日本の改革

日本の改革に関するブログです。あるべき改革や政策等について考えていきます。

飼料用とうもろこし輸入だけが「TPP以上」:日米貿易協議で次にやるべきことは何か

日米貿易協議、TPP水準以上の合意は、飼料用とうもろこしの輸入増のみ。米中冷戦でのアメリカ支援なのでやるべきですが、日本の消費者にメリットはいまひとつです。業界団体でなく国民の利益を考えるなら、実需のある牛肉、豚肉、乳製品、コメで更に関税を引き下げ、国家貿易はやめるべきです。

既に関税ゼロの分野で「TPP以上」:米中冷戦のためにはやむを得ない負担

日米両政府が、新たな貿易協定締結交渉で基本合意しました。

日本は牛肉や豚肉について、TPPの水準まで市場開します。一方、日本車への追加関税はまだ可能性は残っています。アメリカは脅しは残しつつ、来月の最終合意に向けて、更なる譲歩を迫る構えです。

今回の発表の目玉は、米国産の飼料用トウモロコシを、日本の民間企業が250万トン規模で買うという計画です。米中貿易摩擦の激化で、米国は穀物の対中輸出が厳しいので、日本企業が一部を買い入れて支援する形です。

 

日米貿易協定、9月下旬署名へ=農産物はTPP水準-首脳会談:時事ドットコム

飼料用トウモロコシを数量を決めて買う、というのは、現状の日米貿易のルールと、TPPと比較して、どんな意味があるのでしょうか。

まず、トウモロコシを含めて、飼料の輸入は、ほとんどの品目について、既に無関税です。これは、現状の日米間のルールでも、TPPでも同じです。TPPでは、飼料用麦についてだけ、国家貿易から一部民間貿易にしましたが、その他は国家貿易のまま、ただし、ほとんどの品目はTPP以前からそもそも無税で、TPPでもそれは同じです。

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出所:農林水産省

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/2-1_5hinmoku_kekka.pdf#search=%27%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7+TPP%27

もともと無税なので、関税引き下げ等で需要を刺激することもできないのに、250万トンという数量にコミットする(明言していませんが、この数字が報じられています)のならば、民間の需要があろうがなかろうが、政策的判断で輸入する、ということです。

では、国が買うのでしょうか?安倍総理は、民間企業が買うと言います。では、民間企業は、いらなければ買わなくてもいいのでしょうか?このあたり、共同記者会見で、両首脳の表現が微妙に違うことが各メディアの恰好のネタになりました。ロイターの表現では、安倍氏は「購入が絶対的ではないことを示唆した」けれども、トランプ氏は「気にしない様子」で、「日本の民間セクターは公的セクターに良く耳を傾ける。米国とは少し違うようだ」と言っています。各社、だいたいこう報じています。

日米首脳、通商交渉で原則合意 9月下旬に署名へ - ロイター

両首脳の共同記者会見は、トランプ氏の呼びかけだったと言いますし、まだ生煮えの話を既成事実化しようとして、トランプ氏が発言したように見えます。現状では、飼料用コーンをどこがどう買うのか、よく分かりません。

では、現状のルールにもTPPにも全くない形で、その意味ではTPP水準の上乗せとして、政府主導で飼料輸入を決定するのは、正しい選択でしょうか?

私は、たとえ日本国内に実際の需要がなかったとしても、中国が輸入しなくなったアメリカの余剰農産品を日本が当面買い支えることに賛成です。これは、米中貿易戦争、米中冷戦、つまりは、平和と自由・民主主義をかけた戦いの一環です。短期的には、トランプ氏が「フェア・ディール」と呼ぶように、中国に公正な貿易ルールを守らせて(強制的技術移転や輸出補助金の禁止等)、中長期的には、中国の体制転換につなげるために、この程度は安い負担です。

米中冷戦でアメリカを支援するべき、という視点から言えば、飼料用トウモロコシだけではなく、大豆と小麦についても、出来る限りの措置をするべきでしょう。対中農産物輸出減の穴埋めは、以前から要求されていますが、9月まで、まだアメリカが言ってくるようなら、自動車の高関税取り下げ等を条件に、飲んでもよいと思います。

トランプ政権が日本に米農産物の大量購入を要求 | 2019年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

政府が音頭をとって、民間にどう買わせるかは知恵が必要ですが、私は、JA全農等の農業団体の責任・負担で輸入すべきだと思います。今回の日米交渉について、参院選前に「TPP水準までの妥協はするな」と総理の手を縛ったのは農協ですし、そもそも、TPPで日本だけが農産品の関税を他国より高い水準で残させたのも、農協だからです。

日米貿易交渉を、国内改革に利用すべき。農業はTPP以上に自由化し、サービス分野で、ゆうちょ銀行等の完全民営化を! - 日本の改革

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消費者、国民のため、関税を引き下げ、国家貿易をやめるべき

とは言え、これは米中冷戦という安全保障問題について、特定の政策目的をもって行う輸入です。自由貿易協定は、第一義的には、加盟国の国民が貿易による経済的利益を得るために結ぶものです。そのためには、実需のある農産品について、関税をもっと大幅に下げて、国家貿易の仕組みもなくしていくことが必要です。

自由貿易協定に関する今回の合意では、牛肉や豚肉の関税を日本がTPPの水準まで下げ、(牛肉はただちに引き下げ)、コメの無関税輸入枠(7万トン)は削減する、と、朝日は報じています。

digital.asahi.com

 

私はむしろ、この分野でこそ、日本は「TPP以上」の自由貿易協定にすべきだと思います。

前述のように、TPPでは、他国に比べて日本の農業は守られ過ぎています。牛肉と豚肉は最終的に関税がだいぶ下がるとは言え、その期間が長すぎます。牛肉は16年、豚肉は10年かかります。牛肉については、それだけ時間をかけても最終的な税率は9%、これは近年にまれにみる高い関税だ、というのを農水省自身が認めて、農業団体や政治家向けに誇っています。1割高い牛肉を買わされる消費者なんて、知ったことではありません。消費税が10%になるのは散々もめましたが、バカ高い関税はメディアも野党もスルーです。維新にはもっと大騒ぎしてほしかったのですが。

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出所:農林水産省

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/2-1_5hinmoku_kekka.pdf#search=%27%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7+TPP%27

これがバター等になるともっとひどくて、そもそもTPPでは、関税引き下げは一切ありません。農畜産業振興機構という悪名高い天下り法人による国家貿易の仕組みもそのままで、民間で輸入するTPP枠を少し設けただけです。日本の消費者は、これからも、バターが足りないという先進国ではあり得ない騒動に、付き合わされるでしょう。すべては、天下りを含めた国内の既得権者を守るためです。

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出所:農林水産省

http://www.maff.go.jp/j/kokusai/tpp/pdf/2-1_5hinmoku_kekka.pdf#search=%27%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7+TPP%27

他にも、チーズ、小麦、そして何よりコメ。聖域となった主要品目で、TPP協定は、実は日本の消費者にとっては、相当ひどい中身です。にもかかわらず、上に引用した農水省の資料を見れば分かる通り、政府は、農業団体等に向けて、その成果を誇っているのです。そして、こうした農業団体のせいでTPP交渉参加が遅れ、アメリカの自動車関税は長期間残ったままになってしまいました。

せっかく、アメリカと一から自由貿易協定の交渉が出来るようになったのだから、そして、アメリカは安全保障上、日本には欠かせない同盟国なのだから、政府は、JA全農ごときが何を言おうが、こうした分野で、せめてTPPの他の加盟国並みの関税引き下げや国家貿易撤廃を行うべきでした。そして、アメリカへの市場開放を突破口にして、TPP11の国々に対しても同じ内容にするよう、TPP協定自体の改定につなげるべきでした。それが、加盟各国と日本の国民の利益に資するからです。

日米貿易協議、もう大筋合意したような、まだ交渉の余地のあるような、よくわからない状態ですが、向こうは安全保障もからめてきているのですから、それを逆にうまく利用すべきです。政府はもう、全農との約束よりも、日本国民全体の利益を優先させた交渉をするべきです。