない、好むと好まざるとを問わず、変化はもう起きている、として、スピーチを閉じています。

Transcript: Greta Thunberg's Speech At The U.N. Climate Action Summit : NPR

この闘争心。

この正義感。

しかもそれは科学に基づいています。

2018年10月8日にIPCCが発表した最新の特別報告書では、温暖化を1.5℃以内に抑えるという目標を達成するには、世界の炭素排出量を2030年までに2017年比でほぼ半分以上削減し、さらに2050年までに炭素の排出量を実質ゼロにする必要がある、としています。

既に産業革命時から平均気温は1℃上昇してしまっているので、あと0.5℃しか上昇は許されません。

しかも、1.5℃の温暖化でさえ、陸域で深刻な熱波が発生する回数が増え、日本の位置する東アジアでも、極端に強い嵐の発生回数が増えることが「中程度の確信」を持っているとされています。去年の豪雨や台風も温暖化の影響とされていることを考えれば、これ以上、台風等の被害が増えることは、必ず防がなければいけません。

この報告書では、対策として、2050年までに世界の電力の70~85%を供給できるように風力発電所太陽光発電所などの再生可能エネルギーシステムの設置を加速し、森林が大気中の二酸化炭素を吸収する量を増やすために植林することを求めています。

ライフスタイルの点では、肉食を減らし、もっと自転車に乗り、飛行機をなるべく利用しない等も挙げられています。

1.5℃の壁を越えないために人類がなすべきこと | Nature ダイジェスト | Nature Research

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6_sr1.5_overview_presentation.pdf#search=%272030%E5%B9%B4+50%25+1.5%E2%84%83%27

2030年にも気温1.5度上昇 IPCC、産業革命前より (写真=AP) :日本経済新聞

いずれの対策も、現在、まだ全然足りていません。

しかも、トゥーンベリは、以上のような、通常挙げられる対策でさえ、不十分だ、としているのです。その主張のもとになっているのが、昨年8月に発表された論文(後掲:Will Steffen et al (2018) "Trajectories of the Earth System in the Anthropocene"(PNAS August 14, 2018 115 (33) 8252-8259))です。日本でも、国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長の江守正多氏が当時紹介していました。

要は、パリ協定の甘目の目標の2℃前後の気温上昇では、世界平均気温が産業革命前よりも4~5℃高い「ホットハウス・アース」に一気に移行してしまう可能性がある、ということです。その根拠は、江守氏によると、(1)過去の地球の状態との比較、(2)温暖化を増幅する様々なフィードバックの評価、(3)フィードバックの連鎖の可能性の指摘、の三つです。

(1)については、現在の高いCO2濃度と、それが人間活動の慣性によりさらに増加中であることから、地球の過去で言えば、中新世中期(CO2濃度が300-500ppm、現在は400ppm)になるまで、安定しないだろう、ということです。中新世中期では、世界平均気温は産業革命前と比べて4~5℃高く、海面水位は10~60m高かったそうです。

それが現実化するのは、以下のメカニズムによります。(2)温暖化を増幅する様々な生物地球物理学的フィードバックが起きて、(3)これらのフィードバックの多くが、気温上昇(あるいはその速さ)がある臨界点=ティッピングポイントを超えると、不連続的に進行する、ドミノ倒し的な連鎖反応を起こす、ということです。

Fig. 2.

出所:Will Steffen et al (2018) "Trajectories of the Earth System in the Anthropocene"(PNAS August 14, 2018 115 (33) 8252-8259)

Trajectories of the Earth System in the Anthropocene | PNAS

地球温暖化はもう手遅れか?(はたまたミニ氷河期到来か)(江守正多) - 個人 - Yahoo!ニュース

平均気温1.5℃の上昇でも、たとえば日本は今以上の頻繁さで猛烈な台風に襲われるというのに、これが4~5℃の上昇となったら、何が起きるか想像も出来ません。温暖化の影響をさらに強く受ける地域、国々では、本当に人間が住めなくなります。

科学者の間でも、当然色々議論はあることでしょう。しかし、現実に21世紀後半以降も生き続ける世代が、こうした可能性を真剣に懸念するのは全く当然であり、いま現に成人としてものごとを動かすべき人間が、次世代の権利を尊重した政策を取るべきなのは当然です。

 未成年の活動家の言葉を真摯に聞くべき

以下、WIREDの記事によるトゥーンべリの活動歴を見ながら、彼女の運動の意義を考えます。

2018年8月、トゥーンベリはスウェーデンの国会議事堂の前に座る自分の写真を投稿して、気候変動に対する政府の無策への抗議を始めました。最初は、18年9月のスウェーデン総選挙まで登校を拒否する計画だったのを、選挙後も毎週金曜日はストライキを続ける「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」という運動を始めました。

日本のネットを見ると案の定、「活動家が子供を悪用している」という声が見られます。「活動家」が彼女を利用している一面も、否定はしません。

トゥーンベリの母親はオペラ歌手のマレーナ・エルンマンで、最初のストライキ写真を4万人以上のフォロワーに向けてリツイートしたことで関心を集めました。ちなみに、父親は俳優です。これがきっかけとなって、あとはネットでの拡散だったようです。

大人の大勢の「活動家」が彼女を助けたのも事実でしょう。しかし、大事なことは、大人だろうが子供だろうが、「運動家」だろうが議席のある政治家だろうが、右だろうが左だろうが、地球温暖化対策が必要なことはもう否定できません。そして、若い世代が中高年よりも、この問題に敏感で厳しいスタンスを取るのは当然のことであり、彼等・彼女等の声は、国際政治でも国内政治でも、反映されるべきです。

第一、未成年をアイコンにした、というだけで、これだけ大きな運動にはなりません。世界的で持続的な運動になったのは、地球温暖化問題に対して、それだけ自分の問題だと考える人々が多いからです。でなければ、あらゆる左翼活動家のあらゆる運動は、未成年を表にたてさえすれば成功する、ということになってしまいます。人間を動員することの難しさをなめてはいけません。

 2018年12月には、トゥーンベリは国連気候変動会議に登壇し、980万人以上が視聴しました。2019年3月15日の金曜日には、125カ国で2,000件の抗議運動が起き、100万人以上の児童や学生らが参加しました。これが第1回の「未来のための世界気候ストライキ」で、今に至るまで繰り返されています。現在行われているのは3回目で、150カ国以上で開催されます。

wired.jp

彼女は、未成年である自分の活動について、以下のように言っています。

「大勢の政治家たちが、気候変動の危機をどう解消するか訊いてきました。それっておかしいと思います。解決策があるとか決定権をもちたいとかそういう理由でストライキをしてるんじゃないのに。ただ言わなきゃいけないことがあるんです。子どもなんだから、わたしたちがこの問題を解決するのは不可能です。かといって、大人になって責任者になれるまで待つわけにもいきません。そのときにはもう手遅れだからです」

未来のための金曜日 ──グレタ・トゥーンべリ16歳、大人に「おとしまえ」を求めてストライキ | WIRED.jp

自分達が受ける損害について、自分達には解決する権限を与えられていないから、いま権限を持っている人間が、せめて現在やるべきと科学者が言っている対策をやれ、実際はそれでも足りないくらいだ、というのが、その主張です。

そして、未成年に与えられた権利の行使として、国連子どもの権利委員会に救済を申し立てています。「ちゃんと」「子どもとしてやるべきこと」もやっています。

digital.asahi.com

このように、彼女は、自らの未成年としての権利を行使し、選挙権もない中で出来る手段として、大人の手ももちろん借りながら、世界的な活動を起こしています。100万人の単位で人間を動かしているこの運動を、「グレタ・トゥーンベリ」という一人の人間だけに矮小化などできません。彼女はあくまで、全世界的な諸国民の声、それも将来世代の諸国民の代弁者であり象徴です。

現に、こうした運動は、欧州議会での緑の党の大躍進を実現し、ドイツの政策を変え、アメリカでさえトランプ後を睨んで共和党までグリーンニューディールまがいの政策を唱え始めています。この運動は既に、国際社会や各国の政治を変えつつあります。

環境運動を、胡散臭い、左翼だけの、偏った動きとだけ見ると、世界から完全に取り残されます。1980年代、ドイツの緑の党は確かに極左泡沫政党でした。しかし、日本の原発事故や地球温暖化の深刻化から、今では支持率トップの国民政党になっています。

トゥーンベリの演説を揶揄する声には、まるで40年前、50年前の日本と変わらない古臭さを感じます。そんな意見を言っている人達に対しては、反論以前に、いまどきそこまで時代遅れで大丈夫なのか、心配になってしまいます。

この運動を軽視してはいけません。日本は、ただちにトゥーンベリらの要求に真摯に応えるべきです。