日本の改革

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福島「汚染水」海洋放出、信なくば立たず:正論でも、東電への信頼がなく、前大臣の無責任発言きっかけでは無理。

福島第一原発から出る汚染水、維新の言う大阪での放出は良いアイディアですが、東電への信頼がない状態で、前大臣の無責任な発言が契機では、事態は動かせないでしょう。オリンピック後に第三者委員会で安全性を再度確認のうえ、放出すべきです。

問題は安全かどうかではなく、東電が信頼できるかどうか

福島第一原発から出る汚染水について、原田前環境大臣が、内閣改造での辞任会見で、海洋放出発言をすべきだ、と発言しました。

原田氏は自分のブログで、「一年を振り返って印象は何か」との記者質問に対して、「思いつくままに」話した、と言っています。海洋放出、稀釈の方法しか解決策は残されていない、国が責任をもって漁業者を中心に地域の潜在被害者に全面的な補償を約束して、風評被害や外国の風評懸念には、逃げずに正面から説明すべきだ、と主張した、としています。

しかし、政府内で調整した形跡がありませんし、誰かが言わなければならないという思いが「多分」私を追い立てたとも言っています。本人も認める通りの「思いつくまま」の放言だったのでしょう。

www.y-harada.com

これにつき、小泉環境大臣は記者会見で、所管は違うがと断ったうえで、「努力してきた方々の苦労をさらに大きくしてしまうことがあったとしたならば、大変申し訳ない」と述べ、「議論を経済産業省で進めていくが、漁業関係者や福島のさまざまな方々が、これ以上傷つくことない議論をしていただきたいと切に願う」と発言しました。小泉氏は更に、いわき市で県漁業協同組合連合会の関係者らと面会して陳謝しました。

小泉環境相、原田前環境相発言「申し訳ない」 - 産経ニュース

小泉環境相、前任者の発言をおわび 訪問先の福島で:朝日新聞デジタル

小泉氏も、菅官房長官も、原田氏の発言は、政府の立場とは異なると言っています。辞める大臣が、最後っ屁のように無責任な不規則発言をしたのだから、それを否定するのは当然のことです。

特に、原田氏の発言に対して、全漁連の会長が「全国の漁業者を代表して」「断固反対と撤回」を要求しました。

http://www.zengyoren.or.jp/cmsupload/press/130/20190911haradakankyoudaijinkougi.pdf#search=%27%E5%85%A8%E6%BC%81%E9%80%A3%E4%BC%9A%E9%95%B7+%E6%B1%9A%E6%9F%93%E6%B0%B4%27

原田氏を引き継いだ小泉氏は、この問題で大きなマイナスのスタートになった、だけではなく、安倍内閣全体が、汚染水問題で漁業者の信頼を損ねる結果となりました。小泉氏が前任者の尻ぬぐいで、まずは福島の漁業者に詫びを入れて信頼回復を図ったのは当たり前の行動です。

 では、政府の立場はと言うと、経済産業省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」というところで検討中、ということです。

福島第一原子力発電所における汚染水対策 (METI/経済産業省)

何を検討しているかと言うと、一番重点が置かれているのは、風評被害をどう防ぐか、ということです。

安全性という点に限って言えば、原田氏の発言は正論であっても、いま一番重要な、風評被害をいかに防ぐか、という具体案もなしに、ただ海洋放出しろと言ったところで、何の意味もありません。現に政府は、日本全体の消費者、国民、更には国際社会全体に対して、どうやって科学的な合理性、安全性を理解してもらうか、ということを最重要課題として、小委員会で検討してきました。

たとえば、昨年12月の小委員会では、東大と福島大の世論調査で、汚染水の海洋放出、地中注入、大気放出のいずれかについての賛否の割合が報告されました。賛成はわずか13%、反対が46%、わからないが40%となっていることを踏まえ、何についてどう理解を深めるか、という議論をしています。

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出所:経済産業省

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/012_03_02.pdf

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/013_01_01.pdf

その後、この小委員会は、統一地方選参院選があったからでしょうか、なんと7か月も開かれませんでした。今年8月には、とりあえずタンク増設の可否について検討、つまりは、海洋放出するかどうかは、先延ばしにしていました。

www.nikkei.com

汚染水の海洋放出の可否に関する判断が先延ばしになっていることについては、以前からずっと批判されています。最近では、8月の小委員会の議論につき、日経が、間もなく処理水の保管継続もできなくなるのにおかしい、と叩いています。

www.nikkei.com

更に言えば、先に挙げた全漁連の抗議文を見れば分かる通り、全漁連は全漁連で、とにかく海洋放出は絶対認めないということで、無理押しをしようとしているのは確かです。一部業界団体のために、不合理な先延ばしをいつまでもするべきではありません。

先延ばしはいけないし、漁業者ばかりにおもねってはいけないのはもちろんですが、それでも、私は、今回については、いったん漁業団体に謝罪をして、政府の方針を遵守する小泉大臣の姿勢を支持します。この問題では、東京電力が嘘ばかりついてきて、完全に信頼を失っているからです。海洋放出の前提は、信頼の回復です。

漁業団体が怒るのも無理はないと思わせるのが、これまでの東電のデタラメぶりです。

2012年6月、福島で漁業の試験操業が始まりました。

ところが2013年8月には、これを中止せざるを得なくなります。

福島第1原発のタンクから漏れた大量の汚染水が海に流出した事実を長く伏せていた東電が、政府・原子力規制委員会の指摘を受け、2013年7月22日になって公表したからです。

その後、2014年、東電は、「汚染されていない」地下水を海に放出したいと言ってきたけれど、原子炉建屋周辺から地下水をくみ上げるということで漁協が風評被害を恐れて難色を示していました。

翌2015年2月下旬、原子炉建屋の屋上にたまった高濃度汚染水が海に流出し続けていたのに、東電は公表せずに1年余り放置していたことが分かりました。これで試験操業の芽がまたなくなりました。1年余り放置、ということは、前の年2014年、海に流すのは汚染されていない地下水だけにしますと表では言いながら、裏では高濃度汚染水を平気で海に流していたことになります。

www.huffingtonpost.jp

更に去年2018年9月、東京電力は、一部のタンクから放出基準値の最大約2万倍にあたる放射性物質が検出されていたことを明らかにしました。ALPSで浄化されたはずの汚染水約89万トンのうち、8割超にあたる約75万トンが基準を上回っていて、ストロンチウムは基準の2万倍だったそうです。東電は測定値をホームページで公表していたから問題ないと言いますが、さりとて積極的には説明してきませんでした。「掲載しただけで満足していたのは大きな反省点」と、一応は言っているものの、これが分かったのは、その前の月の、住民向けの公聴会がきっかけでした。

digital.asahi.com

多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会 (METI/経済産業省)

こんな風に、東京電力は、とにかく情報公開はしない、出来るだけ隠す、何なら平気で嘘もつく、という姿勢を徹底させてきました。こんな姿勢では、漁業者も態度を硬化させるのは当たり前です。

東電は、なぜここまで稚拙なやり方をするのでしょう。恐らく、科学的に見ればリスクは低いんだから多少隠したって、ないしょで海に流したって、どうということはない、という感覚があるのでしょう。風評被害は、要するにバカな国民のバカな勘違いだから、そんなこと無視して合理的にやればいいんだ、という底抜けにバカな勘違いをしているのではないでしょうか。そんな態度を続けるから、海洋放出がますます遠のいて、自分達の首を絞めているのです。

オリンピック後に、国際的な第三者委員会で検証後、放出すべき

では、この問題で、原田大臣の発言の後、政治家はどう振舞うべきでしょうか。

政府・与党について言えば、私は、菅官房長官のように、従来の政府方針が不規則発言一つで変わるものではないことを当然確認し、小泉氏のように、地元の信頼回復にまずは努めるのが当然であり、あるべき対応だ、と思います。現在の政府方針への賛否はどうあれ、政策転換をまだ決定していないのだから、当たり前です。

マイナスからの信頼回復だから、先送りだの何のと批判を受けようがどうしようが、やはり時間をかける必要があります。

そういうときに、海洋放出を政府がただちに決めて、場所も特定して、大阪湾から流すべきだ、などと言う話が通るはずはないでしょう。小泉大臣にばかり目がいきがちですが、話の発端は、もう辞める70代の大臣の旧通産官僚らしい無責任発言です。汚染水の他地域放出は良いアイディアですが、東電への信頼がない状態で、前大臣の無責任な発言を契機に、話は進まないし、そのやり方で進めるべきでもないと思います。

本件、震災瓦礫の受け入れとは全く状況が違います。当時は、福島の人達が本当に困っていて、深刻な風評被害で傷付けられ、苦しめられていて、他県から声を上げてもらえるのはありがたかったことでしょう。今回も、汚染水処理に関する誤解を解くという点では、評価する声はあると思います。問題は漁業者です。全漁連会長は、福島だけでなく全国の漁業者を代表して反対、と言っており、どこから放出しても反対、というスタンスです。仮に大阪で本当に海洋放出できるようになっても、場所だけ変えればそれで解決するという簡単な話ではありません。

いったん冷徹に、合理的に考えてみましょう。全漁連の言うような、何が何でも地上で保管し続けろという主張は、認めるべきではありません。保管が可能だといわれるあと3年以内には、海洋放出を実現すべきです。全国民の利益のために、漁業者が被害を被っても仕方がない、という政治決断をせざるを得なくなります。

だからこそ、そのような重い決断をするにあたっては、漁業者も国民全体も、更には国際社会も十分納得するような手続きを踏む必要があります。

もともと、政府は、来年のオリンピック後に話を動かす予定だと言われ続けています。選択も、日経も、そんな情報について報じています。

福島第1汚染水、放出か否か 政府の決断は五輪待つな (写真=共同) :日本経済新聞

福島原発の汚染水問題 東京電力が五輪後の海洋放出を画策 | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版

タイミングとしては、そのあたりまで待つのはやむを得ないでしょう。本当は早い方が良いに決まっていますが、東電が去年になっても情報を隠し続けて信頼を失っており、今回は閣僚の発言で政府も信頼を失いました。

この状態で、どんな素晴らしい政策をやると言ったって、地元や漁業者だけでなく、国民もついてきません。

そのうえ、韓国も日韓対立で依怙地になって、IAEAで海洋放出を批判。いかに科学的に非合理的な主張でも一部にでも受け入れられるおそれは十分にあり、国際社会でも丁寧な風評被害対策は当然必要です。まして、東電が、トリチウム以外の核種が実は除去されていなくても、データだけは出して自分からは説明しないという姿勢なら、安全性でさえ諸外国から批判されるおそれがあります。

以上を考えれば、この問題については、オリンピック後に、安全性について(本当にトリチウム以外の核種が基準以下に除去されているかについて)、海外の研究者も入って第三者委員会で検証のうえ、海洋放出をするべきです。

何ならIAEAからも専門家を派遣してもらって、全世界が衆目の中で、科学的合理性を確認し、保証してもらう、というやり方なら、国際社会も納得するし、韓国が何を言っても説得力はなくなるし、国民もなるほどそれなら、と納得するでしょう。こうなって初めて、漁業者からも、仕方がないと納得を得られるはずです。

科学的に合理的な解決はこれだ、政治家は恐れず国民に訴えて理解を得るべきだ、最後は選挙で決めればいいんだ。もちろんそうですが、そのやり方にも色々あると思います。