日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

年金財政検証発表:年金積立方式を言い出した世界銀行もその後反省。維新は別の「抜本改革」を。

厚労省が年金財政検証を公表、低年金者対策の必要性があらためて示されました。維新が主張する積立方式への移行は、これを難しくする可能性があります。積立方式への移行は、かつて世界銀行が提唱しましたが、その後、批判を浴びてほぼ撤回された経緯があります。年金につき、賦課方式を前提とした改革を主張すべきです。

年金財政の検証結果:驚くような内容はなし、課題も相変わらず

厚生労働省が、公的年金制度の財政検証結果を公表しました。経済成長率が最も高いシナリオでも将来の給付水準(所得代替率)は今より16%下がり、成長率の横ばいが続くケースでは3割弱も低下します。

www.nikkei.com

財政検証結果の概略は、ひとまとめにすれば、以下の通りです。

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出所:厚生労働省

ただ、新しいデータに何か大きなインパクトはなく、年金についての課題は相変わらずだということが再確認された、というところでしょう。その意味で、高橋洋一氏が、「5年前と同じ」と言い切っているのは、政策的選択肢についての新たな記述を除けば、正しいと思います。

 では、相変わらず続く年金制度の課題とは何でしょう?毎回の財政検証で強調されるのは、低年金者への対策ということです。経済成長率等のシナリオごとに、現役時の所得の何割くらいを年金でもらえるか(所得代替率)を出していますが、今回も、最悪のケースで30%台にしかならない、何とかしないと、ということです。これは厚生年金でモデル世帯についての試算なので、単身者や国民年金だけの世帯だと、もっと深刻になります。こうした問題が、参院選前に「年金では老後の生活に最低でも2000万円不足」と理解された金融庁レポートが出たせいで、今回は特に注目されていました。

年金制度の課題はもう一つあります。これも毎回の財政検証で示唆されることですが、年金の持続可能性ということです。最悪のケースで積立金が枯渇するというのは、今回も前回も示されました。

世界銀行の二つの年金レポート:1994年と2005年

これまで、改革派の政治家や学者は、低年金問題よりも、制度の持続可能性や、世代間の公平を重視してきました。日本維新の会が、年金制度を賦課方式から積立方式に変えるべきだ、と主張してきたのが典型例です。

賦課方式だと現役世代から引退世代に所得移転が起きるけれど、積立方式では現役世代は自分達の支払った保険料+運用益を受け取れるので、引退世代に所得移転は起きません。また、年金給付も積立金の範囲内になるので、持続可能性の問題も起きません。

このメリットが逆にデメリットにもなります。世代間の所得移転が起きないので、現役時代の低所得者は引退してから低年金者になります。また、これまで賦課方式の国が積立方式に移行するときには、現在の高齢者の分も自分が高齢者になったときの分も、両方の保険料を支払う「二重の負担」が必要になるので、実際の導入は難しいとされます。

そもそも、なぜ、積立方式が特に改革派の主張すべき提案ということになったのでしょう?これには、年金制度について、世界銀行が1994年に出した報告書の影響があります。以下、世界銀行のレポートとそれをめぐる議論については、一橋大学の前教授の高山憲之氏の解説によります。

http://cis.ier.hit-u.ac.jp/Common/pdf/dp/2005/dp273.pdf#search=%27%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%8A%80%E8%A1%8C+%E5%B9%B4%E9%87%91%E7%A9%8D%E7%AB%8B%E6%96%B9%E5%BC%8F%27

世界銀行は 1994 年に『年金危機をどう回避するか』(Averting the Old Age Crisis)を発表し、関係者に多大な衝撃を与えました。そこで強く主張されたのが、年金の二階部分(日本の厚生年金部分)は積立方式にして、民営化すべきだ、ということです。

(以下がそのレポートですが、400ページを超えてます…)

http://documents.worldbank.org/curated/en/973571468174557899/pdf/multi-page.pdf

その後、10 年間にわたって、年金大論争が世界的規模で 展開されました。ILO の研究者や、当の世界銀行の上級副総裁だったJ. E. Stiglitz教授も、このレポートを強く批判しました。

そこで世界銀行は2005年、新たな年金報告書「21 世紀の高齢所得保障:年金 制度と年金改革に関する国際的パースペクティブ」(Old-Age Income Support in the Twenty-first Century: An International Perspective on Pension Systems and Reform) を発表しました。

(こちらですが、これも200ページ超です…)

http://siteresources.worldbank.org/INTPENSIONS/Resources/Old_Age_Inc_Supp_Full_En.pdf#search=%27%EF%BC%88OldAge+Income+Support+in+the+Twentyfirst+Century%3A+An+International+Perspective+on+Pension+Systems+and+Reform%27

世界銀行はこのレポートで、年金に対する立場を事実上修正し、非拠出の最低所得保障制度を入れたり、積立方式の問題点を指摘したりしました。孫引きで本当にすみませんが、高山憲之氏によると、そこでは、

事前積立の重要性を認めているものの、移行コストに配慮する と積立型に切りかえてもメリットがほとんど消失してしまうことも指摘している。また投 資にはリスクが伴うこと(変動幅が大きい利回り)、取引費用も割高になること、低所得者 に不利になる点が否めないことなどにも言及している。  

とのことです。

なお、賦課方式から積立方式の導入例はない、と、以前のブログに書いてしまいましたが、お詫びして訂正させていただきます。高山氏によると、チリ、オーストラリア、香港で導入例はあるようです(上掲の論文参照)。確認不足で、大変申し訳ありませんでした。

チリの導入例については、山本克也氏が紹介しています。導入された「積立方式」では、基金の運用に失敗しても、国が最低補償年金分を結局、税金で補填する制度となっているうえ、物価スライドもあるので、そもそも世代間公平に資するかは疑問、としています。

http://websv.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/15683704.pdf#search=%27%E4%B8%96%E7%95%8C%E9%8A%80%E8%A1%8C+%E5%B9%B4%E9%87%91%E6%94%B9%E9%9D%A9%27

二重の負担の末にこのような制度にするくらいなら、2005年の世界銀行レポートでも言われていることですが、賦課方式のまま給付は積立金の運用をしたのと同じ水準にする、という「みなし掛け金建て方式」にした方が良いでしょう。これなら、二重の負担も生じません。ただ、この制度を導入したスウェーデンでも、見なし運用利回り率が一定水準を下回ったら税金で補填することにはなっています。

改革政党の主張すべき年金「抜本改革」の例

このように、積立方式年金に関する従来の議論や各国の立法例を見ても、賦課方式であることは前提にしたうえで、低年金者対策を行うことと、世代間公平を図ること(持続可能性を図ること)の両立を目指すような改革が必要です。

本ブログでは、現役世代の納得感を高めるために個人勘定制度にして世代間公平に配慮し、低年金者対策は高齢者間の所得分配によるべきで、これは年金制度よりも税金によるべき、特に金融所得の高所得税増税によるべきだ、という主張をしてきました。

年金2000万円「不足」問題、最初の麻生発言が最悪。国民の納得は、年金の個人勘定化と、高齢者間の税による再分配で。 - 日本の改革

更に、2004年の年金制度改革で、保険料率の上限を設定し、マクロ経済スライドを導入したのは評価するものの、同時に行われた将来世代からの法外な収奪(420兆円の強奪と表現しました)については、是正すべきだ、と書きました。要は、給付削減と将来世代の保険料率「引き下げ」を行って、せめて2004年改正直前くらいの世代間不平等に戻すべきだ、ということです。これによって生じる低年金問題は、先ほど同様、税による再分配で解決します。

世代間公平については、色々と制度をいじるよりも、現行制度を前提としたうえではっきりしている数字上の問題を正すべきです。

2004年の年金制度改正で将来世代から420兆円の強奪:世代間不公平の是正を。前提は、身を切る改革と徹底行革。 - 日本の改革

給付削減については、既に今回の財政検証でも示唆させれており、日経の大林尚氏も書いていますが、マクロ経済スライドをデフレ下でも発動することもやるべきです。これだけでも、大改革でしょう。

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維新がどうしても積立方式と言うのなら、先ほど紹介した「みなし掛け金建て方式」にするのも一つです。この場合も、運用損や現役時から低所得者の人達の低年金問題にはいずれにせよ対応が必要で、結局は税で再分配が必要になります。

また、チリの積立方式導入で一つ良い効果とされるのは、年金の運用が民営化されたことです。世界銀行の1994年のレポートの最大の目的は恐らくそこで、だからこそ「市場原理主義だ」などと批判も受けたのでしょう。

年金運用をGPIFでなく、民間の金融機関でやるべきだ、という主張なら、維新らしいし、新たな提案で良いんではないでしょうか。私が挙げた個人勘定方式への移行等も、民間の方が効率的に進められるでしょう。

いずれにせよ、維新はじめ改革政党は、年金について、明後日の方向の大改革よりも、現行の制度の堅実な「抜本改革」に基づいて、まずは数字の議論をした方が、国民に響くと思います。所得代替率は最低これくらい、そのためには高齢者給付はこれだけ削らせてください、あと、金融所得これ以上の人の税率はこれくらいでこの税収は低年金者の人に使います、とか。私としては、「420兆円の強奪」を正してほしいところですし、まずは、高山憲之先生を勉強会にお呼びしてはどうでしょうか。

スローガン風に言えば、「年金は制度より数字!」で国民に訴えていただきたいと思います。