日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

トランプ政権の環境規制緩和、敗訴率8割超。日本政府・企業は、現政権は無視して州の厳しい規制の尊重を。

トランプ政権は環境規制の緩和を続けてきましたが、いざ訴訟となれば敗訴率が8割超で負け続きです。地球温暖化を否定しようとする無理筋政策が通るわけがありません。日本企業はカリフォルニア等の厳しい州規制を優先し、日本政府はそのような企業を応援してトランプ政権と対峙し、自国での環境規制も強化すべきです。

トランプ、環境規制で連邦制自体を否定

フィナンシャル・タイムズ(の日本語版<(_ _)>)によると、トランプ政権のウィーラー環境保護局(EPA)長官は9月17日、自動車の燃費基準につき、国より厳しい上乗せ規制をカリフォルニア州が導入することを阻止する、と発表しました。これに対し、カリフォルニア州は、独自基準の適用を続けると表明、連邦政府と州のバトルになっています。

規制される側の自動車メーカーはむしろカリフォルニアの州規制に賛成、自主的に州規制にしたがうということで、フォード、ホンダ、BMWフォルクスワーゲンが合意していたのを、司法省が反トラスト法違反で調査を始めていました。今回のEPAの動きは、そもそも州が国より厳しい「上乗せ規制」を行う権限自体を否定しようとするものです。

www.nikkei.com

これは、二重にとんでもない政策です。まず、地球温暖化を軽視している上、アメリカの中長期的な産業競争力の育成という点でも有害です。次に、州による上乗せ規制の権限自体を否定しようというのが、連邦制の否定にも等しいような暴論です。ここまでこじれているのは、カリフォルニア州知事が民主党のニューサム知事で、政局的な意味もあるかもしれませんが、いずれにせよ、筋の通らない話です。

唯一、反トラスト法については、自動車メーカー同士がある規制で「合意」するのは、消費者に不当に高い価格を押し付けるようなことになれば問題にはなるでしょう。ウォールストリート・ジャーナル(の日本語版<(_ _)><(_ _)>)社説でも、反トラスト法については、民主党がIT大手への反トラスト法規制に賛成しながら自動車メーカーの環境に関する合意を見逃すのはおかしい、と批判しています。

jp.wsj.com

そこには一理あるとしても、本筋の大気浄化法(連邦法)とカリフォルニア州規制の関係について言えば、当然、州規制の優先を認めるべきです。

では、実際に州の環境規制権限を連邦が奪うようなことは出来るのでしょうか?専門家は否定的です。

先のフィナンシャル・タイムズの記事によると、弁護士の間では、訴訟になれば州が優位と見られています。カリフォルニア州が独自の大気環境基準を設定する権利は政府の大気浄化法に定められているので、法改正には連邦議会の採決も必要となるそうで、民主党が多数の下院を通るはずはないでしょう。

温暖化防止政策の訴訟で負け続けのトランプ

自動車の燃費基準だけではありません。他にもトランプ政権は、パイプライン建設を裁判所に差し止められたり、石炭火力発電所に関する規制緩和で、22州と7市に訴えられたり、特に温暖化防止政策で訴訟を起こされ続けています。

しかも、2017年から2018年の2年間、こうした温暖化防止政策に関する訴訟で、トランプ政権は負け続け、敗訴率はなんと81%だということです。中身の内訳は以下のようになっていて、トランプ政権が勝ったのは、下のオレンジの部分、19%だけです。

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出所:Adler, D. P. (2019)"U.S. Climate Change Litigation in the Age of Trump: Year Two " (Columbia law school)

http://columbiaclimatelaw.com/files/2019/06/Adler-2019-06-US-Climate-Change-Litigation-in-Age-of-Trump-Year-2-Report.pdf#search=%27columbia+law+school+trump+environment+lawsuit%27

トランプ政権の環境緩和政策が頓挫していることについては、既に『選択』の今年7月号で取り上げられていました。その時点では、敗訴率は9割と報じられています。

中身を見れば、オバマ政権時代にオレゴン州ポートランドで未成年が起こした気候変動に関する訴訟で、トランプが「子どもは政府を訴えることはできない」と言い出したのに対して、最高裁がそれは(当然)可能だ、と判断したとか、そもそも地球温暖化の事実自体を否定しようとしたりだとか、政策的にも法務的にもお話にならない低レベルのことをやろうとしては裁判になって負けているようです。

www.sentaku.co.jp

もちろん、係争中でも一応規制緩和がいったんは実現したり、裁判にならないものもあります。ニューヨーク・タイムズとハーヴァード・ロースクール等の調査によると、トランプが撤廃した環境規制は85にのぼるということです。

85 Environmental Rules Being Rolled Back Under Trump - The New York Times

しかし、これらについても、いったん訴訟の結果が出れば、政権が負けて元通りになるおそれがあり、その確率が現在のところ8割くらい、ということです。

日本企業は厳しい州規制を遵守し、日本政府はその後押しと厳しい規制を!

このように、トランプ政権になってからの政策転換のうち、環境規制の緩和については、あまりまともにとらえるべきではありません。大統領令が出ても、いつ訴訟でひっくり返るか分かりません。

日本企業や日本政府は、トランプ政権の環境規制の急激な変化について、難しい対応を迫られています。これまでの実態を踏まえれば、厳しい州規制と、連邦政府による規制緩和が対立したような場合、日本企業は、州規制にしたがって見通しを立てていくべきです。

また、日本政府は、アメリカで州と連邦との間で日本企業が困っているときは、州の規制にしたがうようアドバイスして、トランプ政権には、環境規制を緩和しないよう求めていくべきです。そのためには、まず日本政府が、カリフォルニア州のような厳しい規制を実現する必要があります。

最初の燃費基準の話に戻ります。日本の規制はどうなっているのでしょう。今年6月、国土交通省経済産業省は、自動車の燃費規制を厳しくする新たな基準案をまとめました。2030年度を目標とし、ガソリン1リットルあたりの走行距離を平均で25.4キロ以上になるよう自動車メーカーに義務づけて、2016年度実績より燃費を32.4%向上させることを求めています。

自動車の燃費規制を3割強化へ EVも対象、普及促す:朝日新聞デジタル

[社説]新燃費規制テコに車の革新を (写真=共同) :日本経済新聞

https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190625003/20190625003_01.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E6%8E%92%E3%82%AC%E3%82%B9+%E7%87%83%E8%B2%BB+%E8%A6%8F%E5%88%B6%27

これを見れば、燃費について相当厳しい規制に見えますし、数値目標自体は立派なものです。環境性能を走行時だけでなく、発電所などの源流に遡って評価する「ウェル・ツー・ホイール(油井から車輪へ)」の手法の採用も評価できます。

しかし、カリフォルニア州の規制(及び中国の規制)と異なり、電気自動車の割合についての数値目標がありません。「ウェル・ツー・ホイール」採用の反面かもしれませんが、ここについては、より踏み込んだ規制を今後行うべきです。以下のように、電気自動車について日本は全く立ち遅れており、これについては、環境政策という観点でも、日本の国際的な競争力確保という点でも、早急な対策が必要です。

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出所:西野浩介(2018)「世界の自動車燃費規制の 進展と電動化の展望」(三井物産戦略研究所)

https://www.mof.go.jp/pri/research/seminar/fy2017/lm20180315.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC+%E6%8E%92%E3%82%AC%E3%82%B9+%E7%87%83%E8%B2%BB+%E8%A6%8F%E5%88%B6%27

日本と国際社会全体を考えた環境政策を実現するためには、トランプ政権の環境規制緩和については、日本企業は敬して遠ざけ、日本政府はそれを可能にするよう後押しし、更に、日本独自の環境規制を更に強化していくべきです。