日本の改革

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英下院、解散を否決:それでもジョンソン首相は、チャーチルのように敗北を重ねた後に勝つ?

英下院、EU離脱延期法案を可決、首相の解散動議を否決。イギリス政治の混乱の原因は、EUに妥協しすぎたメイ前首相と、EU離脱で態度の曖昧な労働党のコービン党首に責任があります。ジョンソン首相は少なくともEU離脱で決めようとしているのは評価できますし、結局は勝つ可能性があります。

英政局の「混乱」

英議会下院は、EUからの離脱延期法案を賛成多数で可決しました。ジョンソン首相は、EUとの交渉期限の10月31日には、どんな形になろうと必ず離脱との方針なので延期法案に反対。そこで、国民の信を問う総選挙を提案しましたが、否決されました。イギリスでは、議会の3分の2の賛成がないと解散できません。ということで、10月末の離脱も出来ず、解散で信を問うこともできずで、ジョンソン首相の敗北です。

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そもそもイギリスのEU離脱が正しい政策か否かですが、経済成長だけを考えればあまり望ましくないが、イギリス国民の意思を考えればやむを得ない、というのが私の意見です。

以前、本ブログで書いた通り、イギリス政府は、EU離脱後の移民制度を立案するにあたって、諮問機関からの報告("EEA migration in the UK: Final report")を受けています。その報告によると、移民流入による雇用・賃金等への影響は限定的だということです。移民の存在が社会保障で負担になると思われがちですが、医療・介護分野でも、サービスの需要よりも圧倒的に提供の担い手となっている、と分析されているようです。

移民の社会的コストは、通常思われているほど大きくはないようですが、それでも、若年層の雇用にはわずかながらマイナスにはなるようです。

EU離脱でイギリスの混乱から学ぶべきは、政治制度・手法の失敗よりも、移民受け入れの失敗。 - 日本の改革

何より、イギリス国民が、経済的な数字だけではない不安感等を持って、いったんは国民投票で離脱に合意した以上、そして再度の国民投票もできなくなっている以上、どれほど問題が山積でも、EU離脱を実現しようとするのが、政府として責任ある態度です。

結論をひっくり返して残留にするなら、そのための新たな民主的正当性が必要になります。再度の国民投票という選択肢がない現状では、総選挙がその手段ですが、それを主要野党の労働党がつぶしてしまい、しかも残留への道筋は開いていない、というのが現状です。

「決められない」二人の政治家:メイ前首相と労働党コービン

イギリスの政治がここまで混乱したのはなぜでしょう。法制度に原因を求める議論もあります。特に、解散権を議会が握るのはおかしい、等々の主張です。この主張についても以前、本ブログで取り上げましたが、一面の真理だろうと思います。今回のように、野党が解散を阻止して、またしても決められない政治になっていることを思えば、なおさらです。

EU離脱でイギリスの混乱から学ぶべきは、政治制度・手法の失敗よりも、移民受け入れの失敗。 - 日本の改革

しかし、与えられた制度・与件の下で、民意を統合するのが政治家の一つの役割と考えるならば、これほど決められない政治になった責任は、二人の政治家に帰すべきです。

一人は、テリーザ・メイ前首相です。

メイ前首相がEUと合意した離脱協定では、移行期間内に英国とEUが貿易協定で合意できない場合、アイルランドと英領北アイルランドの間の国境検査を避けるため、英国全体が関税同盟にとどまるという、いわゆる「バックストップ」条項が盛り込まれています。

この案は、「EU離脱」の意味を実質的に失わせかねないものなので、離脱派のイギリス国民は飲めません。しかし、EUに対して、メイ首相は強く出ることが出来ず、中途半端なバックストップ(安全策)条項付きの案で妥協してしまいました。そして、結局はそのことがイギリス政治に大混乱をもたらし、メイ首相はリーダーシップを疑われ、退陣しました。

後継のジョンソン首相が全く反対のアプローチを取ったのはむしろ当然です。ジョンソン氏は、バックストップ条項を撤回する方針をとり、G7でもその方向での交渉を行いました。フランスは拒否、ドイツは30日以内に代替案を策定できるだろうとの見方を示しました。

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イギリス政府としては、当面はこの方針でいくしかありません。交渉はする、しかし、ダメなら合意なき離脱、ハードブレグジットもやむを得ない、という考え方です。

このハードブレグジットの悪影響が大きすぎる、ということで、メイ前首相は、イギリスに極めて不利な条件で、つまり、アイルランド国境を開けておくという形での案で妥協してしまいました。ここで、いったんは強硬な姿勢に転じて、離脱派のイギリス国民に受け入れられる案で決めようとしているのがジョンソン氏です。これを「決められなかった」のがメイ氏でした。

もう一人、もっと全然決められない政治家が、労働党ジェレミー・コービン党首です。

この問題は労働党を二分していました。2016年の国民投票では、労働者階級の多くが離脱を支持する一方、労働党議員の多くはEU残留を強く支持しています。

コービン党首は、長年にわたりEU懐疑派の立場を取ってきていて、国民投票の再実施にも抵抗したのに、結局は再実施に賛成するなど、ブレています。

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こうした態度のため、労働党は5月のイングランド北アイルランドの地方議会選で、大きく議席を減らしました。当時は不人気のメイ政権の任期半ばで、そうした場合の選挙で、最大野党が議席を大きく伸ばさなかったことは、きわめて異例だということです。

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イギリスのEU離脱にせよ残留にせよ、どちらにしても実現は大変な困難が伴います。メイ前首相は、EU離脱を実現しようとしましたが、EUに対して強く出られず、結局は事実上残留に近いような案にしてしまい、決められないままでした。野党のコービン党首は、更にひどく、そもそも離脱か残留かでブレたうえ、一応残留の方針になっても、その実現の道筋を全く見せず、国民の信頼を失っています。

決めようとするジョンソン首相

これに対し、ジョンソン首相は、強引すぎるやり方ではあっても、何とか離脱実現に向けてやれることをやろうとしています。

ジョンソン氏は8月下旬、議会を9月9日の週から10月13日まで約1カ月にわたり閉会として、EU離脱期限である10月末の直前まで議会を開かせないようにして、残留派の動きを封じようとしました。

これに下院が反撃、離脱期限延期法案を採決、それなら解散で民意を問う、という選択肢も封じた、というのが現状です。

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BBCは、コービン党首が、離脱延期法案が成立した後ならば総選挙の前倒しに応じるが、成立前の選挙には応じないと発言した、と報じています。

また、労働党は解散に賛成していたのにおかしい、という保守党の批判等を紹介し、今後、どうなるのかにつき、離脱延期法案が、離脱派議員が多い貴族院で多数の修正を求められる可能性が高い、としています。

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更にその先につき、日経の見立ては二つあり、一つは延期法案の貴族院での成立阻止、もう一つは、延期法案を成立させたうえで解散を野党に飲ませる、という方法です。どちらもあり得ると思います。

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ポリティコのライアン・ヒース氏は、貴族院が時間稼ぎをして離脱延期法案をつぶそうとすれば、閉会されてしまう下院の野党は、そのまま10月31日の合意なき離脱を迎え、しかも総理の首もとれないまま、という状態が続きます。それならいっそ、ということで態度を一変させて、解散に賛成するという選択をするかもしれない、と言っています。

ヒース氏は、そもそも国論が二分されている状況で、最終的にはどの党派も解散に賛成せざるを得なくなる、その場合、人気のない労働党は負けると見て、ジョンソン氏が、何度も敗北を重ねた末に勝ったチャーチルのように、最終的には大逆転で勝つ可能性がある、としています。

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この記事はちょっとジョンソン寄りに過ぎるかもしれませんし、チャーチルとの比較は驚きましたが、私は、この見方に一定の説得力を感じます。

離脱延期法案を貴族院で棚ざらしにして時間切れになるぞと脅すか、それともいったん離脱延期法案を飲むかして、とにかく解散に持っていく、そして選挙で勝てば、離脱延期法案はいずれにせよ潰してしまう。このやり方がありそうな気がします。