日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

無形資産への投資増で労働分配率は低下、デジタル課税はマーケティング無形資産課税が有力:再分配政策と教育の両方の強化を!

データ経済化で無形資産への投資増が労働分配率低下の一因とされ、デジタル課税はアメリカの主張するマーケティング無形資産が有力視されています。データ・知識等の無形資産による経済の裾野を広げるには、再分配政策と教育が必要です。

無形資産の比重の増大:二つのインパク

日経が、データや知的財産などの無形資産が、経済での比重を高めていることを報じています。米国や欧州諸国はGDP比で10%を超え、機械や設備など物的資本への投資額を上回っています。

日本の無形資産投資はGDP比で10%に満たず、特に人材や組織の質といった「経済競争力」の比重が低いのが問題だ、と書いています。

出所:日本経済新聞2019年9月17日

無形資産投資、米欧はGDP比10%超も 日本出遅れ :日本経済新聞

この原因は、経営者報酬が他国より低いことも原因のようですが、「企業が90年代以降に人材育成や教育訓練のコストを削ったことも影響している」として、要は、企業はもっと人材投資をしましょう、という主張をしたいようです。

無形資産であるデータやソフトウエア、R&Dや知的財産等が経済に占める比重が上がることが、雇用や賃金にはマイナスになっている、という主張が、最近なされています。特に、陳腐化の早いソフトウェア等への投資に人件費が圧迫され、労働分派率の低下を招いている、とされています。私は以前、FTのコメンテーター、ラナ・フォルーハー氏によるこうした主張を取り上げましたし、

[FT]労働分配率低下、覆すには :日本経済新聞

あなたの「いいね」に、フェイスブック社は報酬を支払うべきでは?:デジタル課税の一部を「デジタル配当金」に。 - 日本の改革

今日の日経でも、無形資産への投資が増える一方で、労働分配率が低下しているというグラフを載せています。

出所:日本経済新聞2019年9月17日

(Neo economy)姿なき富を探る(1) ヒトより知識 割食う賃金 企業価値の源、8割が無形 :日本経済新聞

日経が言いたいのは、本来は「人材や組織の質」も無形資産のはずだ、日本企業はそこに十分投資していないので、もっと投資することで、労働分配率の低下を防ぐべきだ、ということなのでしょう。ただ、欧米でも労働分配率は下がり続けています。「人材の質」を上げると称して経営者の報酬を上げても、労働者にはそれほど回していないということかもしれません。

日本だけでなく先進国全体で労働分配率が下がっている現状を踏まえれば、少なくとも当面は、何らかの公的な再分配も必要です。また、労働者自身も、データ経済時代に合わせた能力を身に付けるべきですし、政府はその支援も行う必要があります。

デジタル課税は利用者参加型に近づけ、利用者も価値創造できるよう教育を

再分配政策について言えば、昨日は個人に対するアメリカ野党の富裕税案や日本の所得税を取り上げましたが、法人税の分野では、デジタル課税をどうするかが重要な問題です。

これについても、本ブログで取り上げてきましたが、主として、ユーザーの参加量(データ量、クリック数、デジタルサービス契約件数)に課税するイギリス案と、マーケティング上の無形資産(ブランド、のれん等)に課税するアメリカ案の対立です。

イギリスは既に、抜け駆け的に、2%の売上税の形でIT大手への課税を決定していますし、フランスも売上税形式のIT課税を決定しました。このフランスの最近のデジタル課税をアメリカが批判、貿易摩擦問題になりかけましたが、一応、妥協が成立。7月に成立したデジタル課税について、条件付きで企業に一部を払い戻すことを決めました。

仏デジタル課税、深まる米欧通商の溝 米は報復示唆 :日本経済新聞

米仏、デジタル課税 妥協案で合意 (写真=ロイター) :日本経済新聞

ただ、相変わらず、米欧の溝は深いままです。6月のG20では一応、来年までの合意をすると決めたはずなのに、7月のG7ではもう、フランスのルメール経済・財務相が、2020年までの国際合意は難しいと言っています。

デジタル課税、20年の国際合意「難しい」 仏経財相 (写真=ロイター) :日本経済新聞

この対立はずっと続いていて、両方とも、主張の内容も同じままです。

イギリス案にはEU諸国も賛成していますが、論拠は、「利用者は個人情報を差し出して、その企業の利益に貢献しているから、デジタル企業は利用者の貢献の度合いに応じた分け前を税金として払うべきだ」ということです。ユーザーの参加量に応じた課税をユーザーのいる市場国が行うので、市場国に有利です。

これに対し、米国は「利用者の貢献が本当に価値を創造していると言えるのか」と反論、利益を生んでいるのはマーケティングやデータ分析だから、それを実施した地域で課税を強化するべきだ、と主張しています。デジタル企業の本社機能を抱える自国に有利です。アメリカ同様、中国もこれを主張しています。

www.nikkei.com

私はこれにつき、企業重視の社会から消費者重視の社会への転換が必要と考えて、利用者ベースでの課税のイギリス案にすべき、と主張してきました。更に、デジタル課税の税収の一部は、いわゆるデジタル配当として、利用者に貢献度に応じて再分配するべき、と提案しました。課税も、配当も、利用量に応じた形にすれば、制度的にも一貫すると考えたからです。

あなたの「いいね」に、フェイスブック社は報酬を支払うべきでは?:デジタル課税の一部を「デジタル配当金」に。 - 日本の改革

しかし、現状では、アメリカの主張する「マーケティング無形資産」案が有力なようです。

https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/11148.pdf#search=%27%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E8%AA%B2%E7%A8%8E%27

また、京都大学の諸富徹教授によると、この考え方が、OECDのBEPSプロジェクトの基本方針にも合致しているそうです。あくまでも企業が国境を超えるバリュー・チェーンにおいて生み出す価値創造を 確定し、その価値創造の行われた国に対して、課税配分すべきだという考え方です。

http://www.tax.metro.tokyo.jp/report/tzc31_4/05.pdf#search=%27%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E8%AA%B2%E7%A8%8E+PDF%27

(なお、日本の財務省の整理はこちらに出てきます)

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/customs_foreign_exchange/sub-foreign_exchange/proceedings/material/gai20190822/05.pdf#search=%27%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E8%AA%B2%E7%A8%8E+PDF%27

この問題、イギリスも必ずしも消費者寄りなわけでもなく、もともとIT大手への課税を強めようとしたのは、小売店業界の圧力に動かされたからのようです。実物の店舗を持つ小売店には固定資産税(ビジネスレート)がかかるのに不公平だ、という声のようですが、これでは、古い業界と新しい業界の対立というだけで、しかも古い業界の言い分が自分達を守れということなら説得力はありません。日本での「GAFA」課税・規制も、このような歪みがないか、注意が必要です。

www.nikkei.com

無形資産を使う企業の価値創造は当然無視は出来ませんし、国際的な合意は、こちらで行われる可能性の方が高いのでしょう。激しい冷戦を行う米中という二大国が揃ってこちらを推しているという現実もあります。

ただ、各国が独自に課税を課すことまでは完全には禁じられないでしょうし、現にイギリスとフランスはそうしています。企業と消費者の貢献を両方評価するならば、企業の貢献度を評価するマーケティング無形資産案で合意して、二重課税にならない範囲で、各国が利用者の貢献度に応じて独自に課税するのは妨げない、という落としどころを見つけられれば一番良いのでしょう。

結局、法人税での再分配としては、マーケティング無形資産での本国課税に、二重課税にならない範囲で、消費者の利用量による市場国課税を行い、市場国課税分についてはデジタル配当を市場国で行う、という形にすべきです。

以上が、無形資産の比重が高まる経済での再分配政策の強化です。

更に、労働者とITサービス等の利用者の教育も必要です。労働者の教育について、冒頭に挙げた日経の記事は、企業の人材投資をすべきと示唆しており、それはそれで重要ですが、私は公的な教育支援も必要だと思います。現在、学校教育について、AI時代を意識した改革がとにもかくにも進められています。小学校でのプログラミング教育、国立大学の文系学部でのAI教育等です。それらの実効性には疑問の声も出ていますが、とにかく、教育内容を大きく変える必要があるのは確かで、教える人材の育成も必要です。

更に、現在既に働いている人達のスキルアップも必要で、結局、社会全体で、コンピューターサイエンスやネットワークの教育、それに関わる経済・経営や制度面での知識・技量の底上げを行わなければいけません。教育が正の外部性を持つことを考えれば、やはり国や自治体がなすべき仕事です。

労働分配率の低下について、労働者の労働生産性を上げる、ITプラットフォームの利用については、利用者のリテラシーを上げる、という、地道な手段について、更に実効性のある対策が必要です。