日本の改革

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ポーランドのドイツへの戦後賠償請求90兆円?戦争被害につき、諸国民の人権に基づく新たな安定が必要

ポーランドがドイツに、8500億ドル(約90兆円)という巨額の戦後賠償問題を持ち出しています。ドイツが国家賠償を曖昧にしてきたのは確かですが、ドイツ国民の強制移住による被害の賠償も必要です。国際社会は、戦争に関する賠償について、出来る限り個人の権利の賠償・補償を基礎としていくべきです。

ポーランドギリシャが巨額の戦後賠償を請求する構え

80年前の昨日9月1日、ドイツがポーランドに侵攻、第2次世界大戦が始まりました。ポーランドホロコーストを含めて人口の2割、600万人が犠牲になったと言われます。

シュタインマイヤー大統領は、ナチス・ドイツが第一陣の爆撃を開始した地ビエルンで、大戦を生き延びた人や犠牲者の遺族らを前に、「私はビエルン攻撃の犠牲者に頭を下げる。ドイツ独裁の犠牲者を追悼し、許しを求める」と謝罪しました。

www.cnn.co.jp

ドイツ大統領が「許しを乞う」という最大限の言葉で謝罪したのも、理由なしとしません。戦争被害につき、ポーランド政府が、ドイツ政府に国家賠償を求める姿勢を見せているのも一因でしょう。2015年から政権与党の右派「法と正義」が、この問題をたびたび取り上げており、今回の式典の際にも、あらためて賠償について発言しています。ポーランドのこれまでの政権は、本件が既に解決済みというドイツの主張を受け入れてきましたが、ちゃぶ台返しを始めています。

一方、時事通信は、独外交協会のシェラコフスキ上席研究員の「額面通りの要求というより、政治的カードだ」という発言を引用、「『法と正義』が、メディアへの圧力強化などの政策をEU・ドイツに問題視された場合の対抗策として、賠償問題を利用している」との分析を紹介しています。

www.jiji.com

ポーランドがこの話を持ち出してくるのは、確かに対EUでの外交カードとしたい意図もあるようです。ポーランド政府は、最高裁判所の判事の定年を70歳から65歳に引き下げ、政権に都合の良い判事に変えようとしている、とEUが批判しており、欧州司法裁判所は、ポーランド政府の決定がEU法違反だ、との判断を下しています。「法と正義」は、いわゆるポピュリスト政権の例にもれず、色々なスキャンダルも報じられており、その対策かもしれません。

www.nikkei.com

そもそも、EUの今の大統領のトゥスク氏はポーランド出身のリベラル派で、右派与党「法と正義」の政敵です。今後、ポーランド政界に復帰するとの見方があり、それもからんでいるかもしれません。

www.nikkei.com

このように、「なぜ、この時期に」という疑問はありますが、ドイツがポーランドに第二次大戦の賠償を十分にしていない、ということなら問題です。

また、同じ政治的文脈で言うなら、ポーランドのドゥダ大統領は、ただの極右ではありません。彼はロシアに対抗してアメリカとの同盟を強化する方針で、駐留米軍の拡充も決定しています。今回の式典にもロシアを呼ばないなど、対ロシアという点では、頼りになる人物です。ドイツとソ連に蹂躙されたポーランドの現代史への共感はもとより、外交・安全保障上も、ポーランドの現政権の主張は真剣に取り上げるべきです。

インタビュー:ポーランド、駐留米軍の拡充計画発表へ=大統領 - ロイター

米、ポーランドに1000人増派へ ロシアに対抗 (写真=ロイター) :日本経済新聞

第2次大戦開始80年、ポーランドで式典 ロシア招かれず、歴史認識にも溝:朝日新聞デジタル

なお、ギリシャも、また最近になって、35兆円相当の賠償請求権があると言い出しています。こちらは、2015年に発足したチプラス前政権が、ドイツを中心とすEUなどの金融支援を受け入れたが、厳しい管理下に置かれることへの国民の不満が高まり、賠償金請求の「歴史問題」を持ち出したのが更に続いています。

ギリシャ首相、ナチス占領の賠償金に期待 独首相と会談:朝日新聞デジタル

国家賠償から逃げ続けたドイツ

では、ポーランドギリシャの要求は、そもそも法的に見て正当なのでしょうか?

ドイツはホロコーストによる個人損害に対する賠償は既に700億ユーロ(約8兆2000億円)超も支払っているので、ここでは、それ以外の直接の戦争被害に対する賠償が問題となります。

第二次世界大戦に関する国家賠償について、ドイツ政府の公式見解は、以下の通りです。

戦後に国が東西に分裂したから、賠償については1953年のロンドン債務協定でいったん先延ばしにしたが、戦後を通じて個別に西欧諸国にも東欧諸国にも賠償をしたし、統一時の1990年「2プラス4条約」で賠償については終わったことになった、これをポーランド等は欧州安全保障協力会議( CSCE )参加を決めるパリ憲章で承認した、特にポーランドは、1953年にソ連とともに請求権放棄をしている、だからもう賠償請求権はない、というものです。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000260132.pdf

戦後すぐの1953年には先延ばしでも、1990年にちゃんと条約で解決済ならそれで終わりに見えます。ところが、どうもこの1990年の「2プラス4条約」が相当あやしいもので、そもそも戦後賠償についての定めなどしていないと言います。ざっと見たところ、確かに項目としてはなさそうな感じですし、

https://www.bpb.de/nachschlagen/gesetze/zwei-plus-vier-vertrag/

別の資料、ライナー・ホフマン(2006)「 戦争被害者に対する補償 ――1949年以降のドイツの実行と現在の展開――山手治之(訳)」(立命館法学 2006 年2号(306号))によると、以下のようなことになっています。

 ドイツの賠償問題は,ドイツの完全な主権が再確立された1990年9月12日の2プ ラス4条約)の締結の後,かなりの適切さを取り戻した。条約はドイツと最終的 解決を締結する当事者の意図を述べているけれども,それは再統一されたドイツに 対して賠償を請求する権利を支持するいかなる規定も含んでいない――それはかか る請求権を排除もしていないが。この条約は明らかに伝統的な法的意味における平 和条約を構成しないけれども,再統一されたドイツは一貫してそれを処理条約およ びロンドン協定の意味におけるドイツに関する最終的解決とみなしてきた。それゆ え,ドイツ政府は,ドイツは賠償を支払うべき,あるいは補償を行うべき法的義務 を有しないという意見をもち続けたし,かつもち続けている――それは明らかにそうすべき道義的義務を排除しない立場である。

 そして,実際,1990年以後の歴代ドイツ政府の公式見解によれば,ソ連とポーラ ンドは上述の1953年協定において一切の賠償請求を放棄し,ブルガリア,ハンガリルーマニアは1947年のパリ平和条約においてかかる請求を放棄しているにもかかわ らず,再統一されたドイツは1991年にポーランドおよびソ連の三つの承継国(ベラ ルーシ,ロシア連邦ウクライナ)と条約を締結して,ナチスの迫害の被害者の状 態を緩和するためにかなりの金額を――いかなる法的義務も認めることなく――引 き渡した。同様の引渡しが,エストニア,ラトヴィア,リトアニア,およびとくに チェコ共和国と締結した協定にもとづいて行われた。1998年には,ドイツ政府は, これまでいかなる補償金の支払いも受け取っていない東欧に住むナチス迫害のユダ ヤ人被害者に援助基金を提供するために,ユダヤ人請求会議と協定を締結した。最 後に,ドイツは1995年に,これまでいかなる補償金も受け取っていない米国市民に 関して,米国と一括支払協定を締結した。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/06-2/ok-yamate.pdf#search=%27Basic+Principles+and+Guidelines+on+the+Right+to+a+Remedy+and+Reparation+for+Victims+of+Gross+Violations+of+International+Human+Rights+Law+and+Serious+Violations+of+International+Humanitarian+Law%27

したがって、ドイツ政府としては、ポーランド等の東欧諸国やバルト三国等に対して戦後賠償を支払う「法的義務」はない、そんなものは「2プラス4条約」には書いていない、ただ、「道義的責任」を果たすために、既に個別に支払った、だからもう問題は終わっている、というスタンスです。条約に書いていないから請求権はない、自発的に払ったのは善意の表れ、ということのようです。

では、ポーランドの言い分はと言うと、1953年の請求権放棄はソ連に強制されたものだし、(ドイツの言う自発的で道義的な)賠償もソ連を通じてしか受け取れなかった、金額も、もっと被害の少なかった西欧諸国よりはるかに少ない、これは不公平だ、ということです。

ポーランド、ドイツに追加戦争賠償要求「賠償差別された」 : 日本•国際 : hankyoreh japan

 

Polen will Reparationen: "Haben das Recht, über Entschädigungen zu reden" - SPIEGEL ONLINE

ドイツ連邦議会は、最近になって、ポーランドギリシャの要求について、専門家による調査を行いました。調査を要求したのは左翼党(SPDの左派が分裂した小政党)です。

結果は、ポーランドは請求権を1953年のほかに1970年にも明文で放棄しているから応じる必要はない、しかし、ギリシャについてはそうした明示的な意思表示での放棄がなされていないし、ギリシャに関しては、国際司法裁判所で解決すべき、ということでした。これはおそらく勧告的な意見で、政府や議会を縛るものではないでしょうが、どうも法的に見て、ドイツの主張が必ず通るかどうか、微妙なところです。

www.spiegel.de

 ドイツは、ホロコーストによる被害の個人賠償は相当しっかりやってきました。政府も国民も、本気で深い反省をして、その記憶を受け継ぐ努力を続けています。

しかし、侵略戦争の被害の賠償ということについては、少なくとも条文上の取り決めに関しては、驚くほどいいかげんです。「2プラス4条約」には賠償について定めがないから権利がないと言いますが、これは解釈次第です。書いてないから別途請求可という解釈もあり得ます。また、これは旧西独・旧東独と、米ロ仏英だけで結んだ条約です。この条約が東欧諸国への賠償責任を否定する根拠になるというのも本来不自然です。そこで無理やり、「欧州安全保障協力会議( CSCE )参加」をもって、接ぎ木しているのでしょう。

請求権放棄の件は、国際法上は確かに有効でしょう。しかし、旧ソ連に強制されたというだけではなく、当時のポーランド社会主義国だったのだから、民主的な正当性を欠いている、とは言えます。

この請求を認めるべきか?ドイツはどうすべきか?

 では、ドイツは、ポーランドに対して、これほど巨額の賠償責任を負うべきでしょうか?本当にこれほどの損害だとしたら、実際に責任を負わせるのは非現実的です。

そもそも、第二次世界大戦後のドイツと日本については、損害賠償責任をあまり過大にすべきではない、という政策的判断が連合国にありました。第一次世界大戦後にドイツに重すぎる賠償責任を負わせたのがナチスの台頭につながったという反省があるからです。21世紀の現代でも、同じ考慮が必要です。

ある国の過去の過ちに対して過大な責任を負わせて、その国が自由民主主義を捨てかねないような事態は避けるべきです。つまりは、ポーランドギリシャの請求がたとえ正当だとしても、外交関係を壊さないような、負担可能な現実的な水準にすることが当然必要です。これは、日本に対して、他国から戦争被害に係る個人請求が新たになされる場合にも同様です。

また、第二次世界大戦では、ドイツ国民も他国の過酷な政策によって甚大な損害を被りました。ドイツ政府は自ら戦争被害の個人補償を行っていますが、それが十分でない場合、他国への請求も、敗戦国だからといって排除されるべきではないでしょう。

国連人権委員会は2005年に、「国際人権法の大規 模な違反および国際人道法の重大な違反の被害者が救済および賠償を受ける権利に 関する基本原則およびガイドライン」 を採択しました。そこでは、戦勝国国民・戦敗国国民を問わず、被害者個人の権利が明確にされています。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/06-2/ok-yamate.pdf#search=%27Basic+Principles+and+Guidelines+on+the+Right+to+a+Remedy+and+Reparation+for+Victims+of+Gross+Violations+of+International+Human+Rights+Law+and+Serious+Violations+of+International+Humanitarian+Law%27

特に、ドイツは敗戦後、中東欧に住んでいた1200万人ものドイツ人が強制的に移住させられ、その過程で200万人が犠牲になったと言います。日本で言うところの「引き揚げ」ですが、極めて悲惨だったようです。ましてや、中東欧のドイツ人の中には、何世代どころか何十世代もそこに住みついていた人達も100万人の単位でいました。彼らは、家族の命や自分の財産だけでなく、故郷そのものも奪われてしまい、慣れない西ドイツでの苦しい生活を強いられました。

西ドイツでは、こうした被追放者の団体や少数政党まで出来て支え合い、政府も当初は「難民・被追放者・戦争被害者省」という役所まで作って支援していましたが、1960年代になって、政策が転換されました。こうしたドイツ国民の被害を強調するのは、ナチスの犯罪を矮小化する歴史修正主義だ、などと言われるようになったからです。そして、「難民・被追放者・戦争被害者省」は、1969年に廃止されてしまいました。冷戦が終結してから、ようやく空気が変わり、ドイツ連邦政府支出の「避難・追放・和解基金」が2008年にできました。

(佐藤成基「ドイツ人の追放,日本人の「引き揚げ」ーーその戦後における語られ方をめぐってーー」立命館言語文化研究29巻3号)

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/pdf_29-3/lcs_29_3_satou.pdf#search=%27%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84+%E6%88%A6%E5%BE%8C+%E5%BC%B7%E5%88%B6%E7%A7%BB%E4%BD%8F+%E6%AD%BB%E8%80%85%27

ドイツも、戦後賠償について、請求権者の諸国があまりに過大な要求をするなら、あくまで個人請求権の行使という形で、こうしたドイツ追放に関する賠償請求を関係国に行ってはどうかと思います。ポーランドソ連に言われるままにやったと言うかもしれませんが、それでも、ソ連の命令通りにドイツ国民の人権を侵害した一面がなかったかどうか、ドイツ国民が検証を呼びかけてはどうかと思います。

ポーランドは激怒するかもしれませんが、意図はもちろん復讐や報復ではなくて、戦争が個人に及ぼした悲惨な被害を、戦勝国も敗戦国もなく償おうということで、そこはポーランドの要求と共通しているはずです。

ちょうど一昨日、ザクセンブランデンブルクの州議会選挙があり、極右のAfDが大躍進しました。一方、日本では復古主義的な保守派の安倍政権がこれほど長く続いています。国際社会は、両国の国民の第二次世界大戦時の個人被害に正面から向き合うべきです。

日本と国際社会への教訓は

以上の、ドイツの事例に比べて、日本はどうでしょう?

日本は、ドイツと異なり、国家間の賠償については、サンフランシスコ平和条約及び関連の二国間協定で、戦後賠償請求権をどうするか、条文に明示しました。この点は、ロンドン債務協定で先延ばしにして「2プラス4条約」でうやむやに終わらせたドイツより、しっかり解決が図れました。ここは日本政府もアメリカ政府はじめ関係諸国も立派でした。

歴史問題Q&A 関連資料 日本の具体的戦後処理(賠償、財産・請求権問題) | 外務省

しかし、そこでの個人請求権の扱いが、粗雑に過ぎました。

サンフランシスコ平和条約の締結交渉の中で、個人請求権放棄の文言につき、オランダ代表ステッカ-は「オランダ政府は、国民の請求権を放棄することは憲法上できない」と強く主張しました。その時の日本代表は「『放棄』により、国民の請求権は実体的には消滅しないが、裁判上請求できなくなる」という説明を加えたところ、オランダ代表はこの説明に激怒したそうです。結局、日本政府はオランダに対しては特別に、「ある種の私的請求権」として、個人の賠償に応じました。

そして21世紀の今日、個人請求権についてどうするか、「解決済」と惰性で繰り返してきたツケを払うはめになっています。

「戦後賠償訴訟の歴史的変遷と現段階」弁護士・髙木 喜孝 | 特集/日本を問う沖縄の民意

 ドイツの例からも、日本の例からも、教訓は明らかです。

いくら条約をしっかり結んだところで、当事国の国民の権利を無視していたり、民主的な正当性がなかったりすれば、いくらでも蒸し返されてしまうのです。国際法については、「法的に解決済」とだけ言ったって、無駄なことも多いのです。なぜなら、国内のように、約束を機械的に執行してくれる裁判所なんてないのですから。

結局、条約は、当事国や影響の及ぶ第三国の国民の人権や民主的正当性に十分配慮しながら結ぶべきなのであって、そのへんが怪しい何十年も前の条約だけに頼っていては、これからも、いくらでも、第二次大戦をめぐる紛争が起きるでしょう。戦争被害については、世界中の諸国民の人権に基づく解決をしていくことが必要です。